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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~後篇~

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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~後篇~

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第五章  脱出


「この先のドアの前に、敵兵が一人います。明らかに『中を見張ってる』って感じです」

 夜果が顎でしゃくるその先を、外代沖也と終夏が、そっと目だけだして伺う。

「あそこは、士官用の個室だ。普通、見張りを置くような場所じゃない」
「それじゃあ……!」
「あぁ。恐らく、人質が監禁されているのは、アソコだ」
「分かりました。じゃ、俺が《ヒプノシス》をかけてみますから、フォローお願いします」
「うん」
「了解した」

 夜果は兵士を凝視すると、少しずつ念を込めていく。
 兵士はすぐにあくびをし始め、やがてその場に崩れ落ちた。
 外代が慣れた手つきで兵士を縛り上げる内に、終夏が兵士をボディーチェックする。

「あった!」

 見つけた鍵で扉を開ける夜果。『カチリ』と鍵の外れる音がする。

あゆみさん、ミディちゃん!」

 勢い込んで、扉を開ける終夏。

「終夏さん!」
「助けニャ!助けが来たニャ!!」

 思わず、終夏に抱きつくあゆみ。ミディは、文字通り飛び上がって喜んでいる。

「まずは、目的達成だな」

 ホッとした表情を浮かべる夜果。
 しかし、外代の顔は固いままだ。

「喜んでいる最中に済まないが、早く、ここを出た方がいい。いつ、追っ手がかかるか分からん」
「あ!こちら、前の白姫岳要塞司令官の外代沖也さん。お願いして、協力してもらったんだよ」
「そ、そうなんですか!有難うございます!」
「あ、有難うございますニャ!」

 終夏に紹介されて、慌てて頭を下げる2人。
 しかし外代の目は、違う方向を向いている。

「いや……礼を言うのは、無事にここを出られたらにしてもらおう」
「……え?」
「早く中へ!」

 夜果を突き飛ばし、外代も中に飛び込む。
 さっきまで2人がいた場に、銃弾の雨が降り注ぐ。

「右も左も、敵で一杯だ!クソッ!奴ら、一体いつの間に!」
「大方、近くの部屋の中にでも隠れていたんだろう。初めから、これが狙いだったんだ」
「妙にあっさりしてると思ったら……」

 一難去ってまた一難。どうやら敵は、どうあっても生かして帰してくれる気はないらしい。

「とにかく、救援を呼ぶんだ。助けが来るまで、なんとしても持ちこたえるぞ!」
「「「「ハイ!」」」」

 外代の言葉に、4人は力強く頷いた。



 たった一人、地下の隠された発着場から要塞内に侵入したエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)
 その後、単身要塞の地下をシラミ潰しにしていたが、『我人質を確保すれども、中層にて優勢な敵と交戦中。至急救援を求む』という情報を受け、中層へ急いでいた。

「ん……?」

 上への階段に足を掛けようとしたその時、上から誰か降りてくるのに気づいた。素早く、階段の影に隠れる。
 揺らめく明かりが2つ階段を降りてくると、エヴァルトには気づかずに歩き去る。

「……全く、電源さえ生きていれば、集中点火栓など使わなくとも済むものを……」

 そんな声が、エヴァルトの耳に届く。
 
『点火栓……?一体、なんだ……?』

 エヴァルトは、後をつけてみる事にした。


 彼らは、地下の中央部まで行くと、さらに下へ続く階段を降りて行く。エヴァルトの持っている地図にも、この先に何があるのかは書かれていない。
 着いたのは、要塞を上下に貫くシャフトの基底部だ。
 士官らしい男がシャフトに近づくと、そこにあるパネルを操作する。すると、男たちのいる床が開き、何かの装置が現れた。
 兵士は、その装置から信号銃のような物を取り出すと、大きな弾体を取り付け、士官に手渡した。

