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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

 2.――『秘めたる思いと銃声と』






     ◆

 騒ぎの中、ぬいぐるみを大事そうに抱えている少女――プラム・ログリス(ぷらむ・ろぐりす)は、一人、取り残されている通路をいったり来たりしている。
「うぅ……酷いよね……またには一人でお買い物しにきたのに……お店、閉まっちゃったし………」
 怒っている様子もなければ、悲しそうな様子もなく、彼女は誰に言うでもなく呟くだけだ。その間もひたすらに非常ベルは鳴り続けている。
「それにしても、なんだろう……火事でもあったのかな」
 大事そうに抱えているぬいぐるみを一層力強く抱き、出口を探すようにして歩き出した。今までの様に同じところをいったり来たり、ではなく脱出を意図した動きに変更したようである。と、そこで彼女の動きが止まる。頭上からの物音に反応し、彼女は咄嗟に足を止めた。音の正体は通路に一定間隔で備え付けられている防火シャッター。それが、ちょうど彼女が進もうとしていた場所へと降りてくる。
「……………いや、危ないでしょ。これ。って言うか……今のに挟まれたら死んじゃうよ……」
 寸前のところで足を止めていたから良かったものの、あと一歩踏み出していたらさすがに危なかったろう事に肝を冷やしつつ、彼女はその場に立ち尽くす。
「私、来た道しか帰り方知らないのに……どうしよ」
彼女の知る唯一の退路を塞がれ、防火シャッターを見上げながらにそんなことを呟いてみる。が、だからそこに道が開けるという訳でもなく、シャッターが開くわけでもない。暫く立ち尽くしていた彼女であるが暫くの沈黙の後、ため息ともに踵を返した。
「仕方ないよね、他の道を探そう………」
 とぼとぼと歩き始める彼女はただただ肩を落とし、呟くのみだ。

 暫く辺りを彷徨えど、一向に出口は見付からず、どころかこの施設の見取り図すらない、という目にあっているプラムの前に、逃げ遅れた内の一人――竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)が姿を現す。どうやら彼も、プラムと同じ経緯を辿っていたらしく、浮かない顔をしていた。
「あれ――? 君も逃げ遅れちゃったんですか?」
 ハイコドがプラムを見つけて声をかける。いきなりの声に若干肩を竦めたプラムはしかし、無言のままに頷いた。
「そうですか、実は僕もなんですよね」
「…………………」
 「ようやく誰かに会えた」とでも言いたげにハイコドが近付いてくる。が、それに対してプラムは彼の歩幅に合わせて後退していく。
「えっ………いや、その………僕はそこまで怪しい者ではない、と、思うんですけど………」
「…………………」
 ハイコドが足を止めればプラムも止め、彼が近付くと彼女はさがる。それを数回繰り返し、ハイコドは苦笑を浮かべて彼女へと近づくことを諦めた。
「ま、まぁ……こんな状況でいきなり会って、『信じてくれ』は、流石に無理ですよね。すみません。でも、暫くは一緒に行動しませんか? まずは此処から出ないと」
「………………………………」
 暫くの考慮時間後に、プラムは一度、こくりと首を縦に振る。それを見たハイコドは「良かったぁ」と息を着き、その場で自己紹介をした。
「僕はハイコドです。竜螺 ハイコド。良かったらお名前を伺っても良いですか?」
「………………プラム」
「プラムさん、ですか。良い名前ですね。さて、これでお互いの事は呼べるとして、問題はどうやって此処から脱け出すか、ですよね」
 ハイコドは思案しながら踵を返す。彼女に近付いて――と言うのは諦めたらしく、今までの来た道に戻っていく。
「あ…………ま、待って」
 おそらくハイコドには聞こえていないだろう小さな声で、プラムはそう呟き、彼の後を追いかける。何より、この状況で一人だったのは随分と答えたらしい。あまり近づき過ぎように様子を伺いながら、一定の距離でハイコドに着いていく彼女。
「そうだ」
 何かを思い出したのか、急に立ち止まった彼を見て、慌てて足を止めるプラム。勢いが余ったのか、前につんのめりそうになりながらも何とか体勢を立て直し、その場でハイコドへと目を向けた。
「まずは見取り図、探しませんか? このシャッター、さっきから数ヵ所で見かけますけど、閉まっている所と開いているところがありますし――何か規則性がありそうな――」
 彼は辺りを見回すが、やはり案内板は近くにはない。
「救助が来るまでは身動きを取っちゃいけない、何て言いますけど…………気付かれなければ助かれませんよね」
 彼がプラムの方を向くと、ぬいぐるみを抱いたままの彼女が、今度は数回首を縦に振る。
「よぉし! 頑張って探しましょう、救助しに来てくれる人も、一緒に閉じ込められている人も、出口も」
 どうやら明確な目的が決まったのか、ハイコドが元気をだそうとでも言わんばかりに、明るく声をあげた。その言葉に、プラムは素早くぬいぐるみの手を代わりに挙げる。






