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第四章:わるいひとたち

 王と六黒が闘技場で対峙する様子を、フェルブレイドの瓜生 コウ(うりゅう・こう)はビーストマスターの多比良 幽那(たひら・ゆうな)の屋台で買った栄養ドリンクを飲みながら、闘技場の二階の観客用出入口の傍で見下ろすように見ていた。
「まったく、すっかり熱くなっちゃって! 勝負に熱くなったら負けるって事を忘れてるんじゃないか? 王は!」
 王とおそろいのモヒカンを逆立てた謎の正当派覆面ガンウーマン「B・B・女王(ビッグバン・おんな・わん)」として密かに参加していたコウがドリンクを飲み干し、その空いた紙コップをゴミ箱にポンと捨てる。
 通りゆく人々が遠目でも抜群の目立つ姿のコウを不思議そうな目で見ている。
「ママー、あそこに頭に変なの付けたお姉ちゃんが居るよー?」
「しっ、子供が見ていいもんじゃないわ、こっちに来なさい!」
 だが、コウ本人にはその自覚はない。
「うぅ……なんか漲ってくるなぁ、このドリンク! ……副作用とかないよな?」
 少し前にバックヤードの幽那の屋台を通りかかった際に購入したドリンクを飲んだコウが口を拭い、ふと 幽那の顔を思い出す。


「いらっしゃいませー! 私が育てた植物から特技【薬学】を駆使して作った特別な栄養ドリンクは如何ですかー?」
 緑のセミロングの髪を左、右と振り、笑顔で屋台の販売をする幽那。
「それ、栄養ドリンク? 何が入っているんだ?」
 試合の出番に向け、廊下を歩いていたコウがふと足を止める。
「メインの原料はマンドレイクよ。マンドレイクは精力剤の原料としても使われたりするから元気になれると思うわ」
 ただし幽那の言うマンドレイクとは、魔法植物としてのマンドレイクのことを指す、現実世界のマンドレイクは麻薬作用を持つ猛毒植物である。
「これからオレは試合なんだが、飲んでも大丈夫?」
「勿論!! きっと大活躍できるはずよ!!」
「……一つ貰うぜ」
「ありがとうございまーす!!」
 紙コップに注がれる幽那の特製ドリンク。
 傍を通りかかった人間が、「うえ、見てみろよ、あの色!」「毒?」と声を発するのを聞いて、コウも同じ意見であったが、もう後には退けない。
「はい、どうぞ!」
「……」
 なみなみと注がれたコップの中の何とも言えない色をした液体をじっと見るコウ。
「(自分で育てた農作物からなら……害はない、よな?)コレ、他にも飲んだ人いる?」
「ええ、先ほど王さんもコレを飲んで闘技場の方へと行ったよ」
「……生きてた?」
「一瞬、全身を硬直させてたけど、すぐに……」
 王が飲んだのなら、まぁ大丈夫だろう、そう思ったコウが目を閉じて一気にコップをあおる。
「言い忘れてましたけど、栄養ドリンクの味はとっっっっっても不味いです、それも気絶しかねないほどに。けれど飲めば溢れるばかりに力が湧いてくる…………はずよ?」
 コウが笑顔の幽那の前で激しく咳き込む。
「……ぶへっ!? ま、まままマズイ!!」
「良薬は口に苦し、って言うわ」
 暫く王と同じように、全身を硬直させるコウであったが、
「マズイけど、なんかアリだ! もう一杯!!」
「はーい、ありがとうございまーす!! おまけで大増量しておきますね?」
「いや……普通でいい」
「え?」
「ほ、ほら、もう試合だし、歩きながら飲むから、溢れちゃあマズいだろう?」
「そうですか? 残念!」
 本当に残念そうな顔を浮かべた幽那は、差し出されたコウの空のコップに再度あの液体を注ぎこむのであった。


「お! ようやく出番が来たぜ!! やはり只のセコンドじゃなかったようだな」
 本来六黒のセコンドとして登録されていたはずの獣人のヘクススリンガー羽皇 冴王(うおう・さおう)が魔銃カルネイジを構えて現れるのを見て、コウが声を弾ませる。
「行くぜ! 今日はオレとお前でダブル王だからな!」
 そう声をあげたコウは、二階の観客席からマントを翻しながら飛ぶのであった。



 一方、絶え間なく王と六黒の衝突音が響く闘技場の裏手では、誰に知られる事もない戦いが密かに開始されていた。
「チィ、何人いるんだ、キマクの穴の戦闘員は!!」
 控え室で治療を受けた正統派の戦士のうち、比較的動ける者達が、王のパートナーのシー・イーの奪還作戦に向けてついに動き出したのである。
 狭い通路内を埋め尽くすようにいる黒服の戦士達を相手にした皐月が叫ぶ。
「おまえらの行動など、お見通しよ!!」
 一人を倒した皐月に剣を振り上げる戦闘員。
「やああぁぁー!!」
 すかさず、ルカルカが延髄斬りで戦闘員を倒し、皐月をフォローする。
「ありがとう!」
「礼には及ばないわ、まだ一杯いるもの!」
「所詮は烏合の衆、突破は時間の問題……ですが」
 エッツェルが戦闘員の攻撃を受け止めつつ、余裕の表情で足払いをかける。
「うん、試合を終えた戦士達まで出てきたら……」
 加夜が今やトラウマとなった毒島に見せられた禁断の同人誌を思い出して、顔を引きつらせる。
「さぁてねぇ……そうなったらどうしたものか?」
 のんびりと笑うクドと背を合わせた悠司が声をかける。
「先ほど知恵子に聞いたけど、向こうの戦士は試合が終われば解散らしい。だから、残ってないだろう?」
 唯斗がその言葉に頷く。
「ああ、睡蓮も言ってたけど、向こうは控え室に誰もいなかったらしい」
「ならば、こいつらを手早く片付けて、シー・イーを救うのみ!! 安心しろ、腹の膨れたシュバルツパンツァーに敵はいない!!」
 実はちょっとズボンのウエストが苦しい要がサッとポーズを決める。
「それじゃ、さっさと蹴散らすよ!! リターンマッチ、するんでしょう?」
 裁が振り向いた先では、ラルクとミューレリアが「おう!」「当たり前だぜ!」と頷く。
「じゃ、いっくよおおぉぉーッ!!」
 ニコリと笑った裁がバーストダッシュで戦闘員達へと突っ込んでいく。