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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション

 そのころ、平山幾三は、ついに隠し部屋を大砲の射程距離に捕らえた。
『あの壁を破壊せよ。そして、村の者共をいぶりだせ』
 彼の頭の中では、そんな言葉が繰り返し響いている。
『そして、全てを殺戮せよ。殺戮し、首を狩れ』

 ……仰せの通りに……

 平山は答えると、庭先から弾を撃つ。

 ドーン!

 音がして隠し部屋の前の道場が破壊された。それでも崩れずにいる壁を見て平山は舌なめずりをする。

「ついに来たか……」

 壁の向こうで慈恩が息をのんだ。

「落ち着け。慈恩。この壁は、外の世界の技術を取り入れてちょっとやそっとでは壊れないように作ってある。それに、村人達は既に隠し通路に避難させてある」

 蓮妓が答える。

「しかし、この振動……」

 言いかけた時、再びドーンと音がした。ミシミシとひびが割れ、壁が剥がれ落ちる音がする。もう後一度発砲されれば終わりかもしれない。

 蓮妓は内心そう覚悟を決めた。


 壁の向こう側では、平山幾三が赤い目を光らせながら笑っていた。彼は弾丸を高く掲げると、砲筒に込めて行く。
 そのには、昨日までの、あの少し気弱で温和な顔をしていた青年の面影は無い。ただ、おのれの力に酔う魔物の姿があるだけだ。

 湯島 茜(ゆしま・あかね)は大砲の音を聞きつけ、エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)とともにこの場に駆けつけた。そして、狂ったように大砲を撃つ平山の姿を見てぼう然と立ち尽くす。しかし、感傷に耽っている場合ではない。赤津城村の人々を守るために、化け物に操られた平山を倒さなければならない。

 茜は平山が次の弾を込める隙を狙い、強化型光条兵器「グリントフライングギロチン」を投げつけた。平山はその気配に気付くと、弾を込めていた手を止め、懐から短筒を出して我が身に襲いかかる投擲物を撃ち落とした。
 さらに短筒を持ち直すと、茜に狙いを定めた。

 ガーン! ガーン!

 銃弾が茜の頬をかすめて飛んで行く。茜はとっさに避けると「ギロチン」を鎖でたぐり寄せ、「超感覚」と「歴戦の立ち回り」で敵の射撃を予測しながら回避。間合いを詰めて直接斬りかかろうとした。しかし、平山は短筒を持ち替えては連射し、容易に茜を寄せ付けようとしない。
 エミリー・グラフトンは、パートナーの死闘をじっと見つめていた。以前、首が切断されたあと、もう一度くっついた彼女にとって、首狩りの魔物など慣れたものだ。それが、今回参加した動機でもある。
「連射とはやっかいでありますな。なんとか加勢しなくてはいけないが……しかし、どう食らい込んで行けばいいのやら……」
 相手は一度死んでいるが「仮の命」だけで「アンデッドではなく」、しかも、魔法攻撃などからは「妖力で守られている」ようだ。人間らしい意識をどれほど残しているのか等、相手の精神状態がはっきりしないので、とりあえず「メンタルアサルト」で奇襲して様子を見る事にした。
 エミリーは平山の正面に立つと、急に動物(ナゾベーム)に化けた。平山が僅かに動揺する。その隙を見逃さず、エミリーはチョコレートスクランブル(巨大フォーク)を構え、平山を突こうとした。平山はエミリーの攻撃を流しつつ、経穴をついた。エミリーは痛みのあまり動けなくなる。
 
 平山はにやりと笑うと砲筒をエミリーに向けた。

「エミリー」

 茜が叫んだ時、


「我を導きし、天界の戦女神よ。この死の先にも行けない愚かな不死者達に天界の加護があらんことを……」

 突然上空から声がして、小型飛空艇が現れた。その上にはエリザベータ・ブリュメールの姿が見える。彼女はフェザースピアを構えて騎馬戦の要領で突撃して来る。

「姫騎士エリザベータ・ブリュメール参る!」

 驚いた平山はエリザベータに向かって短筒を撃った。エリザベートは巧みに飛空挺を操り弾丸を避ける。そして平山に接近すると、
「天空の騎馬民族の異名は伊達ではない!」
 と、ソニックブレードを繰り出した。
 かわす平山。再び短筒を構えてエリザベートに向かって撃つ。
 エリザベートは、銃弾をスウェーでかわしながら飛空挺を旋回させ再び平山に向かって行く。

