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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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 ――食料庫には外と通じる扉がある。そこから入り食堂に抜ければいい。鍵は開いている。明子が空けた裏口から入るのが、おそらく首領が居ると思われる部屋に一番近い。ライルと理子はそこから来るのが良いだろう。
 勢力は確実にそげているが、蛮族側に加担している生徒が居る。そっちがなかなかやっかいだ。
 ――目隠しされたから行き方は分からないけど、階段を2回分下りたから、牢屋があるのは地下のはず。ライル姉妹は無事。首領の部屋へ移される。英虎とユキノもつかまってる。あとおっぱい星人。
「……だそうだ」
 ゼミナー、巽から届いたメールを源 鉄心(みなもと・てっしん)は読み上げた。
「蛮族側から見れば私達は侵略者で悪者ですから。依頼を見て、蛮族側に加担しようと思った契約者がいたって可笑しくないでしょう」
 ガートルードがさしはさむ。確かに、その可能性が高い。理子は奥歯に物がつまったような顔をした。
「俺達は正面から行こう。君達はその通り裏から入る。そちら側の侵入に気付いた奴等を俺達が後からサポートする」
「首領の部屋へ突入後、増援があるかも知れません」
 三船 敬一(みふね・けいいち)白河 淋(しらかわ・りん)が進み出る。蛮族をのさばらせておけば、今後も商人達に被害が及ぶだろう。ライル達が再び被害にある可能性もある。ここでしっかりと討伐して置けば、大荒野も少しは安全な地へと近づくはずだ。
 ――それにしても。
 敬一は侵入部隊の面々を見渡しながらある種の違和感を覚えた。蛮族の討伐にしては色々と物々しくはないだろうか。たかが、と言うつもりはないがちらほらとロイヤルガードの姿も見える。仲間は多いに越したことは無いが……。何とはなしに隣に並ぶ淋の顔を見てみると、彼女も同じことを考えていたようで、何だかしっくりこない様子だ。ただもう1つ、淋は訝しんでいることがあった。
“理子っち”と呼ばれている少女だ。どこかで見かけたような記憶がある。ふと思いついたのは同じ名前を持つ代王だ。しかし、即座にまさかと打ち消した。お忍びで王様が出かけるなんて、そんな映画みたいな話が起こりうるわけが無い。
「映画の見すぎかしらね」
 淋はひっそりと呆れたような苦笑をもらした。

「それじゃあ積み荷の捜索は食料庫の扉から、ライルとあたしは裏口から行くわ」
 そこで理子は鉄心とばちりと目があった。鉄心としては、教導団員として理子に付いて護衛をしたい。ライルが居る手前、抑えてはいるだろうが本来は理子も突っ走りたいせっかちなタイプなのだ。出来るだけ理子のしたいように協力はするつもりだが、あまり無茶はして欲しくないというのも本音だ。本当に危険を感じた時は恨まれてでも理子を食い止める、命に代えてでも守る。
 しかし理由も無く理子に付いて行くと怪しまれるだろうか。鉄心は膝を付き、後ろに隠れているイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)へ耳打ちした。ぎょっとしてイコナは鉄心を見詰め返す。
「そ、それをわたくしにやれとおっしゃいますの」
「頼むよ。理子様の護衛をするためにも」
 何だかんだで頼まれると断れない性格のイコナは意を決して理子の元へ歩み寄った。
「おっおっ……お姉さま!」
 理子へ飛びついてから、ハッとした顔で手を離した。
「あ、ごめんなさい! わたくしったら……理子さんが36万4千年前に生き別れてしまった姉とそっくりだったものでつい……」
 ごめんなさいごめんなさい、とイコナは困惑した表情で理子を見上げる。
「まるで生き写しのようなんですの。こんなそっくりな人がいらっしゃるなんてわたくし初めてで、だから、えっと、その」
「イコナは理子さんと一緒に居たいんですよね」
 半分ヤケクソにも見えるイコナを、ティー・ティー(てぃー・てぃー)がさりげなくフォローに回る。
