天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

少年探偵と蒼空の密室 A編

リアクション公開中!

少年探偵と蒼空の密室 A編

リアクション


ANSWER 32 ・・・ 狙撃手の問題  戦部小次郎(いくさべ・こじろう)

信用のできない相手だが、一応、報告はしておくとしますか。
「こちら戦部小次郎です。暴動鎮圧の為、ロンドン橋にでます。狙撃による威嚇は、かえって暴徒を刺激する結果となることが考えられます。パワード・スーツを着用した状態で、暴徒たちの前に立ち、恐怖感を与え、足をとめます」
「戦部少尉。ご協力感謝します。そちらの判断にお任せします」
 正直、いくら予想外の混乱時とはいえ、ここのヤードの危機管理体制の甘さは、許しがたいですね。
「この作戦がうまくいっても、私一人では限界があります。こちらへの増援を依頼します」
「了解。可及的速やかに、対応します」
 アテにしていいのだか、わかりませんが。

 パワードスーツを着て橋にでた私は、マジェスティックの西側からくる暴徒に、自分の姿が見えるところで立ち止まりました。
 手にした大剣を頭上で振りまわします。
 この動作自体に意味などはなくて。
 ただ、暴徒たちに恐怖感を与えるためだけのパフォーマンスです。
 最前列を歩く十数人と私との距離は、約三百メートルといったところ。
 私は用意してきた長さ二メートル弱の鉄の棒を槍投げの要領で放り投げました。
 街中にあった鉄柵を許可を取らずに解体してきたものですが、この際、いいでしょう。
 バスン。
 棒は、暴徒たちの少し前に、重い音を立て、突き立ちました。
 人々のざわめきの声が響きます。
 バスン。バスン。
 二本、三本と私は棒を投げました。
 棒が三本、橋に突き刺さる。
 声はやみ、人々は沈黙しました。暴徒たちは、足をとめたようです。
「スコットランドヤードです。マジェスティックの住民のみなさん、現在、市内は、非常に危険な状態にあります。当局から警戒体制の解除が連絡されるまで、外出はおやめください。お願いいたします」
 ケンカ腰に話しても、火に油を注ぐだけなので、私は、ていねいに話かけました。
 外部スピーカーを通じて、私の声は、じゅうぶんに伝わったと思います。
 こちらを眺める彼らに迷い、とまどいが感じられますね。
「ヤードは、事態の沈静化にむけて全力で活動しています。みなさんの理解ある行動を求めます」
 大剣を片手に、鉄棒の束を脇に抱えて、私はゆっくりと群集へむかって歩きだしました。
 前にでる私に合わせるにように、一部の群集が下がりはじめます。
 私が一歩進むたびに、後退する者は増えてゆき、私が三本の棒の前に着いた時には、群集のほとんどは橋の西の端へと移動していました。
 ここまでの戦果は上々ですが、この状況をどれだけ維持できるでしょうか。
 期待してはいませんが、ヤードへ連絡します。
「戦部小次郎です。現在、暴徒を橋の西の橋まで後退させることに成功しました。この状況を維持し、さらに沈静化させるために、増援を要求します」
「戦部少尉。現在、そちらへ未確認の大型人型兵器が接近している。機体数は、九機。低空飛行で移動中だ。警戒してください」
「大型人型兵器とは、つまり。未確認のそれは、こちらを攻撃してくる可能性もあるのですか」
「考えられます。自身の安全を考えて、撤退してください」
 いくらパワードスーツでも、地対空で、九対一では分が悪すぎますね。しかし。
「住民のみなさん。すみやかに住居へお戻りください。ここは危険です。橋に爆発物がしかけられている可能性もあります。撤去作業に入りますので、安全な場所へ避難してください」
 苦しまぎれの私の言葉にも、多少は、説得力があったようで、群集の一部は橋から離れていきました。
 そして、私は、轟音と共に、こちらへ急接近してくる、夜空を飛ぶ巨大な影の存在を目視、確認したのです。