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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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「つまり、秘密基地に潜んでいたのは魔物なんかよりも恐ろしい化け物でした、ってことね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと) は半ば興ざめしたように呟いた。依頼を聞きつけ、炭坑の調査に自身も乗り出した。子供達を追い出す原因となったコボルトは自発的に棲み付いたというより、何者かが意 図を以て廃坑にコボルトを住まわせたのではないか。
 依頼を受けるにあたり、“いい加減・大雑把・気分屋”、何事も雑に扱うことから「壊し屋セレン」などと呼ばれているセレンフィリティは、整然と、彼女らしからぬ予想を立てていた。これだけの坑夫が自発的に採掘作業のために集まったとは思えない。当然、雇い主が居るはずだ。つまり元凶はモンスターでもなんでも無く“欲望塗れの人間様”だったわけだ。
 セレンを前に、ドリルやレンチを握る坑夫たちの掌に汗がにじむ。
 何せビキニ姿にロングコートを羽織っただけの美少女が現われたのだ。惜しげなく晒される肢体は、そうでなくても視線を奪われる。
「教導団のお膝元で、随分派手にやっているみたいだけど。一獲千金の夢は楽しかった? でも残念ね、 夢が悪夢に変わって!」
 男達の視線など物ともせずセレンは二丁の拳銃を突き出した。手元を狙い確実に銃弾を打ち込んでいく。苦痛を帯びた絶叫に仲間を見遣った瞬間、男の手の甲に灼熱が走った。一つ瞬きをすると激痛が襲ってくる。膝を折り、落ちてきた影に顔を上げる。
「動かないほうが良いわよ」
 ちくりとした痛みが喉元を刺した。ランスを突きつけ、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は艶のある笑みを浮かべる。セレンほどの露出はない物の、同じ様に黒いロングコートの下にはレオタードを纏っているのみだ。長く引き締まった脚をより引き立てて魅せている。男は思わず息を呑んだ。


「あんた達、ちゃんと働きに見合っただけの給料もらってるの?」
 秘密基地や閉山されたにも関わらず、富を得ようとする精神も気に食わなかったが、何よりその労働形態に藤林 エリス(ふじばやし・えりす)は憤っていた。
 突然あらわれた、それも水着姿の少女に鉱夫は箱を運ぶ手を離してしまった。倒れた箱かからゴロゴロと石が零れる。もう1人の坑夫はつるはしをふりかぶった状態で動きが止まっていた。
「鉱山労働者って3K労働で大変よね。黙って会社側の言い値で働いてたら、どんどん足下見られていくばかりなのよ? 労働者には、組合作って団交して経営側に賃上げを要求する権利があるんだから、黙って従ってちゃだめよ!」
「はあ?」
「今の給料に満足してるの? 何時間重労働させられてるか知らないけど、碌な福利厚生もなしの安月給なんでしょ。もしかして日当かしら? 傷害保険とかあるの? 危険な仕事でしょ」
 やけに熱心に語るエリサの空気に呑まれた坑夫は顔を見合わせ、まあこのぐらいだよ、と金額を述べた。
「他の仕事だったらもっともらえるわよ! そんな低賃金で働くなんて――いいわ、あたし達、パラミタ共産主義学生同盟は労働者の味方よ。組合交渉に関する知識もあるわ。あんたたちにその気があるなら、賃上げ交渉でも何でも同席して支援するわよ?」
 熱く語る少女の後には、これまた負けじと扇情的な姿コスチュームを纏った美少女――アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)が立っていた。説得の最中にエリスを攻撃されたらことだと護衛と監視を兼ねていたのだが。
「は〜い★ みんなのアイドル、アスカちゃんよ〜っ♪」
 鉱山という場にあまりにそぐわないむき出しの素肌に坑夫たちは釘付けだった。



