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第13章 姫と勇者達・脱出へ・蜘蛛との戦い


 証言その一。
 救出されている途中の番組スタッフAさん。
「俺たちが『一緒に逃げよう』って言った時、『お姫様が自分で逃げ出しちゃったら変でしょう』とか、何故か上機嫌で……」

 証言その二。
 救助活動を行っていたセーラー服のHさん。
「……ってうわぁい、やっぱり学園最強が巻き込まれてるのねー……それっぽい痕跡は見かけたけど。真面目な話、武器なんか無くても困らなそうよね……。ね……救出の必要ってあるの?」

 証言その三。
 最近、巻き込まれ癖が付きつつあるらしい商人Sさん。
「俺の郷里じゃ、ああいうのは『救助待ちの人』って言わないんだよ。ましてや、お姫様? 絶対に認めないからな。あと怖いから変なモン武器にすんのは止めろって言っておいてくれ――俺が言ったってのは内緒で頼む」

 以上の証言と、それっぽい痕跡を辿り――
 アルコリアを救出しようという者たちは、おそらく目的に近づきつつあった。
「アルコリアさーん、どこですかー?」
「ラズン様ー? どこですかー?」
「マイローーード!! ご無事ですかーー、マイロード!! ああ、ご無事でいてくださいませー! マイローーード!!」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)アリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)、そして、 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の呼びかけが、通路に響いていく。
「さっき見た、妙な傷跡のついた残骸はまだ新しかったから、多分、近いと思うんだけど……」
 桐生 円(きりゅう・まどか)がぽつりと言って、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が、ふむ、とこぼす。
「何か……救出にきた、というよりは、捕獲しにきた、という趣きだな」
 と。
 通路の先から、機晶ロボが現れ――
 機晶ロボの機銃の銃口がこちらへ向けられると同時に、アリウムを纏った円が、二丁のカーマインを抜きながら距離を詰めに掛かっていた。

 耳傍を掠めて、己の方へ寄せられてくる射線。
 身を捻りながら跳躍し、壁を駆けた円の軌跡を乱暴な銃跡が追っていく。
 斜めの視界に収まる機晶ロボへと距離を詰め、壁を蹴る。
 カーマインの銃弾に火花を散らしていた装甲の上へと着地して、円は、その装甲に走る亀裂へと銃口を擦りつけた。
 止め処ない連射の後、抉り晒された機関部。
 そこへ、とっておきの一射を撃ち込み、円は装甲を蹴って後方へと跳んだ。
 床へ着地した円のそばを、ロザリンドが深緑の槍を手に駆け抜ける。

 円の銃撃で動作を停止した機晶ロボの後方からは、もう一体の機晶ロボが姿を現していた。
 機銃をパワードスーツの装甲で受けながら、ロザリンドは腰元に槍を構えた格好で距離を詰めていく。ナコトが皆へ掛けておいた空飛ぶ魔法のおかげで、足音は無い。
 滑るように近づいて、ロザリンドは轟音と共に槍を機晶ロボへと突き込んだ。
 動きを鈍めた機晶ロボへ円の射撃と、ナコトの魔法が走る。
 そして、ロザリンドが二撃目を叩き込もうとした、その刹那――
「え?」
「あら?」
 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を纏った牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が通路の向こうから跳躍した格好で現れ、ごめしゃっ、と機晶ロボを打ち伏せた。

「まどかちゃんとナコちゃんだけじゃなく、ろざりんまで来てくれたの?」
 アルコリアが少し驚いた様子で目を瞬いてから言う。
 パワードスーツ ロザリンドがぎぃっちょんと安堵の息を零した仕草をして、
「大きな怪我など無いようで、なによりです」
「うふふ、素敵な騎士様たちが助けに来てくれて満足です。囚われのお姫様冥利につきますね」
「……お姫様」
 円の纏っているアリウムが、どこか、ほわっとした調子で呟く。
「ねぇ、ラズンの名前を呼んでいたのは、あなた?」とラズンの声。
「は……はいそうです、ラズン様」とアリウムの声がほんの少し慌ててから。
「あの、はじめまして。あたしはアリ――」
 と、
「マイロードがご無事で良かったですわーー!」
 ナコトがアルコリアに抱きつき……キッとシーマの方を向きやる。
「シーマ、早くマイロードに武具を! 何かがあってからでは遅いですわ!」
「……本当に必要だったのだろうか? これは」
 シーマが呟きながらアルコリアへ持ってきていた武具を手渡す。
「ええ、助かっちゃいますよ。丁度カードが無くなったところだったから――」
 アルコリアがシーマから刀を受け取りながら言う。
「カード、無くても関係なさそうだけど」
 機晶ロボの装甲の亀裂に突き立てられたジョーカーのカードを横目に円が言った言葉は、するりと流され。
「さて、帰りましょうか」
 アルコリアが満足そうに言った。
「では、皆さん。すみやかに脱出しましょう! アルコリアさんは、お疲れでしょうから彼女を守るように――」
 気合を入れ直すように、ぐっとパワードな拳を握り締めるロザリンドの横で、円がこめかみをぽりっと掻いてから笑む。
「やる気満々みたいだけどね、ボクらのお姫様は」
 その視線の先、アルコリアは楽しそうに刀を素振りしていた。


