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『嘘』を貫き通すRPG

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第四章 旅商人と魔王

 
「それでこの先に本当にオアシスがあるの?」
「フヒヒ、信じるも信じないもあなた達次第ですぜぇ」
 ジャイアントワームの襲撃から数日後、アーバン砂漠で旅を続けていた呪詛子たちはルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)と名乗る怪しげな旅商人と出会った。
「こっちはお金払ってるんだからはっきりしなさいよ!」
 ドスン! 呪詛子が豪快にスイングした杖がカーマインのお腹を直撃する。
「ぐへぇっ」
 カエルのような声をあげてのた打ち回るカーマインに、呪詛子はさらに追い打ちをかけるべく、はなから本塁打しか狙っていない外国人選手のように大きく杖を振りかぶる。
「ほ、本当です! オアシスはここから南東に5キロほど行った場所にあります! このコースならジャイアントワームも水脈を嫌って近寄らないので、安全に進めます!」
 本格的に生命の危機を感じたのか、カーマインは矢継早に喋るとサンコブラクダに乗って急いで呪詛子たちの前から消えてしまった。
「ふふん、私を焦らそうなんて100万光年早いのよ」
 カーマインとのやり取りを見ていた英彦は、光年は時間ではなく距離を表す単位ですよという突っ込みをぐっと飲み込み、オアシスがある方向へと歩き始めた。
 
 普段の生活では5キロなどなんでもない距離かもしれないが、こと砂漠では惑星間の距離が如く長く感じられる。
 照りつける日差しと熱せられたフライパンのような砂が容赦なく体力を奪い、蜃気楼によって近くに見えた日影が本当は遥か彼方にあったりと、精神力もごっそりと削られていく。
 数時間が経過した時、目の前に現れたものを視認した時も、呪詛子はそれを蜃気楼か何かであると思った。
「…………汝、この世の理を知るものか?」
 悠然と呪詛子たちの前に立ちふさがったのは、闇をそのまま鎧に封じ込めたような漆黒の鎧を身にまとった大男であった。
「……こいつ何なの?」
 呪詛子は歩き続けたぼんやりとした目でその男をとらえる。
「こ、この格好は噂で聞いた魔王アニュージアル?!」
 英彦はこれまでの疲れを忘れて、驚愕の表情を浮かべる。
「この世を彷徨う魔王の幻影……」
 シャーレットとミアキスは呟くと、素早く武器を構えて魔王と対峙する。
「…………汝、この世の理を知るものか?」
 魔王は同じことを問いかけた。カブトの奥の表情が窺い知れないず、その不気味さは今まで呪詛子たちが出会ったどんなモンスターをも凌いでいた。
「魔王といえども所詮は幻影です。皆が協力すればきっと倒せるはず!」
 英彦もジャイアントワームを打倒したブライトシャムシールを構え、細心の注意を払いながら魔王の方ににじり寄っていく。
 だが、あと少しで攻撃が届くという距離まで呪詛子たちが近づくと魔王はすっと手をかざす。
「…………理を知らぬ愚者には死を」
 魔王が手のひらを開いたかと思うと、呪詛子たちを鉛のような豪風が襲った。
「グホッ」
 空中に巻き上げられ、呪詛子たちはそのまま無様に地面に落下していった。
――勝てない。
 英彦は絶望するでもなく、ただ淡々とその事実だけが頭に浮かんだ。そもそも奴は、自分たちを敵とすら認識していない。
 魔王の手が胸の真ん中、ちょうど英彦の心臓の位置に構えられ、乾いた音が炸裂して彼の意識は途絶えた。

「ほらほら二人とも急がないと間に合わないよ!」
 砂漠の真ん中で少女たちを急かしている少年の名は、鬼龍貴仁(きりゅう・たかひと)
「わたくしもセクシポーズしないといけないのですか?」
 そう文句を言いながらも、肌を露出したバニガールの衣装を着ている大人しそうな少女は常闇夜月(とこやみ・よづき)
「そなたもなかなか似合っておるのう」
 最後に、スクール水着を着てやけに古めかしい口調の少女は医心方房内(いしんぼう・ぼうない)
「あ、もう魔王出てるよ!」
 貴仁が指差す先には悠然と歩きだし、地面に叩き付けられた気絶している呪詛子たちの生き根を止めようとする魔王の姿あった。
「ふむ、危ないところじゃのう。だがもう数刻だけなら猶予がありそうじゃ。どれローションでも塗ろうかのう」
 房内は魔王に負けないくらい悠然と、己の肌にエステ用ローションを塗りたくり始めた。
「エロ神様! 早くしないとあの人間たちがやられちゃうよ」
「……そもそもこんな方法で本当に魔王が撃退出来るのですか?」
 三者三様あれこれと騒ぎ立てていると、物音に気付いたのかいつのまにか魔王が三人の方を向いていた。
「ど、どうするんですかエロ神様!!! 魔王がこっちに気付いちゃったじゃないですか!」
「ふふふ、もう慌てる心配はないぞ。とうとうわらわのローションが塗り終わったからのう」
 房内はそう言うと、体を押し付けるようにして魔王に向かってダイブした。
 魔王は房内を手で払いのけようとするが、たっぷりとローションが覆っていたせいでつるりと滑ってしまう。
「捕まえたぞ魔王。これでそなたも一巻の終わりじゃのう」
 房内は魔王の肩に手を回し、耳元でボソリと呟く。
 そして、どうじゃどうじゃとばかりに鎧の隙間から魔王の体を撫で回す。
「房内さん大丈夫なんですか?」
 バニガール姿の夜月が心配そうに見つめる。
「ほれ、夜月も見ているだけじゃなくてサービスせんか!」
「そ、そんな恥ずかしいです……」
 夜月はもじもじと手を組んで顔を赤らめている。
 しかし、そんな控えめな態度に刃向うかのように、彼女の体はバニーガールの衣装のせいで足や胸を大胆に露出し、これでもかとその存在を主張している。
「そうそう、それじゃ! 内気な美少女が大体な格好をして恥ずかしがる。男はそれに弱いのじゃ! これはラスボスとて同じはずじゃ!!!」
「さ、さすがエロ神様だ!!!」
 貴仁が感嘆の声をあげた。
「見よ、魔王のカブトから鼻血が垂れておるぞ! これは効いている証じゃな」
 房内がそう叫び、魔王を指差す。確かにカブトの下からはたらりと赤い血が伝っていた。
「やったあ!」
 夜月も控えめに声を出して喜びを表現する。
 しかし、喜んだのも束の間、鼻血を出してしまった魔王は呪詛子たちを気絶させたように手をかざし、まとわりついている房内を体から吹き飛ばす。