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リアクション
第3章
その王の間に、そろそろコントラクター達が到着し始めていた。
スウェル・アルト(すうぇる・あると)もその一人。
「……出遅れた。早くしないと」
アルトは打刀『初霜』からソニックブレードを振るい、王の間に蔓延していたDトゥルーとつかさの触手を切り裂いた。
すかさず、パートナーの作曲者不明 『名もなき独奏曲』(さっきょくしゃふめい・なもなきどくそうきょく)がバニッシュで襲い来る触手を押し返す。
見ると、アルトは切り裂いた触手を眺めている。
「嬢ちゃん、どうした!?」
すると、おもむろにアルトはその触手の断片拾い上げ、言った。
「――ムメイ、これ――たこ焼きの、材料」
「……は?」
ムメイ、とは『名もなき独奏曲』の呼び名である。それはいいのだが、この場においてたこ焼きの材料とは一体どういうことであろうか。
「ここには、自らの身体をたこ焼きにして、食べさせてくれるたこ焼きやさんがいる、と聞いた。
その名は、Dトゥルー」
びし、とDトゥルーを指差すアルト。
その場の全員の動きが止まった。
「……人違いだ」
と、Dトゥルーは辛うじて呟いた。強いて言えばタコ違い。
というのは前回にもあった流れである。
そんな律儀なDトゥルーの突っ込みも、もはやザナドゥ時空の影響をどっぷりと受けているアルトには届かない。
「雨にも負けず、風にも負けず……そんなたこ焼きを、私も食べたい」
繊細な瞳を、じっとりと座らせて、アルトは刀を再び構える。
「いや、嬢ちゃん何言ってるの!? 言ってることおかしいでしょ!?
何でたこ焼き屋なの? おなか空いてるのっ!?」
ムメイの突っ込みも無視したアルトは、次々に触手を切り裂いていく。ザナドゥ時空に取り込まれたとはいえ、その戦闘力に変わりはない。
強いて言えば、ちょっと目的がおかしいだけなのだ。
その頃、パートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)と共に迷宮を侵攻している朝霧 垂(あさぎり・しづり)はというと。
「よ、よおし。さっさと王の間に乗り込んで、Dトゥルーとの決着をつけようぜ……で、でも、き、気をつけろよ……何があるかわからないからな……」
ザナドゥ時空の影響で、ものすごくナイーブかつ繊細、そして弱気になっていた。
なんだか垂の様子がおかしいと思いつつも、ライゼは迷宮を攻略していく。
「もう、どうしたのさ垂ったら……あ、こっちは……行き止まりってことかな?」
通路の壁には、金住 健勝が残したバツ印がある。ライゼはバツ印とは反対方向に進もうとするが。
「ま、待て……!! 逆にこのバツ印がトラップってことは……?」
と、すっかり弱気になった垂は、すでに疑心暗鬼の域に達していた。
「え、そうかな……? この塗料、まだ新しいみたいだけど……?」
しかし、ライゼの冷静な分析に構わず、垂はバツ印の方向へと進もうとする。
「い、いいやきっと罠だ、こっちが本当のルートだよ、ほら……すでに解除済みのトラップの残骸だって転がってるじゃないか……ってあれ?」
「あ、垂、危ない!!」
ライゼの声ももう遅い、垂はその残骸に足を引っ掛けて、派手に転んでしまった。
「あ……あーあ、何やってるの、垂ったら……」
スペランカー朝霧 垂。迷宮に死す。
王の間にはいくつもの扉がある。それは迷宮から繋がるルートが決して一つではないことを示していた。
そのうちの一つが、勢い良く開け放たれた。
「魔法少女ハルカ!! 変身ですのぉ!!」
中から現れたのは、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)であるが、今はちぎのたくらみによって変身し、11歳程度の、しかも魔法少女の姿である。
もとより、演技の一環としてバイト中などに幼児化してさらに女装を楽しんだりしていた遙遠だったが、今回は違った。
「悪の元凶、Dトゥルー!! 人々の平和を乱すもの!! ゆるさないですのぉ!!」
黒のゴシックドレスという魔鎧リフィリス・エタニティア(りふぃりす・えたにてぃあ)を纏った遙遠はビシッと宣言する。
ザナドゥ時空の影響化にあるせいで、今は魂の底から自分を『魔法少女ハルカ』だと思い込んでしまっているのだ。また、それはリフィリスも同様で、二人で一人の『魔法少女ハルカ』として戦う気満々である。
「いっくよぉーっ!! 愛と正義の!! シューティングスター!!!」
遙遠――いや、ハルカは小細工ナシの真っ向勝負に出た。そもそも、愛と正義の魔法少女に姑息な手段はありえない。
「――ふん!!」
それを、玉座に座りながら真正面で受け止めたDトゥルー。
その部屋には、Dトゥルーの他には誰もいない。
Dトゥルーの盾から、闇の魔弾が次々に発射されるも、それをバーストダッシュを交えた俊敏な動きでかわしていくハルカ。