 ついに平山は大砲を捨て逃げ出した。

 その平山の眼前に斎賀 昌毅(さいが・まさき)が立つ。
 彼はパートナーの魔鎧カスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)を装備している。
 そして、平山に向かって言った。
「赤津城村ってのは武術家達の村って聞いていたから、近接武器だけかと思っていたけど銃使いもいるじゃねぇか! これは是非ともお相手してもらわざるを得ない!! しかも、柔術と銃術を組み合わせた戦い方ってのも気になるぜ……。この前映画で見たガン=カタってのとはまた違うのか?」
 ちなみに、ガン=カタ』とは「ガン(銃)」と東洋武術の「カタ(型)」を組み合わせた言葉だ。もう少し詳しく言えば「敵の眼前に姿を晒しつつ体術と銃撃を組み合わせて戦う」という新たな戦い方だ。(参:ウィキペディア)
「映画の見よう見まねで最近カスケードとはじめた俺達のガン=カタもどきが何処まで通じるか分からないけど、是非ともお前の動きも手に入れて更なるガン=カタへの高みへと進むのだ!!」
昌毅は高らかに宣言した。
 それに答えるように、カスケードも興奮気味に言った。
「わしが魔鎧として昌毅の相棒として、今後闘っていく為に必要なのはこういうことなんじゃないかとピンと来たのじゃ。昌毅の銃術とわしの格闘術。この二つを最大限に活かすガン=カタこそが今わしらに……いや、わしに必要なことじゃったのじゃ! 赤津城村にその先駆者がいると言う噂を聞いていたからいずれ師事を仰ぎにいこうと思っていたのじゃが、化け物になってしまったら仕方ないのう……。実際にお手合わせしてもらうことで修行とするしかないわい」
 それから、小さい声でぼそりと呟く。
「最近、昌毅イコンに乗ってばかりじゃからのう。ここで結果を残さないと……また捨てられるのは勘弁じゃ……。(気合過多)」
 二人の言葉が通じたのかどうか……平山はにやりと笑うと、短筒を構えて昌毅に向けた。
 昌毅も灼骨のカーマインを構える。

 ガン、ガーン!

 2つの銃口が同時に火を噴いた。そして……

 昌毅は一発目の銃弾をを避けると物陰に隠れながら発砲を続けた。
 銃弾が平山に襲いかかる。
 が、しかし……
 なんと平山はその弾道を全て見切り、柔術で弾をたたき落とした。『裏砲術』である。
「ちっ……銃がきかねぇ」
 昌毅は舌打ちする。
「こうなったら、わしの格闘術で戦うしかないのう」
 カスケードが言う。
「仕方ないか」
 昌毅はうなずいた。
 一方平山は短筒を撃ち続けた。
 昌毅はその銃弾の雨の中に身を踊らせると「軽身功」で動き回りながら銃弾を避けて平山に近づいて行った。

 ガン、ガーン! ガン、ガーン!

 平山は撃ち続けた。しかしやがて弾が切れる。その隙を逃さず、昌毅は一気に平山との距離を詰めた。平山は驚き、銃を捨てて掴みかかってきた。しかし、昌毅はフェイントをかけて「後の先」ででカウンター攻撃。その後、すぐに銃で牽制をしつつ平山の懐から脱出し、その側面に回った。そして、銃を構える。
「この距離からなら弾も受けられないだろう」
 昌毅はそう言うと平山の頭に向けて銃をぶっ放そうとしたが、平山は身を沈めて逃げる。そして、銃を持った昌毅の腕をつかんでひねり上げた。
 昌毅の手に激痛が走る。

「う……!」

 あまりの痛みに、思わず昌毅は引き金を引いてしまった。

 ガーン!

 銃弾が木の枝を撃つ。
 撃たれた枝は、そこから折れ、勢いよく落下して化け物の脳天をしたたかに打った。

「ぐ……」

 平山はうめいた。
 その隙を狙い昌毅は平山の手から逃れる。そして、腕の痛みをこらえながら「とどめの一撃」を撃った。平山は手をひろげて銃弾を受けようとするが失敗。手の平を弾が貫き赤黒い血が溢れ出す。それでも……

 ガン、ガーン!

