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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

 1.――『45:21』






     ◇

 彼は命を落とすかもしれない。

 それでも――その表情は笑顔だった。 いつものニヘラ顔ではなく、しっかりと、はっきりとした笑顔だった。
 おそらくそれは、彼は死を見てなどいないから。先程から困っているのは、ひたすらに思案しているのは、この状況を如何に被害を最小限に纏められるか、という事だけだ。 しかし――それにしても、彼の笑顔はかくも清々しい。紅に染められたその手で、懸命に携帯のボタンを弾き、自分のやるべき事を終えた彼の手は、力なく地面に落ちる。 本来人間のする呼吸では聞こえるはずのない音を口から漏らし、彼は思わず呟いた。

「今まで良くしてくれた皆さん――ありがとう」






     ◆


 逃げ惑う人々の中、ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)は、隣にいるアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)へと声をかけた。
「アキュートよ」
「何だマンボウ。何言うかは知らねぇが、生憎今はお前さんの与太話に付き合ってる暇なんぞねぇよ」
 別段焦ることもせず、アキュートはウーマの方すら向かずに返事を返した。どうやら彼としても、この騒ぎの原因を探っている様子である。
「うむ………この状況でその様な話をする気は、それがしもない。それより、だ。彼処に見えるのは――彼のお嬢さんではないか?」
「ん?………お、ほんとだよ。何やってんだ、あのねーちゃんは……やれやれ、こんな状況の中で立ちんぼたぁ、良い度胸だな。全く」
 二人が見つけたのは、ラナロック・ランドロック(らなろっく・らんどろっく)の姿。アキュートとウーマの二人は何とか行き交う人混みを掻き分けながら彼女の元へと寄っていった。彼等としても、この事態で逃げないラナロックを心配しての事だろう。アキュートは彼女に近付きながら声をかける。
「よぉねーちゃん。何やってんだい? それにこの騒――」

