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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション


 無想 1 


「終わったか」
 静まり返った朝比奈家の一室に佇み十兵衛は言う。
「……哀れな者達です」
 宮本は倒れた元同胞達を見下ろして言った。その首は全て胴から離れている。そして、胴と首を並べてやりながら手を合わせ瞑目する。
 その隣で平山が拳を握りしめた。
「愚かな連中だ。バケモノに操られるなど……。何のための鍛錬だったか」
「そう言うな。我らとていつ同じ運命を辿るか知れぬのだ」
 宮本は静かに言った。
 その姿を一同は言葉もなく見つめる。
 昨日、おとといまでは共に修行する同士だった者達と、今日は敵味方として戦わなければならぬ。その心中は察するにあまりある。

 しかし、魔物達は、その感傷に身を置く事をいまだ許そうとはしなかった。




 ゴオオオオオ……

 突然、風が逆巻く。
 鉛色の空が、ますます陰鬱な影を荒廃の村におとし、一同は嵐を怖れる人のように荒れた空を見上げた。

  カッ……カッ……カッ……

 どこからか馬のひずめの音がする。
 それは、地底から響くような。黄泉の国から訪れるような。

 やがて、その蹄音はさらに近くなる。いななきとともに駆けはじめる。

 ドドッ……ドドッ……ドドッ……ドドッ……

 勢いをつけたそのとどろきは壁を飛び越え屋敷内に乗り込んで来た。

 そして、巨大な3本の角の生えた黒馬に乗った、見上げるような巨躯と筋骨隆々とした首の無い魔物が現れた。

「無想……!」

 平山が叫んだ。

「無想? あれが?」

 一同は迫り来る化け物を見た。
 化け物は馬にまたがったまま、屋敷の壁や襖を破壊し、こちらに向かって突進して来る。

「よくもおめおめと我らの前に……」

 平山は震えながら火筒を手に担ぐ。そして、無謀にも無想に挑んで行った。

「平山殿! やめろ」

 その後を宮本が追いかけていく。しかし、平山はとまらなかった。無想の正面に立つと火筒を構え発砲する。弾が無想の体を撃ち抜いた。しかし、見る見るうちにその傷は塞がっていく。無想は馬上にて微動だにしなかった。ただ、血がこびりついたような赤い幅広の剣を抜き……そして、一閃!

 平山の首が胴から離れる。

「!」

 その場にいた全ての者が凍り付いたようにこの光景を見つめた。

 やがて、宮本が腰の刀に手をかけた。

「おのれ!」

 わなわなと震えている。逆上するなど、武人にあるまじき事だ。しかし、

「よくも、平山殿を!」

 宮本は、脇に構えた二刀を構えて飛びかかって行った。そして、電光石火の早技で無想の両腕を斬り落とす。

 ドサリ……

 無想の両腕が落ち、切り口から血がほとばしり始めた。

「やったか?」

 皆が思った。

 しかし……。

 落ちたはずの右腕がゆらりと浮かび上がった。

「な……」

 宮本が青ざめる。

 その、青ざめた二刀の頭をぐっとつかんだ。さらに左腕が浮かび上がり……

 斬! 

 二刀の首を斬り落とす。

 そして、両腕は二刀と平山の首をつかんで元の場所へと戻った。固唾をのんで見守る契約者達の目の前で、無想の両腕は繋がり、その傷口もみるみるうちに塞がって行く。無想は、悠然と今刈った二人の首を腰に結わえ付けた。


「……分かってらっしゃるじゃないの」

 暗澹たる沈黙を破るかのように藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が口を開いた。無想が優梨子の方を向く。

「首に執着なさるあたり、分かっていらっしゃる方で。……あ、ただ、首の保存については、一言申し上げたいことが。ちゃんと干し首にしましょうよー」
 宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)は、そんな優梨子の顔をこわごわとみていた。優梨子の心配をしているわけではない。「うちのボスは、まじで、あぶない」と思っているのだ。身近な物だけが知っている。彼女は殺し合い・首狩り大好き変態さんロールなのだ。
 優梨子は言った。
「面白い方と殺りあえるとお聞きして来ました。その腰のご首級、欲しいです」
 無想は分かっているのか分かっていないのか、無言で優梨子の前に佇んでいる。優梨子は聞こえぬ声を聞くように耳をすますと、
「うむ、ではその腰に下げたご首級、勝った方の総取りと言うことで良いですね!」
 勝手なルールを宣言した。
 そして、身近な首を手に取ると、
「それでは、勝負と参りましょう」
 と、タイラントソードを構えて走り出した。

 その後を無想が追って行く。このゲームに応じたのだろうか?