     ◆

 場面は変わり、ショッピングモール前。防火シャッターの前に集まっていた海たちは、細かい話をしていた。一同の意見から、防火シャッターを壊して中に潜入することは決まった。故に彼等はシャッターの前にいるわけだ。
「これだけでも人数がいれば、全員で同じ動きをする必要はないな」
 見回しながら、レンが口を開いた。
「そうだな、とりあえず俺は中の様子がどうなってるかを探ろうと思うんだがよ」
「見張り――か。俺も一緒いに行こう」
 静麻の言葉に返事を返すレン。
「私は海くんと一緒に逃げ遅れた人を助けに行きます!」
「怪我人がいれば、柚の回復魔法が重宝するだろうしね」
「俺たちも同行させて貰おう」
「そうよね、まだ結構中に逃げ遅れた人が残ってるんでしょ? だったら人手、要るだろうしね」
 柚、三月、カイ、渚は海と共に行動をする旨を伝える。
「いたいた、此方に来てたんだ」
「移動するならそう言ってくれれば良かったでしょうに………人が悪い」
 と、そこでアルカネット・ソラリス(あるかねっと・そらりす)神威 雅人(かむい・まさと)が一同に向かい声をかける。
「来てくれたのか、助かるぜ」
「気にしない気にしない! 困っている人いれば、そこに向かうのが歌姫の務め!」
「俺は違うがな。少なくとも歌姫ではない」
「知ってるよ………」
 海の言葉に返事を返したアルカネットは、しかし直ぐ様雅人の発言にツッコミをいれた。
「話は聞いてたよ。あたしたちは思いきっ、犯人さんのところへ行きます! ちょっとでも足止め出来れば、皆様自由に動けるでしょーと、思って」
「だ、大丈夫?」
 アルカネットの提案に対し、三月心配そうに声をかける。
「あの女性(ヒト)………怒るととっても怖いですし、たぶん今もそんな感じでしょうね……」
 柚は何やら思い出してそう呟く。苦笑、と言うよりは完全に硬直した表情のままに。すると彼女の隣にいた静麻も、深々と頷いた。
「確かにありゃあ、やべぇよんな」
 何も言わないがカイと渚も苦笑しながら頷いている。状況が掴めない海、レン、アルカネット、雅人は首を傾げるだけである。と、更に一同に声がかかった。その場にいる誰のものでもない声。
「海君!」
「うん?」
 声の主に呼ばれた海だけではなく、その場にいた全員が声の方へと顔を向けた。そこには、肩で息をしている永井 託(ながい・たく)の姿がある。
「さっきの話、本当なのかいっ!?」
「ん? 彼、前からあんな感じだったか?」
 静麻が首を傾げるが、それに返事を返すものはいない。どうやら彼と面識のある面々は、静麻の疑問に返答する余裕が無いほどに驚きを見せているようだ。
「本当だ、確かに見たんだ、俺」
「そんな、ウォウルさんが………」
 託は息を整え、一同のもとにやって来る。
「今全員でこれからの動きをね――」
 渚が託に説明しようと口を開くが、それを託自身が遮る。
「僕はウォウルさんのところへ行くよ………! 一人だとしても、何でも、僕は彼のもとに行く!」
「まぁ落ち着けって。一人で動けばあのおっかねーねーちゃんが――」
「駄目なんだ………友達は――友達を助けなきゃ、駄目なんだよ…………確かに僕は役に立たないかもしれない。知れないけどそれでも――」
 静麻が止めに入ろうとするも、それすらも聞けないほどに頭に血が昇っているらしい。託は俯き、拳を固く握り締めた。
「………任せても、良いか?」
「ちょ、ちょっとカイ!? それじゃあ彼が――」
「大事な友人が困っているから全員此処にいるんだろう。それは永井も同じこと。だったら俺たちは信じれば良いだろう」
「カイさん…………」
 カイの言葉に反応したのは、柚だった。ふと、彼女は隣にいる海と三月見やる。そして何かを決意し、託に言葉を向ける。
「託さん! その、上手に言えないんですけど………ウォウルさんの事、お願いします!」
「ったく、仕方ねぇな。だったらちょっくら陽動でもしてやるかね。どうだい、レンの旦那」
「そうだな、共闘だ。そのくらいなら問題なかろう」
「あたし! 真っ先に犯人さん見付けて足止めするよっ! 頑張っちゃうから、安心してよね」
「こらこら、今さっき脅されたばかりでしょうに。困ったものだ」
 アルカネットの言葉に、頭を抱え、苦笑ながらに述べる雅人も一度、託へと目を向ける。
「よし、行こう! 全員で一丸となりゃ、ぜってーソッコー解決出来るぜ!」
 それぞれの役割が決まり、彼等はショッピングモールのシャッターと言う名のパンドラの箱を開くのだ。





