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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

 4.――『命の理由』





     ◆

 時間軸は更に戻って、騒ぎの前。斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は何やら面白そうな顔をしながら、飲み物にさしているストローを口に加えている。
「あれが今回のお人形さんなの?」
 ベンチに腰をかけている彼女は、ばたばたと足をバタつかせながら辛うじて視界に入っているそれを見ていた。
「そうだ。あいつが今回の標的だ。に、しても、だぜ? 場所はいい、寧ろ此処以外ありえねぇと思うが、時間がありえねぇ。こんな白昼堂々と暗殺しろ、なんて、随分この家業を馬鹿にしきった依頼者だよ」
 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)ため息をつきながら、ハツネの横に座る鍬次郎は面白くなさそうに返事を返す。暗殺をするにあたり、人が多いと場所ということは、それだけ見つかりやすいメリットが先行しがちだが、かなり良い場所ではある。問題なのは暗殺を行う手段だが、それが終われば客たちに動じて逃げ出せるのだ。

『木を隠すなら森』

の原理と一緒である。暗殺後は周囲の客に紛れ込めば犯人などとは思われることもない。そしてそれは、彼等のかでは――少なくとも鍬次郎の中では折り込み済みの事だった。
「よし、んじゃあ具体的な流れを説明すんぜ」
 それはそれは長閑に流れる時間の中――
「まずぁ葛葉。お前が標的と、標的の近くにいる女の気を惹く。まぁ手段は問わねぇが…………兎に角あいつ等を撹乱してくれりゃあ良い」
 鍬次郎の声が、周囲の音と混ざっていく。
「えぇ………? また僕が囮なんですか………」
「以外に適任はいねぇだろう?」
「確かに貴方――鍬次郎さんには出来ないと思いますけど……ハツネさんとかでも良いでしょう?」
「私は嫌なの。お人形さん遊びがしたくて着いてきてるのに、それだとお人形遊びが出来ないの。だから駄目なの」
「はぁ…………そうですか」
 天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)は肩を落とし、観念したように口を紡いだ。
「撹乱後――まぁ出来ればあの女が暴れりゃ良いが、そうなりゃあ後はこっちのもんさ。葛葉はあの女を他所へやるとこまであいつを見張り、俺とハツネはその隙に標的を殺る。ま、シンプルだろ?」
 言い終わるや、彼は飲んでいたであろう飲み物の缶を何気なく缶屑入れへと放り投げた。監視カメラの目を盗んで。
「鍬次郎のたてる作戦はいつでも分かりやすくて安心なの。ハツネは安心してお人形と遊べるの」
「毎度囮なのは、かわりませんけどね。僕」
 それぞれ言葉を発しながら、彼等の作戦会議は終了する。
「最後に――撤退命令は絶対に守れよてめぇら」
「了解なの」
「言われずとも、ね」
 二人は返事を返して、鍬次郎前から姿を消した。
「仕事は仕事だ。かっちりと完遂させて貰うとするぜ」
 にやりと笑みを浮かべ、残った彼はゆっくりとその場を後にする。


