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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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第10章 物質を理解せよ・・・製錬から精錬Part1

「月夜よ、今大丈夫かしら?」
 環菜に進行状況を説明しようと、携帯電話で連絡する。
「えぇ、何?」
「運転車両と2両分の客車の発掘は終わったけど、4両分の客車がまだみたい。引き続き大佐や静麻たちが作業を続けてくれているわ。だた、車両の殺菌消毒は必要みたい」
「まぁそうでしょうね。北都たちがキレイにしてくれるみたいだから、それは問題ないわ」
「それじゃ、またね」
 記憶術で覚えた状況を伝え終わると、プツッと通話を切った。
 2人がヴァイシャリーの別邸につくと、すでにアダマンタイトの製錬が始まっている。
「撮ってもいいですか?」
「あまりコメントは出来ませんけど、いいですよ。今は魔法学校の校長からネット電話で聞いた手順で進めているんです」
 刀真に声をかけられた火村 加夜(ひむら・かや)は軽く頷くと、すぐさま石と金属の分離実験に戻る。
「この部分を取り出さなければいけないんですね」
 魔導レンズで覗き込むと、いくつもの小さな点がチカチカと青白く発光している。
 それを手にした者の手と目が同じか、持ち手とレンズで識別され、魔力の源を知る知識がどれほどあるのか。
 扱う者により、鮮明に見える度合いが異なる。
「色素データをパソコンに送ります」
「他の元素に色をつけて、それに該当するものに番号をつけましょう」
 受け取った緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、まず金属以外の物質を取り除こうと、スポイトで薄いピンク色の液を鉱石に垂らし元素に色をつける。
 アダマンタイトの金属成分に液が触れないよう気をつけながら、気の遠くなる細かな作業だが、彼は淡々とこなしていく。
「番号の表の下に、成分についてのデータを入れておきますか?」
「えぇ、その方が分かりやすいです」
「まずは酸化物だけ取り除きましょう。表をそちらのPCに転送しましたよ」
「アダマンタイトってホントにあったんだ!」
 ゲームの世界でしか存在しえないと思っていたが、それに触れたヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)は興味津々に水色と黄色の瞳を輝かせる。
「聞こえてます?」
「あっ、ごめん。表を見て何すればいい?」
「二酸化珪素のみを取り除いてください」
「んー・・・と、どの道具を使えばいいんだろう・・・?」
 アゾートが抽出用に貸してくれた物の中から、どれを使えばいいのか分からず悩んでいると・・・。
「ランプみたいなやつの中にいれるのよ」
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が指差し教えてやる。
「へぇー、そうなんだ。後は、もらったデータの数値を打ち込めばいいのかな。あれ?どっか行っちゃった」
「シオン!教えるならちゃんと教えていけ!えっとな、モニターに色が現れるから、その表に合った元素記号を入れるんだ。ちまちま分離させていく感じだな」
 何のことかしら?という態度をとる彼女に、パラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)が怒鳴る。
 ヴァイスの傍でフィリップが代わりに、丁寧に教える。
「Symって表示してある隣に入力すればいいんだね」
「うん、そうだ。後は間違えないように入力するだけだ」
「ちょっとしたゲームみたいな感じかな?」
「SiOの後に小さい2を入れるんだ。酸化物も含まれてるから気をつけろよ」
「・・・ハァ〜・・・ホントにいた」
 別の現場での作業が終わり、個人的な興味もあるけどほとんど師匠のフィリップの命令できた月詠 司(つくよみ・つかさ)が、彼を見るなりため息をつく。
「つ〜か・・・遅せぇぞツカサぁ〜、さっさと準備して手伝え!」
「あら、ツカサ遅いじゃない〜」
「シオンくん、なぜここに?」
「ぇ、なぜって?手伝いに来たに決まってるじゃないの♪」
 彼女も一応手伝っているようだが、半分以上嘘だ。
