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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション

「一体、何が起こったんだ?」
 ハヤテは目の前で大渦を巻く池を見つめてつぶやいた。
「あれ……!」
 真桜が池の中を指差す。
 いつの間に現れたのか、そこには巫女姿の童女の姿があった。
 その背中には金色に光る獅子と従え、うつろな目でこちらを見つめている。
「地祇の鏡池だわ!」
 真桜が叫んだ。
「あいつが、地祇?」

「なにしに来たの?」
 鏡池が問いかけて来る。
「あたしの大事なお池を汚しに来たの?」

「違うわ地祇様」
 真桜が叫ぶ。
「あたし達はただ、魔物の首を探そうと……」
 しかし、地祇は聞く耳を持たず、金色の獅子の頭を撫でながら言った。
「雷音。あの子達を食い殺しちゃってちょうだい」
 その言葉に応えるように、獅子は、体から稲光を発しながら咆哮をあげた。
 それから池に向かって呼びかけた。
「水竜。あの子達を沈めちゃってちょうだい」
 すると池の渦がどんどん持ち上がり、激しい竜巻となって一同の前に姿を現した。竜巻というよりは、水柱だ。そして、やがてそれは、一匹の巨大な龍の姿をになる。
 雷音と水竜は、雄叫びをあげながらこちらに向かって襲いかかってくる。
「くそ!」
 ハヤテは武器を構えて雷音に飛びかかって行った。しかし、その体に触れた途端激しい電撃に撃たれ倒れてしまう。
「ハヤテ!」
 真桜は叫ぶと、きっと雷音を見上げた。そして、刀を構えて叫んだ。
「さあ、かかって来い! 私とて武道家の娘。やすやすと殺されはしないわ!」



 その時、どこからともなくオカリナの哀愁漂う音色が聞こえて来た。そして、
「やめておけ。お嬢さん」
 という声がする。
「誰?」
 真桜の問いかけに答えるように、一人の少女が姿を現した。銀星 七緒(ぎんせい・ななお)である。

「魔物在る所…それを退ける者も、在り」

「あなたは?」

「……通りすがりの、退魔師」

「通りすがりの?』

「そう。ここは俺にまかせろ」

 七緒はそう言うと、雷音に対峙する。雷音は全身から火花を散らしながらうなりをあげて近づいて来る。

「かかって来い」

 七緒は挑発した。
 
「ウォオオオオオオー」
 
 雷音は咆哮をあげると七緒に突進して来る。
 七緒は、超感覚と殺気看破で相手の進路を予測し足止めするように火炎瓶を投げた。
 雷音の足元でビンが砕け炎が燃え上がる。炎に驚き立ち止まった雷音に向かって、七緒は茨の鞭をふるった。何度も何度も鞭で打つ。そして、ヒロイックアサルト砕魔の一撃を雷音に撃つ。そうしながら、迫り来る水竜を見てつぶやいた。

「水竜の事はまかせたぞ。パルフィオとパーミリア」


「七緒は雷音の相手か」
 パルフィオ・フォトン(ぱるふぃお・ふぉとん)は迫りくる水竜を見ながら言った。
「じゃあ、私はパーミリアと一緒に水龍をやっつけるよ! あらかじめバトルパーツと合体してるからいつでも戦えるよ!」
 バトルパーツと合体したパルフィオの身長は約2.8m程ある。その足元で パーミリア・キュラドーラ(ぱーみりあ・きゅらどーら)がそっぽを向いた。
「デカいの(パルフィオ)と一緒に東洋の魔物の相手をするハメになっちゃった。やってあげるけど…別に七緒達の為じゃないんだからねっ! あたしは七緒を倒す為に早く力を取り戻したいだけなんだから……」

 そして二人は轟々と音をたてながら近づいて来る水竜を見上げた。見るだに恐ろしい光景だ。にも関わらずパーミリアは不敵な笑みを漏らす。

「あれが『ヨウカイ』……あたしの敵じゃないわ! やってやるんだからっ!!」

 パーミリアの言葉にパルフィオはうなずき、2.8mの巨体で駆け出した。

「よ〜し、先手必勝〜!」

 パルフィオは勢いよく飛び出すと水竜にパンチを入れる。しかし……効いてない感じだ。

 パルフィオの背後では、パーミリアがファイアストームを唱えている。炎の嵐を呼び出され、水竜を包み込んで燃やし尽くそうとした。しかし、次の瞬間炎は消えてしまう。
 パルフィオは叫んだ。
「ちょ、コイツ水で出来てる…!?」
 ほぼ同時にパーミリアも気付いたようだ。
「……って、なんで水なのよっ!? これじゃあたしの炎が効かないじゃない!」

 うろたえる二人に向かい、水竜はどんどん近づいて来た。

「危ない!」
 パルフィオは小さなパーミリアを水竜から庇うように抱え上げた。すると、パーミリアが言った。
「聞いて! デカいの。作戦があるの」
「作戦?」
「そうよ。あたしをあの龍のとこまでぶん投げて!」
「ええ?」
 その言葉にパルフィオは驚く。
「なんて無茶な事を言うんだキミは……!?」
「ごちゃごちゃ言わずに投げて。あたしに考えがあるの ……一か八かだけど、やるしかないわ!」
 パルフィオはまじまじとパーミリアの顔を見た。パーミリアは真剣そのものだ。その表情を見てパルフィオはうなずいた。
「……わかったよ」
 パルフィオはうなずいた。そして、水竜を見つめた。そして、パーミリアを抱え上げると、思い切り水竜に向かってぶん投げた。

 飛ばされた瞬間。

 パーミリアは奈落の鉄鎖を展開。重力に干渉し自らの姿勢を制御。そして、水龍に向かいアルティマ・トゥーレを放った。

 相手が水なら凍ってくれるはず……!?

