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砂漠のイコン輸送防衛前線

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砂漠のイコン輸送防衛前線

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 ジガンが九品寺に突っかかったこと以外、その夜は何事もなく平和に終わった。歌がキャンプに響き渡り、皆を和ませ、一日目の疲れを癒す。
 明日の激戦へと向けて――。

 歌がほっそりと聞こえてくるトレーラーの外周にて、数名が集まって今後の行動についての協議をしていた。
 明日輸送部隊の進むルートの選定は既に白竜とダリルの《博識》による幾重の話し合いの元で決まっているが、今彼らが考えるべき問題はそこではなかった。
 九品寺Q策と言う男についてだ。
 鉄心の【銃型HC】には先ほどの九品寺の会話が録音されている。鉄心が加夜に頼んで、彼女の制服に付けさせてもらった盗聴器から収音した音声データだ。
「どう思う? さっきの話で不審と思う点は?」
 鉄心が調査と参謀を担当とする者たちへと訊く。開口一番はルカルカだった。
「どうもね。『単独搭乗システム』てのについては、ルカルカは初めて聞くし。信用ならないってところよね。ダリルは?」
「ルカルカと同意見だ。事故機の調整を手伝っていたのなら、九品寺が何らかの細工をした可能性は十分にある」
「でもよ、こんな優男が自分の恋人を貶めるような事をするとは思えないぜ?」
 淵がダリルの意見に異を唱える。それは確かに。そもそも、恋人を意識不明の重体にして彼に何の得があるのだろうか?
「さっきの『単独搭乗システム』、キミの所は知っていたのか?」
 鉄心が睡蓮に尋ねる。彼女はそのシステムの搭載されたイコンを受け取る天御柱学園の生徒であり、九品寺と同じ所の職員でもある。
 しかし、睡蓮は首を横に振った。
「知りません。所内でそういった研究は合っていたでしょうが、機密保持のためでしょうか……。天御柱が受け取るとなるとイーグリットかコームラントにそれが搭載されているかと思いますが、学園側からもそんな情報は貰っていません」
「……」
 睡蓮の傍ら九頭切丸が声なき声で肯定する。
 天御柱での本ミッションに関しての募集は、輸送護衛とイコンによる参加を呼びかけるものだった。そもそも、事故の詳細だって睡蓮や鉄心が研究所に関わっていなければ知り得なかった情報だ。単なる事故なら兎も角、今回の話は全て九品寺を中心として展開されている。
「てなわけだ、キミはどう思う? リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ララ サーズデイ(らら・さーずでい)
 鉄心はこの場に呼んだ、スノーウォーカー探偵事務所の二人に意見を求めた。ミッション参加者の中で知恵を求めるなら彼女らと思ってのことだ。
「その、ジガンと言う男は鼻が効くのであろうな?」
「リリ、君は何を聞いていたんだい?」
 あっけらかんとするようなリリ質問に、ララが聞き返す。しかし、
「いや、そこが重要なのだ。あいつも、お前たちと同じ教導団の生徒であろう? あいつの嗅覚は信用するに値するか?」
 白竜とルカルカ、鉄心を含むこの場の6名がシャンバラ教導団に属している。内の誰かがジガンについて知っているはずだ。
「過激で問題の多い男ではあるが、裏切りはしない男だ。行動理念に一本筋がある」
 参加者の詳細を頭に入れている白竜はジガンをそう評価した。
 ジガンと性格が合わないであろうダリルもそれを否定しない。
「鼻が利くのは確かだ。陰謀や嘘を付く人間を本能で嗅ぎ分けられるらしい。一種の才能だ」
「じゃあ、リリの結論は『九品寺Q策は嘘をついている、が何かを企んでいるとは思えない』のだよ」
リリの解答に一同が驚く。羅儀が説明を求める。
「それはどうしてだ?」
「あのタイプの男は気に入らない人間なら直ぐに殴り倒していたであろう。例え、誰かに止められていたとしてもだよ。しかし、そうはしなかったのだよ。わかるか? つまり、ジガンという男はこう判断したのだ。『コイツは気に入らないが、殴るほどでもない』と」
 それはつまりさっきのリリの結論へと結びつく。
「じゃあ、今回襲ってくるらしい海賊とも関係ないと?」
 ララの言葉にリリは首を振らなかった。
「それはわからないのだよ。ただ、関係があるとすれば、研究所を脱退したパイロット。その者と何らかの繋がりが、果ては海賊との繋がりがあるであろう」
「アレイシャさんとイレイシアさんのことですか……」
 かつての同僚の名を呟く睡蓮。
「結局の所、油断することは出来ないのよね。九品寺の事も、護送も」
 ルカルカの言葉に白竜が頷く。
「明日、敵のアンブッシュが予測されるポイントを通過する。全てはそこでわかるでしょう。しかし、私たちの任務の目的はあくまで護送です。任務を成功させるための最大細心の注意を払いましょう。九品寺Q策への警戒もその範疇として今後も彼の監視をお願いします」
 白竜の言葉を持って、臨時のミーティングは終了する。