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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション


 呪いの刃 

 その頃、真桜達は再び鏡池の前にたどり着いていた。
 昨日とはうってかわり、水面は淀んでいる。
「おい! 鏡池」
 ハヤテは池につくなり地祇の名を呼んだ。しかし、地祇は姿を現さない。ハヤテは地祇の姿を探したが霧がかかって遠くまで見渡せない。
「出て来い! 話があるんだ」
 しかし、返事は無い。
「もしかして、いないのかな?」
 真桜が言う。
「いいや。いるぜ」
 と、ハヤテは答えた。池の周りには禍々しい雰囲気が漂っている。忍びとしての彼の鋭敏な感覚は、確実に何者かの息づかいを捕らえていた。
「けど、霧が邪魔して見つからねえ」
 ハヤテが頭を抱えると……、
「私にまかせて」
 竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)が言った。
「どこにいても見つけ出してみせる」
 そして、彼女は『空飛ぶ魔法↑↑』で池の上に立つと『神の目』で強烈な光を発した。その光は池の隅々までを照らし、池の真ん中の地祇の姿が露になった。その途端に、霧が渦巻き竜の姿になる。霧だと思っていたのは霧に化けた水竜だった。

 地祇の姿が露になると、ハヤテは叫んだ。

「見つけたぜ。こっち来いよ。てめえに話があるんだ。この、鏡の事で」

 そう言って彼は鏡を地祇に見せる。すると、地祇はするするとこちらに近づいて来て言った。

「見つけたよ、鏡ドロボー」
「ドロボー?」
 ハヤテがぎょっとする。
「違います、地祇様」
 真桜が首を振る。
「これには、理由があるんです! 聞いて下さい」
「うるさい、うるさい、このドロボー! お前達なんか、この池に近寄るなーーー!」
 地祇はそう叫ぶと、その手の先で、何体もの雷音と水竜を生み出し一行へと差し向けた。雷光の獅子と、竜巻の竜が群れをなして皆に襲いかかって来る。その背後からは、邪悪な目をした河童も上がってくる。

「ああ、仲間がみんな操られている。駄目だキューリ。やっぱり刃を抜かないと話にならないキューリ」
 河童が哀れな声で叫んだ。人面魚達も飛沫を上げて襲いかかって来る。


「なるほど、件の地祇…背中に何か刺さっているようだ」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は池の中央にいる地祇の背を見つめながら呟いた。
 彼は、以前赤津城村に立ち寄った事があった。そんな事もあり、少なからず縁を感じている。あの村には友、いや強敵(とも)もいる……一刻も早く事態を解決せねば! と今回参加したわけだ。
 さらに、事態の根本的な解決には、池に行くしかないようだと池の探索に加わったのだが……。
「あの姿。さながら、日本でたまにニュースになる、矢の刺さった野生動物……? いや、それよりさっさと抜かないと」

 しかし、エヴァルトと地祇の間には無数の魔物が立ちふさがっていた。
 それで、まずは後衛の者を守るように、接近する雑魚敵(主に河童)を倒していく。
 敵が減り、地祇との間に通り抜けられるだけの隙が出来ると、まずは雷音対策で自身の鎧に対電フィールドを使った。
 それから、助走をつけた上で、ドラゴンアーツと金剛力のパワーを使って地祇まで一直線に跳躍する。ついでに空飛ぶ魔法で落ちないようにしておく。
 跳躍中は剣を体に沿わせながら錐揉み回転、さらに真空波をその周囲に展開、先の対電フィールドと併せて魔物への備えは十分だ。
 そして、そのまま地祇に体当たりする。
「何?」
 地祇は高速で近づいて来たエヴァルトに、一瞬怯んだ。
 その襟首を掴んで引き寄せる。
 その背には確かに大きな刃がざっくりと深くささっていた。傷口からは禍々しい瘴気があふれている。
「これが、呪いの刃か。なるほど、こんなものが刺さっていたら苦しいだろうよ」
 エヴァルトはそう言うと、刃をつかんで引き抜こうとした。
 しかし、刃をつかんだ途端、
「いったああああい」
 地祇が涙を流して悲鳴を上げた。その途端、水面が渦を巻きエヴァルトを飲み込もうとする。水底にも水竜が潜んでいるようだ。
「危ない!」
 エヴァルトは空飛ぶ魔法で高く飛び上がった。その隙に、地祇は逃げ出してしまう。
「待て!」
 エヴァルトは地祇を追いかけた。そして、皆がいる岸辺の方へと追いつめて行く。地祇は、雷音と水竜を呼び寄せて、自分の身の回りを守った。