「そ、そうなんですの! そうなんですわ! わたくし理子さんとご一緒したいんですの。よろしいかしら? だって、本当に、生き別れの姉とめぐり合えたようで、うれしくって!」
「う、うん。よろしくね」
「よたったですね、イコナ」
 疲れた様子のイコナと、彼女を労っているティー。2人を眺めつつ理子はこそっと鉄心を肘でつついた。 
「なに子芝居させてるのよ」
「それより“理子っち”って、もっと他になかったんですか。せめて『りっちゃん』とか。お忍びの意味ないじゃないですか」
「同じ名前なんてゴマンと居るから大丈夫よ」
 そんな理子と鉄心の背中を眺めながら、ライルは逸る心臓を必死で押さえつける。心臓が耳元にあるようだ。鼓動の音が聞こえる。
 いよいよ砦に侵入できる。やっと姉と妹を助けられる。
 頼む。どうか無事で居てくれ。祈るような気持ちだった。
「姉貴…ラン――」
「ライル君のところはきょうだい仲がいいんだね。うらやましいなあ」
「え――うん、まあ……」
 寿 司(ことぶき・つかさ)は少し歩を早め、先を歩いていたライルの顔をひょいと覗き込んだ。突然話しかけられライルはちょっと驚いた顔をしている。
「あたしにも兄が居るんだけどね、なかなかこれがねー……『女は大人しくあるべき!』とか言って剣でも握ろうモンなら抑えつけようとするからウマが合わなくって。ライル君はお姉さんとか妹とケンカとかしないの?」
「たまにはするけど……妹とお菓子とりあったりとか……姉貴の大事なモン壊しちゃったりとか……」
「あー、やるやる。小さい頃あたしも兄貴が持ってるモノは何でも欲しがってたなー」
「でも、そうすると姉貴が自分の分をオレにくれたり、物はいつか壊れるんだからって結局許してくれたりさ、妹もそういう時だけ一緒に謝ってくれたりするんだ。だから、オレ……」
 泣き出しそうに顔を歪めるライルに、司はあえて気付かない振りをした。
「あたし、中でレイと派手に暴れてるからさ、その隙に皆でさくっとお姉さんと妹を助けちゃおうね!」
「あまり興奮しすぎないようにな」
 それまで耳を傾けているだけだった会話にレイバセラノフ著 月砕きの書(れいばせらのふちょ・つきくだきのしょ)がぽつりと言葉を投げ入れた。正直なところ、レイはライルにも捕らわれている姉妹にも興味はなかった。司が助けてあげたいと言ったから付いてきたまでだ。彼女がそう望むのなら協力はおしまない。先刻、自分でも言っていたようにあまり兄弟仲が良好ではなかった司からしたら、仲の良いきょうだいが離れ離れになっている現状は耐え難いものなのだろう。
「レイ! 何よそれ! いちいち兄貴みたいなこと言わないでよ!」
 はいはい、と前を向いたまま受け流すレイに司は噛み付いた。そして理子っちと名乗る生徒の後姿を眺める。レイは何も感じていないようだったけれど、雰囲気というか何と言うか、見覚えがある――ような気がする。誰だったかなとぐるぐる記憶を探っている内にある人物が思い浮かんだ。
 ――りっちゃんて代王って人に似ている気がするなあ。
 すでにアダ名をつけている司であった。
 
「良いか、ライル殿。くれぐれも早まった行動は慎むように」
 砦へ潜入する直前、草薙 武尊(くさなぎ・たける)はライルへ釘を刺した。内部には護衛を装った用心棒も居るはずだ。襲撃されたときの事を思い出し、怒りに任せて飛び出しかねない。本心かどうか定かでは無いが「一人でも砦へ行く」と言ってさえいたのだ。それが全て勢いと口先だけの台詞ではないことは武尊にも感ぜられた。場合によっては単独行動に出てしまうかも知れない。現に目の前のライルは、武尊の助言に対し不服そうな顔をしている。
「ライル殿に何かあった場合、悲しむのは誰だと思う? それを考えて行動すべきであろう。その辛さはライル殿が一番良く分かっているはずだ」
「――ッ……」
 口を開きかけ、ライルは結局言葉を飲み込んだ。悔しげに眉を顰め顔を背ける。
 おそらくライルの姉妹は首領が手近に置いているはずだ。ある種“お約束”的な流れも含めて、武尊は推測している。商品として見ているのなら愛でて居たいだろうし、人質として利用するのなら尚更だ。敵の警戒が手薄の場所から侵入し、首領の部屋を目指すのが早道であり、余計な被害を出さずに済む。あわよくば首領の首も――などと考えていることは、とてもじゃないがライルに知られるわけには行かないけれど。