「本当に、よろしいのですか?この集中点火栓に点火すると、30分後にこの要塞は崩壊します。それなのに、撤退命令も出さず、警報装置も切ってしまわれるとは……」

 兵士が、士官に訊ねる。

「全て、景継様のご命令だ。無念を抱いて死んだ魂が多ければ多い程、あの方のお力は高まるのだ。それは、敵も味方も関係ない。それに、一人でも多くの敵を生き埋めにするためには、足止めが多いに越したことはない」
「しかし……」
「くどい。全ては総奉行呪殺のためだ。ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)呪殺が成れば、この場で散っていく者たちも報われよう」

「待てい!」

「な……!だ、誰だ!」
「俺の名は、エヴァルト・マルトリッツ。俺は、オマエらの野望を砕く者、勇者だ!
「フン、痴れ者が!やれぃ!」

 そう兵士に命じ、士官は点火栓に着火しようと銃を構える。しかしそこに【アクセルギア】で時間を引き延ばしたエヴァルトが突っ込む。

「させるかぁ!」

 点火銃を奪おうと、エヴァルトが手を伸ばす。しかし、銃に右手が届くその瞬間、エヴァルトの手に激しい衝撃が走った。
 下から振り上げた士官の軍刀が、エヴァルトの右手に食い込んでいる。

「な、なんだと……」
「『時延ばし』が出来るのは、貴様だけではない!……ハァッ!!」
「グワァ!」

 気合の声と共に、士官の刀がエヴァルトの右手を切り落とす。
 機械の腕が、煙を上げてゴトリと落ちる。  
 返す刀でエヴァルトを両断しようとする士官。
 それを、懐に飛び込んで避けるエヴァルト。

 2人は組み合ったまま、床の上をゴロゴロと転がった。士官の手から離れた銃が、床を滑って行く。

「しまった!」
「諦めろ!こんな方法で、世の中は変えられない!」
「貴様こそ、我々を止められると思うな!」
 
 30倍に引き伸ばされた時間の中で、銃を求め、奪い合い、激しくもつれ合う2人。 
 5秒という時が過ぎ、兵士が我に返った時、2人は、共に立ち上がることも出来無いほど傷を負っていた。

「何をしている!早く銃を取れ!」

 士官の声に我に返る兵士。足元に、点火銃が落ちている。

「よせ!さっきお前も言ってたじゃないか!本当に、仲間を見殺しにしていいのか!」

 エヴァルトの言葉に、銃を拾おうとした兵士の手が止まる。

「もう一度考え直せ!こんな、屍の上に屍を築くような方法で、世直しなんか出来ない!」
「抜かせ!なら、金と権力で我らから全てを奪い取る貴様らのやり方が、正しいとでもいうのか!」

 士官が、エヴァルトに叫ぶ。

「ナニ!」
「思い出せ!お前の息子が、どんな目にあったのか!我らが、どれほどの屈辱を味わったのかを!『このままでは、息子に合わせる顔がない』そう言ったのは、貴様自身ではなかったのか!」

 士官のその言葉が、一度は止まった兵士の身体を動かした。兵士は銃を構えると、点火栓に向ける。

「やめろー!」
「う、うわーっ!」

 兵士は、叫び声を上げながら、引き金を引いた。
 エヴァルトは、馬乗りになっている士官を巴投げで投げ捨てながら、アクセルギアを再起動する。

『パシュゥ』という音と共に、撃ちだされる弾体。
 その弾体目掛けて、【ロケットシューズ】で床すれすれに飛びながら、突っ込むエヴァルト。
 弾体が、点火栓目指してゆっくりと進む。

「とどけぇーー!」

 必死に左手を伸ばすエヴァルト。さらに少しでも弾体の速度を遅らそうと、《サイコキネシス》で弾体に力をかける。
 しかしエヴァルトの叫びも虚しく、弾体は指をかすめて点火栓へと吸い込まれていく。