 その頃、ラナロックとウォウルはショッピングモールを回っていた。のんびりと回っている彼等には、勿論緊張している様子も、警戒する様子もない。
「ウォウルさん、此方のお洋服何かは如何です?」
「えぇ………僕がそれを着るのかい? それはちょっとパス、だねぇ……」
「あら、そうですか? お似合いだと思いますけれど…………」
 何気ない日常、珍しい光景なのではあるが――異変はすぐそこまで、近付いていた。
「ラナ。いきなりだけど、君今日はちょっと体調が良くないようだねぇ」
「えっ? そんな事は――」
 と、彼女はそこで言葉を止めた。開かれた瞳は動かず、喋っているままの口は、その発音のままで停止している。
「ラナ、どうしたん――」
 ラナロックのすぐ横、その姿を捉えたウォウルは言いかけた言葉を呑み込む。
「お姉さん、少しの間僕と遊んでください」
「君は一体どちらの子かな」
 硬直したままのラナロックの手を引き、彼女をしゃがませた葛葉は、そこで彼女と瞳を合わせ『その身を蝕む妄執』を発動させる。暫くの間見つめ合う形となった二人に、突然声が聞こえた。ウォウルの声ではない、出所の不明な声。それは葛葉に向けられての物だ。
「退けっ!!!!!!」
「っ!!!!!!?」
 咄嗟に後ろへとバックステップで跳ね退く葛葉。何が何だかわからない葛葉が、今まで自分の立っていた場所に目をやると、一発の銃弾が地面を穿っていた。
「危なかったっ……一体何が」
「お嬢ちゃ――早く、此処、こ、こここっっこから、逃げ――」
 訝しげに様子を観察していた葛葉が、そこで言葉を失った。自分が術をかけた対象が突如として、声かどうかも分からない咆哮を挙げたのだ。
唖然とするより他がない。それを見ていたウォウルが、慌ててラナロックの両肩を掴み動きを止めようとした。ウォウルがラナロックと被った為に一瞬葛葉はラナロックを見失う。が
「………っ!?」
 銃声後、葛葉の頬に伝わる痛覚。慌てて自らの頬に手を当てると、おぞましい量の鮮血が手に付着する。何が何だかわからないまま、ただただ呆然としている葛葉は、しかしそこで突然に現れた鍬次郎に手を引かれ、その場を離れていく。
「一時撤退だ。まさかこんな事になるなんざぁ……想定外だ、誤算も誤算だぜ全く………」
 苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる彼は、直ぐ様物陰で待機していたハツネの元へと向かった。
「葛葉、怪我は?」
「一体何が起こったの? 突然あのお姉ちゃんが暴れだしたから、ハツネは少しビックリしたの」
「ぼ、僕は………生きてる?」
 呆けていた葛葉は、慌てて自分の頭や顔、腕や足を確認する。何処にも怪我はなく、しかし更に手が紅に染められた。
「何だよこれ、何だよこれぇ!? 僕は生きてる、僕は生きてるんだ僕は――」
「しっかりしろ! 大丈夫だ、頬が少し切れてるだけだ。てめぇの体は五体満足だよ!」
 体を揺すられ、パニックになっていた葛葉はそこで漸く落ち着きを取り戻した。
「てめぇの手についてるのはあの男の血だよ。ったく………何したんだよ、あの女に」
 自らの袖を引きちぎった鍬次郎は、それを丸めて葛葉に付着したウォウルの返り血を拭きながら呟く。
「術をかけた――ただのそれだけですよ。なのに、なのにまさか………」
 恐怖、と定義するのであれば、それは自らの死に対してだけだった。五体満足であの空間から離脱できた事を漸く認識した葛葉は先程より幾らか落ち着きを取り戻して説明する。
「ったくよ。てめぇの術とあの女の相性が良すぎたのかは知らねぇが、危うく死ぬところだったぞ」
「………………」
「でも、見るの。お人形さんとお姉ちゃんが仲間割れを起こしたの。お姉ちゃんがお人形さんを殺しても全くおかしくないの」
 ハツネの言葉に反応し、二人はそこでウォウルとラナロックの方へと向いた。ちょうどのタイミングで、数発の弾丸を至近距離から撃ち込まれたウォウルは、ゆっくりゆっくりと、ラナロックの体を伝って地面へと崩れ落ちていく光景がそこにある。
「……えげつねぇな。普通心の臓に一発ぶち込みゃ死ぬだろ」
「まだ生きてると思うの。お人形さんが撃たれているのは右半身、それも脇の方だから、肺が潰れた程度なの」
「今迂闊に飛び出れば、多分僕たちもあの二の舞でしょうね」
 仕方ない、と区切りを入れた鍬次郎は二人に撤退を命じる。
「殺しは仕事だ。無謀は捨てる。此処は一先ず撤退して、あの女が標的から離れた隙を狙うぞ」