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ハート・オブ・グリーン

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ハート・オブ・グリーン

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SCENE 17

 単身、梅琳隊から先行していた紅秋 如(くあき・しく)は、不審な人影を発見し身を隠した。
 いちいち隠れるなど、如の美学からいえば『めんどくせぇ』ことこの上ないのだが、体は無意識に反応していた。身を隠さねばならないという、確信めいた予兆があったのだ。
(「あんな姿の探索員はいねぇ」)
 敵味方のチェックなど面倒なので、如は参加者の顔ぶれなどいちいちする記憶していなかったものの、あれほど目立つメンバーを見落とすはずはない。豹さながらに敏捷、木々を伝わって着地したのは、ショッキングピンクの髪の少女だった。ボーイッシュなウルフシャギーである。
(「あれか、クランジ『Ξ(クシー)』って女は」)
 ベースキャンプからの情報と、照合するまでもないだろう。
 如はクシーを追う。そろそろ、漫然と密林探検するのにも飽きてきたところだ。
 クシーと如、二人きりの追走劇は無言で続いた。クシーは緋色の髪、如の髪は若葉色、遠くから見れば緋色の点と緑の点が、つかず離れずして追いかけっこしているように見えただろう。
 クシーは焦っているのだろうか、それとも何かを探しているのだろうか、如が尾行していることに気づかず、樹から樹、器用に渡って猛速度で進み続ける。追う如としては楽ではない。同じ事をするも、樹は如を餌食にせんと襲いかかり、種子や葉が飛んでくることも一度や二度ではなかった。ゲームとしてはいささかハンデが大きすぎよう。
 ついに、
「はぁ、めんどくせぇ事させやがって」
 如は地に降り、荒い息をつくことになった。クシーを見失ってしまったのだ。
 周辺を探るも彼女の気配はない。ただし、
「この場所は探査済と聞いたが……」
 彼は、アーデルハイトらが発見した祠の残骸を見つけていた。
 何か閃いたか如は無線のスイッチを入れ、李梅琳隊と合流すべく、元来た道を大急ぎで引き返した。

 如のいる場所からさほど行かぬ地点に、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)の姿があった。
「誰かがこんな所にテーブルを用意しておいてくれて助かりました」
 と、着席して鉄の机に頬杖する。長い金髪を手ですき、湿り気を払った。なお、テーブル、というのは横倒しになったアイアンゴーレムの残骸で、アリーセが腰掛ける椅子もその盾だったりする。(これは綺雲菜織が仕留めたものなのだが、それはまた別の話である)
「マル、お茶」
「はいただいま……って、無理であります! 自分はそこまで万能な鞄ではないであります!」
「肝心なところで役に立ちませんね」
「うう……だから前々から申しておりますように、人型のボディを手に入れることができたらお茶でもなんでも淹れてさしあげますので、どうかボディについてご一考を……あっ!」
 アリーセは、ぱたん、とリリ マル(りり・まる)を倒した。
 よくしゃべっているが実のところマルは鞄だ。現在、残骸ゴーレムテーブルの上に置かれている。一見するとただのアタッシュケース、しかれどある時は武器、またある時は工具箱、危ない時は盾になったりもするがお茶は出せない。いつか人型になることを夢見る素敵な便利鞄なのである。
「さて、この辺りは怪奇植物もないようですし、少し話を整理しましょう。緑の暴走と塵殺寺院の関連は明らかになりましたね。アイアンゴーレム隊がいる理由も。けれどクランジがここにいる説明がつかないままです」
 アリーセはマルを起こした。
「どう思います?」
「偶然にクランジが現れたとは思えないでありますな。Ξ(クシー)はΥ(ユプシロン)を追い、ΥはΦ(ファイ)を追ってここに来たとして……ではΦは……?」
「事件の鍵はΦにある、と見るのはいかがでしょう。つまり、何らかの形で緑の暴走に彼女がかかわっている、と」
「名推理であります! 才色兼備、さすがアリーセ殿!」
「『ハハハ何言ってんだこやつめ』、とでも言ってほしいのでしょうか?」
「お、いいですな!」
 とりたてて感慨もなく、アリーセは書かれたものを読むような口調で述べた。
「ハハハ何言ってんだこやつめ」
「ハハハ」
 ぱたん、アリーセはマルを倒した。
 そのときマルの背(通信装置)に『祠の地下を調べよ』との報が入ったのである。
 そこが『緑の心臓』だという。