     ◆

 ショッピングモールへ突入した一同のすぐ近く、琳 鳳明(りん・ほうめい)は随分と真剣な表情で、彼等が入っていったシャッターの穴を見ている。
「(どうしたの? 鳳明)」
 彼女の傍らにいる藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)は、テレパシーを使って彼女に声をかける。
「いやぁ………なんの騒ぎだろうって来てみたはいいんだけど、なんだか凄いことになってるなって……ね」
「(あぁ、さっきの。だから彼等は中に入っていったんだ)」
「うん、多分……。私たちも、何か出来ないかな」
「(ウォウルさんにラナロックさん、だったっけ?)」
「知らない仲じゃない。困ってる人を捨て置くなんて出来ない。でも――」
「(いつもの鳳明らしくないね。やるって思ったら、何を躊躇う事なくやればいい。そうでしょ?)」
「天樹…………うん! そうだよね! 困ってる人がいたら助ければ良いんだよね!」
 何かが吹っ切れたのか、彼女は急遽張り出されている『立入禁止』のテープを飛び越えてショッピングモールへと近付く。
「あ、ちょっと! 君! 此処は――」
「そうだ、そうだよ! 何を悩んでたんだろう私! そんなことを、考える必要なんて無かったんだよねっ!」
 近付いてくる警備員の言葉など、おそらく今の彼女には聞こえていない。その様子を後ろから、クスクスと笑いながら天樹が警備員に歩み寄った。ポン、と警備員の肩を叩く天樹。
「なんだ、君まで勝手に入っ――」
 天樹と目を合わせた警備員、そこで尻窄みとなり膝から崩れ落ちた。
「(ごめんねおじさん。ちょっと眠ってて)」
 瞬間的にヒプノシスをかけ、警備員を眠らせた天樹はそこで走り始める。先行し、やる気に満ち溢れながらに行軍よろしく進む鳳明にテレパシーを飛ばしながら。
「(鳳明、僕は先に仕込みたいことがあるんだ。だから先に行かせて貰うよ)」
「わかった、よろしくね」
 歩く鳳明と走る天樹。すれ違い様に彼女は返事を返した。そして大きく口を開き、海たちを、そして天樹を飲み込んだその穴の前で一度、足を止める。
「ありごがとうね、天樹――よしっ!」
 二度、頬を両の手で弾いて気合いを入れた鳳明は、何とも晴々した顔で穴の奥、暗闇の一点を見つめて大きく息を吸い込んだ。

「やるぞぉ!!」

 気合いは充分


                ――いざ、尋常に。