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『嘘』を貫き通すRPG

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第六章 呪詛子のコンプレックス


「結局カーマインの情報は本当だったのですね」
 英彦は、ようやくたどり着いたオアシスの村長から貰った遺跡の地図を眺めながら呟いた。
「ふん、魔王がいるってことは教えてくれなかったじゃない!」
 スクール水着に着替えた呪詛子が浮き輪に体をすっぽりと入れながら、オアシスの水浴び場でいつものように頬を膨らませる。
「魔王って本当に現れたの? 私はほとんど覚えてないんだけど」
 ミアキスがワンピース型の水着を着ながら、小さな浜辺に寝転んでそのモデルのような体を伸ばしていた。
「なんで私たちが寝ちゃったのかは分かんないけどね」
 ビキニを着たシャーレットはスイスイと水浴び場の周りを泳ぎ、既に10週目に入っていた。
「……というか、何で二人ともそんなにスタイルがいいのよ」
 呪詛子は自分とシャーレットやミアキスを比べ、小さく呟いた。
「でも男の人の中には小さな女の子が好きな人もいるから、一概にどのスタイルが良いとも言えないよ」
 泳ぎに夢中のはずのシャーレットが呪詛子の言葉を目ざとく聞き取っていた。
「そうそう、それにもう私たちオアシスについたから、呪詛子たちとはここでお別れ。だから英彦のことで心配しなくても大丈夫よ」
 ミアキスがことなげに言う。
「だ、誰が英彦が心配ですって!」
 呪詛子はムキーっとなって怒り出し、シャーレットたちに向かって突進しようとする。
 が、どれだけ手足をバタつかせても所詮は浮き輪なので、いつまで経っても追いつくことが出来ない。
「はあ……これからも前途多難ですね」
 その様子を見ていた英彦は大きなため息をついた。

 シャーレットたちと別れた呪詛子と英彦はオアシスを拠点にして、周囲のモンスターを倒してレベルアップを図っていた。
 特にジャイアントワームは既に弱点も分かっており、しかも手に入る肉は珍味として一部のマニアの間に人気で、固い皮は盾や鎧の材料として高く売れたので、二人は積極的に狩っていた。
「はい、合計で6800ゴールドの買い取りになります!」
 いつものようにジャイアントワームから手に入れた品を、オアシスで出張露店をしているミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)に売って、二人はそのお金で薬草茶を購入した。
「二人とも最近絶好調ですね!」
 ミルディアは交渉を終えた後、無邪気な笑顔を呪詛子たちに振りまく。
 しかし、英彦は笑顔を返すものの、呪詛子の方は何故かぶすっとした表情を浮かべている。
「ふん、絶好調なのは英彦だけよ! こいつばっかり上達して、従者の癖に生意気なんだから」
「け、喧嘩は良くないですよ! 呪詛子さん」
 ミルディアは必死になだめようとするが、一度火がついてしまった呪詛子の不満は中々収まらない。
 とうとう英彦を置いて勝手に店の外へと出て行ってしまった。
「すいません、私が不甲斐ないばかりに」
 英彦はミルディアに向かって深々と頭を下げて、お詫びをする。
「あ、いえいえ! 英彦さんのせいじゃないですし」
 ミルディアはいやいやと手を振る。
「でも、呪詛子さんと英彦さんはずっと仲良しでいてくださいね! なんかあたし、二人を見てると仲の良い兄妹みたいでとっても癒されるんですよ」
 あ、なに言ってるんだろうあたし、と頭を抱えるミルディアに、英彦は少しだけ寂しい顔をした。
「兄妹……ですか、今のままではそうなのかもしれませんね。あ、そういえば少し長居をしてしまいました。呪詛子さまを追いかけないといけないので、これくらいでお暇します」
 今日もありがとうございました、と言ってから英彦はミルディアの露店から去って行った。

 ミルディアの店から飛び出した呪詛子は、どこに行くでもなくトボトボと路地を歩いていた。
「英彦の剣の腕は成長してるのに、なんで私は全然魔法が使えないのよ……」
「それはこのゲームが呪われているからですよ」
 突然声をかけられ、呪詛子がビクっとした顔をあげるとそこにはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が立っていた。
「は? 呪われてるって何よ」
 あきらかに不審者を見る目で、呪詛子はアキラの方を睨んだ。
「このゲームのことはご存じですか? 伊集院呪詛子殿」
 そう言ってアキラが差し出したのは、表面にデスクエスト3と書かれた光学ディスクだった。
「知らないわよこんなもの」
「ふふ、そうでしょう。何故ならば、デスクエストのことを知っていれば、何故自分だけ成長しないのか、そのことを疑問に思ったりしないのですから」
「ど、どうしてよ!」
 呪詛子は自分の考えを当てられ、思わず動揺してしまう。
「ファイナル・クエストで非常に低い確率で発生してしまうバグ、『ファイナル・デスクエスト』があなたの不調の原因なのです」
 アキラは呪詛子が自分の話に食いついているのを確認して、密かにほくそ笑む。
「これは自分の能力を一定時間だけ極限まで低下させることを条件に、どんな戦闘からでも必ず離脱できるというアイテムです。もうお分かりでしょう、とても低い確率でこの効果が誤ってキャラの基本ステータスに加えられてしまうことがあるのです。思い当たる節が今までにありませんか?」
「そういえば、いつのまにか魔王との戦闘が終わってたり……」
「そう、それです! あなたはデス・クエストの呪いによってステータスが一切上がらなくなってしまったのです。ではどうしてこのような現象が起きてしまったかというと」
「もう御託はいいわ! どうやったらこの呪いが解けるのか教えて頂戴」
 呪詛子はグイグイとアキラに詰め寄って、問い詰める。
「慌てずに冷静になって。デス・クエストの呪いがかかってしまったキャラは、ログアウトしようとしてもスタート地点に戻ってしまいます。ここから出る方法、それは魔王アニュージアルを自分たちの力で倒し、エンディングを迎えるしかありません!」
 アキラは呪詛子に向かって力強く宣言する。
「……なーんだ、結局やることは変わらないんじゃない。真面目に聞いて損したわ」
 呪詛子はとたんに興味を失ったのか、プイっと歩き出してしまった。しかし、アキラは少しだけ呪詛子の足取りが軽くなったのを見逃さなかった。
(今度こそ上手くいってくれよ。なにせさっきの嘘の説明もう6回目だからな……)
 アキラは呪詛子を探して走ってくる英彦の姿を横目に捉えた後、静かにファイナル・クエストからログアウトした。