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サルヴィン地下水路の冒険!

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サルヴィン地下水路の冒険!

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第1章

 ヴァイシャリー湖からサルヴィン川の一帯に広がる、長大な地下水路。
 その存在が明らかになったのは、長雨の町と呼ばれる遺跡に設置された女王器が暴走した事件がきっかけである。契約者たちが解決に乗り出し、女王器を破壊することで、事件は収束した。しかし、まだ全てが終わったわけではなかったのである。
「水路はもとをたどれば、ヴァイシャリー、それにこの地方一帯の下水道として作られたものだった」
 資料の山から自ら作った報告書を手に、和泉 猛(いずみ・たける)が状況をまとめている。この依頼に集まった他の契約者達に伝えるためのものだ。
「ところが、この下水道に水賊が住み着き、サルヴィン川を渡る船を襲うようになった。その神出鬼没さと、彼らが引き連れていた魔獣の存在が退治を難しくさせていた」
 同じ内容のメールや配布文書が、他の契約者たちに配られることになっている。なにぶん、全員が目を通しているとは限らないので、短く、簡潔にまとめなければならない。
「古王国は水賊を討伐したが、彼らの住みかであった下水路には魔獣が残ってしまった。不潔で複雑、長大な下水路の中に潜って魔獣を討伐するよりはと、当時研究されていた天候操作の女王器を使って、この水路を封印したわけだ」
 ふう……と猛の口からため息が自然に漏れた。
「まったく、後世に問題を残してくれるのが得意な国だ」
 とはいえ、その魔獣が活性化し、それが女王器の暴走を引き起こしたのである。放っておけば、サルヴィン川、そしてヴァイシャリー湖に魔獣が姿を現すかも知れない。過去の事件がきっかけだからと言って、今の自分たちが何もしなくて良いと言うことにはならないだろう。
「とにかく……解決は任せたぞ」
 猛は資料作成者としてのサインを入れ、ラズィーヤの元へ送信した。そして、軽く自分の肩を叩きながら向き直った。
 積み上げられた資料の山に。


「それじゃあ、あらためて水路の情報を確認するね」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が周囲を見回して告げた。ダイビングスーツに身を包み、暗視ゴーグルをかけ、背中には水中ライトとロープを背負っている。ついでに指には水中呼吸の指輪。水路対策はばっちりのようだ。
「身を挺して中の様子を調べて来てくれたアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)くんの情報提供に寄れば……」
 最大限に譲歩した表現で、ルカルカは先に水路に侵入した生徒の報告を読み上げる。
「入ってすぐの地帯には、すでにスライムに似た魔獣が這いだしてきているらしいわ」
「数がいるのか?」
 と、聞いたのは佐野 和輝(さの・かずき)。ルカルカが頷く。
「魔獣の強さはそれほどでもないみたいなのだけど、とにかく数が多いみたいで。周りを囲まれたら危険だね」
「ちょうどいい。試したいことがあったんだ」
 和輝がにやりと笑う。
「あ……あまり、無茶なことはしないでね。水路だって古王国の遺産なんだから」
「尽力するように努める」
 不安そうに言うルカルカに、和輝はさらりと答えた。
「ぷるぷるだろうか。それとももちもち……」
 その隣で、これまた危険な笑みを浮かべているのは柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)だ。
「よし、俺もスライムと戦うぞ」
 軽い調子で手をあげる氷藍。ルカルカの胸中を、またしても不安なものがよぎった。
「な、何か、変なこと考えてない?」
「要するにスライムを倒せば良いんだろ? その後どうするかは、こっちの自由ってことで?」
「まあ、そうなんだけど……」
 やはり不安である。とにかく、その不安をごまかすように、ルカルカは咳払いした。
「女王器が停止したとはいえ、まだ大量の水が残ってるよ。水の深い場所には鮫に似た魔獣がいる、という報告があるよ」
「それが、放っておけばサルヴィン川にやってくるかもしれない、ということだね」
 フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)が口を開いた。自然な指摘に、ルカルカは安堵の息を吐いた。
「生態系への影響はスライムの比じゃないな。その鮫を一匹たりとも川に出すわけにはいかない」
 と、フィーア。ルカルカも大きく頷いた。
「宝は?」
 しびれを切らしたように、黒崎 天音(くろさき・あまね)が問いかける。
「僕は、水路に宝が眠っているという話を聞いてきたんだよ。魔獣の相手をするのだけが目的じゃないだろう?」
「そうだったね。かつて水賊が残していた宝があるはずだよ。これは古王国の財産だから、現王国が徴収することになってるよ。でも、見つけることができれば、作戦に参加している全員に報酬が与えられることになってる」
「魔獣退治と共同作戦というわけだな。なるほど、僕としては、魔獣の返り血で汚れるのはゴメンだ。古代の宝がどんなものか、見せてもらおうじゃないか」
 天音が口元に笑みを浮かべたまま、言う。どこまでが本心なのか、計りかねる表情だ。
「あ、そうだ。前に、ルカのパートナーが水路のことを調べたんだよ。それで、中の地図が見つかったから、配っておくね」
 ルカルカが荷物の中から、防水加工されたマップを取り出す。児童書に載っている迷路かと見まごうような、複雑な通路だ。
「でも、これでも全部じゃないらしくて……所々欠損してたり、さらに拡張されたりで、まだまだ長い通路みたいなんだ」
「いや、十分だよ。後は自分で調べればいい」
 天音がそれを受け取って、言う。すでに意識はその迷路をいかに攻略するかに向かっているらしい。
「それで、水路の深部には、水賊が船を捕まえるために使っていた大きな魔獣がいるみたいだね。形は蛸に似ているって」
「巨大な魔獣だって!」
 聞くなり、声を張り上げたのは健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)。拳を握って、瞳に炎を燃やしている。
「もしそんなやつがヴァイシャリー湖に現れたら……! よし、俺はそいつと戦うぞ!」
 背後にまで炎が上がりそうな熱気で叫ぶ勇刃。
「あ、あまり熱くならないでください。勢いに任せて突っ込んでいったら、けがをするかもしれません」
 その後ろで、キリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)が心配げに言う。
「これが落ち着いていられるか! その蛸を倒さなければ……」
「蛸の魔獣と戦うのは最後になるはずですよ。それまでに無駄な力を使わないようにしてください。多少のけがなら、私が癒すこともできますから」
「そ……そうだな。俺としたことが、熱くなりすぎた。みんながスライムや鮫の魔獣を倒してくれるまで、怒りは取っておくことにするぜ」
 勇刃の深呼吸。キリエがそっと胸をなで下ろす。その様子を見て、ルカルカはよしと頷いた。
「それじゃあ、10分後に作戦開始だよ。みんな、準備を万端にしておいてね」