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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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【じゃじゃ馬代王】少年の敵討ちを手伝おう!

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第3章 スパイスの掛け過ぎにご用心

 襲撃により、砦内は異様な空気に包まれている。
 慌てふためく者、武器を手に気色ばむ者。
 ただ1つ言える事は、降伏するつもりは一切無いということだった。逃げ出そうと口にする者は誰も居なかった。
「娘まで奪ったのは失敗でしたよね」
 志方 綾乃(しかた・あやの)は階下を眺めながら、同じように隣に並ぶゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)へ向けて口を開いた。
「な〜にが〜?」
 フェンリルからの依頼を見て蛮族側へ付いたゲドーの目的はただ1つだった。それさえ果たせれば蛮族などどうでも良い。はやくここへ来い。思うのはそれだけだ。壁に寄りかかり音楽プレーヤーを弄っている藤井 つばめ(ふじい・つばめ)も鼻歌なぞ歌っている。前髪をいじってみたりスカートの裾を叩いてみたり自分の事で忙しいようだ。
「契約者ってお人よしが多いから、こうなる事なんてちょっと考えれば分かるじゃないですか」
「まあ俺様にはどうでも言いことだけどなー……」
「まあ、お陰で私も雇っていただけるわけですからね」
「あー……彩乃ちゃんて雇われたんだっけかーあ」
「はい。お兄さんみたいなお姉さんに。お願い、私たちのスイートホームがなくなっちゃう!って」
 可愛らしく微笑むその手には、海神の刀がしっかりと握られている。
 ――そろそろですね。空気が張り詰める。瞳は好戦的な光がきらめいた。
 今から来るのはきっと囮だろう。真正面から馬鹿正直に攻めて来るには、この蛮族グループの人数は少し規模が大きい。一度に制圧するにしても、侵入経路はいくつかあるはずだ。
 しかし、分かった上で綾乃はこの襲撃に乗るつもりだ。守るのではない。攻める。
「1人で行くんですか?」
 つばめが耳からイヤフォンを外し、綾乃に尋ねる。
「どうせ彼らは囮のはずです。本陣をお願いしますね」
「はいは〜い。僕もやりたい事があるから、おコトバに甘えてお願いしま〜す」
 ひらひら手を降ってまた音楽プレイヤーを弄り始めた。
 地鳴りのような音が砦を囲むように鳴り響く。おそらく物見櫓だろう。この辺りは見晴らしが良いから、まずはあれをつぶすのが妥当な考えだ。
 銃声と悲鳴が上がった。砦の外へ駆け出していった蛮族が居たから、おそらく彼らのものだろう。次いで炎の嵐が轟音を撒き散らしながら突っ込んできた。いよいよ始まった。
 ゲドーは目をすがめるも、舌打ちして興味を失ったように顔を背ける。
「さあ! みなさん! 私の後に続いてください!」
 階段を駆け下りながら、綾乃は派手な一発に硬直している蛮族をけしかける。囮役だったら派手な技を使って来もするだろう。まっすぐ伸びる広間を駆け抜ける。走りながら柄に指をかける。鞘から僅かに見える刀身が嬉しそうに光をはじく。背を向けている侵入者へ向け、刀を抜く。
「あなた達のお相手は私がさせて頂きます」
「なっ――綾乃、お前……!」
 間一髪、ショウは体をそらし切っ先をかわした。見慣れた顔が蛮族を引き連れ、立ちはだかっている。蛮族だけならまだしも、契約者も一緒となると――1人でこの人数は厳しいか。隙を見ては四方から銃弾やトマホーク・ロングボウがショウを狙って来る。
「これも冒険屋ビジネスですから」
 刀を鞘へ納め、間合いを取る。後ろの蛮族たちも武器を構え、ショウが視線を少しでも動かしたら撃ち殺してやるといわんばかりだ。どうする。小さく舌打ちをした時だった。突然、ショウの背後から強烈な波動が打ち込まれた。それは綾乃のこめかみを掠め、眼鏡が床に落ちる。蛮族の男が逃げ遅れまともに食らいふっとばされた。
「助太刀しよう」
 ショウと並ぶようにしてヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は二刀を構えていた。
 侵入するなり、砦に潜む蛮族全員へ言い聞かせるよう、ヴァルは砦を振るわせた。
「この帝王ヴァル・ゴライオン、貴様等を掃討するために来た。今ならば自主として原型に助力しようではないか。ゆえに大人しく縄に付け!」
 賊を討伐し人を助ける。無駄な殺生を避け人道を説き、法の下で裁く。これが正しく人道であり、帝王の務めだ。ヴァルはそう考える。もちろん蛮族が聞き入れるはずもない。縦横無尽に襲い掛かる銃弾をかわし、戦場を駆け抜ける。そこでショウが敵に阻まれているのを見つけて介入したまでだ。
「助かる。しょーじき、一人で綾乃に勝てる気がしなかったんだ……あっちこっちから攻撃も来るし」
「困ったときはお互い様というであろう。友に手を貸すのに理由も無いのだよ」
 神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)がヴァルの後に控えている。
「契約者が3人ですか。まあ、人数的にはこちらが勝ってますし、こんなことがあっても志方ないね」
 綾乃は目を伏せ、眼鏡を拾い上げた。
「これからもっと来るかも知れないぜ?」
「分かってますよ。あなた達、囮ですよね」
「分かっていて飛び込んできたのか、少女よ」
 レンズは割れていないし、柄も歪んではいない。どうやら無事のようだ。掛けなおし、もちろん、とにっこり微笑んだ。
「見上げた根性だ! この帝王ヴァル・ゴライオン、全力でお相手いたそう!」
「そうじゃないと、後悔するのはあなたの方ですよ?」