 優梨子は無想に背中を向けたまま庭に飛び出した。その後を無想が追う。庭に出ると、優梨子は招くように振り返った。無想は両手の剣を羽のように広げ優梨子に挑みかかって行く。『ゲームは終わりだ。すぐにお前の首もそこに落ちるだろう』とでも言うように。しかし、庭に飛び出した途端、無想の馬はバランスを崩した。無想は馬から投げ出される。庭は優梨子の手によって、水を撒いたり、ほじくったりと、あらかじめ足場が悪く作ってあったのだ。
 優梨子はレビテートで宙に浮いた状態で地面の上を移動して行った。そして、光精の指輪で遠距離攻撃して無想を挑発する。
 無想はゆっくりと立ち上がると、優梨子に向き直り、そして恐ろしい勢いで接近して来た。そして、両手の剣で優梨子の剣を狙って来る。
 優梨子は間合いを外しつつ「行動予測」で相手の動きを読もうとした。しかし、あまりにも速すぎて読む事ができない。
 そうしているうちに、無想の刃が眼前に迫り、優梨子の首を狩ろうとする。優梨子「全自動みかんの皮剥き機を眼前に物質化。それを盾、兼、目晦ましとして、辛うじて避けた。しかし、すぐに無想の二太刀目が襲いかかって来る。

「!」

 その時、上空から声とともにジェットドラゴンが降りて来た。

 「藤原さーん! その首を捨てて大人しく投降しなさい! 友人一同草場の影で泣いていますよー!」

 ジェットドラゴンは口から火を吐きながら、無想の正面から突っ込んで来る。無想の体が炎に包まれ、身動きが取れなくなる。その間に優梨子は無想から遠くへ逃げた。
 ジェットドラゴンの上には伏見 明子(ふしみ・めいこ)が乗っていた。明子は無想の腰に結わえ付けられた大量の首をみて叫んだ。

「……あちゃー、優梨子さん。ついにやっちゃったかー……。いつかこんな日が来るとは思ってたけど、騒ぎが大きくなる前に止めなきゃよね。友人として」

「ちょっと、待って下さい」

 泥まみれになって優梨子が叫ぶ。

「私はこっちですわ。そっちはただのバケモノ。私じゃありませんわ」
「……え? 人違い?」
 その言葉に明子は目を丸くする。
「ああ、なんだ、普通に魔物なのね。安心安心」
 それから優梨子が大事そうに抱えている首をみて、微妙に声のトーンを落とした。
「でもやっぱり首奪う気ではあるんだ……しかたない。魔物倒すのはこのまま手伝いましょ」

 それから、明子はジェットドラゴンを旋回させると、自らの身に龍鱗化をかけ、火を煙幕にしてそのままブチ抜いて特攻してアナイアレーションで攻撃した。無想の体のあちこちから血が噴き出す。しかし、それもすぐに塞がって行った。
 一方、優梨子は明子に気を取られている無想の手足を狙い攻撃していく。いら立った無想は優梨子の足元に拳を叩き付けた。その度に地面に大穴が空いて行く。それでも、優梨子は攻撃をやめなかった。
 そこに、再び空から明子の攻撃。正直、明子からはあまり無想の様子は見えていなかったが、そこはパスファインダーの読みと行動予測で何とかする。

 

「ふっ……狂戦士か」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は庭で繰り広げられている戦いを見つめてつぶやいた。

「強いものを求める、という点ではドージェを彷彿させますね。」

 その時、魔鎧エンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)が叫んだ。
「小夜子様、後ろ!」
 エンデは既に小夜子に装備されている。自分自身の力で助けれたら良いのだが、彼女はそこまで強くないし、無想も相当の魔物。ここは魔鎧として力になるのがベストだと考えたのだ。もちろん、小夜子の指示があれば魔鎧としての力を思う存分披露するつもりでいる。
 彼女は魔鎧の状態で殺気看破を用い、辺りへの警戒をしていた。その彼女の感覚が多くの敵の気配を捕らえていた。
 どうやら、殲滅していたと思った敵が、またぞろ復活して来たようだ。無想を倒さない限り血で血を洗う戦いは終わらないのかもしれない。
 小夜子は海神の刀を手に振り返ると、抜刀術で背後の敵を一閃! 雑魚敵を一瞬にして倒した。倒れた敵の姿を冷ややかに見下ろすと、小夜子はそのまま庭にいる無想へと向かって行く。そして、その巨躯を見上げてつぶやく。

「話に聞いたとおりまともに戦っても勝てる相手ではないようですが……鍵となる無想の首を見つけ出して潰すまで、時間稼ぎをするのが私の出来る事でしょうね」

 それから、無想の背後に回ると乱撃ソニックブレードを展開。無想の背中から赤黒い血が噴き出す。
 無想はゆっくりとこちらを振り返った。小夜子の存在をみとめたようだ。魔物は、幅広の剣を両手に広げて小夜子に襲いかかって来た。小夜子はエンデのミラージュで幻影を作り避ける。
 しかし、目のないバケモノに視覚による攪乱は効かない。無想の太刀は真っ芯に小夜子を狙って来る。辛うじて避けつつ、それでも防ぎきれぬ太刀を金剛力による受太刀で受け止めつつ、小夜子は無想の隙を狙った。しかし、バケモノには隙も無かった。
 これ以上の接近戦は危険と見極め、小夜子は後ろに大きくジャンプすると、遠距離から真空波で無想の足を狙った。無想の足が斬れ赤黒い血がほとばしる。さらに真空波で無想の手首を切り落とそうとする。

 しかし、斬っても斬っても無想の傷はすぐに回復してしまう。

 小夜子はだんだん疲れを感じて来た。
 多少の傷は魔鎧の力と、超人的肉体で何とかなるものの、相手は規格外の上、その一撃自体も重かった。多少の傷、で済むとは思えない。長期戦だと危険だ。出来れば早めに首を潰して貰いたいものだと、小夜子は思った。