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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション


 無想封印 

 馬のいななきは、遠くに聞こえたと思うと、地底から響くような激しい蹄音とともに次第にこちらに近づいて来た。

「来る……」

 十兵衛が呟く。

「……」

 皆無言でうなずく。

 やがて、蹄音はますます激しくなり、そして、巨大な魔鳥のごとき影が塀を乗り越え乗り込んで来た。

 無想だ。

 その首の無い化け物は、大振りの刀を両手にひろげたまま一行の中に乗り込むと、隠し部屋に近づき、手にした剣でその壁を激しく撃つ。

 ガッ!

 平山の大砲を受け、既に壊れかけていた壁は、その一撃であえなくガラガラと崩れ落ちた。壁の向こうにいた蓮妓と慈恩の姿が明らかになる。
 驚く間もなく、化け物が馬首を翻すと隠し部屋に乗り込んできた。そして、蓮妓と慈恩に向かって剣を振り上げた!

 そこに、セフィー・グローリィアが小型飛空艇ヘリファルテ乗って現れた。彼女は、いまだに蠢く雑魚剣豪達の上を飛び越えてやって来ると、破邪の刃を隙無く繰り出し、雑魚敵共をなぎ倒しながら一気に無想に近づく。そして、

「軍神来たるって、こういうことを言うのよね!」

 叫んで無想に突撃する!

 ヴン!

 無想は振り返ると飛空挺にむかって刃を振りおろした。刃から黒い瘴気が立ち上がり、同時に飛空挺が揺れる。セフィーは言葉にならない恐怖を感じて飛空挺を旋回させた。そして、無想を避け、上空に逃げようとする。そのセフィーを無想は追いかけて来た。馬に乗り、両手に刃を広げ……。
 そして、馬を走らせると大きくジャンプ。飛空挺の高さまで跳び剣を振りおろす。

「!!」
 
 セフィーは慌てて上空に逃げようとした。しかし、気ばかり焦り少しも前に進まない気がする。

「早く! 早く!」

 セフィーは祈るように呟いた。

 その時、

 ドーン! という音がして無想の体を煙が包んだ。誰かが砲撃しているようだ。次々と弾が飛んで来て無想の体に当たって爆発する。

 ドーン!  ドーン! 

 砲撃は絶え間なく繰り返される。

「誰?」

 セフィーが砲弾の飛んでくる方向を見た。すると、遥か彼方に方に機械翼【ブレイジング・スター】をつけて飛んでいる一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)の姿が見えた。彼女は手に抱えた機晶キャノンと六連ミサイルポッド、そして機械翼のミサイルポッド&クロスファイアで無想に向かって全力で砲撃&空爆を繰り返していた。無想の周りで次々に弾丸がはじける。
 機晶キャノンを撃ちながら、彼女は興奮気味に目を輝かせていた。
「マスター(=輝)が本気出していいって言ってたので、フルパワーで戦います! 久しぶりに本気出せそうで…ドキドキだけど少しワクワクかな?(笑」
 無想は、雨のような砲撃に晒されながら、悠然と馬首を返した。何しろ、撃たれてもすぐに回復してしまうのだ。
「なんて、化け物よ……」
 セフィーはつぶやく。
 化け物の次のターゲットは瑞樹だった。
 あの、小うるさい蝿を叩き潰そうとでもいうように、悠然と剣を構えて進んで行く。
 その無想の前に神崎 輝(かんざき・ひかる) が立ちはだかった。
 彼は女王のソードブレイカーを手に飛びかかって来た。正直、無謀な攻撃だ。
 しかし、彼の後ろには、彼と目的を同じくする仲間達の姿があった。シエル・セアーズ(しえる・せあーず)神崎 瑠奈(かんざき・るな)一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)真田 幸村(さなだ・ゆきむら)レイカ・スオウ(れいか・すおう)カガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)だ。そして一瀬 瑞樹も含み、彼らは共同で戦う約束をしている。名付けて【無想封印】。

