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リアクション
偽りの平和
「SF小説のような世界ですね」
関谷 未憂(せきや・みゆう)が感嘆を漏らす。
「ネオサイバーシティーってやつだね」
リン・リーファ(りん・りーふぁ)も賛同する。
「ところで、叶さん。何処か行きたい所はありませんか?」
未憂に訊ねられて、叶 白竜(よう・ぱいろん)は応える。
「雷霆は気になります。が、もっと奥まった所に行きたいところです」
「観光なら殆どまわったもんね。じゃあそうしよか」
「立ち入り禁止区域とかありましたっけ? そういったところのほうが情報ありそうだし」
好奇心につられて、三人は街の奥へと進む。いや、正確には北の外壁へと。
そこにあったのはオリュンズの半分の顔。平和の影に隠れていたものだった。
“難民キャンプ”
反映を謳歌する都市の日陰に位置する北にはずらりと並ぶ仮設テント。ひしめき暮らす、貧相な人の群れがあった。
驚くことでもない。これはすでに予想できたことでもある。
ドールズの侵略により、都市の半数以上を失ったことを考えるなら、失われた土地に住んでいた人々はどうなるのか。結果は見ての通りだ。
「あんた軍人さんか?」
軍服の白竜を見て、老人が話しかけた。老人の目に憔悴の影が見て取れる。
「最近トロイア基地に来たばかりの者です」
嘘ではない。が、素性を明かすのは不味いかも知れないと思えた。
「おじいさん。ここは?」
「仮設居住区。化け物たちに家を壊されて、なお生き延びた人が集まった。言い換えるなら、難民居住区だよ」
「そんな……、これだけの人がみんな難民だなんて」
リンが言葉を失う。
「ドールズが攻めてくる限り、都市の復興は出来ない。半分になった土地に全ての人を詰め込むこともできない」
白竜が老人に変わり説明する。老人は頷いた。
「じゃあ仕事は?」
「ここの者は殆ど仕事を持っていない。持ったとしても、家が無いのだから、まともに働く事はできない。まして、あそこに全ての人を雇用できる場所もない」
「アンドロイドはいるのに?」
続けて未憂が訊く。
「あれは、人じゃない。街中を監視するカメラと同じ。『ユピテル』の傀儡だ」
『ユピテル』はオリュンズを運営する中央機関。彼らはアンドロイドを使って街を管理しているということなのだろうか。
「お前さんたちは唯の観光者ならここから早く離れることだ。長いテントぐらしに嫌気が刺して、素行の悪い輩も居る。市内にいれば襲われることはない」
「――ご忠告感謝します」
白竜が頭を下げる。
「最後に聞いていいかな? おじいさんはここの『伝承』って知ってる?」
「外来のモノの昔話か? 耄碌してもうよく覚えてないな――。孫に本もあったが、読むものも、読み聞かせるものも、焼けてしまった――」
「……ありがとう」
未憂たちは足早にここから去った。
難民キャンプを去った後、白竜は未憂たちと別れた。
「観光はどうだった?」
世 羅儀(せい・らぎ)が現れ、そう聞いた。
「収穫はありましたよ」
「そうか。こっちは街にいると変に気分が高揚するんだけどな」
「わらなくもないですね……」
「で、このあと何処に行くんだ?」
「そうですね。夜まで待ちましょうか」
「白竜が夜の街に興味があるなんてな――」
二人は街中に消えた。そして夜を待つ。
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