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とりかえばや男の娘

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とりかえばや男の娘

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1章 激突! 忍者軍団
 まったく、『葦原島』とはよく言ったものだ。見渡すばかりに葦が生い茂っている。という事は、湿地が多いという事だろう。さしずめ、神話の世界のまだ固まりきらぬ大地といったところか。
 けれど、幸いに一行が歩いているのは、湿地からは程よく離れた山沿いの道だ。目の前には森が見える。あの森を抜けて山を越えれば葦原城のある葦原城下町にたどり着く事ができるはずだ。
 一行は隻眼の剣士柳生十兵衛を先頭に、辺りを警戒しつつ道を急いで行った。その70名ばかりの集団の中程に、青みがかった黒髪の美しい少女の姿が見える。竜胆だ。いや、彼は少女ではない。本当は少年だが、そのたおやかな姿を見て少年と見破れるものはまずいないだろう。しかもただでさえ白い肌に、今はさらに念入りに化粧を施している。少しでも正体を隠すためだ。そして、その竜胆の周りを、契約者達がしっかりと護っている。彼らは、自分たちに与えられた使命を果たすべく、誠実に付き従っていてくれている。けれど、竜胆の心は楽しまなかった。この旅の目的が不本意なだけでなく、恐ろしく危険に満ちたものである事が容易に想像できたからだ。
 ……どうせ、村から出るのなら、もっと、楽しく平穏な旅がよかった……竜胆は心の中でつぶやいていた。

「ねえ、竜胆ちゃん」
 突然、声をかけられて竜胆は顔を上げた。見ると、目の前で青色の髪の少女がニコニコ笑っている。
「あなたは?」
「ワタシはアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)。葦原明倫館の学生よ。よろしくね」
「アルメリア……さん?」
「アルメリアって呼んで」
「……アルメリア、こちらこそ、よろしく」
 竜胆が頭を下げると、アルメリアは嬉しそうに笑った。
「ねえ、竜胆ちゃんは写真好き?」
「写真?」
「うん。ワタシ、最近写真が趣味なの。色んなところに冒険に出かけるたびに、その思い出を写真に撮って形に残すのよ」
「素敵ですね。でも、私の村には写真もカメラもありませんでした」
「ええ? そうなの?」
「はい」
 どうやら、この葦原島内部にはまだまだ文明の届かぬところもあるようだ。
「じゃあさ。竜胆ちゃんは、好きな事とかある? ぱーっと気晴らしできる趣味とか」
「気晴らし……ですか。そうですね。私は横笛を吹いている時と、舞いを踊っている時はとても心が慰められます……」
「横笛に、舞?」
「おかしいでしょう? 全然男らしくなくて」
「そんな事ないわ! 竜胆ちゃんの踊る姿、きっととても素敵だと思うの。ねえ、良かったら、後で踊ってみせてくれない?」
「それは、喜んで」
「でねでね、ついでに、それ、写真に撮らせてもらっていいかしら? 竜胆ちゃんの写真初体験てことで」
「え?」
「だって、竜胆ちゃん。とっても可愛いんだもん。ワタシ、可愛い子大好き! 世界中の可愛い子は皆ワタシのものよ」
「やだな……」
 アルメリアの言葉に、竜胆は思わず笑顔を浮かべた。塞ぎきっていた気持ちが、少しは晴れたようだ。
 と、その時。
「何か来る……!」
 アルメリアは『殺気看破』で、何者かの気配を感じ取った。

 そして、それと同じものを十兵衛も感じ取ったようだ。
「姫をお隠ししろ!」
 後ろに向かって叫ぶと、十兵衛は右手に愛刀『三池典太』を持ち、一同を護るように両手を広げて先頭に立ちはだかった。遥か前方から馬の駆けてくる音が聞こえ、やがて乗馬姿の男が現れた。総髪に鎖帷子を着込んだ男……甲賀流忍法の首領、六角道元だ。彼の背後には灰色の衣をまとった忍び達を従えている。
 道元は十兵衛の鼻先に馬を止めると、傲岸不遜な態度で見下ろした。
「そこにいるのは、柳生十兵衛殿ではないか」
「これは、六角殿。妙なところで出会いましたな」
「それは、こちらのセリフだ。そのように大勢を引き連れてどこに向かう?」
「はあ。日頃の疲れを癒すために、皆で湯治にでも行こうかと思っておるところです」
「湯治だと? 笑わせるな。何か企んでおるのだろう?」
「はて? なぜそのような事を?」
「おぬしは刹那殿が日下部家を継ぐ事にずっと反対していたはずだ」
「確かに。あの若君に日下部家を継がせる事は無理だと思っておる。しかし、邪推はよしてもらおうか?」
「やかましい! この先は行かさぬ!」


「なんだ? あの偉そうな奴は」
 トーマ・サイオン(とーま・さいおん)が小さくつぶやいた。
「あの片目のおっさんが、一生懸命違うって言ってるのに」
「静かに!」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が小声でトーマを制する。
「あそこにいる他にも、何者かがいる。先ほどから、恐ろしいほどの害意を感じます」
「ディテクトエビルか? さっきから、オイラの超感覚にもビンビン感じてるぜ」
「どうやら、我々は既に敵地に入り込んでしまっているようですね……」

 真人が言うのとほぼ同時に道元が叫んだ。

「かかれ!」

 声と同時に、4方から姿の見えぬ何かが襲いかかってくるのを感じる。

「上です!」

 真人の言葉に「分かってる!」と叫び、トーマは両手に2丁のマシンピストルを構えスプレーショットで四方八方にガンガンかました。木の上に隠れていた忍び達が、肩や腹から血を吹きながら落ちてくる。
 が……しかし……
「来る!」
 真人が叫ぶと同時に、土の中に隠れていた忍び達が一斉に飛び出し、二人に向かって襲いかかって来た。
 
「オラオラオラー」
 マシンガンを撃ち続けるトーマ、しかし動きの素早い忍者には、なかなか命中しない。
「トーマ。こちらへ!」
 真人の言葉にトーマはうなずき、自ら移動しながらマシンピストルを撃ち続けた。
 しかし、なぜか、少しも当たらない。
「バカが」
「どこを狙っている」
 と、忍者達は嘲笑しながら、軽々と弾を避けてトーマを追って行った。しかし、これはトーマの作戦だった。いつのまにか、忍び達は自分たちが一つところに集められているところに気付いた。忍び達の前には今まさに魔法を繰り出さんとする真人の姿がある。彼らは真人の魔法の射程距離におびき出されていたのだ。
「しまった! 罠だ!」
 中の一人が叫ぶ。
「生意気な!」
 忍びの者はそう叫ぶと、指を立てて巨大な天狗を呼び出した。天狗は真人に向かって襲いかかって行く。
「危ない! にいちゃん!」
 トーマが目を覆う。すると……
「神の目!」
 真人が叫んだ。
 すると、真人の手から強烈な光がほとばしり、天狗に襲いかかる。光を浴びて、天狗は雲のように消えて行った。どうやらこの天狗は忍者の『幻術』だったようだ。
 うろたえる忍び達に向かって、さらに真人は手を振りかざし叫ぶ。
「サンダーブラスト!」
 忍び達に向かって雷が降り注いだ。

 ドーン!

 青白い稲光が消えた後には、黒こげになった忍者達の姿だけが残されていた。

「ふん。やはり、ただのネズミどもではないか……」
 倒された配下達を見て、道元が苦々しげにつぶやく。
「だが、怯むな! 甲賀流の恐ろしさを見せてやれ!」
「はっ……!」
 道元の言葉に忍び達が八方に散った。そして、散るや否や姿を消す。