 彼が言い終わる前に、逃げ惑う人々の悲鳴に代わって一度、銃声が鳴り響く。

「ギョッ!?」
「ちっ、またかよ! 今度はなんだってんだ………!」
 反射的にアキュートが彼女の放った銃弾を回避するが、彼の後ろに位置していたウーマが彼の代わりに被弾する。
「誰っ? 誰っっ!? あんタラ誰ヨっ!!!! あっはッッハッハぁぁ!」
 アキュートに向けて叫びながら、ラナロックはひたすらに引き金を引き続ける。金属の擦れる音と、炸裂音。噎せ返るほどの硝煙の臭いと煙を巻きながら、アキュートに向けて銃弾を撃ち込むも、アキュートはミラージュを使って自身の残像を発生させ、攻撃の悉くを回避していく。
「遊ぼうよっっっ! 絶対ニ楽シいよっ! 面白いねぇえ!? キヒッっ! キィッシシシシシ! アッヒャっひゃっひャ!!」
「こっちぁ面白くも何とも………ねぇぞ……!」
が、彼の回避行動はそこで一度、停止する。彼女と自分の射線上に、小さな子供と、その子を連れた母親らしき人物が見えたのだ。故に彼は慌てて足を止め、いつの間にか両の手に握っていた獲物を体の正面で構えるや、その親子の前に立ちはだかった。が、ラナロックは何の躊躇いもなく引き金を引き続ける。
甲高い音が周囲に響き、アキュートを中心として彼女の放った弾丸が地面を、壁を、天井を抉っている。
「ソンナとこニ立ってタラ死ンジャうかモよぉ? かっ! モッ! よぉぉぉぉ! 良いノカなぁぁぁあ?」
「ちっ…………! 撃ちながら言うんじゃねぇ………そういう文句は吐いてから、がお約束だろうが………よっ!」
 出鱈目に飛んでくる銃弾を弾いていたアキュートは、そこで振り向かないまま親子へ叫んだ。
「二発が限界だ…………! それ以上は堪えらんねぇぞ、良いか、あと二発、あのねーちゃんが撃ったら全力で走れ、良いな!」
 言いながら一発。手の痺れを懸命に堪えながらに更に一発。何とか堪えきった所で、彼が背負っていた二人が逃げ始める。
「逃がスワけがぁぁぁ、ネェェだろうガヨォォォォォッ!! バぁぁぁっカぁぁぁああ! あっひゃっひャッヒャぁぁあ! …………あぁ? 馬鹿者、弾切れだ。 馬鹿って言ウンじゃアァアアねぇよ、クズがぁぁっ!」
 地団駄を踏みながら叫ぶラナロックを前に、アキュートは思わず言葉を失う。
「……………ッハ! ハッハッハッ…………マジかよ、今度のは洒落に、なってねぇな。人格、二つあんじゃねぇのか? ありゃあ……」
 会話が自身だけで完結してる、と言う時点で、アキュートは彼女の異変に気がついた。痺れる手を何とか振り上げ、己の体に鞭打ちながら立ち上がった彼は、大きくため息を吐き出してから、地団駄を踏んでいるラナロックへと飛びかかった。
「そら、無駄弾ばかりばら蒔くからこうなる。無知以外の何者でもない………」
 アキュートが武器に斬りかかったのを理解したラナロックは、一度彼の攻撃を手にする銃で受け止めると、それを宙へと放り投げた。
「ンジャあぁぁよぉぉお? こうシタラこの素敵ナオニーサンハ何にも出来なクなルって、こったよなぁぁぁっ!!!?」
「ねーちゃん、恨むんならお前さんの中にいる、この面倒クセェ奴等を恨め――よっとっ!」
 武器を持たないラナロックに対し、アキュートは何の躊躇いもなく、武器を握ったままにその拳を彼女に突き出した。が、直ぐ様彼女はそれを受け止める。伸長差にして四十センチ弱の、アキュートの拳を、掌で受け止める。
「此の者を侮るのはやめた方がいい。なんなら私が代わってやってもいいぞ? 邪魔ナンダヨっっ!! スッコんでロヨっっ雑魚ガッッ!」
 そのままアキュートを押し返し、放った銃を両手に掴んで弾装を込めるラナロック。
「良いねぇオニーサン! 惚れちャイソうサっっ!!!! モットモット遊ぼぉぉぉぉよぉォォォっ!」
「嬉しかねぇな、そのお誘いは。お前さん等に惚れられたって迷惑この上ねぇ話だ……酒の肴にだってなんねぇ話さ」
 押し返された勢いを使い、彼女との距離をあけたアキュートは、頭を擦りながら自嘲気味に笑う。
「潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰シテ潰して潰して潰シテ潰シテ潰してっっっ! 粉々ニバラバラだよぉぉぉぉ! アアアアァァァッッッァア! おんっっっ、モシレェェェェェぇぇぇぇ!!!!」
 銃を構え直したラナロックは、殆ど言葉と重ねるように引き金を引き始めた。再びミラージュを展開し、彼は攻撃を避けながらラナロックとの距離を縮めた。重たい音と共に再び銃を狙って斬りかかるアキュート。最小限の動きでもって攻撃をしている為、それこそ反撃、カウンターの余地はない。
「まったく……不安定なねーちゃんだな、お前さんは。大人しくしてりゃあ、可愛いのによ」
「モウダメダもうだめだもうだメダモウダメダもうだめだもうだめだっっ! 我慢出来ねぇェェェなぁあアアアアアあああっっ!!! ギヒャヒャぁ!」
「おいおい………こりゃあもうキレるってレベルじゃねぇよ。しかたねぇか……暫く寝とけ――」
 切り結んでいるラナロックに対し、アキュートはヒプノシスをかける。押し合っていた武器にかかる負荷が軽減し、ラナロックがよたけながら後退し始めた。が、中々膝が折れない彼女を見ながら、思わずアキュートが苦笑を浮かべる。
「ナンダヨ、これ…………目がマワンジャネぇえええの? ヒャヒャヒャ! オニーサん、魔法使イか手品師だな、クヒヒっ! 今度は、何シヨーッテノサぁぁ………?」
「ったく、ヒプノシスでも落ちねぇか。ま、仕方ねぇな。マンボウ! 一旦退くぞ! さっさと起きろよ」
 手にしていた獲物をしまうと、警戒したままに彼は一足でラナロックから距離をあけ、倒れているウーマに向かって言った。
「承知した!!!」
 倒れていたのが嘘の様に、発光しながら元の高度に戻ったウーマが、一層強い光を発する。
「ウッヘッヘ………今度ハ眩しいなぁぁぁああ………オモシレーオニーさンだよ………あぁ、フラツクなぁ、チクショウ………」
 フラフラとよろめくラナロックを残し、アキュートとウーマはその場を後にした。