 こちらへ逃げて来る地祇の姿を見て十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)が拳で手を叩いた。
「よし。俺たちで刃を抜いてやろうぜ! 地祇の背中の刀を抜けば魔物も大人しくなって、首を探すのにも楽になるだろうからな。ここは、私怨を忘れて助けてやろう。その為には、あの魔物共を地祇から引き離さなきゃ駄目だな。俺とミゼが囮になって雷音、水龍を引きつけるとするか」
「そうですね」
 ミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)がうなずく。
「それなら、オレが囮になった方がいいのではないか?」
 機晶姫のガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)が名乗り出た。
「いや」
 とつぐむが首を振る。
「ガランでは地祇に接近する前に気が付かれてしまう。機動性のある自分と小回りのきくミゼの方が囮には向いている。ガランには俺とミゼが雷音と水竜を引きつけたところで、地祇を抑え込んで背中の刃を抜いて欲しい」
「分かった」
 とうなずくガランに向かって真珠が言う。

「真珠がガランを援護するわ」
「頼りにしている」
 ガランは答えた。
 話がまとまると、つぐむは地祇の側を駆けている雷光の獅子に身を乗り出し、地祇に襲いかかるふりをした。すると、獅子共は咆哮を上げながら追いかけて来る。タイミングを見計らい、つぐむは雷音に背を向けて逃げ出した。その後を雷音は追いかけて行く。そして、つぐむに飛びつき襲いかかった! 普通のものなら雷音に触られただけで感電し、動けなるのだが、彼はフーォスフィールドを持っており、雷光には多少の耐性が有るので触れられてもダメージはなかった。しかし、あくまでも囮なので、戦うよりは雷音の注意を引き付け地祇から遠ざける事を優先する。
 一方、ミゼは、同じく地祇に機晶爆弾を投げるふりをして水竜達を挑発する。水竜が追いかけて来ると、歴戦の立ち回りで動きながら付かず離れず引きつけておく。
 こうして、2人が魔獣を地祇から遠ざけてしまうのを見計らって、真珠はサイコキネシスを使った。大量の木の葉が地祇に向かって吹き付け、その視界を塞ぐ。
「……なんなの? これ」

 地祇は視界が利かなくなって混乱した。そこにガランが近づいて来る。彼は、地祇を抑え込み地祇の背中を見た。そして、と手に力を込めて刃を抜こうとした。が……

「痛い! 痛いーーー」

 地祇が悲鳴を上げてもがく。どう見てもあどけない子供の姿をした地祇に泣かれ、ガランは一瞬抑えている手を離してしまった。その瞬間を逃さず、地祇はガランの手を逃れ、池の中に逃げた。

「くそ! 卑怯だぞ池の中に逃げるなんて」

 ハヤテは池の中に向かって怒鳴りつけた。しかし、地祇の答えはなく、代わりに帰って来たのは人面魚の攻撃だった。
「これじゃ、手も足も出ねえ!」
 人面魚を二枚におろしてハヤテは毒づく。

「ルカにまかせて」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が言った。
 彼女はウォータブリージングリングで、水の中での呼吸が可能になっている。彼女は同じくォータブリージングリングを装備したパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とともに、池の中へと向かって行った。

 淀んだ池の中を潜りながらルカは思う。

「地名は土地の特徴を現すから、本来は鏡のように澄んだ聖なる池だと思う。だから首も封じられたのかもだね……」

 さらに深く潜って行くと、池の中央にある岩の前でうずくまっている地祇を見つけた。どうやら、泣いているようだ。その背中には例の刃が刺さっている。
「あんな刃で誰かの悪意で利用されるとか、そんなの許せない。楽にしてあげたい」
 ルカは義憤に燃えた。そして、
「待ってて、すぐに楽にしてあげるからっ」

