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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第10章「結界の守護石:白」
 
 
「司にぃさま〜、あっちに白い石はっけ〜ん♪」
「向こうにも二つあったわよ。でも片方は細い穴の奥にあるのよね……どうしたらいいかしら?」
 白い守護石の探索に向かっていた強殖魔装鬼 キメラ・アンジェ(きょうしょくまそうき・きめらあんじぇ)月夜夢 篝里(つくよみ・かがり)が戻ってくる。
 白い光の方を探索していた一行はすぐに光輝の属性攻撃で白い守護石が破壊出来る事を発見していた。
 その為光輝属性を持つ攻撃方法の無い二人は発見する事を目的に動き回っているのである。
「細い穴の方は私が行きます。弓矢でなら壊せるかもしれません」
「ではわらわもそちらのもう片方へ回ろう。篝里よ、案内せい」
 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が篝里が見つけた守護石の方に向かう。アンジェが見つけた方は月詠 司(つくよみ・つかさ)の担当だ。
「いや〜、どうせ黙っていてもついて来るだろうから最初から一緒に来て貰いましたが、思ったよりもまともに働いてくれて助かりますよ」
 司は色々とトラブルに巻き込まれ易い体質なのだが、そのトラブルの多くは自身のパートナー達が引き起こしている物だった。その為以前は自分一人だけでこっそり依頼に赴く事が多かったのだが、その度に後をつけられては結局トラブルに巻き込まれるという流れが殆どだったので、今回は開き直ってこちらから同行して貰ったという訳である。
「あの石ですね。では破壊、っと。ふぅ、このままなら珍しく無事に終われ――」
 アンジェの案内を受けて守護石を破壊した司が安堵する。だが、その瞬間に彼は聞きたくない言葉を聞いてしまった。
「……厭きたわ」
 その言葉を発したのはシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)。司達一行の中で一番トラブルを持ち込み、それでいて彼女自身はその外から高みの見物を決め込むというかなり厄介な人物だった。
「え〜と、シオンくん? たしか貴方は向こうの探索をしていたのでは」
「えぇ、もう十個は石を壊してきたわ。で、厭きたの」
 シオンは使い魔達を利用して効率良く守護石を発見していた。その為真面目にやってくれる分には頼りになるのだが、如何せん厭きっぽい所が玉に瑕である。
「そういえば、こういう遺跡っていったら崩落オチが基本よね♪ その手のトラップが無いか探してみましょうっと」
「いやちょっとシオンくん、あまりシャレにならない事は止めて――」
「あ〜! リズお姉さま〜♪」
「あらアンジェ」
「石探し厭きたの〜。リズお姉さま、一緒に遊ぼ〜?」
「いいわよ。今アタシが探してるのはツカサが面白い目に遭うトラップよ。アンジェもそれを探して頂戴」
「ちょっとシオンくん!?」
「司にぃさまが!? はいは〜い! アンジェ頑張る〜♪」
 司の心配を無視して遺跡の様々な場所を漁る二人。そんな彼女達を見ながら、司は頭を抱えるのだった。
「結局こうなるんですねぇ……はぁ」
 
「ところで八雲ちゃん。あれからラウディちゃんとは連絡取れてるのかしら?」
 更なる探索の中、篝里が篁 八雲(たかむら・やくも)に尋ねる。ラウディとは元カナン正規軍の傭兵として活動していたネクロマンサーで、彼と八雲達は西カナンにあるイズルートの村で戦った事があった。その戦いで敗れたラウディは契約者達の活躍で自身の考えを改め始め、名目上だけではあるが捕虜としてドン・マルドゥークの所に連れて行かれたのだった。
「僕は直接話せてないけど、カナンにいるお父さんが手紙で教えてくれたよ。カナンに緑が戻ったのを見て、色々と考えてくれてるみたい」
「そう。カナンが平和になった事だし、また会いに行けるといいわねぇ」
「うん……また会って話をしてみたいな……」
 ネクロマンサー同士感じるものがあり、そしてラウディの友人になると誓った八雲が素直に頷く。その姿に篝里は感動を覚えていた。
(八雲ちゃんって真っ直ぐに育ってるみたいで、本当にいい子ねぇ〜。それに引き換え、シオンちゃんはどうしてああなっちゃたのかしら。昔はもう少し落ち着いてたのにねぇ〜)
 篝里と同じ事を考えている者がもう一人いた。シオンのパートナーである司だ。
「同じネクロマンサーにしてこうも違うとは……絶望したっ! 何だか不条理な現実に絶望したーッ!!」
 遺跡の中で絶望を叫ぶ女装男。
 ――そう、女装男だ。彼はシオンの持つ魔法少女御用達の変身携帯電話によって、強制的に魔法少女の姿をさせられているのである。
 彼の受難はどこまで続くのか。それは恐らく、パートナー契約が続く限りずっとだろう。
 司の未来に――合掌。
 