「まだだ!まだ間に合うハズだ!いや、間に合わせてみせる!!」

 エヴァルトは点火栓の上に仁王立ちになると、残った左の腕を振り上げた。
 『ガコン!』という作動音がやけにゆっくりと響き、点火栓から煙が上がり始める。

「うおおぉぉ!」

 エヴァルトは、煙を上げる点火栓の中心目がけ、全身全霊の力を込めて拳を振り下ろす。
 エヴァルトの拳は、激しくひしゃげ、潰れながら、肘まで床にめり込んだ。

 そこで、アクセルギアの効力が切れる。

「自爆装置が、起動されました。本要塞は、あと30分後に崩壊を始めます。各員、至急要塞より撤退してください。繰り返します……」

 無機質な音声が、無情にカウントダウンを始める。

「ちくしょうぉぉぉぉ!!」

 絶叫が、辺りに反響(こだま)した。
 


 『自爆装置が起動された』という連絡は、立て篭もりを続けるあゆみたちにも、すぐに伝えられた。

「救援が来るまで、後どれくらいなの?」
「それが……。みんな他の階層にいるらしくて、すぐには……」
「ど、どうするニャ!このままじゃ、要塞と一緒に『ドッカーン!』ニャ!」
「こうなったら、一か八か突撃するしかないか?」
「む、ムリだよ夜果さん!あんなに沢山敵がいるんだよ?脱出する前に、みんな撃ち殺されちゃうよ!」
「それじゃ、このままここで生き埋めになれってのか?」
「落ち着け、みんな!」

 外代の一喝で、その場が、水を打ったように静かになった。

「とにかく、今は救援を待つしか無い。仲間を信じて、待つんだ」
「仲間を信じて……」
「そうだ。ついさっきまで、君たちがずっとやって来たことだ。簡単だろう?」

 外代が、あゆみとミディに優しく語りかける。

「そうだね……。よく考えたら、さっきまでと変わんないね」
「そうだにゃ!何にも、変わんないにゃ〜」

 顔を見合わせて、思わずクスリとするあゆみとミディ。
 そんな2人を、尊敬の眼差しで見つける終夏と夜果。

「そっか……。2人共、ずっとこんな思いをして来たんだね……。すごいなぁ……」
「それに比べて俺たちと来たら……。さっきは怒鳴ったりして、悪かったな、嬢ちゃん。」
「そ、そんな、夜果さん……。いいよ。気にしてないから」
 
 さっきまでの緊迫した空気が嘘のように、和やかな雰囲気に包まれる。

「ほら。言ってる側からお迎えだぞ」

 そう言って、天井付近を指さす外代。

「「「「え?」」」」

 全員揃って天上を振り仰ぐと、何か、天井裏からゴソゴソと音がする。

「よっ……と。せーの!」

 聞き覚えのあるかけ声と共に、通風口のネットが音を立てて吹き飛ぶ。

「あゆみ、ミディ!助けに来たぜ!」
椿ちゃん!?」

 全身ホコリまみれになった椿が、通風口から飛び降りる。

「皆さん、お待たせしました♪」
!」

「セント!お前もよくやったのニャ!エラかったニャ〜」

 飼い主に抱かれ、嬉しそうに尻尾をパタパタするセント。
 
「やった!『信ずる者は救われる』だね、夜果さん♪」
「『持つべきものは友』ってヤツだな」

「さぁ、みんな。早くこっちへ!グズグズしていると、要塞が爆発してしまいます」

 春美と外代に促され、皆、次々と通風口へと入って行く。

(さて、無事脱出出来るかどうかは、これからの一人一人の頑張り次第だが……)

 そう思いつつ、外代は全員の生還を確信していた。
 


「グゥッ!」

 背中から伝わる激しい痛みに、刀真は思わずたたらを踏んだ。
 歯を食いしばって痛みに耐え、無理やりに身体を動かす。
 たった今、トドメを差したばかりの敵兵の身体を力任せに動かして、盾にする。
 その身体に次々と銃弾が突き刺さり、血しぶきがあがった。
 
