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暗がりに響く嘆き声

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暗がりに響く嘆き声
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リアクション


【実験室】

「みてみて! ロッカーに白衣有ったよ! 他にもいっぱい有った」
 貴宮 夏野(きみや・なつの)が白衣を羽織り、カルシェ・アサッド(かるしぇ・あさっど)に見せびらかす。今日の戦利品だ。
「おお、いいの見つけたじゃん! 帰ったら他の子たちと、『黒い巨塔』ごっこしよう!」
 カルシェもノリノリである。二人は昔話題になった、マッドサイエンティスト名医ドラマの回診シーンを再現しようと考える。
「ほかにも、変な機械あるし、もって帰ろうよ」
「おい、余り騒ぐな。あと勝手に物品盗んでんじゃねーよ」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が夏野とカルシェを叱咤する。実験台に手をおいて、嫌なイメージを《サイコメトリー》して不機嫌さが増している。脳みそを分解する様子なんて見たくもなかっただろう。
「全くバカだねおまえ、そんなのを《サイコメトリー》するかだ」
 ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)が蒼白になっているレンをからかった。
「にしても、機械が多いな。“キケンブツ”がトランスヒューマンだったらと思うとゾッとするぞ」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が言う。
「そうなったときは、私の置いた【機晶爆弾】で壊すさ」とザミエルが自身たっぷりに答える。《破壊工作》はお手の物なのだろう。
 しかし、その爆弾を使うときは“キケンブツ”が回収不能と判断した時のために使用する物だ。“キケンブツ”の破壊とともに、研究所ごと破壊するのだ。
 そうならないことを、エヴァルトは願う。でなければ、ここに並ぶカッコ良いアーム群が無くなってしまうのだから。重度のロボマニアとしてはそれこそ悲しい。
「にしても嫌な感じがしない? 廊下から嫌な感じがするんだけど?」
 部屋へと流れこむ瘴気に水上 光(みなかみ・ひかる)が怖がる。心霊現象が苦手なのに、彼女はなぜここに居るんだろう。
「なら外を見てきたら? もしかして幽霊とか怖い?」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)が【銃型HC】を操って、他人ごとのように言う。彼女としては、接続した室内のPCを解析するので忙しい。
「ここ、怖くないさ! みてくればいいいんだよね! お化けなんてうそーさ!」
 光が自棄になる。誰が見ても、彼女が怖がっているのは見え見えだった。
 恐る恐る、「だれもいませんかー」と廊下を覗く。幽霊がいないことを確認して、光は廊下へと出た。
「よし!大丈夫――」
 頭からバシャリと赤いモノを被る。光は自分の両手がそれでベットリと染まっていることに戦慄した。
「ひ、あああああああああああああああああああ!?」
 帆村 緑郎(ほむら・ろくろう)の仕掛けたペンキ塗れの光は甲高い悲鳴を上げて、室内の隅に逃げた。
 廊下からその様子を見て、緑郎が声を押し殺して笑った。
「明らかに誰かの悪戯じゃな……」
 その一部始終をデジタルビデオカメラにアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が収める。そんな彼女にリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が尋ねる。
「にしても、ココで何があったんだろうね、アレーティア」
「さあの。わらわには、誰かが暴れたとしか見て取れぬのじゃ」
 実験室の様子をカメラ越しに見る。
 室内は、アームや機械を使い実験をしていただろう部屋と、機械を強化ガラス越しに操る制御室と分かれていたようだ。ようだ、と言うのもガラスは破壊され、アームなどの殆どの計器類がめちゃくちゃに壊されている。壁からはコードが飛び出して、床には煤けた箇所がある。
「恐らく、実験途中に暴走した“キケンブツ”とやらのせいだな……」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)はそう呟くと、床におちているネームタグを拾って《サイコメトリー》した。一人の研究者の最後を視る。
 眼に写る金髪、白人女性。微笑。浮く視界。真っ赤に、反転。
「彼女が、“キケンブツ”てわけか……」
「何かわかったか?」
 エヴァルトが《サイコメトリー》を終えた真司に尋ねる。
「ああ、どうやら“キケンブツ”が女性だ。あの感じはロシア系白人だ」
 髪の長い白磁の肌が印象的だったと真司は思った。
「そうか。しかし、“キケンブツ”か……、研究者らしく、人を人と思わぬ物言いだな」
 エヴァルトが依頼元を批判する。“キケンブツ“と呼ばれるその女性が、彼らにとってどれだけの利用価値があるのだろう。
「同感だ。――、どうしたヴェルリア?」
 真司が実験台を見て佇むヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)に声を掛ける。
――、繋がれた両腕、足。 電極が体中に、頭に多め。 同じように 隣の台に、そのまた隣に何人も。 酷く頭が圧迫サレル。 みんなの顔がグニャり歪む。 私もグニャり――
「ヴェルリア!」
 真司の声に、ヴェルリアの意識が戻る。目眩がある。冷や汗が酷く浮き出てくる。
「どうした?」
「大丈夫です……、嫌な気分になっただけです」
 胸を押さえて、苦しそうに彼女は答える。大丈夫には到底見えない。
「休め。ここはお前にとって良いイメージを与えないだろう。アレーティア、診てやってくれ」
 真司は、ヴェルリアをアレーティアに預けた。
「おう、やってるようだな!」
 突如実験室に入ってきたシリウス「なにしにきたの?」と彩羽が尋ねた。
「オレここの研究所の見取り図作ってたんだけど、なんかさぁ、どーーーーも、この部屋の隣が怪しくてよ。階段がありそうなくらいのスペースが見取り図に出来たんだ」
「つまり、この部屋に隠し部屋に通じる扉があるの?」
「ああ、北側の壁の当たりにな。扉か何かあり?」
 シリウスがそう聞くので、ザミエルが北の壁を探った。叩くと向こうが空洞であるのがわかる。しかし、扉らしきものはどこにもない。「これは爆破したほうが速そうだ」と彼女が結論づけて、【機晶爆弾】を設置した。
 直ぐ様、爆破しようとするザミエルに、何故かシリウスが「待った」をかける。
「なんだよ?」とザミエルの目付きがさらに悪くなる。
「今のうちに、他の連中からもらった“キケンブツ”情報を伝えておくぜ……」
 ザミエル含め、この場の皆が黙り、シリウスの持ってきた情報を聞いた。