 久途 侘助(くず・わびすけ)は、ラットを連れてたちが待っている隔壁の方へと急いでいた。
 ラットを見つけたのは偶然だった。ラットはカレンやジークフリートたちと、何かの装置を外へ運ぼうとしている途中だった。そこで事情を説明し、ラットに付いてきてもらうことになった。
「――こっちはマズいですね、敵がいます。二本先から回り込みましょう」
 わずかに先行して道先を探っていた香住 火藍(かすみ・からん)が口早に言って、先を駆けた。
 ラットを連れているため、無闇に敵と交戦するわけにはいかなかった。侘助もラットの後方について気を張っていた。
 そうして、なんとか敵と戦うことなく隔壁へと戻ってくることが出来た。
「――こいつだな。待ってろよ、今……って、これ、動いてない?」
 ラットが操作パネルを覗き込みながら零し、侘助はそれを横から覗き込み、
「動いてないってのは?」
「この操作パネル、機晶エネルギーが供給されてねぇんだ。多分、中の配線が切れてるのかも……」
 ラットが言いながらパネル下の小さな扉部分をごそごそと弄り始める。
「……くそッ」
「駄目ですか?」
「整備用の扉が、ひん曲がってて開かな――」
 と、ラットが言いかけた時、
「そりゃっ」
 侘助の刃が、ざっく、と整備用扉の端に突き立てられた。
 刀が耳を掠めたラットの口と表情が「どひゃあ」という悲鳴の形で固まっている横で、侘助は「よっ」と力を入れて、扉を強引に開いた。
 硬い音を立てて扉部分が床に落ちる。
 火藍が呆れたような溜め息をこぼし、
「あんた、どうしてそうガサツなんですか」
「急ぎだろ? っし、頼むぜ。ラット」
「っうぉ。あ、ああ」
 ぱんっと侘助に背中を叩かれてラットが我に返って作業を開始する。
 そうして、数分後に隔壁は上がり始めた。
「火藍、怪我人を優先して引っ張り出すぞ。ラットは、あっちに居る奴が全員こっちに来たらすぐに隔壁を下ろしてくれ。向こうにはまだ、たらふく機晶兵器が居るらしい」
 侘助と火藍は床と隔壁の間から這い出て来た人たちへ手を貸し、次々にボロボロの要救助者たちをこちら側へと助け出した。


「せっちゃーーーん!!!」
 アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)が、安堵の涙を流しながら、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)へと抱きついた。
「シンフォーニル?」
 刹那がアルミナの抱擁を受けながら、小首を傾げる。
「何故ここへ?」
「だって、せっちゃん、飛空艇が動き出して、何にも武器とか持ってってなかったし、閉じ込められて、大変だと思って」
 えぐえぐと泣くアルミナの頭に、刹那が、ぽんっと手を置いて、
「それで武器を持ってきてくれたというわけか。すまぬな――しかし、よく一人でここまで来れたのぅ」
「途中であっちの人たちと一緒に――」
 アルミナが指さした方。
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)椎名 真(しいな・まこと)が、掲げた互いの手を打ち合わせた。
「良かった。お前が無事で、本当に、良かった」
「あはは、心配かけてごめん。それに、助けに来てくれてありがとう。――少し肝が冷えた時もあったけど、蒼やみのり、それに刹那さんが居てくれたから、なんとかなった」
「大変やったみたいってのは、よく分かるわ」
 七枷 陣(ななかせ・じん)が真の持つ蒼お手製トンファーや、真たちの姿を見やりながら言う。トンファーは度重なる使用に折れ曲がっていた。そして、真や刹那、彼らが連れていたTVクルーたちは全員擦り傷だらけの煤だか埃だか塗れだった。
 とりあえず、重傷者は居ないようで安心は出来る。
「後は全員で無事に脱出するだけですね」
 小尾田 真奈(おびた・まな)彼方 蒼(かなた・そう)の傷を治療しながら言う。
「ようやく……慣れない保護者役も終わりだな。これで憂いなく戦闘に集中できる」
 やれやれと仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)が零し、小さく安堵したように笑む。
「ふむ、継ぎ接ぎの武器も手によく馴染んだが――やはり、わらわにはこちらよな」
 刹那がアルミナから受け取った武器を手に、ヒゥッと虚空に素振りし、スタッフたちの方を見やる。
「シンフォーニル。今度は彼らを守るために働け。現在、報酬額が5割増しじゃ。無事に届けて稼がせてもらおう」
「りょーかい!」
 涙を拭いたアルミナが強く頷く。