 平山は昌毅に向かって発砲を続けた。そして、そのまま逃げて行った。



 逃げて行く獲物を追いかけるのはマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)の得意とするところだ。
 彼は刑事なのだ。刑事として……そして今回は武術家としても捨て置く訳にはいかない。
 マイトは前方を駆けていく平山を追いながら叫んだ。
「平山幾蔵、悪いが縛に就いて……いや違うな、縛から解かせて貰う」
 その後方を、マイトのパートナーである近藤 勇(こんどう・いさみ)が駆けていく。いうまでもない。マイトに加勢するためだ。
 しかし、近藤はこの度の事件については複雑な思いを抱えていた。その思いがついつい口をついて出てくる。
「首……か、やれやれ…斬られた時は余り気持ちのいいものでもなかったんだが……これも何かの因果、かもしれんなぁ(←前世の最期が斬首刑)」

 マイトの行く先を雑魚剣豪達が遮った。そして、刃を抜き、斬り掛かって来る。

 ザシュ! ザシュ!

 白刃を閃かせ、近藤 勇が薙ぎ払う。
 倒れる敵に目もくれず、二人は平山を追いかけて行った。

 ……しつこい連中だ

 平山は思った。

 ……一刻も早くあの場所に戻り、壁の向こうの物共をいぶりださねばならんのに……

 全ては無想のためだった。『無想のために』という感情しか今の平山にはなかった。
 とりあえず小うるさいはえ共を追い払おうと短筒を取り出す。
 右手は、先ほどの昌毅との戦いでイカレてしまっているので左手でマイトを狙う。

 ガン、ガーン!

 銃弾がマイトの足元ではじける。マイトはとっさによけた。平山はしつこく打ち続けて来る。マイトは銃弾の当たらない位置まで後退すると、コートに忍ばせておいたゴルダを取り出し、平山の手元を狙って投げつけた。
「ち……!」
 平山は自分めがけて飛んで来る小銭を、短筒で撃ち落としていく。平山が小銭に気を取られている隙にマイトは少しづつ平山との距離をつめていった。それに気付いた平山は慌ててマイトに照準を合わせた。しかし、その時にはマイトは戦輪を投げつけていた。円形の刃が平山の頬をを引き裂かんとする。

 ガーン!

 平山は狙いをマイトから戦輪に変えて発砲した。しかし、戦輪には当たらない。マイトの「サイコキネシス」操作で変則軌道を描いているからだ。戦輪は執拗に短筒を持つ平山の左手を狙った。いら立った平山は盲滅法に短筒をぶっ放した。狙いはめちゃくちゃだ。
 こうして、極力自分に向かって「撃たせない」よう牽制しながら、マイトは徐々に平山との距離をつめていった。
 時おり飛んで来る弾丸に関しては「歴戦の防御術」「超感覚」をフル動員の上、ボクシングのスウェーやダッキングといった技術により回避して近づく。
 そう、マイトはボクシングスタイルのまま平山に近づいて行った。

 カチリ……

 突然、銃弾が尽きた。平山は照準をマイトに会わせたまま何度も引き金を引いた。しかし、弾は出ない。どうやら替えの弾も全て使ってしまったようだ。平山は怒り狂いながら短筒を捨てた。

 チャンスだ!

 マイトは心の中で叫ぶと、首尾よく自分の間合いに潜り込む。そこで柔道術の『飛び込んでの組み技狙い』を仕掛けるのがマイトの狙いだった。マイトの本来の領分は柔術である。しかし、平山も柔術の達人……マイトの読みが読まれれば対処されるのは必至……。それで組み付くまではボクシングスタイルを多用する事にする。マイトは左右のパンチを繰り出し平山を殴ろうとしているふりをした。平山はにやりと笑う。経験上、ボクシングvs柔術では、柔術の方が強いと知っていた。(作者注:あくまでも平山の考えです)
 マイトは左手でパンチを繰り出した。平山は受けようと、思わず右手を出した。しかし……。受けてしまってから平山は苦痛に顔を歪める。そこは先ほど昌毅に撃たれた場所だ。一瞬の隙を見逃さず、マイトは平山に組み付いた。そして、投げを打ち、或いは腕を極め、締め上げ、最後に取り押さえ拘束。手錠を掛け、腕を極めきり、
「御用だ」
 と叫ぶ。
 平山は苦痛に顔を歪ませながらも抵抗を試みる。そこに近藤勇が刀を持ってぬっと現れた。
 近藤は冷ややかな目で平山を見下ろすと言った。
「マイト。あんたは、あくまで『刑事』、捕らえる事は出来てもその呪縛から解放する……止めを刺すのには向くまい……パートナーの俺が代わってこの虎徹にて介錯仕る……」
 そして、虎徹を振り上げると、平山の首をバサリと斬り落とした。

「終わったか?」
 マイトが息をつきながら言う。
「いや、まだだ」
 近藤勇はそういうと、あらぬ方へと視線をやる。
 どこからか馬のいななきが聞こえて来る。