 ネクロマンサーだから当たり前ですね・・・と納得せざるを得ない。
「・・・後、あの3人なら帰ったわよ」
 急用とか何とか言ってたわ、というふうに言う。
「ウィザード系のクラスが必要だからといって、何で魔法少女に!?」
 今からでもネクロマンサーにチェンジしてもいいじゃないですか!と抗議する。
「じゃなきゃせめてこの変身を解かせてくださいよっ!」
 なぜ女装のまま!?とさらに文句の言葉を並べる。
「って言うか、アゾートや他の皆にソレ。見られるの初めてじゃないんだし、いい加減に慣れなさいよ〜♪」
 慣れさせる気もないが、可笑しそうにクスクスと笑う。
「無理です!だから他のクラスにチェンジを・・・」
「・・・ぇ、何言ってるのツカサ?ツカサは魔法少女以外のウィザード系クラスになれないじゃない」
 司が妙なことを口走ったかのように目を丸くし、当然のようにしれっと言い放つ。
「それに魔法少女なんだから相応の格好してなきゃ★アイだってそう思うでしょ?」
「―・・・ん・・・」
 女装がどうかという前に、シオンの“魔法少女は相応の格好が必要”という言葉の部分に、こくりと頷いたアイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)が賛同する。
「あぁ〜、こうなったら作業に没頭して現実逃避するしかっ・・・」
「フフフ・・・」
「・・・また、言った・・・」
 向こうでも同じようなことを言ってた、とボソッと呟く。
「召喚師とか陰陽師の人もいるのにっ」
 特に、大勢いる召喚師を羨ましげにちらりと見る。
「なんていうか、ドンマイ?」
 憐憫の眼差しを向けるヴァイスが疑問符を浮かべた言葉を投げる。
「しくしく・・・」
「そんなにしょんぼりしなくても、そのうち他のクラスになれますよ」
「そうでしょうかね・・・」
「大丈夫です、似合ってますから。ヨウエンも時々、ハルカに・・・あれ?落ち込んでしまいましたね」
「(わ〜・・・さらっと留めさしちゃったわね)」
 まったく悪気はなかったのだが、彼の言葉に沈められた司をシオンが眺める。



「ずーっと見ていると目が疲れてくるなー・・・」
 モニターに映された色を見ながら、金属以外の元素を取り除く作業を続けるヴァイスは、ぽとんと目薬をさす。
「アダマンタイトだけの部分が見えてきたね。キレイな色だな、これが修理に使われるとかもったいないな」
 サファイアの輝きに似た金属が見え、保存しておきたい・・・というふうに眺める。
「確かに・・・アダマンタイトで修理とか、どんだけ贅沢なんだよコイツ」
 フィリップもランプ型の道具で鉱石の分離を手伝いながら、魔列車にどうして幻級の金属が使われるんだと呟く。
「なぁ、アイ?そう思わねぇか?」
「―・・・きっと、たくさん採れた・・・」
 昔はたくさんアダマンタイトが採れたのかも、とアイリスが小さな声音で言う。
「その場所をガーディアンが守っていたなら、無理なんじゃないかな」
「ツカサたちは採ってこれたけどな」
「うーん、それは彼らが突破出来る力があったからだと思うよ。そうじゃなきゃ、とっくの昔に盗掘者に全部盗られているかと」
「そりゃそうだが。俺たちはそこに行ってないし、なんとも言えないな」
 ヴァイスの言葉にガーディアンがどんなものか、分からないしな・・・と言う。
「来てみたらよかったじゃないですか。鋼鉄のフライパンとか、鋼鉄のキャンディースティックで襲ってきますけど!」
 物理攻撃から身を守る手段なしに、殴られていたらタダじゃ済まないですよ、と司が大きな声で言い放つ。
「風のウワサによると、誰かをサイコキネシスで戦わせていたとか」
「それは・・・そういう流れだったからです!」
「えー、人を使うとか。ツカサのくせに生意気よ」
「ツカサの後ろに金髪の女子がっ」
「へっ!?」
 ドキッとした司はガタンッと席を立ち、キョロキョロと辺りを見回す。
「いないじゃないですか・・・フィリップくん」
「ウワサをすれば影ってよく言うだろ?」
「うぅ、じゃあ話題に出さないでくださいよ・・・」
 あまり言うと“呼んだ?”と本当にルカルカくんがきそう・・・と頬から冷や汗を流す。
「さーて、精錬工程をしてくれる人に渡してこようかな」
 助けを求められる視線から逃れようと、“ごめん、助けられないよ”という感じで、ヴァイスは司から離れていく。
