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リアクション
23.はろうぃん・いん・ざ・あとりえ。そのじゅうよん*お着替えさせ隊Bグループ。
クロエとショコラッテ・ブラウニーと小鳥遊 美羽が遊んでいるのを見守る樹月 刀真へと、
「死神さんは鼻眼鏡が仮装なのね……」
ショコラッテは、言った。
「そういえばそうだよね。月夜ちゃんや白花ちゃんは仮装してるのに」
美羽も、それに続く。
「いや、俺は。思いつかないですし」
曖昧に言葉を濁して断っていると、
がしり。
肩を、掴まれた。
……あまり、振り返りたくない。
なんだか嫌な予感がするからだ。
「とーうーまーさんっ♪」
楽しげな声には聞き覚えがある。
コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)だ。
恐る恐る振り返ると、案の定。にっこり笑った彼女の顔。
「コトノハさん……」
魔女に仮装した彼女は、とても妖艶に微笑んでいる。綺麗な顔なのに、刀真の背筋にはぞくりと悪寒が走る。
――なんだ、この嫌な感じ……。
警戒心を緩めないまま、コトノハを見ていると。
「てやっ!」
足元にドロップキックを喰らった。その場に横転。受け身は取ったので、痛む箇所はない。
それにしても不覚である。
刀真の意識はコトノハに向いていて、まさかクロエやショコラッテ、美羽の居る側から突撃されるとは思っていなかったのだ。
――誰が!?
そう思う間もなく、刀真の上に人が乗ってくる。コトノハは頭上で「うふふ♪」と笑っているので、彼女ではない。それに、軽い。
自身の腹の上を見ると、
「パラミタの未来に、ご奉仕するにゃん♪」
と可愛くポーズを決めた、蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が馬乗りになっていた。猫又尻尾に猫耳カチューシャをつけた、猫メイドの仮装をしている。
「……すまないが、退いてくれないか?」
あまりこうしていて、こんな現場を見られたら月夜や白花に余計な心配をかけてしまう。
幸いにも、二人は仮装させられたリンスに案内され、陳列棚などを見て回っているから気付いていない。だから気付かぬ前に、早く退いてほしい。
「パパ、ママ! 今だよ!」
しかし、夜魅はそう叫ぶ。
――今?
何がだ、と思う間もなく、
「我のエターナルディバイダーがレーザー脱毛機扱いとは……」
やれやれ、と言った声で、ルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)が呟いた言葉が聞こえた。
――レーザー脱毛……?
疑問符に思う間もなく、某銀河系美少年の仮装をしたルオシンが、刀真のズボンをめくり上げる。
「なっ!? ちょ――」
「大丈夫だ。光条兵器で視力の矯正が可能なら、レーザー脱毛もできるであろう」
「何が大丈夫なんですか!? やめてください!」
さすがに、慌てる。
何をするつもりなのか、見当がついてきたのだ。
恐らくは、
「……仮装、させるつもりですね?」
それも、ろくでもないものに。
「はいっ♪ ネコ耳ミニスカメイドの女装をしてもらいます♪」
ああ、だからムダ毛を脱毛、と?
――冗談じゃない!
本気で暴れれば、夜魅くらいなら退かせそうだし、体格が同程度のルオシンもどうにかなる……と、思う。が、コトノハも、となれば。三人がかり、か。
さすがに分が悪い。
かといって、こちらが増援を頼むわけにはいかない。
「くっ……」
どうする、と歯噛みしていると、
「だめ」
クロエが、声を上げた。
「とーまおにぃちゃん、イヤがってるわ」
「クロエ……」
「人がイヤがることしたら、だめだって。リンスが言ってたの。だから、だめなの」
心からの、言葉。そうだとわかる、真っ直ぐな瞳。
ルオシンが、どうする? とコトノハに視線を向けた。
「でも、でも、私刀真さんのネコ耳ミニスカメイド姿が見たくて……」
「だけど、とーまおにぃちゃんはそれをイヤがってるわ」
「……うぅ」
小さい子に諭されては、仕方がない。
コトノハは肩を落として、「ルオシンさーん、代わりにネコ耳ミニスカメイドになってご奉仕してくださーい!」と泣きついた。
――諦めてくれた、のか?
ほっとしつつ、夜魅を退かす。
夜魅は、何をしていたのかわかっていたのかいないのか、きょとんとした目で刀真を見て、笑った。
「? どうかしましたか?」
「うんとね。あたし、もうすぐお姉ちゃんになるんだよー」
脈絡のない、大きな声での言葉に混乱する。
――お姉ちゃんになる?
どういう意味だ、と測りかねている間に、コトノハが白花のところへ向かっていて。
「白花!」
危険人物注意の言葉を向ける前に、コトノハが白花に耳打ちしているのが見えた。距離があるので、何を言っているのかまでは聞き取れない。
コトノハが戻ってくるのと入れ違いに、夜魅が「あたしもバイバイ言ってこようっ」と白花の許へ向かった。
刀真がコトノハに、
「何を言ったんです?」
問い詰めるも、
「秘密です♪」
とコトノハは微笑む。
白花を見ると、顔を真っ赤にしていた。刀真と目が合うと、慌てた様子で俯くし。
キッ、と睨みつけてみたが、コトノハは鼻唄をうたってそれを回避。
「……食えない人ですね」
「うふふ〜♪ さて、いいものも見れたし、私はそろそろお暇しますね♪」
そして、嵐のように去って行くのだ。
ひどく疲れた、と肩を落とすと、クロエが頭を撫でてきた。
「また、助けられちゃいましたね」
「? なぁに?」
クロエはわかっていない様子で首を傾げるが。
……もしも居なかったらどうなっていたか。
さて、コトノハ一行の帰り道。
「残念でした。でもいいです、帰ってからルオシンさんに女装を――」
「コトノハ、本気か? 我が、女装……」
「ルオシンさんが上手く自分でレーザー脱毛できなければ、私が手伝いますし!」
「そしたらあたし、パパのこと押さえておくよ!」
「夜魅も協力してくれるなら、ね、お父さんとしてやるべきですよ♪」
そんな会話をして、親子三人手を繋いで帰る。
突拍子のないコトノハの提案には慣れっこなので、ルオシンはやれやれと首を振った。そして、はたと思いついたように、
「そういえば、最後……白花に何を言いに行ったのだ?」
コトノハに尋ねる。
「え? うふふ〜♪ それは……」
コトノハは、意味深に嫣然と笑い。
「秘密です♪」
教えてはやらないのだった。
言った言葉。
それは、
「そういえば、白花さんは刀真さんとキスの続きはしたの?」
まず、最初にここまで言った。
白花の頬が赤く染まり、「あ、あの!?」と言葉を止めるように、声が荒げられた。
それを無視して、
「早く刀真さんと白花さんの赤ちゃんが見たいな♪」
爆弾発言。
それには白花も絶句して、みるみるうちに耳まで顔を赤くして。
何も言えないでいる彼女に、
「守護天使とのハーフってきっと可愛いんだろうなぁ〜」
追撃して。
入れ違いに、夜魅が白花のところへと。
「お姉ちゃん! あたしももうすぐお姉ちゃんになるんだよ♪」
コトノハが妊娠をしている、ということを匂わせる発言を残し。
言い逃げ、のような形になったけれど、工房を出てきた。
――今頃白花さんはどう思っているのかな?
――刀真さんと、何か発展しちゃうのかな?
そう考えると、楽しくて。
「発展すればいいのに」
思わずそう、呟いた。