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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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4章

 不法に採掘しが行われていた現場は土砂が崩れ、中には立ち入るのは危険な状態だった。
 エッツェルは、やっぱり心配だからと英虎のあとを追ってきたユキノが子守唄で眠らせた。回復魔法などで体力を削られていたため、何とか効果を得ることが出来たようだ。いまだ目覚めない由唯と共に、教導団が医療施設へと運び込む手はずとなった。

 子供たちは呆然と炭坑を見つめていた。
教導団の人間や、警察、町の住人が廃坑の中あるいは取り囲んでいる。もはやそこは「秘密基地」ではなくなってしまった。その手には明子が見つけ出した人形やショートソードが大事そうに抱えられている。
 教導団にクライヴァルと翠鳴は連行された。金に目が眩んだだけの碌なプライドもない商売人が、これからたっぷりと搾り取られることだろう。
 ヒロユキとフィオナの姿は、気付けばどこにもなかった。このどさくさに紛れて引き上げたらしい。

「秘密基地――もう使えないな」
 少年がつぶやいた。こうなってしまったら、今までの様に自由に行き来は出来ないだろう。機晶石が眠っている事も白日の下に晒された。ヒラニプラ家と教導団によって管理され、再び採掘作業が進むはずだ。
「無かったら作っちゃえば良いんだよ!」
 リオが少年達の肩を叩く。
「すっごいの作れちゃうよ! ほらほら、見てこれ、センサーとか付けて……」
「おれのしってる秘密基地とちがう」
「そりゃそうだよ。最新テクノロジーを搭載した――」
「こんなのいらないよー良くわかんないもん!」
「えっ嘘っ、これ絶対良いと思ったんだけどなあ……じゃあどんなのが良いか一緒に考えよう」
 容赦のない駄目だしにリオは肩を落としたが、笑いかける。
案外、それが本来の目的だったのかも知れない。麻羅はどこから見つけてきたのか段ボールを差し出した。
「童どもよ、ほれ段ボールじゃ。このわしが立派な秘密基地を作ってやるのじゃ」
 

「理子様、どうしたんですか?」
 少しはなれたところで理子はその様子を眺めていた。
 気付いた陽一がそっと駆け寄る。
「うん……ちょっと、あたしにはああいうの、分からないからさ。邪魔になるかなって思って」
「秘密基地、俺も作ったことはありませんよ」
「そうだったんだ」
「思い出がないのなら、これから作ってみませんか?」
「――陽一……」
 ほらほら行きましょう、と腕を引かれ、理子は秘密基地計画の一員へと加わることになる。
「キー! なんなのよあの女! お兄ちゃんとイイ雰囲気つくっちゃってええええ! いつかケツの穴から手つっこんで奥歯ガタガタ言わせてやるんだから……!!」
 一連の流れを見ていた美由子はそんな不穏なことを呟いていた。



 秘密基地が完成したのは数日後のことだ。当日は子供たちの親も心配していたから早めに家まで送り届けたのだ。たっぷり怒られたと、その場面を思い出したリベリアは身震いした。世界で一番怖いものは“かあちゃん”らしい。
理子はそのあいだ、予定を変更しヒラニプラに滞在することにした。レオンもそれに付き添い、子供と一緒に秘密基地を作っていた。
 
「ヒラニプラ家から必要ならば炭坑を一つ、遊び場として提供しても良いと言っている。もちろん、こちらは管理の目が入るものだが――どうする」
 あの日、事件が一応の収束を見せ、理子たちが新たな秘密基地建設場所や材料探しをしていると、白竜が訊ねた。事態を聞きつけたヒラニプラ家当主からの直直のお達しだったという。たらいまわしにしていたのは採掘事業を手がける役員会が、面倒事を回避したいがために独断で行ったことだった。それが、エッツェルの件が起こり党首に隠しきれなくなった。
 新たな廃坑は言わば、幼い頃に鉱山を隠れ家に遊んでいたという頭首からの侘びも兼ねたプレゼントだった。子供達はどんな顔をしたら良いのか迷っていた。しばらくして、リーダー格の少年――名前はスヴァーニャという――がぽつりと、呟く。
「……そんなの、もう、秘密基地じゃないからいらないよ」
 理子からすればその答えは意外なものだった。しかし提案した当の白竜はその返答が来ると分かりきっていたような顔で「そうか」と口を動かした。



