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新キマクの闘技場

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「リングが無くなって動き易くなったぜ。それじゃあそろそろ全力で参ろうか!」
「来い、なのだー!」
 先ほどまで回避を中心にヒットアンドアウェイを繰り返し時間を稼いでいた唯斗の攻撃が変わるのを、強気を装いつつ黎明華は感じていた。
「震脚!」
 中国武術を応用させた唯斗が足で地面を強く踏みつけると、周囲に砂埃が巻き起こる。
「スプレーショットとシャープシューターしか技がない黎明華では、手が打てまい!?」
「ひ、卑怯なのだー!?」
 土煙の中から響く唯斗の声に慌てふためく黎明華。
「ど、どこなのだー!?」
 闇雲に煙の中に向かって銃を撃つ黎明華。
「どこを狙っている!?」
 唯斗が土煙を纏いつつ、勢い良く空へと飛び上がる。
「上!?」
 黎明華の真上へと上昇した唯斗が、奈落の鉄鎖で自分にかかる重力を増加させ、勢い良く黎明華の上へと急降下する。
「水行変成・氷結掌!!」
 腕にハイパーガントレットに貯めた冷気を一気に開放する唯斗。
「きゃああああぁぁぁ!!」
 まともに強烈な冷気の攻撃を受けた黎明華が絶叫する。
「寒い……のだ、でも、只では終わらないのだ!! キマクの穴、バンザーイ!!」
「何!?」
 空から降りてくる唯斗に下から手を勢い良く上げてくる黎明華。
「(肉弾戦? 銃撃メインじゃ……)j
 その時、丁度、会場へと姿を現した睡蓮とエクスは驚くべき光景を見る。
「あっ!?」
 それは一見しただけでは状況の掴めぬ絵であった。
 半分氷漬けになった黎明華がが空中にいる唯斗を指一本で持ち上げている。
 問題はその指のあるべき位置であった。
「……黎明華、俺の、尻に指を……お前は……」
「ひゃっはぁー……なのだ。これが黎明華の反則技『ピッキング』未知なる世界の快楽の扉を抉じ開ける必殺技、なのだ。……ちょっと嫌だけど」
 指をテクニカルに動かす黎明華。
「うおおおーッ!?」
「アホ女とナメたキミに、キツイ一発をお見舞いするのだ!」
 そう言って黎明華が唯斗を投げ捨てる。
「唯斗兄さん!」
 睡蓮が唯斗の元へ駆け寄る。
「大丈夫!? 唯斗兄さん!」
「……大丈夫よ、睡蓮ちゃん、私は此れ位で負けないわ!」
 ニコリと睡蓮に笑う唯斗に睡蓮の顔がこわばる。
「なんで、女言葉なの?」
「黎明華にやられた影響かしら……睡蓮、大丈夫よ! 姉さん勝つわ!!」
「嫌ああぁぁぁッ!! 兄さんが姉さんに変わるなんて!!」
 黎明華が半氷りの身体を引きずって、唯斗に近づく。
「ひゃっはぁーなのだ! もう一撃食らわせれば、完全に新たな世界に旅立つのだー!! 最後に勝利の美酒を味わうのは、この黎明華なのだー」
「負けないわよ! 黎明華」
 立ち上がる唯斗。そこに睡蓮が投げたタオルが投下される。
「睡蓮?」
 唯斗が振り向く。
「もう、負けでいいですから……私に姉さんなんて呼ばせないで下さい!」
 エクスが冷ややかに突っ込む。
「この場合、改名はやはり唯子になるのであろうな?」
 エクスが後に語るには、試合が終わって唯斗がマトモになるまで、睡蓮はずっと涙ぐんでいたそうである。



 試合を見守っていた正統派の選手達の控え室では、皆が試合の結果を観て落胆の色を隠せずにいた。
「これで、悪党サイドに王手がかかっちゃったねぇ……」
「まだまだ、まけた訳じゃないよ! 次の試合勝てばイーブンになるよ!!」
「ちょっと待て! イーブンになった場合、ランドセルはどうなるんだ?」
 皆が喧々諤々と話し合う中、王は力強く言う。
「もう一戦やってやるだけだぜ! シー・イーを賭けてな!」
「「「おうーッ!」」」
 王の言葉に皆が拳を突き上げる。いつしか正統派の選手たちには団結力が生まれていたのであった。キマクの穴についた選手には無い団結力が、この後、全てを左右するものになる事を、この時はまだ王は知らなかった。