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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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第9章 ゴミなんて出させない!ささっとクリーンメイド

「あっ!もう引き上げ始まっちゃってる!」
 遅れて来てしまったけど、お掃除でも手伝おうとミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は運転車両に入り込む。
「こう見てみると、列車って結構広いよね〜」
 パートナーと自分たちしかいない空間をじっくりと眺める。
「さて、私たちもがんばらないと、ですね」
 たっぷんと車内に残る海水を和泉 真奈(いずみ・まな)が雑巾に染み込ませる。
「海のものは海に戻してしまう方がいいですから」
「真夜中からお掃除なんて、はりきっていますね!」
 下川 忍(しもかわ・しのぶ)も手伝おうとモップを手に、ハウスキーパーで天井の掃除を始める。
「お掃除は上からやらなきゃいけないんですよ」
 彼女が拭いた後を脚立に乗った赤坂 優衣(あかさか・ゆい)が雑巾でキレイに拭く。
「1度拭いただけじゃ、完全に海水を拭き取れませんからね」
「もう掃除を始めているんですね。少しインタビューさせてもらいたいのですが」
「いいですよ。どうして今から始めているかと言いますと・・・。駅の予定地へ運んでもらう前に、海のものはここへ戻しておかないといけないんですよ。それに、日が高くなってからでは、汚れた部分が乾いて落ちにくくなってたりしますから。お掃除の基本として当たり前のことなんです」
 ナレーターの刀真に声をかけられ、これくらいメイドとして当然です!というふうに忍が答える。
「とても大変なお仕事かつ、的確な判断を要することなんですね!」
「向こうで改めて殺菌消毒する時に、なるべくそういったものを使わないようにするためです」
「なるほど、環境のことを考えてということですか」
「はい!では、掃除に戻りますね」
「頑張ってください!映像を洞窟へ戻しましょう」
 刀真がそう言うと月夜も発掘現場へ行き、再び撮影を開始する。
 2人が去った後、忍たちは壁拭きに取りかかっている。
「急いで終わらせないと、客車も浜辺に到着してしまいますよ」
「それは分かるけど、焦ると汚れを見落とす原因になりますからね」
「ふぅ〜壁拭き完了!次は計器かな?うすーい布で作ったお掃除道具でキレイにしてあげようね」
「ミルディア、それってPCの隙間を拭き取るやつに似てますけど・・・」
「うん。あると便利かなー、と思って」
 プラスチックの棒にボンドで布をくっつけたシンプルなものだが、ある程度の隙間なら届くものがいるかな、と思って持ってきたようだ。
「ここに来る前にお掃除担当もする校長が、そういうのもあるといいかな、って言ってたんだよ」
「私も何か用意してくればよかったでしょうか?」
「じゃーん、皆の分もあるよ!」
「使わせてもらいますね。なるほど、これなら無闇に触れずキレイに拭き取れますね」
 真奈も使ってみようと手作りのミニモップもどきを、レバーの隙間にニュッと入れる。
「窓は割れていますし、そのままにします?」
「お掃除するなら、それもキレイする必要があるんですよ!素材によっては、溶かして再利用だって出来るんですからね」
 廃棄だなんてもったいない!と、忍はカーテンを外すと窓を指紋1つ残さずピカピカにする。
「窓の桟はさっきもらったやつを使いますか。細かい傷がついてしまう心配もいらないってことですね」
「忍さん、洗物はどうする?」
「ドア付近にまとめておいてくれれば、後でお洗濯しますよ。もちろんここでは洗剤は使わず、水洗いだけですけどね」
「汚水を流すわけにはいかないからね」
「そういうことですね。さぁ、次は床のお掃除をしましょう!」
 モップを手にパタパタと走り、それに海水を吸い込ませる。
「仕上げは雑巾ですね」
 きゅっきゅと海水を拭き取った優衣は、バケツの中で雑巾を絞る。
「ワカメとか海水は海に返してくるよ」
 ミルディアはバケツを抱え、パラミタ海内へザバーッと戻す。
「うわぁああっ!?何か、いっぱいいるよっ」
 ライトで席を照らすと、びっしりとフジツボが付着している。