「ん〜、しかしアレだな・・・。やっぱ若いヤツは飲み込みが早くて良いねぇ〜・・・俺なんか勘でも鈍ったのかやり方は合ってるはずなんだが。今一巧く出来ゃしねぇ・・・つーわけでだ、ツカサ、面倒くせぇ工程は全部お前やっとけ、コレも修行だ・・・つーか師匠命令な♪」
 地道な作業を司に投げたフィリプは休憩室へ去っていく。
「はぁ、やっぱりそうなりますか。だけど私1人って、シオンくんが・・・。えぇ〜!?何で寝ちゃってるんですかーっ!」
 仕方なくシオンと進めようとするが、椅子に座ったままスヤスヤと眠っている。
「あのゲームの時なんて、借金を全部押しつけられたのに・・・。今度もまたこんなパターンとはっ。は!そうだ、給料として支払われたお金を返済にあてるチャンスですね!きっと師匠もシオンくんも、明細なんて見ないだろうし・・・でも気づかれたら・・・っ」
 どうせ私が働いた分なんですから、返済の一部として使ってしまえば!と考えつつ、バレたら何されるか分からない・・・と迷ってしまう・・・。
「ん?ところで、精製の際に出るであろう“スラグ”はどうするのでしょうか?」
 悩みは消し去っていないが、使い道がなさそうなそれをどうするのか、アイリスに聞いてきてもらう。
「・・・ん?・・・聞いてくる・・・」
 遙遠のところにトコトコと走っていく。
「スラッグ・・・・・・、どうする?」
「二酸化珪素のことですか?」
「・・・たぶん」
「ガラスの素材になるので、内装に使えると思いますよ」
「・・・分かった・・・ありがとう・・・」
 ぺこっと頭を下げると、ぱたぱたと司のところへ戻る。
「どうでしたか、アイくん」
「・・・スラッグ、・・・内装の・・・材料にする。・・・ガラス・・・になる」
「魔列車の窓ガラスと混ぜるってことでしょうか。あぁ、私のハートもガラスなのに、シオンくんは・・・」
 大勢の前で女装させられていることを思い出し、どよ〜んと沈む・・・。



「精錬の方をお願い出来るかな?あれ、隠れちゃった・・・」
 ヴァイスは悩める少年司を放置し、アダマンタイト以外の金属を取り除いてもらおうと、アニス・パラス(あにす・ぱらす)に声をかけると、少女は佐野 和輝(さの・かずき)の白衣の中に隠れてしまった。
「ごめん、アニスは人見知りする子なんだ」
「じゃあ、これ渡してくれる?」
「あぁ、渡しておくよ」
 話しても平気そうな相手なのに、アニスの人見知りにも困ったものだな、どうしたらいいものかと考え込む。
「アニス、アダマンタイトの精錬して欲しいって、これ預かったぞ」
「う・・・どうやるんだったかな」
 ネット通話でエリザベートから伝えられた手順を思い出せず、おろおろとする。 
「酸化物と分けなきゃいけないんだが・・・」
 人見知りの影響で話も聞いてなかったのね、と禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)が肩をすくめる。
「容器の中に金属を固定して、このゴーグルを顔につけるんだ」
「宇宙戦争とかで使ってそうな感じだね!」
 いつもの天真爛漫なアニスに戻り、薄紫色のゴーグルを顔に装着する。
「で、これつけて何すればいいの?」
 くるりとリオンの方を向き、早く精錬作業をやりたそうに目をキラキラと輝かせる。
「目と耳の間辺りについているボタンがあるだろ?それを押してみろ」
「左のほうかな?えいっ!」
 ぽちっと押すと、容器の中にある不純物が混ざった金属のデータを、読み込み始める。
「図とアルファベットだらけで分からないよ〜」
「むっ、私の方に表示されているものとは違うのか?」
 処理してくと結果は同じになるのだが、あわあわとパニックになっているアニスと、リオンのゴーグルのモニターに映され方が異なるようだ。
 リオンの方には複雑な計算式が表示されている。
 使用者の目を通して、どれだけ魔力のこもった素材を理解出来ているか、それを判別されての結果だ。
 より理解している少女には、それまでの式が表示され、リオンは式を解読しなければならないのだ。
「エリザベート校長に聞いてみたらいいんじゃないか?」
 同じ女の子同士なら慣れやすいかと思い、和輝はアニスの人見知りを直そうと、校長と話させてみる。
「知らない人ってわけじゃないんだしさ」
「うぅ・・・でもまだ、上手くお話する自信ないよぅ」
「怖くないから話してみような」
「むぅ、まだ無理っ」
 少女はイヤイヤをするように、ふるふると首を振る。
「困ったな・・・。誰かに聞かなきゃ進まないんだが」