 アキュートたちが一度ラナロックから離れてより数分後――。場所は家具売り場。
若松 未散(わかまつ・みちる)は銃声と非常ベルの音、そして突然の目映い光に若干の苛立ちを覚えていた。
「くそー………なんだってこんな目に会わなきゃならねーんだよ………」
 一人ゴチている彼女の前に、突然人影が現れ、彼女の表情が変わる。「あれって確か…………」などと呟き、思わず近くにあった箪笥の陰にその身を滑り込ませ様子を伺うことにした。
「アァァアアアア…………やっと頭がハッキリシテキタノニ、何だヨコリャアァアアアァ!!!! 折角アノオニーサンと良い感じダッタのニ、逃げヤがった…………アァァアアアアアァアァアアアッッァァ!!! クッソっ! アりえネぇえっぇぇぇ!!!」
 そう叫びながら、辺りかしこにある椅子やら机やらを蹴り飛ばしながら、しかしゲラゲラと笑いながら、未散の方へとやって来るラナロック。
「やっぱりそうだな、アイツだ………! 良いじゃん、良いねぇ! 悪いことばっかってんじゃ気分が悪ぃ! 前からちょっと気になってたんだよ、あの女! 邪魔が入る前に………って、ん?」
 嬉々とした表情を浮かべる未散は、しかしそこで一度、思い止まった。暫く天井を仰ぎながら、ぼんやり記憶を探っていく。
「んー………確かにアイツ、前も暴れたみたいだけど、あんな感じだったっけ? ん? はて、どんなんだったかな……」
 腕を組み考え込むこと十数秒――。今度は深刻そうな表情を浮かべてラナロックを盗み見た。
「違うんだよなぁ、なんかこう――こう言うんじゃねぇんだ。うん、私がやり合いたいのはこう言うんじゃない、うん」
 再び箪笥に背中を預けた彼女の回りに、ぼんやりと青白い光が灯り始め、その力を顕現させる。
「なぁ、アメノウズメ……力、貸してくれるか?」
 ぼんやりと宙を漂う『アメノウズメ』、と呼ばれたそれは、何を言うでもなくただ一度、うっすらと笑みを浮かべて頷いた。未散に何処か似た風貌がふわりと空を舞う。
「アイツとは真剣にやりあいてぇんだ。もっともっと、こんな場所じゃなくて、誰を巻き込むでもなく、誰に迷惑をかけるでもない場所で、思いっきしぶち当たりたい……! だから――」
 そう言うや否や、何処からともなく取り出した苦無を数本、両の手の指に挟み、そこに炎を纏わせた。
「全力で以てアイツを止めるっ――!」
 隠れていた箪笥から飛び出した未散は、真っ直ぐに苦無を投擲し、それに続く形でアメノウズメを飛び出させた。が――
「カクレンボハねぇ………………見つカッたラ負けナンダよぉっ!? クヒャヒャッッ!」
 先制攻撃を仕掛けた筈の未散のを正面に捉えて銃弾を撃ち込むラナロック。未散が投擲した苦無は、甲高い音と共に床へと突き立ってその勢いを停止させた。八本の苦無を投擲した未散に対し、ラナロックが撃ち出した銃弾は十二発――。勿論、数量の上で未散が不利となり、咄嗟に彼女はその身を翻す。
「ハァァアアアアイィィィッ! 君ノ負けぇぇぇええぇえぇっっ! キヒャヒャヒャヒャ!」
「むぅ………手数じゃあっちにゃ敵わなねぇかぁ……だったら」
 今度はアメノウズメと共に、左右に別れてラナロックへ近付いていく未散。家具売り場なだけに遮蔽物には困ることなく、隠れ、かわし、手にする苦無で銃弾を弾きおとして対象との距離を縮めていく。が――
「あぁあアアァァ!? 二人はずっけぇえぇぇよっ!! どっチカ一人ハご退場くださぁあアアアアアいっネっ!」
 今まで左右に持った銃を未散とアメノウズメの双方に向けていた彼女が、今度はアメノウズメのみを狙って攻撃し始める。銃弾を次から次へと撃ち込まれている為、身動きが取れないアメノウズメ。
「二手に別れてんだ、片方に集中したら、こっちの思う壺だってぇのっ!」
 手にしていた苦無を再び投擲した未散。が投げられたラナロックは別段回避行動を取るわけでもなく、一切動こうとしない。
「え………ちょっと待てよ、かっちり弱点狙ってんだぜ!? 避けなきゃ――」
 全くといって良い程に迎撃行動を見せないラナロックに若干の焦りを見せた未散だが、そこで彼女は言葉を呑む。投擲した苦無と対象――即ちラナロックとの間に、突然椅子が現れたのだ。良く良く見ると、ラナロックは足で近くにあった椅子を蹴りあげ、それを盾としたらしい。一瞬ではあるが完全に固まっていた彼女は、慌てて大きな家具へと再び体を滑り込ませた。狙われていた筈にアメノウズメが、ぼんやりと彼女の前に姿を見せるも、何処か申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「仕方ねぇよな……まだまだ攻め時じゃないんだ。あんだけ隙が無いことが分かればめっけもん。ありがと」
 一度アメノウズメを消した未散は、直ぐにその場所がバレると踏み、音もなく移動を始める。
「滑り出しは悪くない。寧ろ上出来だ。さて、これからどうしたもんかな………」
 口調はやはり明るい。が、表情が真剣なのは、彼女がこの戦いを本意としていない表れでもある。出来れば気兼ねなく、誰の邪魔も入らない場所で、と言うのが、正直な感想だろう。

「あぁ! 勿体ねー! 決めた、絶対に正気に戻してリベンジだ! こんなんでやりあったって――全然すっきりしねーぞー!」

 言いながら、彼女は有効な手を思案する。