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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

     ◆

 騒然としたショッピングモール内。ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はひたすらに走っている。目的は明確であり、その行為理念は瞭然としている。『高円寺 海を見つけ出す』――その一点に集約されているが故に至ってシンプル。
「本当にこっちであっているのか」
「うん、その筈! さっき見たモール内の案内通りなら、ね」
「何もなければ良いが………な」
「何かがあるからこの状況、でしょ。もう何が起こってもへっちゃらよ!」
 冷静に辺りを見回すダリルに対し、ルカルカは全力でもって駆け抜ける。逃げ惑っている人たちの群れを追い越し、そしてその先に二人の目的地が存在している。
「海! お待たせ!」
「よろしく頼む――あぁ、じゃあな」
 ルカルカの言葉が聞こえたのか、電話を切って懐にしまいながら二人の方を向く海。
「来たか、すまないな。いきなり連絡して………いきなりなんだけど、手ぇ、貸してくれないか?」
 逃げ惑う人々の先頭を走る海がそう言うや、彼と並走している二人がそれぞれに返事を返す。ルカルカは自ら拳でぽん、と胸を叩き、ダリルは涼やかな笑みを浮かべて。
「まっかせてよっ!」
「その為に俺たちを呼んだんだろう?」
 二人の何とも呆気ない返事にやや驚きながらも、海は此処までの事情を説明する。
「そっか、じゃあ悠長にはしてられないわけ、ね」
「良いだろう、その怪我人は俺たちに任せろ。海、お前は早く彼らを安全なところへ。気を付けろよ」
「すまないな。この人たちを逃がしたらすぐに手伝いに来るからな、頼んだぜ」
「わかった、行こう! ダリル!」
「海、お前は来なくて良い。手伝って貰うことなど何もないからな」
 そう言うと、海から今聞いた場所へと向かうべく、踵を返す二人。
「………助かるよ、本当に」
 ぼそりと呟き、海が正面を見据える。
「おにーさん、さっきのお兄さん、なんか感じ悪かったよね」
 不意に、海に抱き抱えられている少女の声が聞こえた。
「そうでもないぜ? あれはきっと、いや、絶対に。あの人なりの優しさだよ。『まずは皆を避難させる事だけに集中しろ』ってさ」
「ふぅん……大人って、難しいね」
「まぁな。俺も大人はわかんねぇけどさ。でも、その内君にもわかるときがくるんじゃねぇかな」
「そっか」
 簡潔に言葉を交わす二人の前に――人影が見えてきた。故に海は叫ぶ。

「そこに立ってると危ないぞ!」

 彼らの前に立っていたのは、レキとカムイ――。



「ダリル、さっきの物言いは――ちょっと酷くないかなって、思うんだけど」
「あのくらいでも言わないと、アイツにはわかるまいよ。どうせ、『悪いことしたかな』などと思うだろう」
「あー………確かにね」
 ウォウルのもとに向かう二人の会話。ダリルの言葉に対して、ルカルカは苦笑を浮かべている。
「一先ず、『彼』は肺が潰れている。と言うことは良い。問題ではあるが、直結する死因にはならん」
「いや、危ないでしょ」
「そのまま放っておけば、な。しかしある程度ならば片方の肺だけでも充分だ。急激に収縮し、癒着してしまったとしても外科手術を行えばどうとでもなろう。もとより…………手術をしなければ治らんだろうからな。が、問題は心臓を圧迫すること、外的要因における裂傷ならば出血量。危惧すべきはそれらの方だ」
「多量出血かぁ………血中酸素濃度の低下、後遺症、脳死………確かに不味いよね」
「海の話を聞く限り、まだ三十分と経っていないだろう。処置によってはなんとでもなる」
 二人は話ながらも、ウォウルが倒れている場所へと向かっている。最善を尽くすべく、走り続ける。