 各部屋のからの情報をまとめるとこうだ。

 この研究所では、被験体αである強化人間アリサ アレンスキーの強い《精神感応》能力を利用して、『α計画』なるものを画策していた。しかし、度重なる実験で、アリサの精神は解離性同一性障害を起こし、別の人格を作ってしまった。そして、その別人格が、最終実験中に暴走。この先の隠し部屋にコールドスリープして眠っているという。彼女こそが、今回回収すべき“キケンブツ”であり、一連の怪奇現象の原因だと言う。

「それだけじゃない。コールドスリープした後も、彼女の別人格は精神体だけで、所内を暴れて回った。実験で募った憎悪を晴らす為に。結果、この研究所は閉鎖に追い込まれた。
 そして、今回は、研究所に入ってきたオレらが標的だ。既に何組も怪奇現象に命を狙らわれたってよ」
 シリウスの語りに追記するなら、計画に天御柱が関わっていたことから、恨みで天御柱生徒が執拗に攻撃される危険性がある。
「まあ、加夜の推測だと、『嘆き声』のほうは、アリサの本人格が助けを求めているサインじゃないかって話だ」
 
「ここでどんなことが有ったかは想像してたけど、最悪だわ……」
 彩羽の表情が翳る。強化人間手術で壊れてしまった、自分の姉と被験体αのイメージを重ねたのだろう。
「この先に行くには、天学生としても、戦闘にも覚悟が必要だ」
 真司の言葉に皆が頷く。覚悟は出来ているらしい。
「じゃ、景気よく派手に爆破するぜ」
 再び、ザミエルが【機晶爆弾】を起爆しようとする。しかし、再び「待った」がかかる。「今度は誰だ!?」とすごい剣幕で【機晶スナイパーライフル】を構える。
「キミたちがその先に行くと僕の‘友達’が困るんだよね」
 壁の前に突如としてニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)現れる。
「なんだ? 今更私らの妨害か? ぶっ殺すぞヒューマン」
 ザミエルは非常に機嫌が悪かった。
「この先に行くのは辞めてくれない? でなければ、僕は友達のためにキミらの邪魔をするよ」
 ニコがアンデットを召喚し、牽制する。本気なようだ。
「この先におまえの友達がいるのか?」
 恐れず、レンがニコへと近づく。無防備に近づくレンに、ニコは戸惑った。
「と、とまれ!」
「安心しろ、俺たちはお前の友達を傷つけに、殺しに行くわけじゃない。
――救いに行くんだ。ここの呪縛からな」
 もしかしたら、ニコは自分たちよりも早くに、“キケンブツ”と接触していたのかと考える。救いを求めているアリサの本人格と。
「だから、通してくれ。お前の友達を助ける為に――」