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ハート・オブ・グリーン

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ハート・オブ・グリーン

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SCENE 04

 現在、植物地帯上空には飛空艇が数機、そして空飛ぶ箒が航行している。
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)の握る箒もそのひとつだ。上空からの探索で『緑の心臓』と呼ばれる神殿を探そうというのだ。
 まったくの期待はずれとはいわないが、少々見積もりが甘かったかもしれない。熱帯植物帯の繁茂は想像以上に濃く、厚く地表を覆っており、それはもはや緑のドームといってよかった。すなわち、空から見ることができるのはほとんど植物だけなのである。遺跡を発見するのは容易ではない。
「うわー、こりゃまったく緑の地獄だ。下のことなんか丸っきりわからないよね」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)も同じく箒で、ナナのすぐ隣を飛んでいた。
「ちょっと待て二人とも! なんか俺だけ遅れてるぞ。この箒、不良品じゃねぇのか?」
 ぶつくさ言う声はルース・リー(るーす・りー)、やはり箒で航行中だが、ナナとズィーベンからは随分距離が離されていた。それもそのはず彼の箒だけ、一般的な空飛ぶ箒なのである。他の二人は高性能の『光の箒』なのだから、残念ながら差があって当然だったりする。(ただし本人は、そのことに気づいていない)
 集中しているナナの耳に、ルースの訴えは届いていなかった。
「少し高度を下げてみましょうか」
 あまりに下が見えないため、ナナは降下する。
「わかった。ほら行くよ、ルースも!」
 ズィーベンも続く。
「だから少しは待てっての。こちとら不良品で……」
 ここでルースは言葉を呑み込むはめになった。
 ナナの箒が激しく揺れた。攻撃を受けている! 蔓を持つ植物、あるいは葉や種子を飛ばすことのできる植物が、一斉に対空砲火を開始したのである。鞭のような蔦の一撃こそかわしたものの、種子の弾丸はそうも行かない。箒の本体が側面被弾し、バランスを失ってしまった。
「ナナ気をつけて! あっ!」
 ズィーベンが叫んだ。彼女の箒も蔦に絡み取られ、地面に向かって叩きつけられたのである。
「痛ったー! この植物ヤロー……って」
 不時着したズィーベンだが危機一髪、転がって避けたその場所に、カッターナイフを百倍くらいにしたような葉っぱが突き立ったのだった。殺人植物はソテツのような姿をしていた。執拗にズィーベンを狙うも、そのもくろみは阻止されていた。
「ズィーベン、無事!?」
 ナナがドラゴンアーツの一撃で、植物の胴に風穴を開け、倒していたのである。
「サンキュ、助かったよ。森の中央はあっちのほうかな……あ、そういやルースの馬鹿は!?」
 これに対し鋭い反応が聞こえた。
「ふ、俺が馬鹿かどうかは、これを見てから言ってもらおう」
「馬鹿のルースが何の自信だよ」
「だから馬鹿馬鹿言うんじゃない! っていうか見ろっての!」
 ざんっ、と茂みをかき分けて、モヒカン立てたドラゴニュート、勇ましきルース・リーが出現した。
「見ろって何をさ」
「夏祭り会場で俺がかき氷製造という名の修行をしていた成果をだ! ホワアアアッ!」
 怪鳥音ひとつ上げるや否や、ルースは倒れた殺人植物めがけ、会得した氷術を披露した。植物が凍り付く。ホワチャー、などと言ってポーズを決め、得意満面顔のルースなのである。
「すごいです、ルース師匠」
 やんやとナナは手を叩くが、ズィーベンはその氷よりも冷たい声で言った。
「……で、それ、いま披露する意味があったわけ?」
 そうだそうだと言わんばかりに、周辺から次々と、新たなソテツ植物が身を起こした。そして切れ味鋭い葉を見舞ってくる。
「ホ、ホワタアアア!」
 モヒカンのてっぺんを切られルースは飛び上がった。
「これ、ルースの馬鹿が呼び集めたんじゃないだろうねっ!」
 ズィーベンはバニッシュを発動して敵を怯ませ活路を造り、ナナも、
「ここで時間をロスするわけにはいきません。まずは森の中央部へ急ぎましょう!」
 手早く多少のサンプルを採取し、そちらの方角へ向け駆け出した。
「ふ、これも修行だ」
 ルースもすぐに二人の背を追う。今度は箒の差がないから、ナナにもズィーベンにも遅れを取ることはないだろう。
 ないだろう。
 ない、はずだったのだが。
 ……あれれ?
「待ってくれーっ!」