     ◆

 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、突然の電話に若干の困惑を見せている。
「いきなりだからちょっと整理させて。要は――人数が必要な事件が、ショッピングモールで起こってる。負傷してる人がいる。って感じよね」
 彼女の隣で眠そうな表情をしている空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は、我関せずと言った面持ちで視線を辺りに游がせている。
「止めるのを手伝ってくれ、ねぇ……良いけど、私たちは何をすれば――? うん、わかんない? わかんないって貴方………え? うん。わかった。とりあえずそっちに向かうわ。それで、中で負傷している人を見つければ良いのね? うん、わかったじゃあね」
 短く、しかし一斉に肺にたまっていた空気を吐き出したリカインは携帯を上着のポケットへとしまう。
「厄介事、なんでしょうかね」
「そうねぇ……緊急事態を全てそう呼ぶなら、おそらくかなり厄介事。かなぁ」
「まぁまぁ、手前にするところ、さして興に乗る話とは思いませぬ故に、あなたにお任せいたしますよ」
「返事した以上は行かないとね。困ってる人、いるみたいだし」
 リカインの言葉に対して、やはり『我関せず』の姿勢ながらも、狐樹廊はフラフラと彼女の後に続く。
「ま、あなたには関係のない話かもしれないけど、状況だけは伝えておくわ。今、空京にあるショッピングモールでなんだか物騒な事件が起こってるんだって。それで、私たちはそれを解決させるためのお手伝い、ってわけ」
「ほうほう、それは何とも」
「現状でわかってる明確な被害者は一人。ただ、これから増えるとも限らない。私たちでそれを防ぐ、って、そういう感じ」
「成る程。そして今、そのショッピングモールとやらへ、向かっている訳ですか」
 適当に相槌を打ちながら、狐樹廊は手遊びを始めていた。
「はぁ………(聞いてんのかしら)」
 リカインのため息の意味を知りながら、終始知らぬ存ぜぬ、といった体で彼はポツリと呟いた。
「無事に解決、して貰いたいのですがね、手前としても」






     ◆

 騒動の中――硯 爽麻(すずり・そうま)鑑 鏨(かがみ・たがね)は逃げる人の流れから外れている。即ちそれはーー避難を放棄する行動だった。一見すれば逃げ遅れている様にさえ見えるそれではあるが、二人に焦りの色はない。爽麻は大事そうに抱えているお菓子の袋から内の一枚を摘まみ取って、満足そうに口許へと運ぶ。傍らに立っている鏨は黙して周囲を見回すだけである。
「何が起こってるのかな、ねぇ? お兄ちゃん」
「此処だけじゃ、判断は出来ない」
 呟きながら、彼は近くにあったモール内の案内板を見つけると、それが見える位置まで足を運び、真剣な眼差しでそれを見つめた。
「今は此処――」
 鏨は現在地である雑貨売り場の密集しているエリアを指す。
「人の流れがこう、彼等の向かう先は……こっちか。すると――この近く」
「お兄ちゃん、向こうの方から何か感じる。良い感じの雰囲気じゃないね……微かに火薬の匂いもするし……」
「爆弾、か?」
「ううん、もっともっと小さな規模……おそらくは銃……かな?」
 二人は短く会話を交わすと、神経を研ぎ澄ませて周囲の気配を探り始めた。
「近いな、空気の流れが激しい」
「そうだね………って。あれ? 今向こうの方で何かが光った気が…………」
 爽麻も案内板を見て場所を確認する。光のする方は、家具売り場付近。二人の今いる場所から、さして時間のかからない場所である。
「行くのか?」
「うん、誰かが止めないといけないでしょ? こうなったら…」
「不殺の心――か」
 鏨の言葉に無言で頷く爽麻は、そこで自らの力を解放したのか、小さかった躯体が瞬間的に成長する。
「行こう……もし誰かの命を奪おうとする人がいたら、止めなきゃいけないから。だれがしぬのも、それは良くないことだよね………」
「爽麻が行くなら俺も行こう」
 鏨は手に、鞘に納められたままの純を握り締め答えた。その時である――。
「隠れろ爽麻っ」
 息を殺し、声を殺して鏨が呟くと、成長した姿のままの爽麻の手を引き、近くの物陰に隠れた。どうやら此処で犯人ともぼしき存在と出会うのは良くない、と判断しての事だろう。
 本来、集団対集団における比較的規模が大きな戦闘に対しては、敵と不意に遭遇することはそこまで有利不利を左右するものではない(無論、それは双方が意図しない形での遭遇に限定されるが)。が、個対個における戦闘での、両者の意図しない遭遇は、大きな意味の違いを持つ。言い換えれば、それはどれ程の被害までを寛容するか、という事になるのだ。より優位に立つのであれば、しっかりとしたシチュエーションを組み立てる必要がある。
「あの人が――この事件の根源の人?」
 怪訝そうな顔で、目の前で暴れているラナロックを見つめる爽麻。ゲラゲラと笑いながら未散たちに銃弾を浴びせるその光景を、無表情のままに見詰めるだけである。