■蜘蛛との戦い
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が皆の傷を癒すべく命のうねりを解き放った、その前方には――
 グレネード弾が重量感のある風切り音を掻き鳴らしながら、かすかな放物線を描いて迫っていた。
 跳躍し、発動した機晶回転楯の力で更に上空へと身体を逃がす。
 爆風と破片が足元で吹き上がる。
 と――機銃に狙われ、ハーレックが楯を停止させ、身を翻した。
 機銃に掠めらながらも着地した彼女のそばへ、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が身を馳せ、振り落ちて来た幾つかの破片を剣で斬り弾く。
「ありがとうございました」
 小息をついたフィリッパが、うふふ、と微笑み、
「自分の身体も大切にしなくちゃ駄目ですよ」
「……はい」
 ハーレックは一つ瞬いてから、素直にコクリと頷いた。
 そんな二人を狙った蜘蛛の機銃を藍澤 黎(あいざわ・れい)のランスバレストが打ち弾いて、破壊する。
「貴殿の相手は、こちらに居る!」
 蜘蛛の脚を盾で受け飛ばされながら、なんとか、後方のゴミ山の上に立つメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)の方へと意識を向けることには成功した。
「鬼さんこちらなのですぅー」
「かかってきなっさい! 僕たちがコッテンッパーンにしてあげるから!」
 ウォーハンマーを振り回して見せてから、二人が山の裏手へと滑りこんでいく。
 蜘蛛がそれを追ってガラクタを掻き弾いていく。
 そして、蜘蛛はあい じゃわ(あい・じゃわ)が破壊工作を用いる場所として選んだポイントへ、まんまと誘い込まれて――
「あいじゃわしょーーっと!」
 あいじゃわの放った機晶ロケットランチャーが蜘蛛の足元のガラクタを破壊し、そこに雪崩を引き起こした。
 蜘蛛は、ウィッカーに二本の脚を斬り落とされており、既にかなりアンバランスだった。
 雪崩に残り少ない片側の脚を取られる形で、蜘蛛が自重のバランスを崩してズルズルと横転していく。
「ウィッカーさん――あそこです! 他の場所はなるべく傷つけないようにお願いします!」
 ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)が指さしながら言う。
「応ッ!」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が二振りの剣を手に蜘蛛の腹へ向かって、身を馳せていく。
 その向こう側――
「刀真。ウィッカーが魔法防御材を引き剥がす」
『出来れば、光条兵器だけで押し通したかったんですけどね』
「……無線装置がすぐ必要だって話」
『分かってます』
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、携帯と繋がっているイヤフォンマイクを通じて樹月 刀真(きづき・とうま)へと伝えながら、グレネードの射出口を狙っていた。
 その射撃は射出口付近を叩き、
「はずした。ごめん」
『問題ありません』
 月夜の報告と同時に撃ち放たれたグレネードが、刀真を狙うも、彼は分厚い遮蔽へと駆け避け爆風をやり過ごしながら蜘蛛へと距離を詰めていった。
 ウィッカーのソニックブレードが疲弊していた装甲を砕き飛ばし、内側の魔法防御素材を斬り破る。
 そして、刀真の光条兵器が真っ直ぐに刺し込まれた。


 ジャンクの向こうに刀真たちの姿が見えていた。
「おー、上手くいったみたいだねー!」
 回復魔法疲れで少々ぐったりとしガラクタに腰掛けていたトランス・ワルツ(とらんす・わるつ)は、立ち上がろうとした。
「トランスは回復魔法しまくりだったからお疲れなのだ。クド公たちにはボクから伝えに行くのだ」
 ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)が、トランスの肩を押して、もう一度腰を下ろさせてやりつつ言う。
「わっと……。ありがと、ハンちゃん。えっと、それじゃ休ませてもらって、いーい?」
「もちろんなのだ。トランスはゆっくりと休みながら、せいぜいボクの優しさにひれ伏すといいのだ」
「あはははー、ひれ伏しながら休むよー! ――皆に言ってきてあげて! 『気兼ねなくぶっ飛ばしちゃって!』って!」
「うむ」
 ハンニバルは、なにやら満足そうに頷いて、クドたちの方へと駆けていった。