 まぁ、死なない相手なので時間稼ぎが目的かもですが……
 と内心、輝は苦笑する。

 そう。彼らの目的は、なるべく他の人に被害が出ないように無想を引きつけて戦う事だ。なんとか首が見つかるまでしのげるよう、全力で頑張らなくてはいけない……無想は強敵のようなのだし。
 しかし、今回は仲間がいっぱいいるののが心強かった。皆と協力して村を救えるよう頑張るつもりでいる。
 ちなみに、輝の役割は前衛として敵を引きつけて戦い、後衛の盾役になる事だ。輝は、後衛の皆に向かいガードラインをかけ、その上で女王のソードブレイカーを構えて無想に躍りかかって行った。
 無想は、輝を見下ろすと両手に構えた巨大な剣で輝の首を狙った。恐ろしい剣圧が輝の首筋に襲いかかる。輝は歴戦の防御術とスウェーで敵の攻撃を辛うじて防御、回避するが、その体は思い切り後ろに吹き飛ばされる。そして、体勢も整わぬうちに、すぐにまた次の太刀が襲いかかって来た。少しでも触れれば、真っ二つに切裂かれてしまうだろう。
「危ない!」
 後方にいたシエル・セアーズが『我は射す光の閃刃』を展開。戦女神の威光が光の刃となって無想に襲いかかった。無想はとっさに馬を駆り光の刃をかわした。そこに、僅かな隙ができる。それを見逃さず、輝はソニックブレードを繰り出した。音速を超えた一撃が無想に襲いかかり、その体を切裂く。

 ウォオオオオオン……

 咆哮ともつかぬ音が、無想の全身からほとばしる。
 そして、無想は馬首を曲げ、輝に向かって突進して来た。

 ガ……!

 唸りを上げ、剣が輝の首を狙って来る。

「危ないニャー!」

 神崎瑠奈がブラインドナイブスで攻撃。無想の腕を切裂く。

「!」

 無想は思い切り腕を振った。
 瑠奈の体が吹き飛ばされ後衛の皆の中に落ちて来る。

「ふニャー……」

 昏倒する瑠奈の体にシエルはリカバリをかけた。
 そこに無想が馬で乗り込んで来る。そして味方に向かって刃をふるって来る。ガードラインに護られた味方達は被害は抑えられているとはいえ、やはり無傷ではいられない。シエルは自らにリゼネレーションをかけながら、仲間達にリカバリをかけた。シエルの魔力が尽きてしまわぬよう、輝がSPリチャージで彼女のフォローをする。 
 さらに悪いことに、有象無象の雑魚剣豪も無想を守ろうと襲いかかって来た。
 神崎瑠奈は、もみくちゃにされながらもしびれ粉を撒いた。そして、ミラージュによる幻影で敵を撹乱。さらに、悪疫と焔のフラワシを呼び出し、炎熱と暗黒魔法で雑魚敵共を一掃して行く。瑠奈の脇では守護霊【アテナ】も戦っていた。相手は化け物なので瑠奈は躊躇せず本気を出した。
 無想が瑠奈に狙いを定める。それを察知したシエルは、無想に向けてバニッシュを展開。光輝属性の魔法が雑魚敵と無想に襲いかかる。無想は慌ててそれを避けた。シエルはサイドワインダーで無想に向けて矢を放つ。無想はそれを剣でたたき落とした!


