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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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第4章 ただいま発掘率50%

「あら・・・イコンがまともに動けるスペースはなさそうね」
 海面から顔を出した宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、入れる幅がないわ、と両手をクロスさせる。
「バツ・・・・・・。来たら危険ってことなんですの?」
 同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)はオペラグラスを覗き、ちびっこく見える彼女のジェスチャーを、目を凝らして見る。
「侵入スペースがないってことじゃないの?」
 イコンの整備をしながら那須 朱美(なす・あけみ)が言う。
「一応、いつでも動かせるようにはしておいたわ。さすがに昼間は暑いわね、テントの中にでもいようっと」
 海風のおかげで暑い熱風感はないものの、ずっと外にいるのもつらくなったのか、発掘作業員のために用意されている冷たいウーロン茶を飲みながら涼む。
「―・・・通じたかしら?運搬を頼むまで少し待たせてしまいそうね」
 日差しを避けようとテントへ入っていく2人を見ると、祥子は海の中へと戻り発掘を手伝いに行く。
「2人には後で出入口の天井をイコンで、ちょっと削ってもらおうかしら」
 機体が洞窟の真ん前にいると、手元が見えづらくなる人もいるかな、と作業がひと段落次第、呼ぶことにした。
「ねぇ、セレアナ。どうして出入口近くの地面がへこんでるの?」
「そこに簡単なローラー式のレールを敷く予定よ。間列車を洞窟の外へ運ぶ程度の長さだから、半日もかからずに出来るらしいわ」
 引き摺って傷つけたくないからね、と祥子に言う。
「何やら運び出す準備も行っているようですね。ちょっと聞いてみましょうか」
 と言い、刀真は月夜にその窪みへレンズを向けさせる。
「御神楽環菜鉄道記の撮影をしている者ですが、少しお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「何・・・?」
 彼を軽く睨むとセレアナは何を聞きたいの?と首を傾げた。
「この地面のへこみは何のためにあるんですか?」
「運転車両の前から坂になるようにして、洞窟の出口を少し上がる作りにしているわ」
「なるほど。それなら無理に引っ張って車体を傷つける心配はありませんね!」
「ユリウスたちと彼らの施工技師が提案してくれたのよ」
「ほほう、すでに運び出す準備を行っているとは、素晴らしい連携ですね!」
「へぇー、カメラマンがいるのか?」
 イコンで魔列車の運搬作業があると、聞きつけたハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)がレンズへ顔を向ける。
 ビリジアン・アルジーの採掘現場の周囲をレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)と共に、警備の任務についていたが、パラミタ内海でイコンを扱える人手を求めているという情報を耳にしてやってきた。
「はい!御神楽環菜鉄道記のために、許可をいただいて映しているところなんですよ」
「俺も撮ってくれて構わないぜ!」
「ありがとうございます。―・・・ニャ〜ンズじゃなくて、現場の人を撮ってもらいたんですけど」
 仔猫サイズのちびギャングと戯れている月夜をじっと見る。
「ちゃんと撮ってるわよ」
 カメラマンの役割はしてくれているが、どのシーンにも必ずニャ〜ンズが映っている。
 それを知らないとでも?と言いたげに視線を送っても、彼女は気にとめることなく、じゃれつく可愛らしい仕草をするちびっ子に夢中だ。
「フフフ、仲がいいのね」
 たまにはこんな光景も面白いわね、と取材班の2人をちらりと見た祥子は心頭滅却で呼吸を整え、車輪を覆い隠している地面へ視線を戻す。
 柄をぎゅっと握り、眼前の存在を壊すことだけに、意識を集中させる。
 梟雄剣ヴァルザドーンで積もっている石をなぎ払い、破壊された破片が天井まで吹っ飛び突き刺さる。
「5000年も積もりっぱなしだったのに。意外と脆いのね?」
 ビキキと石に亀裂が入ったかと思うと、爆破されたかのように砕ける。
 契約者でさえ破壊するのに苦労しそうだが、彼女の剣のたった一振りで退けてしまう。
「えぇ〜?祥子ちゃんだからじゃないのかな」
「透乃に言われたくないわね」
 か弱いフリしちゃってもう・・・とため息をつく。
「えへへ、言ってみただけだよ」
 たまには陽子に甘える口実を見つけたかったなぁ、と奥で岩石を爆破する準備している彼女を、チラリ〜ンと見る。