 「あのー……」
 困ったように立ち尽くしている配達員が居た。手にはダンボールを抱えている。
「高根沢理子様――でしょうか」
 理子とレオンは思わず顔を見合わせた。正体がばれたのだろうか。しかし、配達員は特にその名前を気にした風もない。茂みを掻き分け、塀を降りると安堵したように人の良さそうな笑みを見せた。
「お荷物です。住所がこの辺りになっていたので。おかしいなと思ったのですが。ここにサインを」
 ダンボールは一抱えはある、なかなかに大きいものだ。サインをしながら理子は訊ねた。
「差出人は?」
「ロックスター商会様です」
「トライブのことですね。あて先は――」
奇妙に思ったレオンも秘密基地から降り、覗き込んだ。
宛名には汚い字で――『振られ代王・高根沢理子』と書かれていた。理子のこめかみに青筋が立つのに気付きつつ、レオンは中をあけて見ましょうと促した。子供の手前、理子とて易々と短気なところは見せたくない。何とか笑顔を貼り付けつつ箱を開けると、ノートを千切ったような二つ折りの紙はいっていた。嫌な予感がする。
“某先生に振られた事、皆が忘れても俺は忘れてやんねーぞコノヤロー”
「ふざけんなー! 何なのよアイツー!」
 生い茂る木々の合間を縫って、乾いた空を突き抜けた。


 件の炭坑は人の出入りが激しく、活気に溢れていた。再調査の結果、ずいぶんと機晶石が眠っているらしく、大規模な採掘が行われることになったのだ。

「子供達には悪いことしちゃったわね」
「今回は不測の事態でしたし、あいつらも楽しそうでしたよ。理子様も、ですけど」
「……何よ、その良い方。まあ、楽しかったのは事実だけど」
 初めての体験だったのだ。ヒラニプラ家からの提案を子供達が蹴ったことも、今なら納得できる。

“お姉ちゃん達は特別に、いつでもここに来て良いよ”
 秘密基地を後にするとき、子供達はこえをそろえた。その手には新しいおもちゃが抱えられていた。トライブから届いた箱の中には数々のおもちゃが入っていた。教導団からの報酬で買ったものだったが、そこまで理子が知る由も無い。子供達はとても喜んで、そこは同じ男同士ツボが分かるのかダリスとリベリア、年下の二人で取りあいが始まった。そんな中でサエナは「これだから年下はイヤなのよ!」と大人びたことを言い、理子とレオンは思わずふきだした。
 そんな事言うと、本当にいっぱい遊びに来ちゃうわよ、と冗談めかしたものの純粋に理子は嬉しかった。


「レオン、あの」
「エッツェル・アザトースはイルミンスール魔法学校立会いの下、教導団で処置中です」
 理子が尋ねるか訊ねまいか迷っていたことを、レオンはさりげなく先回りしてくれた。
「意識はあるとの事ですが、まだ本当の意味で目は覚めていないようです。月代 由唯は左首から肩にかけて、痣が出来ていましたが、その外の影響は見られていません。エッツェルが目を覚ますまで傍に居るといって、離れないようです」
「そう――」
「時々、彼女の声に反応するようになったと聞いています」
 最終的には自分との戦いなのだろうか。あまりに遠いところで起こっているような、途方も無さに心臓が押し流されるようだ。
「――もう少しヒラニプラを見て周りたいわ」
「何だかんだで“プチ旅行“も途中でしたしね」
 たっぷりとした沈黙の後、理子は呟いた。
 レオンもそれに調子をあわせる。
 「案内お願いしても良いかしら、レオン」
「ええ、ご満足いただけるまで、俺でよければご一緒しますよ」

担当マスターより

▼担当マスター

とおる

▼マスターコメント

こんにちは。お久しぶりです。とおるです。
2本目となりました。

今回もみなさまのアクションに助けられつつ、楽しく執筆させていただきました。
またお会いできましたら幸いです。