「でりゃぁぁあ!」

 そのまま死体を盾に、敵陣に突っ込む刀真。
 死体を貫通した弾丸が、何発か身体に突き刺さるが、気にせず突っ込む。
 敵陣の手前で死体を放り投げると、大剣【トライアンフ】を構えて、跳んだ。
 《金剛力》を込め、大剣を振るう。
 『投げ捨てた死体越しに切る』、という予想外の攻撃に、2人の敵兵が《一刀両断》された。

 敵陣に飛び込んできた刀真に対し、敵兵は、冷静に銃撃を浴びせる。
 至近距離にもかかわらず、その射撃は正確だ。
 しかしその正確さ故に、敵の視線と銃口、それに引き金から目を離しさえしなければ、避けることはたやすい。
 敵の一撃を避け、一気に懐に踏み込む刀真。
 同時に間合いの長い大剣を捨て、《光条兵器》『黒の剣』を喚び出す。
 すれ違いざま、居合いの要領で斬りつけようとする刀真。
 だがその手を、一発の銃弾が貫いた。

 刀真の回避の癖を読んだ敵兵が、わざと仲間の攻撃とタイミングをずらして、撃ったのである。
 痛みに耐えながら、斬りつける刀真。
 しかし、力の入らぬ一撃では、敵に致命傷を与えることはできない。
 とにかく追撃だけは避けようと、そのまま前転して距離を取る。
 背後で、弾丸が床を跳ねる音がした。

「刀真っ!」

 駆け込んだ月夜が、【煙幕ファウンデーション】を投げる。
 敵が煙幕に巻かれている内に、刀真と月夜は敵陣を抜け出し、コンテナの影に隠れた。

「刀真、大丈夫?」
「何、この位、どうってことない」
「嘘。こんなに出血してるのに、どうってことない訳ないじゃない」

 せめて止血になればと、傷口を布で縛る月夜。
 刀真は、痛みに顔をしかめる。

「そんなコトより、唯斗たちはどうした?」
「わからないわ。多分、新手を食い止めに行ったんだと思うけど……」
「そうか……。また、新手が……」

 刀真たちは、仲間たちの退路を確保しようと、中央門を死守していた。
 連絡では、皆あと少しのところまで来ている筈だ。
 上層や中層の仲間たちはそれぞれ手近な入口から脱出すると言っていたが、地下へ降りた祥子グラキエスたちにとっては、ここが、一番近い脱出口になる。

 敵もそれはわかっているようで、ここにかなりの戦力を振り向けていた。

「爆発まで、あと何分だ?」
「あと10分よ」
「10分か……」

 そう言って、刀真はコンテナに手をつきながら立ち上がる。
 ともすれば膝をつきそうになる刀真を、咄嗟に月夜が支えた。
 心配そうに刀真を見つめる月夜。自然と、2人の目が合った。

「あと10分、なんとしても持ちこたえる。力を貸してくれ、月夜」
「勿論よ。あなたを守るのは、私の仕事だもの」
「……頼む」

 近づいてくる足音に、2人は身構えた。



プラチナ、あと何分だ?」
「あと10分です」
「まだ20分しか経ってないのか?」
「ほぅ……。唯斗が弱音を吐くとは、珍しい」
「そりゃ、そのくらい言いたくもなる。祥子たちが出て行ってから、ずっと戦い通しだ」 
「フフ……。たまには、そうして弱っているおぬしを見るのも、悪くないものよの」

 エクスが、そう言って艶やかに笑う。
 顔は既に血糊や煤で汚れきっているが、その美しさは少しも失われていない。

「じゃが、いつまでもそのままでは困るからの。さぁ、もうひと頑張りじゃ」

 エクスの《激励》を受け、唯斗は見る見る力がみなぎってくるのを感じる。


 唯斗たちは、中央門の外側から攻め寄せる敵を防いでいた。
 始めにトーチカや塹壕にいた敵は既に無く、今相手にしているのは、敵の増援である。
 この敵は、今までとは比べ物にならないほど手強く、また互いに防御拠点(唯斗たちは門、敵はトーチカや塹壕)があることもあって、長期戦の様相を呈していた。

