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ジャンクヤードの亡霊艇

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ジャンクヤードの亡霊艇

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終章 結末

 侘助火藍によって隔壁の向こうから救出された人々を連れて、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は外へと急いでいた。
 負傷者へ何かしらの処置を施したかったがヒールなどは一般人への効き目が薄い。そのため、朱里たちはただ急いで外を目指すしか無かった。
 アインと火藍が先導し、後方を侘助とラルク、そしてが固める。
「頑張って! もう少しだから!!」
 朱里は負傷者に肩を貸しながら、懸命に励ましを口にし続けていた。
 と。
 側方を横切った通路の端に倒れていた半欠けの機晶姫が急に起き上がり、朱里が肩を貸している男性目掛けてブレードを振るった。
「――くぅッ!」
 唐突な出来事で避けている余裕はなかった。咄嗟の判断で、朱里は男を庇うように身体を入れ替えた。
 ブレードが迫って――
 
 朱里を助けるためにアインは、己の剣を機晶姫へと向けて閃かせていた。
(迷うな。『守るために戦う』ということは、『憎くも無い敵を殺す罪』と常に隣り合わせの行為だ。だから、たとえ同族殺しの汚名を着ても――)
 己の切っ先が機晶姫の装甲を砕き始めた感触が伝わる。それでも、機晶姫は、ただただ朱里の胸へ向けてブレードを突き出して行こうとする。
(今この時、大切な人を守るためなら)
 機晶姫を”殺す”ために、更に切っ先へと力を込め――
(僕は修羅にもなろう)
 と、機晶姫がブレードの先端を朱里の胸先紙一重で止め、力無く通路に崩れ落ちた。
 朱里が息を呑んで、すぐにアインの方を見つめる。
「アイン……」
 少し、震えた声。
 アインは静かな表情を彼女へと向けた。
「朱里。大丈夫だ」
 言って、アインは崩れ落ちた機晶姫を確かめた。
 アインの剣は装甲を抉ったものの機晶石までには達していない。
「停止命令を受けて止まったようだ。彼女はまだ生きている」
「……良かった。アイン……本当に、良かった」
 朱里が、ぽろぽろと涙を流しながら言った言葉が静かに響く。


 外にはヘリが待機していた。
 大型機晶ロボットが二機とも止められたために、ヘリが近づくことが出来るようになったのだ。
 亡霊艇から救出された人々が次々とヘリに収容されていく。

「あ、居た」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)らによって救出されていたディレクターの姿を見つけ、彼の方へ向かおうとして……ふと、立ち止まった。
(映像データを渡そうと思ったけど……そのまま渡すのは、やっぱりマズそうよね。色々と)
 かといって自分はもちろんウルも頑張って撮った映像だから、活かせるものなら活かしたい。
 というわけで、少し編集をしてから後日、ディレクターに送ろうと思い直し、祥子は彼に見つからない内に踵を返した。

 収容を手伝っていたアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は、ディレクターらしき人物の姿を見つけ、彼に近づいていった。
 収容の順番を待つ彼は、どこか呆けたように亡霊艇の方を見上げていた。
 ディレクターがアインに気づく。
 アインは彼の目を静かに見据え、言った。
「今回のことを、『不運な事故』では済まさないで欲しい」
「……しかし、安全だって聞いてたんですよ。私は。それに、私はただ言われた通りに撮影を行っただけで――」
「封じられた過去に触れることは、時に忌わしい過去や災厄を再びこの世に呼び覚ます。その覚悟のない者は、軽率に立ち入るべきではない」
「その件については全くの同感であるのだよ」
 と言ったのは神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)
「もちろん、長年、再調査を行わなかった調査団や、近くに居過ぎたために亡霊艇の危険性に麻痺してしまっていたガイドにも責任があるとしても、ね」
 彼はディレクターに近づいて、
「結果的に君たちは様々な人間はもちろん、このジャンクヤードの住人たちにも迷惑を掛けてしまった。だから、もし、いつかジャンクヤードの住人たちから”何か”を頼まれることがあれば、是非、力になってやって欲しいと思うのだよ」
 