「(ていうかここにいる女子って皆、破壊的に強いよな・・・)」
 口に出したら“失礼な!”と吊るされそうな言葉を、泰宏が心の中でボソッと呟いた。
「簡易レールのこともあるから、先頭車両の方から先に運ばなきゃね。やっちゃん、こっち手伝って!」
「傾かないようにバランスを取ったほうがよさそうだな」
「私と透乃で逆側を掘りましょう」
「おっけ〜、祥子ちゃん」
 砂場を掘り起こすように透乃は斧でガリガリガリと掘る姿は、まるで人間ショベルカーのようだ。
「(私も2人に負けていられないなっ)」
 シャベルを突き立てた泰宏は男子の底力を見せ付けようと、スクリュー回転しながらランバレストでドリル式に土砂を崩す。
「掘り起こされた土などが海の中に舞っています!これはもう、光の指輪でも見えません!」
 工事現場よりも激しい騒音が響く中、刀真は必死に声を張り上げる。
「皆、ストップ!」
 祥子の声で生徒たちはいっせいに掘るのを中断させる。
「いったん、砂利や破片を外へ捨てましょう」
「りょーかい!ぽぽーんと片付けちゃおう」
「透乃、私たちが捨ててくるから、その辺にまとめて置いておいて」
「うん、ありがとうセレアナちゃん」
 ぽんぽんと床に投げ、あっとゆう間に廃棄物を積んだような山を築く。
「2人だけでは大変でしょうから。私も手伝いますね」
 巨大なモグラが通ったかのような後の土を掻き出し、陽子はスコップに乗せて運び、せっせと片付ける。
 土煙は海に流されきるまでの間を、休憩時間にしようかと現場の生徒たちは手を休める。
「まいちゃん、まいちゃん。休んでる暇はないわ」
「だってこの視界じゃ、作業を続けようにも危ないわよ?」
「フフフ・・・この私を誰だと思ってるの?」
 さすがに無理よ、という彼女にテンション上がりっぱなしの綾乃は不適な笑みを浮かべ、お嬢様らしい丁寧な言葉づかいでなく、パートナーとちょっぴり似た雰囲気で言う。
「作業は中断しても、口や思考は動くからね」
「(さすが綾乃だわ・・・)」
 鉄道大好きっ子の彼女の手を止めても、それ以外の行動を完全停止しきるのは不可能なのだ。
「運転車両と客車を離さなきゃいけないから、それを決めておこうかな、って思ったの」
「じゃあ俺は簡単に構造を描いたやつをレリウスに見せてくるな」
 そう言うとハイラルは壁をつたいながら洞窟から出ると、彼のところへ戻っていった。
「ハイラルちゃんが戻ってくる間に、大まかなことを決めておこう。連結器から少し離れたところに、小さな穴を掘って爆弾を仕掛けましょう」
「私と陽子が仕掛けたのは、客車からちょっと距離を取ったことね」
 彼女の機晶爆弾と陸で作った耐水性の爆弾で、破壊工作を仕掛けてきたわ、と列車の回りを片付けてきたセレンフィリティが言う。
「てことは、連結器の下の方はまだなのね?」
「威力の小さいやつも用意してきたから、それを使いましょう」
「では、ハイラルさんが帰って来たら、セットしましょうか」
 仕掛けの手伝いを頼まれた陽子は工程を聞きながら頷く。
「細かいところは、芽美ちゃんたちにお願いしてもいいかしら?」
「えぇ、いいわよ。で、次は?」
 綾乃の声に彼女は静かに頷き、その後はどうするの?と聞く。
「まいちゃん、ハイラルちゃんと連結器を外すの手伝ってね。でも、ジャンパ式じゃなくってネジ・リンク式連結器だから、時間かかりそうよ。難しい構造じゃないけど、外すのも連結し直すのも大変なのよね」
「えっ・・・、うん」
 はりきりすぎるようも思える彼女の手順を聞きつつ、小さな声音で返事をする。



 綾乃たちが作業の順番を相談し合っている頃、ハイラルは日除けのパラソルの下で涼んで待機しているレリウスへ駆け寄る。
「陸に戻ってくるとあっついなぁ〜」
「もう引き上げ出来るんですか?」
「いや、まだだ。連結器の外し方を聞こと思ってな。1両ずつ運搬するって言ってただろ?ちょっと聞いてこうって思ってさ」
 油性ペンで描いた絵をレリウスに見せる。
「オレも機械修理の知識があるけど念のためさ」
「ネジとフックを外していく感じになりそうですね」
「おっ、それってオレ意外のヤツでも出来そうか?」
「傍で教える人がいればですね。慣れてない人は素手じゃなく、何か手袋でもはめて作業した方がいいですよ」
「んじゃ、作業用品の中から適当に探して持っていくか」
 ハイラルはごそごそと支給された道具箱の中を探し、2人分の軍手と工具箱を持って現場へ戻っていく。
「おーい、連結器の外し方聞いてきたぞ」
 彼が戻るとすっかり膣煙が流れきった現場では、
「破壊工作を仕掛けてる途中だから、もうちょっと待っててね。あ、陽子。それもう少し下の方にセットして」
「はい。(はっ、透乃ちゃんの視線が!?)」
 後姿をちらちらと見る恋人の眼差しに気づき、手を止めてしまう。
「何も見てないよー。そうだ!待ってるのもなんだから、客車の辺りで作業してくるね♪」
 明らかに“見てたよ”、というふうな口ぶりで、彼女は口笛を吹きながら作業を再開する。