「船などの天敵ですからね、フジツボは・・・」
 忍は回転椅子の下を覗いてみると、それが隙間なく付着している。
「驚くと思って、他の場所はボクが剥がしておきましたが・・・。こういうところも、見落としてしまいますから気をつけませんと・・・」
「えぇ〜、こんなのどうやって取るの?根元まで取るのって、かなり大変みたいだし」
「スクレーパーでやるんですよ。幸い塗装もされていませんし、それなりに丈夫な金属みたいですから。根ははられていませんでした」
「ずっと、ぎゅーってくっついていたのかな?」
 どうやってひっついていたのか、不思議に思ったミルディアが首を傾げる。
「さぁ、どうなんでしょうね・・・。とりあえず、ボクが剥がしておきますよ」
 カリカリと丁寧にフジツボを剥がし、バケツの中へ放り込む。
「上の方はあたしがやるね」
 {ICN0001694#りゅ〜ちゃん}の背に乗り、列車の上に上がったミルディアは、雑巾で拭き掃除を始める。



 現場の方が気になり、目を覚ましたエヴァルトは様子を見に行く。
「―・・・もう深夜1時過ぎだが。作業の進行度合いはどうなっているんだ?」
「あら、早起きね。運転車両の運搬はまだでしょ?」
 簡易レールの設置を終えた舞香が声をかける。
「いや、運び出せそうなら手伝おうかとな」
「空から引っ張るのが、2機だけじゃ不安だったからお願いするわ」
「一輝たちを起こしてくるか」
「あっ、レリウスも起こしてくれ」
「ん、分かった」
 彼らを起こしてこようと陸のテントへ戻る。
「起きてくれ、引き上げを始めるぞ」
「もう引き上げられるんですか?」
「ふぅ・・・俺はコレットたちを起こしてくるか・・・。―・・・おーい、引き上げを始めるぞ。コレット、ローザ」
 女子用のテントの前に行くと2人のパートナーの名を呼ぶ。
「くぁ〜・・・おはよう・・・って1時じゃないの」
「夕飯の後、夜から始める人たちが進めてくれてたんだ」
「私は簡易レールのお掃除に行ってきますわね・・・」
 ローザは眠そうにぼーっとしつつ、デッキブラシを抱えて現場へ向かう。
「んー、むにゃむにゃ・・・。あさごはーん」
 寝言を言いながらごろんと透乃が陽子に抱きつく。
「きゃっ、透乃ちゃん!?」
「むぅ、今日の朝ごはんは陽子ちゃん?わーい・・・」
「ちっ、違います!コレットさんたちが現場にいったようですけど。もしかしたら客車の引き上げを始めるのでは?」
「引き上げ・・・?なんだ、夢かー・・・ふあぁ〜」
「お手伝いに行きますか?」
「私1人で行ってくるから、寝てていいよー」
 鎧貝を着た透乃は登山用ザイルを引き摺りながら海に入り、手早く車体にくくりつける。
「コレットちゃんのも何本か使わせてもらったけど。これで大丈夫かな?」
「えぇ。掃除が終わったらコレットたちに、準備出来たと知らせてきますわ」
 ローザはデッキブラシで掃除しながら言い、レールの上を点検する。
「陸にいるコレットたちに知らせてきますわ」
 イコンで引き上げをする者たちに伝えようと浜辺へ戻る。
「準備完了しましたわ」
「合図は最初の時と同じよね?」
「えぇ、そうですわね」
「俺にも教えてくれないか?」
「私も聞いておこう」
「ライトが1回点滅した時は、陸への指示ですの。空への指示は2回点滅させますわ」
 エヴァルトとグラキエスの顔を順番に見ながらローザが説明する。
「ほう、なるほどな」
 龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)の到着を待っていたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん) も、説明を聞きながらふむ・・・と頷いた。
「ロープは登山用ザイルを使うのか?」
「コレットが用意したので、それを使ってください」
「了解した!―・・・ドラゴランダーはどこに?」
 目を離した好きに彼は美味そうな生き物がいるなら食ってみたいと、パラミタ内海へ入ってしまった。
「なっ!?止めるんだ、ドラゴランダー、今は発掘が先だ!」
 ニャ〜ンズを食べようと水中で暴れる彼の周りに、怒り狂った海のギャングがニャ〜ンアタックをくらわそうとする。
「ぐぉおんっ!(む、ハーティオンか。仕事だと?我は腹が減ったのだ)」
「これ以上呼び寄せると、現場の方にも巨大なヤツがいってしまうぞ。そういうのは後にしてくれ」