「首尾はどうでしたか?」
 キリカ・キリルク(きりか・きりるく)の問い掛けに、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は亡霊艇から救出された人々を眺めながら、
「ようやく、すり足半歩というところだ」
「なかなか遠い道のりですね」
「今日明日とすぐに芽の出るものでもないからな。しかし――ゆっくりとでも動き出したんだ。止まらなければ、やがて辿り着く」


 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、ラットの顔がみるみる青ざめていくのを見ていた。
「――お……俺、商売停止……?」
 ラットが、黒崎 天音(くろさき・あまね)へ『商品』を渡した格好で、ジャンク屋協会の協会長を見返した。協会長が「そうだ」と厳しい顔で頷く。
「この取り引きは?」
 天音の問いに、
「そいつが終わったらでいいぜ」と協会長。
「ギリギリ間に合ったみたいだね」
 天音が満足そうに微笑んで、『商品』を受け取った。古ぼけた小さな円盤だ。
「さ、爽やかに他人事かよ……くそぅ」
 ラットの呻きを横に、天音が円盤をブルーズへと渡した。
「どう?」
「ふむ……」
 ブルーズは、端でガーンとショックを受けっぱなしのラットの方を一瞥し、少々同情しつつ、円盤を確かめた。
「確かに、古王国時代のオルゴールのディスクのようだな。このタイプは特に珍しい」
「……ふぅん、面白そうだねぇ」
 ブルーズは、天音の声の調子から、彼がこれを購入する気を固めたことを悟った。
 軽く顔をしかめる。
「演奏できる本体が無いぞ」
「探す楽しみが増えるのは良いことだ」
「ディスクも修繕しなければ使えそうにない」
「丁度、夜の手遊びが欲しいと思っていたんだ」
「…………」
 そんな二人のやりとりの向こうで、
「はあ……? 俺が亡霊艇のために?」
「そうだ。しばらく、おめぇは”危険な”亡霊艇の”撤去作業”のために動け」
「なんで俺ばっか……」
「バァカ、誰がてめぇだけに任せるか。皆でやるんだよ。そのための使いっぱが必要なんだ」
「それが俺かよ……」
「今回の事件のせいで他から介入されんのは面白くねぇだろ? だから、こっちで動いてやんだよ。その一端ってヤツだ」
「……親方っぽくねぇー、なんかしらねーけど、ムズムズする」
「うるせぇ、若造にケツ叩かれっぱなしってのは面白くねぇんだよ」
「若造……?」
「いいから、てめぇはさっさと取り引き終わらせて来い! お客様がお待ちだバカヤロウ!」
「いってぇ!?」


「番組スタッフ、出演者、全員の無事が確認された」
 久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)は、バインダーに挟められた要救助者リストを覗きながら言った。
「かなりの負傷者は出たものの死者は出ていない。意識不明の重体だった男も一命を取り留めたそうだ。それに、亡霊艇の警備システムの半分に加えて、機晶姫と機晶ロボも停止した。ジャンクヤードはひとまず平和になった、ってとこだな」
 グスタフは一つ息を抜いて、バインダーを持つ手を下ろした。
 夕焼けに染まるジャンクヤードだ。広大なガラクタの世界が広がっている。
 アリーセは、小さな丘のように重なったジャンクの上に座って、手元の、ボロボロの本を見ていた。その傍らにはリリマルが置かれている。
「聞いてたか?」
 グスタフの問い掛けに、アリーセが顔も上げずに応える。
「聞いてますよ。それで、亡霊艇については?」
「早期に再調査。だが、ジャンクヤードの連中が、こいつを飛ばすつもりだとか、なんとか……どうなるかな」
「そうですか」
 グスタフは軽く後頭部を掻いてから、片目を細めた。
「で……さっきから読んでる、そいつは?」

 問い掛けられ、少しだけ間を置いてから手記を閉じる。
 そして、アリーセはリリマルを手に立ち上がりながら言った。
「ただのジャンクですよ」


担当マスターより

▼担当マスター

村上 収束

▼マスターコメント

この度はシナリオへのご参加ありがとうございます。
そして、アクションの作成お疲れ様でした!

後書きのようなものは、いずれマスターページに書かせていただきたいと思います。

とにもかくにも、ありがとうございました!!
また機会が合いましたら、よろしくお願いいたします。