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リアクション
奇策突破
『さあ! 激しくなる屋上での攻防戦! 一体どうなるのでしょうか!?』
実況に勢いがつき始めたマリエル。今彼女は握ったマイクを離しそうにない。
『攻める『青鬼』、守る『赤鬼』! さりとてそこは難攻不落の城! 『青鬼』たちはこの試練をどう攻略するのでしょうか!』
「何が難攻不落なものか。猿が小田原城を落とせて、私がこの程度を落とせぬと思うてか?」
実況に信長が愚痴る。しかし、それは自信のある愚痴だ。口角を上げて笑っている。
「何時でもいいぜ信長」
準備の整った忍が合図を送る。他の面々も準備はいいようだ。
「よし、やれ忍」
信長の号令を皮切りに、忍が敵に弾幕ファンデーションを投げた。屋上から応戦する由宇たちの視界を奪う。
「今じゃ、秋日子」
「任せて!」
秋日子がエアーガンと共に回転式銃の光条兵器を構える。光条兵器の光弾で、敵のトラップを《破壊工作》する。
クレイモアが光弾に反応して誘爆していく。爆発の煙が階段を覆う。
「気を抜かないで応戦して!」
祥子が激を飛ばす。『赤鬼』たちは煙の中へ向かって『豆』を撃ち続ける。
が、撃ち方を再開した直後にはすでに敵の侵入を許していた。煙の中を忍が《バーストダッシュ》で駆け上がってきたのだ。彼の背後から洋介、孫市、秋日子の援護射撃が続く。
忍はメインマーカーを後頭部に付けているので、前からの攻撃を受け手も失格にはならない。しかし、不幸にも右手につけたサブマーカーに攻撃を受けてしまったために、武器での反撃は出来ない。
(ならば――!)
忍はCQCでの応戦に転じた。敵に素早く近づき、『赤鬼』の防衛を《実力行使》で無力化した。マリエルの解説から、武術による攻撃は反則にならないと分かっての試みだ。
「前線がひるんだぞ、特攻だぜ!」
洋介の声で、他の『青鬼』たちも屋上へと突撃する。
「主よ。何やら上で起きていますって、なにしてるんですか!」
「なにって、私も応戦するんだよ。行ってくるねー」
マビノギオンの注意も聞かず、郁乃は鉤縄を使って忍者らしく屋上へと侵入した。フラッグへの攻撃を開始する。
「私もそろそろ活躍しましょうか」
タイミングを見計らって、加夜も【宮殿用飛行翼】から飛び降りた。【エアーガン/パッフェルカスタム】で周りを攻撃し、銃舞で敵の攻撃を躱す。
「これじゃきりがないですぅ!」
応戦する由宇が不満を零す。
「このままではいけない……」
ここでフラッグを破壊されては計画が水の泡だ。
祥子は攻めに回っている『赤鬼』たちを通信で緊急召集するとともに、自らも応戦しようとした。が、彼女の目が止まる。それは敵ではなく一冊の薄い本。
それは、絵柄が安定していない頃に描いていた祥子の処女作同人誌。云わば、彼女の世間に晒したくない歴史の一冊が落ちていた。
罠とは分かっていても、祥子は自分描いたの【えろてぃかるな同人誌】を光速で回収した。
「だ、誰よ! こんなの置いたのは……」
「私じゃ。「下郎毒電波倶楽部」の同人誌を買い続けた甲斐があったわい」
冷や汗を掻いている祥子の背後を信長が取る。信長は忍の突撃とともに、《隠形の術》でひっそりと屋上に潜入していた。目的はフラッグの破壊と共に、『赤鬼』の大将首を先に取るためだ。
「委託販売してなかったはずよ。この本……」
「ナメるな。私はその本を即売会で買ったのだ。おまえの手からな!」
「お、お買い上げありがとうございます……」
『宇都宮 祥子さん、失格です』
シズルの声で脱落者のアナウンスが流れる。
『赤鬼』が防衛の戦力を失い始める。応戦は出来ているものの、フラッグユニットへの攻撃も通り始めた。
「よし、このまま押し切って勝よ!」
激励する秋日子の武器ロックが解除される。ハンドガンを構えてフラッグへの攻撃を再開する。
フラグユニットのダメージゲージが半分を切る。もし、破壊力のある攻撃が一度でも当たればフラッグが落ちる所まで来た。
しかし――。
『前半戦、撃ち方辞め! これより休憩時間です』
マリエルが試合の中断をアナウンスする。『赤鬼』たちはギリギリのところで救われた。
「口惜しい……もうすこしだったのじゃが」
舌打ちする信長は仕方あるまいと言って、銃を懐に収めた。
『休憩後、後半戦を開始します。この間にフラッグの位置、罠の設置をしても構いません。皆さんの好きにしてください』
「大丈夫ですかお姉様!」
ルナティエールとエリュトが屋上に戻って、祥子へと駆け寄る。
「……ええ、大丈夫よ。むしろこれで、動きやすくなったから」
自分の過去が晒されるかと思って、冷や汗が止まらない祥子だが、表情だけは平静とさせる。けど、脱落したことへの敗北感や残念はない。最初からそうすると決めていたからだ。
「それよりも、情報だぜ。腹筋校長帰ってきたぜ」
エリュトが涼司の帰校を報告する。ルナティエールと二人で校長前にいたのは、涼司が出張から帰って来るのを見張るためでもあった。
更に、『青鬼』たちのフラグユニットの確保も上手く行った陽太から通信を受ける。
「そうじゃあ、首尾よくいきましょうか。ふふふ」
祥子は立ち上がると不気味に笑って、校長室へと向かった。
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