「やれやれ、無念を抱いた武人というのはどいつもこいつもおっかないもんだ」
 柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)はつぶやいた。
 見よ、馬を駆り乗り込んで来た無想は、その剣を振るい、敵味方なく襲いかかっている。斬られた雑魚剣豪の血飛沫があちこちに上がる。その有様を見て真田 幸村(さなだ・ゆきむら) が嘆息をついた。
「無想には、敵も味方も関係ないのか……?」
「まったく、おそろしい化け物です」
 レイカ・スオウ(れいか・すおう)が言った。
 彼女は『あるべき幸せを奪う存在を、許すわけにはいかない』という思いにかられてこの戦いに参加した。
「……もともとは、平和な村だったそうではないですか。ただ『戦いたい』という怨念だけで他人の平和な日常を壊すことなんて、絶対に許せない。だから、これ以上無想の犠牲となる人を出してはいけない」
「その通りだ……」
 氷藍はうなずく。
「しかし、皆の協力もあれば、不死身の化け物といえども侵攻を阻む事ぐらい出来るはずだからな。俺も巫女神主として、全力を尽くしてやるさ。……幸村、思う存分やるぞ」
「主の命ずるままに」
 と幸村はうなずく。
「よし。無想……その無尽の悪意、俺が徹底的に昇華してやる……!」
 氷藍はそう言って無想を睨みつけた。
「にしても、邪魔なのはあの馬です」
 レイカが言う。
「まず、協力して無想の機動力の要である馬を潰しませんか? あれを潰さなくては、こちらは翻弄されるばかりです」
「いいぜ」
 氷藍はうなずいた。
「それでは、キミが陽動作戦で無想の気を引き、馬の動きを止めて下さい。馬がとまったところを、私が弓でとどめをさします」
「よし!」
「そして、馬を潰したら、あとはカガミの出番です。彼に、無想本人との戦闘を任せます」
 レイカはパートナーのカガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)を見て言った。
「いいだろう」
 カガミはうなずく。
「……最近は、戦うことがあっても『守り』に徹した戦闘ばかりだった。だが今回は違おう。自分の腕が今どれ程のものか、試す機会だ。存分に暴れさせてもらう」
「その後は、私も手伝うぜ」
 若松 未散(わかまつ・みちる)が言う。
「しかし、勘違いするなよ? これは助太刀じゃない。私自身の為の戦いだ。だから貸しでもなんでもないからな」
 いいだろうと、皆がうなずく。
「それでは、幸村は無想のあの大太刀を砕いてくれ」
 氷藍は言った。
「彼の強さへの執着を断ち切る為にも」
「いいでしょう」

 こうして、話はまとまった。

 そして、氷藍は【氷雪比翼】を背に無想に向かって行った。
 【歴戦の立ち回り】【超感覚】【マジカルシューズ】【琴音の耳】で素早さ強化。【五芒星の護符】【歴戦の生存術】で耐性強化し、わざと無想の目の前に躍り出る。そして飛び回りながら無想の馬に向かって【悪霊退散】を展開。

 ヒヒーン!

 背に主を乗せた馬は避ける事もならず、いななきを上げる。

「!」

 無想は手綱を持ち馬を制御しようとした。
 敵に、体勢を整える隙を与えず氷藍は鬼払いの弓で、脚の関節や横腹をメインに狙い撃った。

 ヒヒーン!  ヒヒーン!

 暴れる馬を制御しながら、無想は氷藍を叩き潰そうと剣をふるった。それを妨害せんと輝と瑠奈がつかず離れず攻撃を仕掛ける。氷藍は隙をつき、矢をつがい、矢を放ち続ける。

 一方レイカはイナンナの加護を使って一緒に戦う友人を毒や瘴気から保護しながら、馬の動きが止まるその瞬間まで遠方で待機していた。

 ついに、馬が動きを止めた。

 その瞬間。レイカはすかさずディス・キュメルタ【優しの弓】を構え、光輝属性であるティファレトの矢ををつがえた。そして、まっすぐに馬の脇腹を狙う。
 露骨過ぎれば自分が狙われて状況そのものが不利になりかねない。チャンスは1回……多くて2回と考えたほうがいいだろう。そう考え、レイカは慎重に弓を引き絞った。

 そして、サイドワインダーで狙撃!

 左右から馬を撃ち抜いた!

 馬は悲鳴をあげて、その場に倒れ伏す。そして、そのまま絶命した。

 怒り狂った無想が馬を蹴飛ばし降りて来た。