「(この格好、やっぱり恥ずかしすぎますっ)」
 さらに人目が気になり、顔を林檎のように真っ赤にしながら、機晶爆弾を仕掛ける穴を作ろうと聖杭をぐりぐりと打ち込む。
「もしかして、夕食の時もこの格好なんてことは!?それだけは避けなければいけませんね。でも、透乃ちゃんのことだからきっと・・・」
 あの手この手で常にその格好でいさせようと、してくれるに違いないと呟いていると・・・。
「きゃぁああ、陽子ちゃん!空けすぎよっ」
「―・・・え?ああぁっ、ごめんなさい!」
 綾乃の悲鳴にハッと穴を見ると、向こう側がしっかり確認出来るほど、ぽっかりと空いている。
「これくらいなら、機晶爆弾が転がらないように、砂利をちょこっと詰めておけばおっけーよ」
「ありがとうございます、セレンフィリテさん」
「お互い、パートナーに苦労してるみたいね」
 なんとなく察したセレアナがぽそっと小さな声音で言う。
「でも、なかなか断りきれなくって、こんなことに・・・」
「ま・・・っ、好きなら仕方ないわよ」
 苦労が耐えないけど頼みを聞いてあげるのも悪くないでしょ?と話しかける。
「そうなんですけどね・・・」
 だからといって鎧貝に慣れるものでもなく、ここに来てから彼女は赤面しっぱなしだ。
「ちっこいの6個くらい埋めておいたぞ。まだ必要か?」
「えーっと、どうします?」
 足りなければもうちょい下の方にセットするか?と聞くハイラルに、陽子は鉄道に詳しい綾乃に聞こうと彼女へ顔を向ける。
「あまり火力が強いと壊れちゃうかもしれないから、これくらいにしてみましょう」
 土を崩す程度で大丈夫よ、と指でマルを作りオーケーサインを出す。
「皆、いったん洞窟の外へ出て!」
 セレンフィリテの光波を受信した生徒たちは、作業の手を止めて避難する。
「小規模の爆破のようですが、これはいったん避難したほうがよさそうです!」
 スピーカーをセットせず聞き取れなかった刀真は、慌ただしく出ていく様子を見て、カメラに向けて言うと急いで外に出たとたん・・・。
 パンッと何かが破裂したような音が響く。
 作業場へ戻った透乃と祥子たちは、耐水性ライトを額に装着し、崩れた石の除去に取りかかる。
 こんなこともあろうかと、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が作業員のためにレンタル品として貸してくれたのだ。
「もうちょっと明かりが欲しいね。陽子ちゃん、このフックの辺りにライトを向けて」
 光術などの手元を灯せる術があれば、もっと細かいところまで取り除けるが、恋人に手元を照らしてもらう。
「(細かい作業をするなんて・・・思ってもみなかったでしょうね)」
 たがねでちまちま削る透乃の姿を、じっと眺めて思わずくすっと笑いを漏らす。
 普段は見られている方なのだが、いつもの豪快な彼女のイメージと違う雰囲気を、後ろからじっくりと観察する。
 芽美は連結器を壊さないように、ゴールドマトックの先でフジツボごと石を地道に削っている。
 泰宏の方はというと、彼女の手元をライトで照らしつつ、刺激的な美体をガン見して鼻血をどばどばと流している。
 誰も喋らず作業に集中していると・・・。
 カメラマンにまとわりついているニャ〜ンズ以外に、襲撃らしきこともなく、ガリッカツンッと徐々に石が砕けていく音だけが聞こえる。
「(何だかとっても静かになったわね。まぁ、今は細かいところの作業中だし。あまり話してるとミスしてしまうかもしれないものね)」
 そのヒビを祥子がスコップで突っついて崩し、ザックザックと掘り除ける。
「んー、これ以上削るところはなそうだけど。砂利が詰まってたりしたら、そこの辺は取りながら連結器を外してね」
「了解だ、祥子。そんじゃコレを見ながら外すとするか」
 ハイラルは小さな水中ライトを口に咥え、レリウスに書いてもらった指示書通りに、舞香と作業を始める。
 工具箱からドライバーを取り出し、キュリキュリとネジを外す。
「ネジはこの袋の中に入れてね」
 連結器の下に潜り込んだ綾乃はビニール袋の中に入れて回収する。
「単純作業に見るけど、ずいぶんとたくさんあるわね」
「本当は数人がかりでやることなのよ」
 まったく何本あるのよ・・・と、だんだんとイラついた表情に変わっていく彼女に対し、綾乃が涼しい顔をしてさらっと言う。
「それなら他の人にも・・・」
「まいちゃん、掘るに人を集中させないと、いつまでも発掘出来ないわ。だから・・・頑張ってね♪」
「(ぇえっ、綾乃ったらそんな子だったの!?酷い・・・酷いわ!)」
 天使のような微笑みを浮かべる少女の頼みに、黙々と作業を進める。
「(オレはSLのことはあんまり分からないけど。5000年前の技術と、今のってどの辺が違うんだろうな。単調なのも悪くないし、列車の方の修理もやってみたくなるよな)」
 海水の中にキラリと涙を流している彼女とは対照的に、ハイラルの方は楽しげにネジを取り外している。