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ジャンクヤードの亡霊艇

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ジャンクヤードの亡霊艇

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ジャンクヤードの亡霊艇
 
 
 ジオヴァナ・レガザ デル・ヴィオ・ロッソ(じおう゛ぁなれがざ・でるう゛ぃおろっそ)は、ぐったりとした眼で真矢を見上げていた。
 ジャンクが積み上がって出来た不恰好な山の頂上には、草薙 真矢(くさなぎ・まや)が立っていた。
 彼女は、風に髪と衣服をはためかせながら、擦り切れたノートに手製の地図を書き込み続けている。
 聞こえていたのは、廃材の間を抜けて行く風の音。
(……なんでだっけ)
 ふと、疑問に思う。
 なんで自分はここに居るんだっけ。
 周囲にあるのは見渡す限りの、がらくた、ジャンク、スクラップ。
 後は、阿呆みたいに広い空。
 薄雲の線が引かれた秋の空は高いところに青くある。
(え……っと、そうだ。家の冷蔵庫が壊れて……それから洗濯機とテレビも調子が悪くなって……)
 栄養不足と疲労で緩慢になっている頭でぼんやりと考える。
 あと、真矢はラジオがどうのとか武器弾薬庫の管理ギミックがどうのとか……言っていた気がする。
 とにかく、家電等々が壊れたので、部品探しをするため、真矢にここへ連れてこられたのだ。
 一ヶ月ほど前に。
 ロッソたちは、かれこれ一ヶ月近くもこのジャンクヤードに居る。
 少し離れた場所には野営に使っているコンテナがある。
 平らなところで寝られるのはありがたいが、えらく斜めになっているので落ち着くものではない。
(食事は一日に二回、黒パンと脱脂粉乳のみ。一日16時間労働……)
 外気が摂氏マイナス10度を下回ったら作業は無し、と言い渡されているが、当然そんなことになりそうな気配は無い。
(……シベリア抑留? これってシベリア抑留なん?)
 ロッソは、あぅあぅと頭を振りながら嘆いた。
 しかし、弱々しく腹が鳴って、動きを止める。
 無駄な体力を使ってしまったことを後悔しつつ、ロッソは、真矢の方をちらりと確認してから、チョコレートを取り出した。
 こっそり大事に食べ続けているチョコだ。もうほんのちょっぴりしか残っていないけれど。
 ロッソが、チョコレートに慎重に齧り付こうとした刹那。
 遠くで、派手な爆発音が爆ぜた。
(――ッ!?)
 わったった、とチョコを落としそうになったロッソの足元を、ビリビリとした震動が伝っていく。
 ザッ、と真矢が山を器用に滑り降りてきて、
「ロッソ、お宝よ!! 亡霊艇の方! ――ここで”ちゃんと動いてる”機晶ロボなんて初めて!!」
 ウキウキとした顔を輝かせ、彼女は、そのままガラクタの間を駆けて行ってしまった。
 ロッソは慌ててチョコレートをポケットに仕舞い込み、真矢の後を追った。



 百合園――。
 桐生 円(きりゅう・まどか)は着信を告げていた携帯を手にとった。
 表示されていた名前は牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)
 通話にすると、ノイズ混じりの声が聞こえた。
『はろー、まどかちゃん。貴女はお姫様を助ける勇者に選ばれましたー』
「…………お姫様?」
『そうですよー、牛皮消のアルコリアさんは現在、囚われのお姫様なんですよー、うふふー』
 といったところで、円は通話を切った。
「なんだ。ただの悪質な電波か」
 携帯を置いて呟く。
 つつがなく、何気ない日常の生活を続けようとしてから。
 円は、ぴたりと動きを止め、そして。
「もしかして……マジ?」
 もう一度、携帯電話を見やりながら小首を傾げた。