「どこか分からないところがあるんですか?」
 精錬用にアダマンタイトの物質のデータをまとめている加夜が和輝に声をかける。
「ちょうどいいところにきてくれたな。実はアニスに、ゴーグルの使い方を教えてほしいんだが」
「いいですよ。どこが分からないんですか?」
「いや、私でなくアニスに教えてやってほしいんだが」
「その子はどこにいますか・・・?」
 アニスと呼ばれる少女が見当たらず、テーブルの下などを見て探すが見つからない。
「こら、アニス・・・。教えてもらえるんだから、出てこいよ」
「だってだって、他の人とお話するのは・・・っ」
「あらあら、べったりの甘えん坊さんですね」
 和輝から離れない少女を見て、思わず可愛いと思ってしまった加夜が微笑む。
「他の皆は、それぞれ話し合ったりしてるんですけど。ずっと3人だけなんて、仲良しさんなんですね」
「わっ、私は違う!」
 べったりさん2号扱いされたリオンが、全力で否定する。
「そうなんですか・・・?」
「私への誤解はさておき、このままでは進まないな・・・」
「じゃあ、リオンさんに教えてあげますから・・・。その通りにやってみてください」
「ふむ・・・そうだな」
 彼女が聞いているフリをして、アニスがそれをマネればよいかとリオンが頷く。
「容器の真ん中にスイッチがあるから、押してみて」
 加夜もゴールグルを顔に装着して説明を始める。
「これか」
 スイッチくらいは代わりに押してやれるかと、リオンがぽちっと押したとたん、長方形のモニターが容器の前に現れた。
「まず、簡単な元素から取り除いていきますよ。先にやるから見ててくださいね」
 彼女は人差し指でモニターに触れ、アルミニウム元素から取り除き始める。
「見づらかったら、手で画面を広げて拡大表示するんです」
 2つ目のモニターを表示し、指で酸化アルミニウムの構造画像を摘んでそこへ移す。
「酸化鉄とかの精錬まですると時間かかっちゃいますから。時間があった時でいいですよ」
 構築式から酸素とアルミニウムの元素を離し、もう1つのモニターにデータを移しアルミニウムと別々に仕分けする。
「さらに酸素を分解して、集めたそれをオゾンに生成することは可能か?」
「面倒じゃなかったら、それもいいかもしれませんね」
「(うぅ、元素の理解は簡単だけど、処理がむずかしぃ〜ね。でも、なんとかついていかなきゃっ!)」
 アニスは相変わらず加夜でなくリオンの動作を真似ながらも、何とか理解しようと奮闘している。
 和輝の傍に隠れつつちらちらと見ながらやってるため、作業が遅れそうになってしまう。
 教えてあげている加夜は少女を気づかってやり、手元が見えるようにしてあげてゆっくりと進める。
「不純金属を取り除いたら、元素ごとにグループ化して精製のところを押すと、容器の中にまとまって精錬されるんです」
「全て終わった後、残ったのがアダマンタイトということか?」
 説明をメモしながら聞いていたリオンが質問する。
「そうなんだけど。ただ、不純金属が残ったまま精錬すると、その中に含まれてしまうんですよ。そうなると不用部分を探す作業をしなきゃいけなくなります」
「ほう・・・。で、アダマンタイトの金属しかないという判断は、どのように行っている?」
「私や遙遠さんたちが調べてますから心配いりません。後は・・・大丈夫ですか?」
「また何かあれば聞きに行かせてもらう」
「真ん中のテーブルのほうにいるから、何かあったら声かけてくださいね」
 リオンにそう言うと加夜は和輝の白衣の中にいる少女に優しく微笑みかけ、3人から離れていく。
「アニス、理解出来たか?」
「うん、なんとなくだけど!」
「和輝は金属別に仕分けしておいてくれ」
「それくらいなら手伝えるか・・・」
「順調に進んでるみたいだね。これもよろしく」
 製錬されたアダマンタイトを、ヴァイスが3人のテーブルに置いて去っていく。
「―・・・・・・・・・。・・・まだ結構あるんだな」
 再びケースいっぱいに積まれたそれを見たリオンは、思考が一瞬フリーズしかかった。
「補助してやるから、気長にやろうアニス・・・」
「いっぱいあるね!よーし、がんばってアダマンタイトだけの金属にしちゃおうっ」
 その量に深くため息をつくリオンの傍ら、疲れ知らずなのかアニスは楽しげにはしゃぐ。
「まぁ・・・交代がくるまでやれるだけやろう」
「あ・・・あぁそうだな」
 こういう時もあるさ・・・と和輝に、ぽんっと肩を叩かれる。