 それが、パーミリアの計算だった。

 予測通り水竜の表面が凍り付き固まってしまう。

「今よパルフィオ!」

 パーミリアはパルフィオに向かって叫んだ。

「分かった!」
 
 パルフィオはうなずくと水竜の元まで走り寄り、そして思い切り凍った水竜にパンチを打ち込む。

「でええええええええい!!」

 その瞬間、水竜は表面からひび割れ、ガラガラと下に崩れ落ちて行く。

 それを見て地祇はわなないた。

「やったな……」

 ゴゴゴゴゴ……

 地鳴りのような音がする。

「なんだ?」

 ハヤテは不気味に揺らぐ水面を見つめた。

 すると、河童が池から飛び出して来て叫んだ。

「逃げた方がいいキューリ!」

「はあ」

「地祇と戦ってもいい事は一つもないキューリ! さらにパワーアップした雷音と水竜を呼び出すだけキューリ」

「そんなもん、ぶったおしてやりゃいい」

 ハヤテの言葉に。

「いいから、さっさと逃げるキューリ!」

 答えると、河童は強引に一同を池からはなれさせた。

 そして、池から離れた丘の上に一同を誘導する。そこには鏡を抱えたセレンとセレアナの姿もある。
「なんで逃げなきゃいけなかったんだよ」
 ハヤテは河童を睨みつけた。彼にとっては敵に後ろを見せる事などありえないのだ。
 すると、河童は先ほどと同じ事を答えた。
「地祇と戦ってもいい事は一つもないキューリ」
「いい悪いの問題じゃない。敵に背中を見せるなんて情けない事を、なんでやらなきゃいけなかったんだって聞いてるんだ。男の恥だろ」
「猪突猛進は頭がお粗末な証拠だキューリ」
「なんだと!」
 ハヤテは起こって河童の胸ぐらをつかんだ。
「ちょっと、ケンカしてる場合じゃないわよ」
 セレンが言う。
「それより、これを見て」
 そして先ほど池の底で拾った鏡を皆に見せる。
「これは……」
 ハヤテは驚いた。
「首……」
 真桜も驚く。なぜなら、鏡の中に、そこにはないはずのしゃれこうべが映っていたからだ。その額には黒い六芒星が描かれている。
「なんか、禍々しい」
 真桜はつぶやく。じっと見ているとしゃれこうべの目が光った。
「きゃ!」
 真桜は鏡を取り落とす。
「なんだ?」
 拾い上げて鏡を覗き込んだハヤテに向かってしゃれこうべが言った。
『なぜ……呼ぶ?』



 同時刻、赤津城村では無想と契約者たちとの死闘が続いていた。優梨子も明子も小夜子も激しい疲労に打ち砕かれている。その三人に向かい、無想が両手の剣を振り上げ、いましもとどめをささんとした……!




「なんだ? こいつ」
 一方、丘の上ではハヤテが鏡を見てつぶやいた。河童は言った。
「こいつだキューリ。池に沈められてたバケモノだキューリ。この星が目印だキューリ。きっと、地祇が魔物の首をそこに封じ込めたんだキューリ。その鏡を扱えるのは地祇だけだキューリ」
「なんだって? こいつが?」
『我、今まさに目ざめん。さらに、魔道を行くべし」
「黙れ!」
 ハヤテは鏡に映った髑髏に向かって刃を突きつけた!
 その瞬間……




 ガシャーン!

 無想が剣を落とした。そして、彼は、何かを振り払うような仕草をするとあらぬ方向を見てほたえた。そして、驚く一同の目の前で馬に飛び乗り、あっという間にどこかへ駆けていった。




「そんなことしちゃ、いけないキューリ!」
 丘の上で河童がハヤテを止める。
「鏡が割れたらきっと大変な事になるキューリ!」
 その言葉にハヤテは刀を離した。そして、キレる。
「ちくしょう。こんなとこに入れられてたんじゃ、どうしようもねえんじゃねーの?」
「そうよね。現物じゃないとね」
 セレンがうなずく。
「でも、なんで、地祇はこんなところに首を封じ込めたのかな?」
 真桜が首をかしげる。
「それは、地祇に聞くしかないキューリ。首をそこから安全に取り出せるのも、地祇だけだキューリ」
「けど、今の地祇は誰も寄せ付けないじゃない」と真桜。
「いっそ、コブシで言う事聞かせるか」とハヤテ。
 すると、河童は涙目になった。
「駄目だよ、そんなことしちゃ。どっちみち、叶いっこないよ。地祇の雷音と水竜は池に水がある限り何度でも復活するんだ」
「じゃあ、どうしたらいいんだよ」
「地祇の様子は、背中に刺さっている刃を抜けば元の優しい地祇に戻るかもしれないキューリ」
「刃?」
「ああ。地祇の背中には禍々しい刃が刺さってるんだ。あの刃がささってから地祇はおかしくなったキューリ」
「よし」
 ハヤテはうなずいた。
「さっそく、地祇の刃を抜きに行こう」

 しかし、既にあたりは夕闇が迫っている。地祇の刃を抜くのは明日にして、一行はとりあえず休む事にした。