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リアクション
ANSWER 21 ・・・ PMRの問題(1) 比賀一(ひが・はじめ)
暴徒の襲撃による混乱に乗じて、ロンドン塔の城壁内へ潜入した七尾蒼也たちは、二十ある塔のうちの一つに忍び込んだ。
「塔の敷地内は、暴徒とノーマンの一味、メロン・ブラックの一味が入り乱れての戦争状態ね」
「推理研のメンバーは無事なのか」
「ええ。みんな、ホワイト・タワーの婚礼の儀に出席しているわ。儀式は、まだはじまっていないの。ラウールさんが実は生きていて、というか、春美さんたちがルパンと協力体制をとっているそうよ。私も彼は、敵ではないと思う。とりあえず、あたしたちは、真都里さんを助けたいわね」
「ああ。だが、こういくつも塔があって、しかも混乱状態だと、なかなか思うようには探せないな」
「あー、ちょっと、お取り込み中のところワリィけど、質問があるんだ」
蒼也とパートナーのぺルディータ・マイナのやりとりに、二人に同行しているナイン・ブラックが口を挟んだ。
「お二人さんは、探偵さんだろ。人命救助よりも、事件の謎を解く方が重要なのじゃごぜーませんか。キシャシャシャシャ。情に流されて、本来の目的を見失うのは、プロフェッショナルといえねーな。おっと、しゃべりすぎたかな」
「あたしたちが探偵をしているのは、人を憎んだり裁いたりするためじゃありません。この事件で、意味もなく失われる命を救おうとするのが、傷つけられる人たちを助けようとするのが、間違っているんですか」
「いえいえ。大正解ですよ。ハイハイ。あっしが悪うございました」
逆にぺルディータに聞き返され、ナインは首をすくめた。
「しかし、なんだな。あんたらは、正義の味方で、禁酒禁煙なんだろ。立派だよな。尊敬するぜィ。ところで、パートナーに見捨てられたダメ猫の俺は、ニコチン中毒でよぅ。ちょっと一服したいんだが、ダメかい。いいだろう」
「こんな時になにを言ってるの」
ぺルディータににらみつけられても、ナインは懐からタバコをだすと、口にくわえ、勝手に、二人から少し離れた物陰へ。
「煙は有害でございますから、気を使ってさしあげますよ。キシャシャシャ」
「ニコ。連絡だぜィ。推理研の探偵の連中は、バラバラでロンドン塔にいる。こいつらけしかけて、ノーマンたちを探させるとしようか。探偵は、探しものには、もってこいだな」
「弓月はどこにいる?」
「さあ。市内で姫様探しとかって言ってたぜ。おまえ、市内にいるんならやつより先にお姫様、見つけてさらっちまえ」
「すまねぇ。待たせたな。あんたらと一緒にいて安心できたおかげで、うまい一服だったぜ。ほんじゃ、探索しようぜ」
二人と一匹は、特技の隠れ身やピッキングを使いながら、塔内を調べて歩いた。そして。
「あなたは、PMRの比賀さんね」
「こんなところでなにを。お、おい、これはおまえらがやったのか」
その部屋にいたのは、今回の捜査メンバー、PMRの比賀一とパートナーの守護天使ハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)だった。
一は両手に拳銃を握ったまま、腕をだらりと下げ、折れた左の翼と顎鬚がトレードマークのタフガイ、ハーヴェインも肩で息をしている。
部屋内には、二人が倒したらしい、数人の。
「恐怖の大王を倒したぜ」
「だから、んなやつはいねぇって言ってんだろ」
「先に言いだしたのは、一だろうが」
「とりあえず、目的は果たしたんだけど、なんか、スッキリしねぇな。街で聞き込みした時から思ってたんだよ。メロン・ブラックはともかく、ノーマンはマジェスティックに何人もいるんじゃないのか、って」
「はあ? んなこたあ、俺は聞いてねぇぞ。つまり、どういうことだ」
「今回の事件の裏には、犯罪王ノーマン・ゲインの名を騙るニセ者たちが何人もかかわっていたんだよ!」
「・・・な、なんだってぇ!?」
一の言葉に、ハーヴェインだけでなく、蒼也も、ぺルディータも、ナインもお決まりの合いの手を入れた。
「パラミタの犯罪者たちにとって、自分がノーマン・ゲインになるのは、裏社会でのしあがるのに、てっとり早い手段なんだ。
ギャング・スターを夢見るチンピラのように、13に憧れる殺し屋のように、切り裂き魔の模倣犯のようにな。
ノーマンになりきって、マジェスティックでメロン・ブラックを殺し、マジェの支配権も、お宝もいただく、そしてヤバくなったら罪は、本物のノーマンになすりつける。
一見、ニセ者たちのサクセス・ストーリーにみえるこの計画。だが、はたして本当に利を得るのは、彼らだろうか、いや、違う!