「ふふふ……そんなものは、この魔法少女ハルカには通用しないですのぉ!!」
「ええい、ちょこまかと!!」
ならば、とDトゥルーは部屋いっぱいに鎧の中からの触手を張り巡らせる。
触手が邪魔で派手な跳躍な飛行はできない、そこを狙って、Dトゥルーは自らの触手ごとハルカに斬撃を打ち下ろす。
「――くっ!!」
ハルカは辛うじてそれを栄光の杖で受け止め、魔鎧のリフィスが放ったファイアストームで反撃する。
「ふん……なかなかやるな」
部屋中の触手を焼き払うが、Dトゥルーの鎧から這い出す触手はまるで無限に溢れているようにも思える。
「まだまだ……こんなものではないですよぉ!!」
強気の発言をするハルカだが、リフィスは呟いた。まだDトゥルーには余裕がある。
「とはいえ……キリがないですのぉ……」
なんとか粘らなければならない、とハルカは思い始めていた。宮殿に乗り込んだコントラクターは自分達だけではない。他のコントラクターがこの『王の間』に到達するまで、時間を稼がなければならないと。
突然、『王の間』の扉が開け放たれ、怒号が響いた。
迷宮をくぐり抜け、王の間の扉を勢い良く開け放ったその男の名は、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)。
「ここか、Dトゥルーという魔族がいるのは」
王の間で待ち受けているのは、いかにもDトゥルー。玉座に座って、泰宏を見下ろす。
この部屋には、Dトゥルーの他には誰もいない。Dトゥルーは、重々しく口を開いた。
「いかにも」
その応答に、泰宏は凛とした声を王の間に響かせる。
「私は、世界に終焉をもたらす闇黒騎士――泰宏・ミスティレイン!!」
その後ろから、パートナーである緋柱 透乃(ひばしら・とうの)と緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が顔を出した。
「あー、やっちゃん……様子がおかしいと思ったのよねー」
透乃の呟きも意に介さず、泰宏は単身Dトゥルーと対峙している。
「Dトゥルー……ダークトゥルーだと? 真の闇の使い手はこの私一人で充分!!」
どうやら、泰宏も思う存分ザナドゥ時空に巻き込まれているらしい。【混沌】の通路でバーサーカー ギギと戦った透乃と陽子だったが、途中からギギの数が増え、その反作用で一体ごとの戦闘力も落ちていったため、透乃としては大変に欲求不満なのだ。
透乃の妻であり、戦闘においても頼れるパートナーである陽子は、泰宏の様子を見てため息をつく。
「あらか……何か妙に気合が入っていると思ったんですよねぇ……。
まあ、私としては透乃ちゃんが思う存分楽しめるようにお手伝いできれば、それでいいのですけれど」
と、陽子は微笑みを絶やさずに片手で『凶刃の鎖【訃韻】』を振り回し始めた。
それに合わせ、透乃は両手に燃え上がる『烈火の戦気』を弾き合わせた。美しいピンクの火花が散る。
烈火の戦気は透乃の精神状態に応じて闘気の色が変わる。ピンクの炎は、彼女が最も自然な状態の色。
透乃は、楽しんでいるのだ。この戦いを――いや、殺し合いを。
「さあ……せっかくだもの、楽しく殺し合おうよ」
にたりと、醜く口元を歪ませたDトゥルーは、ゆらりと玉座から立ち上がる。
「くっくっく……ようやく楽しめそうな相手が現れてくれたか。
そうとも……理屈などいらぬ、ただ楽しめれば良い。この闘争を! 殺し合いを!!」
Dトゥルーは剣を抜き、最もやる気のある透乃へと突進する。
「――ふっ!!」
真正面から振り下ろされた剣を、すんでのところで回避する透乃。
そこに、泰宏が遠距離から攻撃を仕掛ける。
「くらえ、混沌をもたらす霧――カオスミスト!!」
でも実際はバニッシュだから光輝属性
「――!?」
自称カオスミストを盾で防いだDトゥルー。陽子の鎖がさらに盾へと打撃を加え、Dトゥルーの動きを一瞬止める。
「とりゃっ!!」
そこに、透乃が2,3撃の打撃を加えた。もちろん、鎧に覆われたDトゥルーに対し、その攻撃は大きなダメージを与えられるものではない。
「ふん、軽いな」
Dトゥルーが右手の剣を水平に薙ぐと、透乃はそれに合わせて大きく体勢を下げて避ける。
全身を『闇の闘気』で覆っているとはいえ、仮にも魔族の王を名乗る者の一撃である。まともに喰らったらどうなるか、考えるまでもなかった。
「ひゅぅっ!! あっぶなーいっ!」
だが、まだ透乃にも余裕はある。泰宏の遠距離攻撃に、透乃は至近距離での格闘戦。そして、陽子がその合間を縫って、透乃の動きに合わせて中距離からの攻撃で隙を作る。3人でひとつのパーティとして、バランスのとれた陣形だ。
透乃はこの陣形で、少しずつDトゥルーとの戦いを楽しむつもりでいた。
まずはお互いの手の内を読むところから始めようじゃないか。
まだ戦いは、始まったばかりなのだから。
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