「兄さん、姉さん!なんか敵さんたちが、大きいの持って来ました!」
「何?」
「大きいの?」

 睡蓮の言葉2人が振り返るのとほとんど同じタイミングで、頭上にスゴイ衝撃が走った。
 上から、ガラガラと岩が幾つも落ちてくる。

「な、なんだ?」
「た、大砲?」

 土煙の向こうに見えるのは、大砲、と呼ぶにはややずんぐりむっくりした形状の兵器だった。
 もしこの場に、鉄心のような軍事史や兵器に詳しい人間がいれば、『臼砲(きゅうほう)』と言っただろう。
 臼砲とは『口径の大きさに割に砲身の長さが短い』というその見た目が、臼のように見えたことからついた呼び名であり、主に分厚い城壁や鉄筋コンクリートを破壊するために使われる物だ。
 その臼砲が全部で3門、トーチカの遥か彼方に見え隠れしている。
 3人が様子を伺っている内に、また臼砲が火を噴いた。上から、轟音と共に大量の土砂が降ってくる。

「アイツら、この門を埋める気か!」
「なるほど。確かに、合理的な方法ではあるのう」
「感心してる場合じゃないです、姉さん!」

 などと3人が大声で話している間にも、相手はどんどん発射間隔を狭めてくる。
 このままでは、5分とかからずに門が埋まってしまう。 

「要するに、アレを撃たせなきゃいいんだろう」

 唯斗は、腹を括った。所詮は大砲だ。懐に入り込んでしまえば、撃つことは出来なくなる。

「俺が突っ込む。エクス、睡蓮、支援を頼むぞ」
「兄さん!?」
「うむ。それしかないじゃろうな。……死ぬなよ、唯斗」
「ご安心下さい。マスターは、私が命に替えて守ります」
「頼りにしてるぜ、プラチナ!」

 最後にニヤリと笑って、敵のただ中へと駆けていく唯斗。たちまち敵の砲火が集中する。
 唯斗は必死に《ブレイドガード》で銃弾を弾くが、何せ数が多過ぎる。
 しかも、唯斗自身は知る由もないが、これまでの戦闘で、唯斗の防御が堅いのを見て取った敵は、武器をより威力の高い物に変えていた。
 次々と身体に突き刺さる銃弾が、一つ、また一つと《オートガード》《ディフェンスシフト》《フォーティテュード》《エンデュア》、そしてプラチナ自身という幾重にも張り巡らした防壁を貫き、唯斗の身体に突き刺さる。
 だが唯斗は、決して歩みを止めはしない。
 それどころか、より一層速度を増して、敵陣を駆け抜ける。

「走れ、唯斗!」
「兄さんにヒドいコトする人たちは、許しません!」

 走る唯斗を、《我は射す光の閃刃》と《ポイズンアロー》で援護するエクスと睡蓮。
 その2人にも敵の攻撃は押し寄せるが、最早2人とも身を隠そうともせずに、術をかけ続ける。

「見えた!」

 ついに唯斗の前に、臼砲が現れた。
 勿論周りにも護衛はいるが、まさかここまで突破してくる訳はないと高を括っていた敵兵は、対応が間に合わない。 

「うおおおおぉ!」

 最後の数メートルを一息に跳んだ唯斗は、スピードと体重を乗せた【ティアマトの鱗】の一撃を、臼砲に叩き込む。
 砲身の分厚い鉄板を《ランスバレスト》で貫かれた臼砲は、大爆発を起こした。

 燃え盛る炎の中から、ゆらりと立ち上がる唯斗。
 暑さなどまるで感じていないかのように、歩み寄るその姿に、敵兵がジリジリと後退していく。

「あと……2つ!」

 唯斗は残った臼砲へと、更に一歩を踏み出した。