 
「ん? この邪悪な感じは……どうやら招かれざる人が待ち受けているようですね」
 手分けして探している途中、永倉 八重(ながくら・やえ)は隠そうともしていない殺気を感知した。奇襲を警戒しながら進んで行くと、その先には白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が立っているのが見えた。
「女が一人だぁ? ここに来てるのは大勢って話じゃ無かったのかよ」
「多分、近くにいると、思います。白の守護石、かなり散らばってましたから……」
 強者は来ないまでも、多くの相手と戦えるであろう事を楽しみにしていた竜造は、期待に反して相手が一人しか現れていない事を不満に思う。そんな彼に対し、今は魔鎧として纏われているアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)が事前に確認しておいた周囲の状況から相手の状態を推測して伝えた。
「そういう事か。だったら放っときゃそいつらも来る訳だな」
 女一人だけには興味が無いと言わんばかりの竜造。それにプライドを刺激されたのか、八重は竜造の前に立ちはだかった。
「貴方、石の破壊を邪魔する気ですね! 結界に囚われた方を救い出す事を、何故妨害するんです!?」
「石だの救出なんぞに興味無ぇな。俺はただ強ぇ奴と殺し合いたいだけだ」
「そんな事の為に無益な戦いをしようだなんて……貴方のような人は、私が止めて見せます!」
 八重の身体が光輝く。強烈な光に遮られた中で制服が消え、代わりに赤と黒を基調としたノースリーブかつミニスカートの服を身に纏う。後ろで束ねられた綺麗な黒髪は情熱の紅へと変わり、見開いた瞳も漆黒から紅へと姿を変えていた。
 
