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『嘘』を貫き通すRPG

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第七章 商業都市アイアイ

「この前の件は大変申し訳ありません!」
 ミルディアから次の遺跡の地図がある場所を知っている人がいる、という情報を聞きつけて呪詛子たちが約束の場所に行くと、そこには情報屋のカーマインがのこのことやってきていた。
「これくらいで済んで呪詛子ちゃんに感謝しなさいよ!」
 呪詛子の千本ノックによって、ボールのように顔がぷっくりと晴れ上がったカーマインはただただ平謝りを続けていた。
 実際、見かねた英彦が呪詛子を止めなければ、カーマインの顔はさらに二回りほど腫れ上がっていただろう。
「こ、今度こそは本当に間違いありません! 次の地図は、ここから北に100キロほど行ったところにあるデルホーレ王国、アイラル城の地下書庫に眠っています!」
「ふん、次はないと思いなさいよ」
 呪詛子はそう吐き捨てて、最後にカーマインの脳天に飛び切りの一撃を食らわせた後、デルホーレ王国に向かって歩き始めた。
「私が不甲斐ないせいですいません……この薬草茶を使って傷を癒してください」
 英彦はそう言って、カーマインのサンコブラクダラクダに薬草茶を一束積んでから呪詛子を追いかけ始めた。
 
 オアシスですっかりと経験値を積んだ二人(主に英彦)は、襲いかかってくるモンスターを難なく蹴散らしながら砂漠を抜け、順調に旅を続けていた。
 気にかかっていた呪詛子のメンタル面の不安もある時期から解消され、このまま行けばすぐにクリア出来るのではないか、そんな淡い期待を英彦が寄せていた頃に事件は起きた。
 二人はデルホーレ王国に行く前に物資の補充で立ち寄った商業都市アイアイで、ある程度アイテムを買い揃えた後、ここの目玉だというメインストリートに足を運んでいた。
「凄い活気ですね、呪詛子さま」
 幅10メートル、長さは3キロほどあるメインストリートは、昼間は馬や人力車などが通れぬ歩行者天国として開放され、いたる所に食べ物を売る屋台や大道芸人がパフォーマンスをしており、周りに人だかりができていた。
「魔王の影もどこへやらですね……ってあれ? 呪詛子さま、どこに行ったのですか」
 自分が独り言をしていることに気付いた英彦は辺りを見回してみる。だが、そこら中は人、人、人。小柄な呪詛子を探すのは容易ではない。
 英彦はすっかり体に染みついてしまったため息を漏らしながら、主人の捜索を始めた。
「寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! これから始まるのは必ず当たると評判の占いだよ!」
 メインストリートをふらふらと歩いていた呪詛子は、必ず当たるという文句に惹かれて、占いショーの人だかりに混じっていった。
「はいはい、占いを受けたいという方はいないかな? 最初は特別サービスで無料にしてあげるよ!」
 威勢の良い声をあげている月詠司(つくよみ・つかさ)は、占い師のリオン(シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす))に目配せをする。
「はい! はい! 呪詛子ちゃんがやるぅ!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねて存在をアピールするものの、この人だかりと熱気では小柄な呪詛子はまったく目立たない。
「じゃあそこの大きな男の人!」
 案の定、ツカサも呪詛子ではなく別の人間を指名した。
「ふむふむ……あなたは今まで大変な人生を送ってきましたね。幼い頃に両親を亡くし、妹と二人で過ごしてきましたね。数年前までは大変仲睦まじく暮らしていたものの、ある日その妹が恋人を連れてきた。あなたはその場は妹を祝福したけれど、自分の心にはドロドロとした感情が生まれているのを感じました」
「随分と具体的に指摘するのね、あの占い師」
 呪詛子が感心していると、何故か人だかりがざわざわと異様に盛り上がり始めた。
「そして、ドロドロとした感情はいつの間にかあなたが制御できないほどに膨れ上がり、闇に呑み込まれていった。そうでしょう魔王アニュージアル……」
 魔王、という言葉を聞いた瞬間に人だかりは蜘蛛の子を散らすように占い師の前から離れていった。
 残っていたのは占い師と売り子、呪詛子とそして占いを受けていた大男だけ。
「あいつが魔王って本当なの?!」
 呪詛子が大男の方に目を凝らす。大男は真っ黒なコートを着て深くフードを被っているせいか、その顔はよく見えない。だが、呪詛子はその大男にどこか見覚えがあるように感じた。
「魔王よ、愛に目覚めるのです……そうすれば、あなたを苦しめる闇から心が解き放たれるでしょう」
「そうですよ魔王さん。こっちだって、妹が彼氏連れてきたくらいで世界を破滅に追い込まれたら迷惑なんですよ」
 ツカサがビシっと魔王に向かって指摘する。だが、魔王はツカサやリオンではなく何故か呪詛子の方を向く。
「……何を見ている」
 地獄の底から湧いてくるような不気味な声に、呪詛子の背筋をゾクゾクと悪寒が走る。
 だが、逃げなきゃ! と体に命じても、恐怖で足が固まって言うことを聞かない。
 すぐそばまで魔王の手が迫っているというのに、呪詛子は一歩も動くことが出来なかった。
「呪詛子さま! ご無事ですか?!」
 そこに息を切らしながら英彦が間に入ってくる。
「ったく、英彦遅いわよ!」
 呪詛子は英彦が到着すると、急に体が動くようになり、ぶんぶんと彼に殴りかかった。
「じゅ、呪詛子さま。それよりもこの魔王を倒さなければ!」
 英彦はそう言って、愛剣ブライトシャムシールを構える。
「駄目よあなたたち! 魔王には通常攻撃は効かないの、だからここは暴力ではなく愛の力でねじ伏せないと」
 占い師リオンが英彦に待ったをかける
「で、では具体的にどうすれば?」
「そんなの告白に決まってるでしょう。ほら、ちょうどいいところに男女がいることですし」
 ツカサはそう言って呪詛子と英彦を囃し立てる。
「こ、告白ってこんな場所で出来る訳ないじゃない」
 呪詛子は熟れた林檎のように頬を赤く染める。
 一方の英彦は覚悟を決めたように、呪詛子の顔をジっと見つめていた。
「呪詛子さま、私は父親に連れられてお屋敷であなたを一目見てからずっと慕いもうしてきました。本来ならば、私のような下賤な人間が心の内だけでもこのような感情を持つべきではないと重々承知の上で……告白いたします」
「ふ、ふん! どうせ殴るのは辞めてくださいとか、そんなくだらないことでしょ。あんたの考えてることなんて、呪詛子ちゃんにはお見通しなんだからね」
 公衆の面前での告白に呪詛子の羞恥心は限界にまで達していた。
「そうではありません。むしろ、あなたの不器用さは私にとっては大変愛おしいものなのです。初めて会った時も、中々お屋敷の作法に慣れないで戸惑っていた私の手を取って一緒に遊んでくれたのは呪詛子さまでした。その時から私はずっと……」
 英彦はグっと呪詛子の手を掴み、彼女の瞳の奥を覗きこむ。
「す……」
 
