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とりかえばや男の娘

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とりかえばや男の娘

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 翌日から、さっそくセルマとともに『男らしさ』の修行なるものを始めてみた。
 とりあえず竜胆は歩き方に気をつけてみたりしている。そして、ヒマを見つけては、セルマと木刀で打ち合いをしてみる。
「やっぱり、男らしさは強さだよな」
 セルマの言葉にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が首を振った。
「確かに強さも大事だけど、俺の思う男らしさって言うのは、まず『相手を尊重する』『相手の話をよく聞いて相互理解に努める』事かな。礼儀作法も守るないなら、男らしい様な行動もただの粗野な行動だと思う。男らしいって『自分の言動には最後まで責任を負う』ことだと思うよ」
「つまり、喧嘩が強かったり、乱暴なだけが男らしいってことじゃないってわけだな?」
 セルマがうなずきながら聞いている。
「そう。信念を持って自然に行動していれば、それが自分らしさになるし、その人に応じた男らしさになるんじゃないかな、と思うんだけれど。付け焼刃というか、うわべの言動だけ真似しても、それは男らしいっていうのとは違うかも。竜胆さんの信念というか『ここはゆずれない』っていうポリシーって何?」
「ポリシー?」
 竜胆は考え込む。
「私にとってのポリシー……」
 どうやら、思いつかないようだ。
「俺の場合『女性は尊重するべし』で『彼女達の素敵な部分は即褒める』かな。そして彼女等には花を……」
「なんか、すごく参考になるな」
 セルマがエースの言葉をメモっている。

「頑張ってるね、ルーマ」
 三人の様子を遠くから見守りながら、ゆる族のミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が言った。
「でも、ルーマは果たして男らしいって言ってもらえる状態になれるのかな?」
「さあ、どうでしょうね」
 リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が首を傾げる。
「セルが男らしく見られないのは、強さがどうこうではなく、外見が可愛らしいことと、かわいいもの好きな性格のせいだと思うのですが。まあ、どこかなよなよしている部分がありますし、いい機会なのではありませんか」
「そうだね。頑張ってね、ルーマ! さて、私たちは竜胆さんの護衛をしよう」
「はい」
 リンゼイはうなずくと、周囲に気を配り始める。ミリィは【光学迷彩】で自分の身を隠した。