 魔法少女ヤエ 第1話 『交錯する紅と白! でもめでたくなんかない!』
 
「ほぉ……ただのイルミンスールのガキかと思ってたが、やる気だけはあるって事か」
「やる気だけかどうか、見て貰いましょう! 永倉 八重……参ります!」
 永倉家の家宝である大太刀、紅嵐を構えて斬り込む。対する竜造は長ドスを抜いて待ち構えた。
「はっ!」
「おっと!」
 紅嵐の一撃を長ドスで受け止める。更に八重は軌道を変え、二手三手と刀を振るい続けた。
「ほぅ、中々やるじゃねぇか」
「これでも剣術道場で師範代を務めた事があります! 小娘だと侮って貰っては困りますね!」
「確かにいい筋だぜ。『剣術』ではな。けどな、忘れて貰っちゃ困るぜ……こいつは『殺し合い』なんだよっ!」
 斬り合いから突如、竜造が回し蹴りを放つ。女性相手でも躊躇いの無い攻撃により、八重は横に吹き飛ばされてしまった。
「きゃっ!?」
「相手も正々堂々剣で応じてくれると思ったか!? やっぱりまだガキだなぁ!」
 追撃をかけるべく竜造が八重に迫る。そこに、バイク型の機晶姫であるブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)が割り込んできた。
「八重! 掴まれ!」
 間一髪の所で八重を助け出す事に成功する。そしてある程度距離を取った所で後輪を滑らせ、反転して停止した。
「八重、敵がいるなら何故私達を呼ばない。危ない所だったじゃないか」
「ごめんなさい。でも、あの人は止めないといけないって思ったから」
「確かに危険な感じだが……相手が悪い。向こうは実戦慣れしているように見える。実力は八重の上を行っているぞ」
「それは分かってます。それでも、私は退く訳には行かないんです!」
「あ、おい! 待て!」
 ゴーストから降り、再び刀を構えて竜造に立ち向かう八重。仕方なくゴーストもそれを追いかける。
(劣勢な時こそ冷静になる必要があるというのに。最悪、私が盾になるしかないか……)
 そこに助けの手が入った。八重を迎撃しようとした竜造の前に、一人の忍び装束の男が現れる。
「てめぇは――!」
「よ、久し振り。相変わらず殺気振り撒いてるねぇ」
 竜造とその男、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)との間には因縁があった。三ヶ月ほど前、本の世界に互いが巻き込まれた際に直接戦う機会があったのである。
「丁度いい。あん時の借り、返させて貰うぜ。何倍にもしてなぁ!」
「別に利子つけて貰う必要は無いんだけどねぇ。ま、いいさ。今度こそ決着をつけるとしよう。行くぞ、プラチナ」
「構いませんが、今回はどうするのですか? マスター」
「せっかくの相手だからな。陰陽拳士としてアレを試してみるつもりだ」
「アレですか……まだ未完成ですが、本気でやるおつもりですか?」
「そうせざるを得ない相手だろうしな」
「まぁマスターが良いのであれば構いませんが……」
 唯斗の魔鎧、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が冷静に応える。それと同時に攻撃を仕掛け、まずは唯斗達が先手を取った。
「水行変成、氷姫奏葬」
 竜造の牽制にカウンターを当てるように拳を放ち、それと同時に氷術を使う。
「火行、焔王瀑布」
 そのまま追撃を行い、また同時に火術を放つ。
「木行変成、雷帝閃哮」
 更に雷術を撃ちながら蹴りを竜造に当て、反動でその場から飛び退った。
 実はこの時、唯斗は工夫を凝らしていた。氷を蒸発させ、更に水蒸気を電気分解し、水素へと変化。そして仕上げに火術を放つ――
「三行複合、陰陽式爆遁の術」
 両手を打ち合わせ、それと同時に火術を切っ掛けに爆発が起こる。その結果を見届けるように、睡蓮とエクスが姿を現した。
「唯斗兄さん、効果はどうですか?」
「……残念だが期待ほどの結果にはなってないな」
「やはりか。水素が散り易いのが難であるの」
 三人が技を放った地点を見る。爆発とは言ったが、正確には拡散した水素が微かに反応しただけと言った方が正しかった。本来であれば水素を留める事によって威力を増すつもりだったのだが、その方法が上手くいかずにいた。一時期は睡蓮とエクスにサイコキネシスで水素を留めて貰おうとも思ったのだが、一度に一つの物しか操れないサイコキネシスでは無数の気体を操る事など到底無理という事で没となっていた。
「まぁその辺は今後の課題だな。さて、それじゃ仕切り直しと行くか」
 
 
「確かに聞こえますねぇ。これは戦闘音でしょうか」
「そうですわね。急ぎましょう、皆さん」
 司と篁 光奈(たかむら・みつな)を先頭とした一行は遺跡の中を走っていた。周囲の守護石を全て破壊し終えた彼らの下に明らかに探索とは違う音が聞こえて来た為、急いでそちらへと向かっているのだ。
 同じ頃、その音の発生源である場所では唯斗と竜造の戦いが繰り広げられている所だった。
「はっ!」
「オラッ!」
 唯斗と竜造の拳が交錯する。ハイパーガントレットにより速度を増した一撃はクロスカウンターとなり、互いを吹き飛ばす結果となった。
「さすがに喧嘩慣れしてるな。殴り合いはお手の物か」
「てめぇこそやるじゃねぇか。忍者野郎がよ」
 両者が同時に立ち上がる。そこに八重が割って入った。
「お二人の力は互角と見ました。試合なら見守る所ですが、これは戦い。未熟ながら、私も援護させて頂きます」
「ん〜、間に入っておきながら力を借りるってのもアレだが、目的を考えたらそうも言ってられないよな。分かった、宜しく頼む」
「お任せ下さい。私は永倉 八重。魔法少女ヤエです!」
「魔法少女か……俺は紫月 唯斗。あんたの流儀で行くなら、陰のヒーロー、バイフーガってとこかな」
 二人のヒーローが並び立つ。
 ――そこに、もう一人のヒーロー(?)が現れた。
「どうやらここみたいですねぇ……おや?」
「……そういえば、あんな格好だったな……何故か」
「そうでしたねぇ……何故か」
「…………えっと?」
 この場にいる者達からの微妙な視線を受けて困惑する司。探索メインでやって来た彼は、残念ながら三人目のヒーローとはいかないようだった。
 
