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リアクション
──カモミールの花言葉の一つは癒し。
「お帰りなさい。疲れたでしゃろー」
甲板に帰り着いた生徒達を待ち構えていたのは、信太の森 葛の葉(しのだのもり・くずのは)だった。
甘い香りのするカモミールティーをトレイに乗せ、飛空艇や水上バイクから降りた一人一人に渡していく。
「あともうちょいさかいにな。これこれ、まぁなんとりらっくす効果と疲労回復にきくんやて。夜の匂いとこの爽やかな匂いとがあわさって素敵どすなぁ。んー、体もあったまって休まるなぁ。
あ、でも寝ちゃあかんよ? 寝たら死ぬよー。まだもうちょっとだけ頑張ってなぁ。あ、肩でもももか? はいはい、遠慮せずにー。ごめんけど、最後まで気をぬかんとってなぁ」
息をつく暇もなく喋りながら、手際よく順にお茶を渡す。
そっちこそよく疲れないなぁ、と海軍の一人が、椅子に腰をかけて言った。彼の手にも既にお茶の入ったコップがある。
葛の葉は、甲板に残った生徒や海軍たち、それに船を回って、船員たちにも既に配っていたのだった。
「ありがと。あ、でも、俺たちばっかり悪くないかな? お茶会のお嬢さんたちはまだ接客中だろ」
怪我人がいないか、チェックにデッキに来た軍医が尋ねる。
「無粋な人ですね。ご厚意に黙って与れないんですか」
いつの間に上って来たのか、無言でお茶をすすっていた主計長が軍医に言った。
葛の葉は笑顔でひらひら手を振って、
「ええんどす、あっちにも順繰りに休んでもろうて、お茶出してますさかいな。それにせっかくのお茶会さかいに、少しでもお茶を楽しんで欲しいどす」
──カモミールの花言葉の一つは親交。
葛の葉の言葉通り、ホールではディナーが終わり、来賓は星空を見ながら、ゆったりとした気持ちで船旅を楽しんでいた。
美味しいお茶と御菓子、そして食事。船の外には美しく映える月と、煌めく無数の星々。
何事もない、退屈なほどの時間──戦闘は船から遠くで行われており、何の音も聞こえず、視界にも映らなかった。そう、フタバスズキリュウが泳いでいただけだ。
静かな時間を楽しんでもらうように、とスタッフの多くが下がり、人もまばらになったホール。
日野 晶(ひの・あきら)が彼らにお茶を出していた。
「様々なことがございましたが、最後はカモミールティーとともにナイトクルーズの余韻を楽しんでいただけたらと思います。
今後ともヴァイシャリーとのよりよい関係を築いていただけたらと切に願っております。本日はありがとうございました」
「こちらこそ、いい商談だった。ただお茶を出す、それだけのことに多くのものを見せて貰った」
アダモフが言えば、ハーララも頷いた。
「船の上だけでも、会話だけでもどれだけのことができるか……教えてもらったよ」
側のテーブルでは、ヤーナとカイの二人も席に着いてお茶を楽しんでいる。
──カモミールの花言葉の一つは苦難に負けない力。
控室に戻ったお茶会のスタッフたちを待っていたのは、副会長候補の荒巻 さけ(あらまき・さけ)の笑顔とカモミールティーだった。
「お疲れ様ですの」
「お疲れ様、でした」
桜子がさけに頭を下げ、お茶を受け取り椅子に腰掛けた。
「あの……副会長に立候補されたんですよね」
「ええ。支えるだけのつもりが、桜子さんに感化されてしまいましたの。
革命派の新しいマナーの確立、という意見も必要ですの。でもそれは補助的な意味合いで、だと思います。百合園がゆっくりとヴァイシャリーに根付き、関係を築いていったことを忘れないでほしいですの」
それからさけは、一人一人にお茶を渡しながら、一人一人の顔を見ながら話しかける。
「カモミールの花言葉の一つは苦難に負けない力。今回のお茶会で、役員であろうとなかろうと、百合園をよくしようという気持ちが伝わりましたわ。その気持ちを持ち続ければどんな苦難も乗り越えられると思いますの」
そして最後の一杯を自分のために淹れて。
「百合は、ひとりのため、みんなのために咲きます」
そしてやがて、夜の海を楽しんだ船は港に入港し。
来賓が降り、百合園の生徒達も降り、最後に一部を残して軍人たちも船から降りて。
「お茶会」は成功の裡に終わったのだった。
*
「集計が終わりました」
マリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)が、集計結果をまとめた紙を
ラズィーヤに手渡す。
生徒会長の春佳及び副会長の桃子もラズィーヤから手渡された紙に目を通し、頷き合った。
彼女たち立ち合いの元、選挙管理委員会によって開票された投票用紙──百合園への様々な願いと想いがこめられたその一枚一枚の、結果。
「ええ……間違いありませんわね」
「明日は本校での投票があります。集計結果を併せまして再度ご報告させていただきます」
「ありがとうございますわ。楽しみですわね」
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