 男たちは戸惑っていた。現われたのは扇情的な格好の美女でもなんでも無い。外見だけで言うならば人間ですら無かった。ドーム型の――いわゆるトーチカである。一人の坑夫が恐る恐る近寄っていく。反応は無いようだ。背後で様子を窺っていた仲間へ顎をしゃくる。わっと飛び出したところで銃弾が打ち込まれた。少しでも近寄ろうものならこうして足元を狙い乱射されるのだ。
 後じさるしか法がない坑夫たちとの距離を、トーチカ――藤 千夏(とう・ちか)は少しずつ詰めていく。千夏は2〜3人を収容できる広さを持っており、その中から月島 悠(つきしま・ゆう)が坑夫たちの足元へ機関銃を乱射したのだった。威嚇は想像以上に効果的だった。坑夫たちは容易くひるんだ。それもそうだろう。坑夫が手にしているものはスコップやつるはし、レンチやドリル。武器として使えないことは無いが、悠たちを相手にするには分が悪すぎる。何せ要塞に立てこもり、抱えているのは機関銃。勝算が在ると踏むほうが間違いだ。
「大人しく明け渡せば処罰は軽くもなろうに――反抗するならば容赦はせんぞ!」
 血気盛んなのか諦めが悪いのか、リベットガンをこちらへ向けている男もいる。声を荒げ忠告してやるもますます頭に血が上ぼらせて、リベットを乱射してきた。当たるはずも無い。悠が再び機関銃を打ち込んでいる傍で、麻上 翼(まがみ・つばさ)もガトリング砲を構えていた。
「ボクも、手加減ってどうも苦手なんだよね。だから――」
 打ち込んでやったらどんな顔をするだろう。本当は近接戦の方が得意なのだが、それはまた後でも楽しめそうだ。
「歯向かうつもりならそれなり覚悟、しといて下さいね」


「な、何なんだあいつら……こんな事聞いてねえよっ!」
 ひるんだ男が逃げ出そうときびすを返し走り出すと、何かにぶつかりしりもちをついた。しかしそこには何も無い。眉を顰め、瞬きをした次の瞬間、目の前にぎらりと光る剣先があった。
「ど〜も。あなたの街の便利屋さん。ロックスター商会で〜す」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)はブラックコートを放り投げ、不適に唇を吊り上げた。剣先で男の頬をぺしぺしと叩いてやると腰を抜かしたようだった。膝が笑っている。
 実のところ、トライブは姿を隠しながら理子の後をずっと着いて来ていた。
 依頼を見たトライブは、裏で何か企んでる者が居るとまず睨んだ。そして、そこにはお宝か、金になる何かがたんまりと隠されているのだろう。そう考えた。”良い子ちゃん“の理子達がコボルトを退治し、問題を解決してしまえば貯めこんだお宝を没収されてしまう。  
 もったいない。非常にもったいない。
 それならば理子達と悪党を出し抜いて、金銀財宝を独り占めしてやろうと思ったのだ。
「おら小悪党。あんたら結構貯めこんでんだろ? さっさと出せよ。なあ、持ってるんだろ。ほら、出すもん出せって。お宝とか金になるもんとか、ここにあんだろ?」
「殺さないでくれ……っ!」
「だいじょーぶだって、あんな良い子ちゃんたちに没収される前に俺がパァーっと使ってやっから。な? 金は使ってこそ意味があるんだよ。俺がちゃーんと良いように使ってやるからさあ」
 坑夫として雇われたのに、こんな事に巻き込まれるとは思っても見なかった。何が何だか、すっかり怯えきった男は呻くような声で首を横に振るだけだ。ころさないでくれ、逃がしてくれ、と言葉のキャッチボールが出来ない相手に段々と飽きてきた。しかし手ぶらで帰るのも馬鹿らしい。
どうしたものか、何か金目のものはと辺りを見渡すと、ちょうど理子と目が合ってしまった。
「あ、やべ、振られ代王に見つかった」
 理子は「何でどいつもこいつもあたしに変なあだ名つけるのよ!」と顔を真っ赤にした。