「ところで、竜胆さん」
 エースは竜胆に尋ねた。
「竜胆さんは、十兵衛さんに押しまくられて葦原城に向かう事になったってことだけど、という事は、当主の立場に就く事をハッキリ承諾した訳じゃないんだよね? 当主になっても良いと自分で考えているのかな?」
 エースの言葉に竜胆は首を振った。
「いいえ……そのような事望んでおりませぬ。私の望みは里見村の男として、平穏な一生を送る事。しかし、この役目は他の誰にも頼めませんし、それに一度引き受けたからにはやり遂げなければと思っております」
「なるほど……」
 エースがうなずく。
 山道がどんどん険しくなって行く。木々はますますうっそうと茂り緑も濃くなる。
「さあ、手を取って下さい竜胆さん」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は竜胆に手を差し出した。
「そうすれば、この急な段差も歩きやすいでしょう」
「ありがとう」
 竜胆はエオリアの手を取ると、急な岩の階段を登って行った。しばらく登ると、少し道がなだらかになってくる。ほっと一息ついたのもつかの間。エオリアは辺りに何者かの気配を感じた。恐ろしい害意だ。
「気をつけて下さい! 何かいます!」
 エオリアの声とほぼ同時に、梢の上から次々に忍びの者が飛び降りて来て、竜胆達に斬り掛かって来た。
「危ない!」
 エオリアは【サイコキシネス】で忍び達に石つぶてを投げかけた。思いもよらぬ攻撃に、忍び達の狙いがそれる。
 さらに、エオリアは竜胆達に【イナンナの加護】をかけ、再び【サイコキシネス】で忍び達に石つぶてを投げかける。
「殺れ!」
 忍び達が次々にエオリアに向かって来た。と、何もいなかったはずのところから、突然熊のぬいぐるみが現れて、忍者達の目の前に立ちふさがる。ゆる族ミリィ・アメアラだ。
「ワタシにまかせて!」
 ミリィは叫ぶと、【シャープシューター】をかけた、【とどめの一撃】で忍びどもを確実に一人ずつ撃ち抜いていく。さらに、そこにリンゼイが現れ、【最古の銃】で敵を撃ち抜いて行った。しかし、倒しても倒しても忍者は次々に襲いかかってくる。
 その中の一人が、竜胆に接近し、刃を突きつけようとした。
「危ない!」
 十兵衛が現れ、袈裟懸けに斬る。さらに、さらに目にもとまらぬはやさで刃を振り回し、忍者達を次々になぎ倒していった。
 忍者達を倒してしまうと、十兵衛は息をつき竜胆を立ち上がらせた。
「お怪我は?」
「ありません。皆のおかげで……」
 竜胆はそう答えると、立ち上がって膝についた土を払った。
 その時、
「いらざる邪魔をしおって」
 山中に何者かの声が響き渡る。
「しかし、それもここまでだ。今、この場で、全員死んでもらおう」
 声は、こだまのようにあちこちに乱反射して響き渡ってくる。しかし、その声を発するものの姿は見えない。その、あまりの不気味さに竜胆が思わず身を震わせた時、「そこか!」と十兵衛は叫び、短剣を投げつけた。短剣は一本の老木の幹に突き刺さる。
「出て来い! 次は首に突き立てるぞ」
 すると、ぶゎさっと音を立てて老木から道元が飛び降りて来た。
「やはり御主か。なぜ、しつこく我らを付けねらう?」
 十兵衛が刃を向けると、道元は答えた。
「ふん。そうやっていつまでもしらばっくれておれ。しかし、我々は全てを掴んだぞ」
「何の話だ」
「まだ、とぼけるか? それでは言ってやろう。『里見村』」
「……!」
 その言葉に一瞬十兵衛の表情が凍り付く。しかし、それ以上に竜胆が動揺していた。
「ふん。さすがに顔色が変わったな」
「はて、何の事でござろうか?」
「いつまでも、しらばっくれておれ。我々は昨日里見村に行った」
「な……!」
 竜胆の顔が青ざめる。
「そこで、興味深い話を聞いたぞ。何でも先日、竜胆という16才の少女が隻眼の男につれられて消えたとか。その少女は犬飼家の娘だとか。しかも、不思議な事にずっと子供のできなかった犬飼家に突然授かった娘とか。犬飼家とはおぬし随分懇意にしていたようだが」
「知りませんな、そのような娘は」
「とぼけるな!」
 道元が叫ぶ。
「年といい、その姿の特徴といい、藤麻殿の双子の弟君であろうが?」
「何を証拠に」
「犬飼家の下男を締め上げて聞き出した。よう喋る男でな」

「何だと!」
 叫んで飛び出そうとする竜胆を、ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)が必死で押さえつける。
「ダメですよ、竜胆さん。今、飛び出しちゃ……」

 その、竜胆に気付いてか気付かずでか、道元は薄い笑みを浮かべた。
「それにしても、今まで我らの目からよく隠していたな。我らはともかく、『あの方』の目までも欺くとは……これも、珠姫の御加護とやらか?」
 ……『あの方』? 珠姫の御加護? なんだ? それは?
 頭の隅でそう思いつつも、竜胆の胸は怒りで張り裂けそうだった。
「しかし、『あの方』にその存在が知れるのも時間の問題であろう。さすれば、その者の命など風前の灯火……」
 呪いのような言葉を吐く道元に向かい、十兵衛が言う。
「源八夫婦に危害を加えたのか?」
「ふん。奴らなら既に村から消えておったわ。命拾いしおって」
「それは良かったな」
「何?」
「もし、あの二人に危害を加えておったなら、既にお前の首は無くなっておった」
「やかましい! 竜胆を捕らえよ!」
 六角が叫ぶと同時に忍者達が襲いかかってきた。