ノーマンとメロン・ブラックが実は反目しあっているという情報を流し、ニセ者たちにメロンを狙わせる状況をつくった人物。
それは、本物のノーマン・ゲインだ。
やつは、いつもの手口で人の心を操り、自分の手をほとんど汚さずに利を得ようとしているんだ。
つまり、事件の全貌を見渡せる位置で、メロンとノーマンたちの殺し合いを眺めている人物、それが本当の犯罪王ノーマン・ゲインなんだよ!」
「で、一。ノストラダムスは、どうしたんだよ」
「それも、事態を混乱させたいノーマンの作戦の一つだったんだ」
「な、なんだってぇ!? な、わけねぇだろ。いい加減にしろ」
「じゃあ、ヒゲ。こんなに楽にラスボスが死ぬ展開、おかしいとは思わねぇのか」
超推理を披露し、仲のいい口喧嘩をする一とハーヴェインの足元には、蒼也たちも見覚えのある人物が、横たわっていた。
高価そうなスーツ、長い手足、整いすぎた顔、口元の微笑、見開かれた赤い目。
「これは、ノーマン・ゲイン。本当にやつなのか」
「亡くなって、います」
蒼也とぺルディータが遺体を確認した。
「だから、わかんねぇんだよ。本物なのか。俺たちは、街から逃げてきた連中をこの部屋に追い詰めたんだ」
「俺が強すぎるのか、意外にあっさりだったしな」
「相手の数が多くて、まいってたのは誰だよ。調子にのんなよ。ヒゲ」
「うるせー。おまえこそ、足、引っぱんな」
「キシャシャシャシャ。犯罪王。討ちとったりィ。お二人さん。お手柄じゃねぇか。が、待てよ。やっぱり、王様には影武者がいてもおかしくねぇよなあ。こいつは影武者かもしれねぇなあ。どうなんだろうなあ。ノーマンに偽者はつきもんだろ。墨死館の時もそうだったし。自分こそが犯罪王ノーマン・ゲインだって思いこんじまってるイカれたやつらさ。あんたらのご明察通り、今回もそんな連中がきてるのかもな」
ナインは腕を組み、大げさに首を傾げた。
「おっと、こいつはいけね。トイレだ。トイレ。ちょっくら行ってくら」
腹を押さえると、ナインはあわてて、部屋をでていった。
「どうしたんだよ。ニコ。おまえからは、かけてこねえはずだろ。こっちは、まず一人、死体で見つけたぜ。この後もじゃんじゃん」
「それどころじゃないよ。ナイン。ヤバイ。僕がやられる! 悪魔つきの女が僕を追ってるんだ」
「はあ。なに言ってんだ。悪魔とかおまえの得意分野だろ」
「いいから、助けにこい。ホワイトチャペルでやってる交霊会の会場だ。すぐこいよ」
ナインは、舌打ちをし、そのまま、部屋には戻らなかった。