「ぐぁおぉおん!(・・・仕事の後に魚釣りか・・・。うむ、まぁ良かろう。このままやつらを追っていてもらちがあかなそうだしな・・・。なんでも無い、コッチの話だ。さあ、さっさと合体して仕事をやってしまうぞハーティオン!)」
 やれやれ仕方ないかと、ザバンッと浜辺へ戻った。
「それでは行くぞ!ドラゴランダー!」
『龍心合体!ドラゴ・ハーティオン!見参!』
 龍心合体ドラゴ・ハーティオンに合体(搭乗)し、イコンでザイルをしっかりと握ると空で待機する。
「深夜にも関わらず、客車の引き上げ作業が始まろうとしています!」
 再び浜辺へ戻ってきた刀真は月夜にそのシーンを映させる。
「こちら翔龍、列車の引き上げ準備完了。人員の避難が完了次第、合図を」
 エヴァルトは翔龍に搭乗し、ライトで照らされている位置へ向かう。
「水中移動可能なイコンはいないのか?」
「ニャ〜ンズの引き付け役は何人かいるようだから、それで何とかするしかないな。万が一、故障したら大変だしな」
 海の中から運び出す役割がいないことに気づいたコアに、ユリウスたちが邪魔が入らないよう、引き付けてくれるらしいとエヴァルトが言う。
「無事に引き上げられるならば、どのような手段でも構わない!」
「ぐぉん?(どのようなとは?)」
「ははは!汚い手段でもという意味ではないぞ、ドラゴランダー」
 まさかヒーローにあるまじきことを言うはずがないであろう、と笑ってみせる。
「指示が送られてきましたよ、コレットさん」
「最初はゆっくり引き上げるのよね」
 アクセルを踏み、速度を確認しながらバックさせる。
「次は私たちか!」
 点滅する明りを確認したコアたちは、ザイルを持ち上げて高度を上げて引っ張る。
 車体が洞窟の中から出たのを見届けると、静麻はもう1度海面から顔を出し、陸の方へ運ぶようにライトを浜辺へ向ける。
「高度を上昇させて浜辺へ運び、離陸せよということか?コア、浜辺へ運ぶ指示が送られたぞ」
「うむ、焦らず3機とも速度を保ったまま向かおう」
「グラキエス、見ているか?私は貴公と離れている寂しさにも耐えて、列車を運んでいるんだぞ!」
 ベルテハイトは音声をオンにし、深夜にも関わらず弟に聞こえるように言う。
「ヒーローは時間を問わず現れるものだが。今は深夜なのだぞ?」
「フッ・・・時間なんて関係ない。私はグラキエスに伝えるためならば、時間を選ばないからだ!」
「ううむ・・・」
 困った男だ・・・と、言ったらまた何を言い出すか分からぬな・・・と思い、さすがのコアも黙ってしまった。
「ぐぉおおん。(ブラコンパワーには、コアも屈したのか?)」
「世の中には、止めようのない思いもあるようだ」
「―・・・」
 それしか言いようがないか、とドラゴランダーはため息をついた。
 エヴァルトの方は関わらない方が良いと判断したのか無言のままだ。



 浜辺へ1両目を下ろし2両目まで運び終えると、運転車両がピカピカに磨かれている。
 いつでも駅の予定地へ運べるように、ミルディアと忍たちが準備してくれたようだ。
「殺菌は向こうでしてもらう感じかな」
「向こうについたら伝えておく」
「ラズィーヤちゃんが用意してくれたロープを巻いておいたから、いつでも運べるよ」
 ロープの端を振りながら透乃がエヴァルトたちに声をかける。
「その先を機体にセットすればいいのか?」
「うん、じゃあ後お願いね」
「それはそうと、祥子さんのパートナーはどうしたんだ」
「もう準備を終えてインドラに乗っているよ」
「まず4人で運んでくるか」
「お弁当をどうぞ!」
 操縦者たちの好みを聞きながら子敬が弁当を配る。
「エビ団の弁当をもらおう」
「わたくしと朱美もそれにいたしますわ」
「では私もエビに・・・」
「ぐぉぉおんっ!(約束が違うぞ、コア。一口も食べさせない気か!?)」
「エビとカマボコ、1つずつもらえるか?(やれやれ、覚えていたとは・・・)」
「ごま油で揚げたそのカマボコに、生姜醤油などをセットしたので。お好みでどうぞ」
「ドラゴランダー、まだ合体を解除するなっ」
 ぐぉぉおん(今食べさせるんだ!)と、今にも暴れ出しそうなドラゴランダーに言う。
「これは朝ご飯用だ!」
 機内で食べればよいだろうと言い、弁当を手に龍心合体ドラゴ・ハーティオンに搭乗する。
「今、ヴァイシャリーの方へ運転車両が運ばれようとしています!これから、いよいよ修理や内装工事などが始まるわけですね!では、ヴァイシャリーの別邸へ移動しましょう!」
 刀真は月夜と共にヴァイシャリーの別邸へ移動する。