「ヒーローだ何だってくだらねぇなぁ! 要は殺し合えりゃいいんだよ!」
 再び長ドスを抜いた竜造が唯斗へと斬りかかる。同時に氷術を八重の足下へと撃って動きを制限した。
「見くびらないで下さい……魔法少女の名は伊達ではありません!」
 八重が自身の周囲にファイアストームを放ち、一瞬で氷を消し去った。そして唯斗へと斬りかかっていた竜造に対し側面から攻撃を仕掛ける。
「私は誓ったんです。私の手が届く場所を、今度こそ必ず守るって!」
「ちっ、この――」
「おっと、やらせないよ」
 横からの攻撃を察知して動こうとした竜造の長ドスを二刀流で相手している唯斗が前後から挟み、封じ込む。それにより対処の遅れた竜造は、八重の一撃をまともに喰らう事となった。
「やぁっ!」
「グッ!?」
 更に容赦無くエクスが追撃を加える。
「受けるがよい。我は射す……光の、閃刃!」
「それじゃあ止めと行こうか。もう一度……受けな!」
 剣を手放した唯斗が至近距離から殴りつける。三人の攻撃を続けて受けた竜造は、反対側の壁まで思い切り吹き飛ばされて行った。
「ガハッ!」
「おっと、加減してる余裕が無いとはいえ、思い切りやりすぎたか? まぁ前に戦り合った時は自己治癒をしてたから大丈夫だとは思うが……」
「どうやら今回も同じみたいですね。ですがしばらくは動けないでしょう、マスター」
 プラチナムが冷静に相手の様子を観察する。わざわざ命を奪う理由は無いが、助ける義理も無い。となればとっとと守護石を破壊してザクソン達を救出した方が良いだろう。
 ――そう思って最後の守護石に集まる一行の中で、司がつぶやいた。
「う〜ん……どうも気になりますね。何と言うか巻き込まれ体質の勘と言うか、不用意にこの石を壊すべきではないような……そんな気がします」
「石をですか? 何か罠が仕掛けられているという事でしょうか」
「今の所は何とも言えませんが……そうですね、石を破壊しきる前に念の為、少し調査をした方が良いかもしれませんね、光奈くん」
 
 
(どうもおかしいねぇ……そろそろ消滅してもいい頃合いなんだけど)
 結界のそば、柱の陰に隠れている松岡 徹雄(まつおか・てつお)が首を傾げる。
 彼は守護石の戦闘には一切参加せず、結界近くで潜伏する事でザクソン達を暗殺するチャンスを窺っていた。
 つまり、救出メンバーの活躍によって結界が解除される事があった場合、一番に飛び込む事で妨害される前に手を下そうという目論みである。
(竜造達から連絡は無いし、他の場所に行った奴らは遺跡を脱出したのを確認した。いくらあいつでも、数の不利を押し返すのは難しいと思うんだけどねぇ)
 そう思った次の瞬間、結界が揺らぎ、次第に姿を消すのが分かった。つまりは竜造も負けたという事を示すが、ようやく自分の仕事に取り掛かれる訳だ。
(さて、それじゃ一気に――)
「見つけた! そこですね!」
「よし、狙い撃つ!」
 徹雄が立ち上がった瞬間、こちらに機関銃を撃ちながら近づいてくる存在があった。司から念の為にと頼まれて結界まで急行してきたゴーストだ。その上には八重が乗っている。
(参ったな。張っていたつもりが張られてたという訳か)
 徹雄は今回の仕事に際し、気配を消す手段を三重に用意して潜伏していた。その為大勢の契約者達から今まで姿を隠してこられたのだが、そんな彼でも気配を消せない瞬間が存在する。
(微かな殺気を感知されるとはね。普段なら目標のそばに行くまで殺気は抑えておくんだが、結界が消えるまでに焦れていたという事か。おじさんらしくも無い)
 結界前を通らないと行けない以上、見つかってしまった今は分が悪い。既に結界前に他の契約者達も集まってきたのを確認し、徹雄は大人しく退く事にした。
 
 こうして、全ての守護石も破壊され、無事に結界は解かれた。この遺跡が何の為の物だったのか。その答えが出るのは、もう少し後の事である――