 英彦の口が動くか、動かないかの瀬戸際で今まで黙って二人の様子を見ていた魔王が動き出す。
「……ご、ごめんなさい!」
 魔王が呪詛子と英彦の間に割って入り、突然座り込んで謝り始めた。
「へぇ?! ど、どうしたのよ魔王」
 それまで傍観していた占い師のリオンが問いかけると、魔王はその漆黒のフードを脱ぎ捨てて、その顔を露わにした。
「もう僕を魔王って呼ぶのは止めてください!」
 フードを脱いだ魔王の素顔は、とても冴えないメガネをかけたオタクっぽい青年であった。
「あんた本当に魔王なの……?」
 驚いた呪詛子が思わず問いかける。
「だ、だから魔王じゃないですよ。人違いですって!」
 大男はコートも脱ぎ捨てると、ただのもさい男になってしまった。
 拍子抜けする呪詛子だった。すると、今度はさきほどの英彦からの告白が気になってしまう。
「ね、ねえ英彦。さっきの告白って……」

「あ、お兄ちゃんこんなところにいたのね! 早く家に帰ってこないと駄目じゃない!」

 青年とそっくりな顔をした少女が呪詛子たちの前に現れて、強引に元魔王を引きずっていく。
「し、身長までそっくりとは、まるでツインタワーですね……」
 英彦は遺伝子の神秘に感動を覚えながら、兄妹を見送った。
 そして気が付くとまた呪詛子がいなくなっていたが、不貞腐れて宿に戻ってしまったようだ。英彦は呪詛子を追って、また歩き出した。