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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANOTHER 少年犯罪王誕生(ビジュアル編)

「ダーリンは、死んじゃってるから、どうしようもないけど、こっちはまだ息があるし、どうしようかねぇ」
 気絶し、のびているニコ・オールドワンドを見下ろして、雷霆リナリエッタは、にやにやしていた。
 ニコの周囲には、リナリエッタ、リカイン・フェルマータ、赤羽美央、茅野菫がいる。
「私は、ニコさんを許せません。このまま、なにごともなかったかのような顔して、イルミンスールにかえすわけには、いきません。彼には、私やエルム、罪もない人たちを償った罪を償ってもらいます」
「美央ちゃんの気持ちは、わかる気がする。じゃあ、殺す? でも、私は、寝たままの人を痛ぶるのは、どうかと思うな。ニコくんには、私も思うところがあるんだけどね。殺すなら、彼、起こしてあげましょうか」
 美央とリカインが声をひそめ、物騒なことを言っていると、菫が二人に、あるアイディアを提案した。
「このまま殺すんだったら、もっと、彼と遊んでからにしようよ」
「そうだねえ。こうして寝てると、いたいけな少年じゃないの。私もいじる方に賛成よ」
「でしょう。ほら、みんなで、彼をきれいにしてあげない」
「フフ。犯罪王の弟子だもの。見た目もそれらしくしないとねぇ」
 菫が化粧ポーチをだすと、リナリエッタはさっそく、中身をのぞき、
「まずは、このうっとおしい髪を切ってあげるわ。まあ、罪を犯したあげく、うらみを持つ連中に捕まっちまったんだから、坊主ぐらいは当然さ」
「えー。リナさん。なにをするんですか。私はそんなことは望んでいません」
「いやいや、お嬢ちゃん。私は前から、パラミタには、イケメンの悪役少年が不足してると思ってたわけよ。この彼の場合、工夫次第で、もう少しイカしたワルになれるわ」
「意味がよくわかりません」
「見てればわかるわよ。だいたい男の人生なんて、罪の一つ二つ背負ってからが本番さ」
 首を傾げる美央の隣で、リナリエッタは、ニコの髪にはさみを入れ、彼の肩まであるぼさぼさの銀髪をばっさり切ってしまった。
「虎刈りの坊主にして、さらし首にするのかしら」
 リカインが平然と、おそろしい質問をする。
「坊主はもったいないわ。そうね。ワルらしく、ショートのモヒカンはどう」
「それより、サイドは短めにして、トップにハイレイヤーを入れるとかどうかな。こんな感じ。若くみえるでしょ。って、ニコくん、もっとかわいくできるのに、自分を生かしてないよね。自分のよさに気づいてないというか。ほら、こうするとかなりカジュアルな感じになるわ」
 菫のモヒカンに対し、リカインは実際に、ニコの髪をさわりながら、あれこれ試しだした。
 ジョキ。ジョキ。ジョキ。
 リナリエッタにはさみを渡され、リカインが実際にカットをはじめた。
「ちょっと、みなさん、なにしてるんですか!」
「雪だるまの女王様、どうせ殺すなら、遊んでからでも同じよう。せっかく、坊やがおとなしく、されるがままになってるんだからさ。いたずらしてあげようよ。あんたも、この顔は気に食わないんだろ。なら、犯罪者らしい顔にしてあげようじゃないの。髪はリカに任せて、私らはメイクを考えようじゃないのさ」
「ショタ探のくるとにこういうのを期待しても、ムダなのはわかってるからね。せめて、悪役の少年には、青春の反抗らしくビジュアルショックして欲しいわ。ニコ、顔全体が腫れぼったいわね。リカや美央に殴られたせいかしら。でも、そう悪くない顔よね。私、きらいじゃないわ。まず、化粧水で保湿するね」
 ジョキ。ジョキ。
 リカインが髪、リナリエッタと菫がメイクをし、美央が、むむむ…とうなっていると、部屋のドアが開いた。
「誰? メイク中なの。まだ、入っちゃダメ!」
 ニコの唇にグロスをのせながら、菫が怒鳴る。
「俺は、自分が、誰なのか、わからないんだぜ」
 焦点の定まらない視線を宙にさまよわせ、うわ言をつぶやきながら、よろよろと入ってきたのは、どうにか拷問塔を脱出したものの、ロンドン塔内をさまよっている春夏秋冬真都里だ。
 真都里は数歩歩くと、倒れてしまった。
「次のお客さんね。あっははは。今度の子は、上半身、裸よ。ワイルドだねえ」
 リナリエッタが楽しそうに笑う。

「しかたがありません。では、私も」
 みんなにすすめられ、しようがなく、美央はニコの頬に雪だるまを描いた。小さな雪だるまだ。
「雪だるまの御加護が、ニコさんを正しい道へと戻しますように」
 美央の言葉に合わせ、他の三人がフェイスペイントの雪だるまに合掌する。
「さて、作品も完成したし、記念撮影しようかねぇ」
「私としては、なかなかの自信作よ。どっちも街で見かけたら、振り返らずにはいられないわ」
 ニコと真都里、二人の髪をカットをしたリカインは、誇らしげだ。
 四人は、意識を失ったままの二人を動かし、寝たまま、向かい合わせ、ポーズを取らせる。イメージとしては、二匹の子猫が日向ぼっこをして、寝ころんでいるような感じである。
「かわいいじゃん。でも、背中に書いたM男はやりすぎだったかな。チークも濃すぎたかも、なんか、昔のニューハーフみたい」
「はっきりオカマと言っておあげなさいな」
「これ、撮影してもいいんでしょうか」
 盛り上がっているリナリエッタと菫の横で、美央は、とまどっていた。リカインがにっこり微笑む。
「罰よ。殺すよりいいんじゃない。本人もこの格好なら少しは反省するでしょ。真都里くんは、完全に巻き添えだけどね」
 と、美央の携帯が鳴った。
「はい。私です。むむむむ。エルム、そこにいなさい。すぐに助けに行きます。ジョセフになにをしてもいいから、無事でいてくださいね」
 携帯をしまうと美央は、他のみんなに頭をさげる。
「ニコさんを追っているうちに、私は、またエルムを危険にさらしてしまったようです。パートナーが心配なので街へ戻ります。ニコさんは…」
「あんたが戻ってくるまで、ここに縛りつけとくかい。塔ごと爆撃されて、ご臨終だね」
「いえ、殺さなくていいです。どなたかヤードに引き渡すか、二度と悪さのできないように、うんとこらしめてやってください。ニコさんより、エルムが大切なので行きます。それでは」
 美央が部屋を出て行く。
「私も行くわ。髪を切ったら、スッキリしちゃった。自分のじゃないのにね。まだ他のノーマンもいそうだし、探しだしてブン殴ってくる」
 続いて、リカインも。
 リナリエッタと菫はしばらくニコと真都里のポーズをかえて撮影し、爆撃の音が激しくなってきたのを感じると、ニコたちを残し、二人揃って去って行った。