 蜘蛛の巨体が強引に周囲の地形をぶつかり散らしていく。
 身体のあちこちに機銃の弾を受けて血塵を咲かせながら――
「ああ楽しいじゃねーか! どーーしたもんかねぇ!!」
 天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は、駆け跳んで、何度目か蜘蛛の真正面に拳を叩き込んだ。度重なる攻撃でひしゃげていた装甲が更に軋みを上げ、バキンッと鈍い音を上げる。
 グッ、と抉り込んだ拳を支点に身体を背転させて、鬼羅は蜘蛛の背中へと着地した。
 背中の装甲パネルが開いて現れた小型レーザー砲塔が鬼羅を狙う。
 脚を装甲表面に滑らせ、低く鋭く駆けて、彼女は、レーザーが放たれたタイミングで装甲を手のひらで叩いた。クルリと空中へ跳び逃がした身体の下をレーザーが走り抜けていく。そして、
「もっとだ! もっとぉ!」
 彼女の踵がレーザー砲塔を叩き砕いた。
「オレらが相手になってやってるんだ。もっと楽しませてくれよぉ!!」
 次いで、装甲パネルを開いて現れたフラッシュライトに拳を撃ち込む――そこで、蜘蛛が身を激しく振り、鬼羅の身体は投げ出され、ジャンクの上に転がった。
 
 その上空――
 小型飛空艇ヘリファルテに乗ったナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)
名無しの 小夜子(ななしの・さよこ)が蜘蛛へと迫っていた。
 二つの飛空艇の間にはワイヤーが渡されている。
「ちょうど良く、周囲に障害物は無し、ですね」
「そばで戦ってる人がいるでしょう」
「そうでしたー」
 ナレディは言って、地上で蜘蛛と戦っている皆の方へ手を振って合図をしてみせた。
 傷だらけの皆が蜘蛛を牽制しながら距離を取っていく。
 そして、ナレディと小夜子は急降下した。
「いっきますよー! 小夜ちゃんは右に、わたしは左に!」
「ナレディ、もっと低く飛んで――チャンスは一度、やり直しは無しよ」
「わかってますよー。ではっ、あのクモロボをぐるぐるまきにするですよっ!」
 二機のヘリファルテは、蜘蛛の周りをぐるぐると飛びながら、その脚にワイヤーを巻きつけていった。
 鬼羅や坂上 来栖(さかがみ・くるす)から受けていたダメージで蜘蛛の動きが鈍っていたこと、そして、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)七刀 切(しちとう・きり)の牽制と囮によるフォローもあって、蜘蛛の脚に順調にワイヤーが巻かれていき――
「頃合いですね」
 後部に積んでいたワイヤーの束が無くなって、取り付けていたワイヤーの端がピィンっと張ったのと同時に、ナレディと小夜子は雷術をワイヤー経由で叩き込んだ。

 パリパリと装甲に雷気を弾けさせながら、蜘蛛が機銃でナレディと小夜子の飛空艇を撃ち落とし、ワイヤーを引き千切ろうと身悶える。
 ナレディと小夜子が、なんとか飛び降りてジャンクの上に着地したのが見える。
 来栖は氷術を組みながら、蜘蛛へと距離を詰めていた。
「一気に畳み掛けてやるッ!!」
 蜘蛛が再び催涙煙幕を放とうとし、その射出口へ切の舌切り鋏が突き刺さる。
「二度もおんなじ手が通じると思うなね?」
 バッ――キンッ、と鋏がそれを砕く。
 その向こう、ナレディと小夜子がワイヤーの端を取って、
「でも、わたしたちは躊躇いもなく同じ手を使ったり」
「まあ、そこそこ苦労もしたしね」
 再び雷術を叩き込む。
 そして、
「いくぜぇ!!」
「くったばれぇッ!!」
 鬼羅の拳と来栖の放った氷塊の刃が、蜘蛛の装甲を砕いてその巨体を沈み込ませた。


 蜘蛛は横転した格好で半身をジャンクに埋め、未だにギィギィと脚を蠢かしていた。
 その一部の装甲を開き、ステラと月夜は、蜘蛛から無線装置を取り出していた。
 内部に潜り込んだステラの声。
「切り離します」
「分かった」
 月夜は、少し緊張しながら取り出した無線装置を見やった。それは、まだ蜘蛛の内部と繋がっている。
「――切り離しました」
 声と同時に、月夜は、ジャンク屋協会から持ち出されてきた機晶動力に素早く繋ぎ換えた。
「どうですか?」
「……大丈夫。問題なく使えそう」
 月夜が言って、二人は同時に大きく安堵の息をついた。