天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

リアクション公開中!

【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

リアクション

「残るはアンタだけよ、さあ、観念しなさい!」
「くそっ……」
 商人の顔が歪む。ネクロマンサーは捕らえられ、坑夫は片っ端から伸されてしまった。戦闘を目の当たりにした男は勝ち目がないことなど分かっていた。戦術の心得など無い。持っているのは銃1丁だけだ。
 舌打ちし、理子たちを前に項垂れたときだ。炭坑が地響きに包まれた。
 地鳴りだろうか。唸るような声も聞こえはじめる。
「何っ!? ちょっとあんた、何したのよ!?」
爆弾でも仕掛けたのかと商人を見れば、理子以上に半狂乱になっていた。この男にとっても不足の事態らしい。慌てふためく様は滑稽で理子は見ていて胸が悪くなりそうだった。
「何だ!? どういうことだ! お、お前、お前らか! この炭坑に何をした!? そ、そうか、分かったぞ! 俺達を追い出しておいて、機晶石を独り占めする気だな!」
「はあ? 何言ってんの、こいつ。きっとコボルトの毒が頭にまで回ってるんだよ。コレで治療しとく?」
朱里がレティ・インジェクターを担ぎあげた。どう見ても巨大注射器にしか見えない。ぎらりと光る太い注射針に、ひぃ!と情けない声を上げクライヴァルは尻餅をついた。その時、HCが着信を告げ理子はあわてて耳元に押し当てた。
『理子っち!? ちょっと不味いことになりそうよ』
「もしかしてこの地鳴りの事?」
『エッツェルが――』
「え、なに?」
 轟音は段々と近づいてくる。HCから聞こえてくる明子の声が届かない。
「理子っち!」
 巽と祥子、唯斗が子供を抱きかかえていた。ここに居ては危ない。理子は頷いて見せると3人はそのまま身を翻した。
 炭坑を揺るがす、耳をつんざくような咆哮がそこまで迫った。
 爆音の衝撃と壁から突き出てきた。腕――のようなもの。そして現われたのはすっかり見違えた姿になったエッツェルだった。
「ちょーっと……話の方向が違ってきたんじゃないの……これ……」

 ヒトとは思えないほどに肥大化した左手が手当たり次第破壊していく。みしみしと嫌な音がする。掌には口のようなものがあり、まるで目のようにそれが理子たちを捕らえたとき、飛び出しきた人物がいた。
「エッツェル! やっぱりここだったのか!!」
 月代 由唯(つきしろ・ゆい)はヒラニプラの途中で行方不明になったエッツェルを探していた。彼に送った「由唯のお守り」にはこっそり発信機が忍ばせてあったのだ。その形跡を見ていた由唯はエッツェルが不可解な場所にいることに気づいた。位置的には山だ。ヒラニプラという地域柄、おそらく炭坑だろう。ついにはゆっくりと移動していた信号が動かなくなった。
 嫌な予感がした。魔物に襲われたのでは、という不安ではなく、もっと根源的な恐怖だ。居ても立っても居られず、由唯はエッツェルの姿を求め飛び出していた。
「エッツェル! しっかりしてくれよ! なあっ!」
 駆け寄ろうとすると理子に腕をつかまれた。
「離せよ!」
「見て分かるでしょ!? 危ないわよ!」
「そんなの分かってんだよ!」
 振り切って由唯はエッツェルの元へ飛び込んでいく。自我を失ったエッツェルにとって、全てのものが敵だ。そこにはもちろん由唯も含まれている。左腕が由唯を目掛けて襲い掛かる。交わしきれずに頬や足をかすめ、チリッとした痛みが襲う。
 ――私が止めるんだ。
 大切な人が苦しんでいる所は見たくない。自分がどうなってもいい、エッツェルが助かるなら――。
 一瞬の出来事だった。瓦礫に足を取られた。視界には異形と化した左腕が。しまった、と思ったときには酷い衝撃に白く目の前がかすんだ。
「ぐっ……ぁ、エッ、 ツ…ェ…」
 首を締め付けている。このままだとねじ切られるかも知れない。左肩からみしり、と嫌な音がした。何もできずに死ぬわけにはいかない。ぶつけた体中が熱をもったように熱い。全身を焼かれている。腕が上手く上がらない。そこでひらめいた。
 きしむ腕に顔を顰めつつ、やっとの事でエッツェルの左腕に触れる。
「目を……さましてくれよ……っ!」
 本来なら体力を回復をするものだが、エッツェルにとっては何よりもつらい業火だ。締め付けが強くなる。視界がだんだんと白く、ちらちらと侵食されていく。遠いところで聞こえた音。それは由唯自身がが最後に呼んだエッツェルの名前だった。


 
 動かなくなった由唯を前に、しばらくエッツェル“だったもの”は呆然と佇んでいるように、見えた。今がチャンスだ。とにかく弱らせて動きを止めなければ。エッツェルは意識をすっかり手放し残っているのは破壊衝動のみだ。このままでは炭坑自体がつぶれかねない。
「予行練習も済んだし、ちゃちゃっとやりますかねえ。護さーん」
「は、はいっ!」
 護は、誠一に突然名を呼ばれビクリと肩を揺らした。
「ヒール使えたはずだよね〜、エッツェルさんの体力削るのに、ちゃちゃっと使ってもらっても良いかなあ」
「私もお手伝いしますわ!」 
 駆けつけたのは早見 涼子(はやみ・りょうこ)だ。リカバリや治療の心得がある。回復させる魔法やスキルを、まさかこんな形で、負傷させるために使うことになるとは――。しかしそうも言っていられない。現状を打開するには。