 と、地祇に近づいて行く。

 しかし、そのルカのに向かって人面魚達が群れをなして襲いかかって来た。
 ルカは神の審判で人面魚達を退けた。

 そして、地祇の前に降りる。
 地祇は顔を上げた。水面のごとき青色の目が二人に向けられる。
 ……名前の通り美しい瞳だ

 と、ダリルは思った。

 しかし、今の地祇はその美しい目を怒りで燃え立たせていた。そして、二人を見ると一目散に逃げ出した。もの凄いスピートで水面に向かって行く
 ダリルはゴッドスピードとパワーブレスでルカと自分を強化。行動予測で地祇の動きを読みルカとともにその後を追いかける。
 やがて地祇は岸にたどり着くと、雷音と水竜を呼び寄せようとした。
 しかし、ダリルが天の炎を壁として立て魔物と地祇を分断してしまう。
「く……」
 誰の助けも求められなくなった地祇は、腰に差していた刀を抜いた。
 ルカは同じく刀を構えた。
 地祇は見かけの幼さに見合わぬ、鋭い攻撃を仕掛けて来た。
 しかし、ルカは歴戦の立ち回りの経験で攻撃をいなしていく。
 目的は相手を倒す事ではない。あくまでも、背中の刃を抜く事だ。
 ルカは地祇の腕の根を刀の峰で打ち、武器を落とさせた。そして、地祇が疲労し動きが鈍くなったところを疾風突きの要領で体ごと突撃。地祇が避ける前提で仕掛けた。なぜなら、避ける動きを利用すれば容易に背後に移動できるからだ。そして、そのまますれ違いざまに背中に取り付く。そこにダリルが、振落とされないよう竜アーツのパワーも使って足を絡めて一気に刃を抜こうとした!

 しかし……

「どうして? どうして、みんなしてあたしをいじめるの?」

 地祇が泣きながら叫ぶ。

「いじめる?」

 その言葉に、ルカは思わず刃を抜く手を止めてしまう。隙を見逃さず、地祇は池に飛び込んだ。そして、池の中央に浮かぶ池の上に身を落ち着けると、水竜を使い池に大渦を巻かせて誰も自分に近づけないようにした。



 対岸からこの戦いを見ていた草薙 武尊(くさなぎ・たける)は思った。
「ふむ、巫女じみた容姿をした地祇の背中に禍々しい刃物が刺さっておるな。アレではさぞ苦しかろう。そう言えば以前、柳生十兵衛殿と共闘した時も呪いの刃などが原因の一つだったの。よし、ここは一つ、あの刃を抜いて助けるとするかの。地祇が暴れてる原因があの刃なら一石二鳥であるな。しかし、池は雷音や水龍だのが居て近づくのも難儀だの。どうしたモノだか……」
 
 武尊はしばらく考え込んだ後、手をたたく。
 少し前に見たとあるアニメの中で、主人公がヒロインを軍の要塞から助け出したシーンを思い出したのだ。あの方法を使おう!

 そして、武尊は小型飛空挺に飛び乗り、地祇に視認されないように背後から高速低空させて一気に接近し、先制攻撃、バーストダッシュを駆使して地祇ごと刃を確保した。
「いやーー!」

 地祇は泣き叫ぶ。そして、武尊の手に噛み付いた。

「ああ! 痛いではないか! 暴れるな! 我は、ただ刃を取ってやろうと……」

「いやーー! 助けて水竜ーーー! みんながあたしをいじめるーーーー!」

「これ! いじめてなどおらん……」

 武尊は必死で地祇をなだめたが、地祇は泣き叫ぶばかり。

「これはいかん」

 本当なら武尊は地祇を確保次第、その場から高速で離脱して刃を抜いて回収するつもりだった。しかし、地祇の抵抗が予想外だったために計画を変更。その場で刃を抜く事にする。武尊は地祇の刃に手を当てた。そして、思い切り力を込めた。どす黒い瘴気が傷口から溢れ出し刃がぎしりと音をたてて抜けて行く。その途端。

「離さんか! 無礼者!」

 地祇は激しい稲光とともに叫んだ。体にもの凄い衝撃を受け、武尊は思わず地祇から手を離した。
 地祇は、先ほどまでのあどけない童女とはうってかわった恐ろしい形相で武尊はを睨みつけている。その体からは、青白い光が立ち上がっている。そのまま宙に浮き岸辺に向かって行った。そして、そこで気を失ってしまう。

 武尊は、今の衝撃で折れた刃を手にぼう然と地祇を見ていた。


 
 岸辺で昏倒した地祇を守るように、邪悪な河童達が集まって来た。これは、彼らに同行してくれているあの気のいい河童と違い、人の尻子玉を抜き水の中に沈めてしまおうと考えている凶悪な河童達である。

 そこにセルマ・アリス(せるま・ありす)が【聖騎士の駿馬】に乗って現れた。彼は、池方面は鏡池さんを鎮めることができれば一発解決なはず! とすごく単純に考えてこちらに参加したのだが、参加してみればこちらも聞いていた通り一筋縄ではいかないみたい。とにかく、魔物を操っている鏡池さんをどうにか落ち着かせないとと思っている。

……特に地祇の鏡池さん。どんなきっかけで呪いの刃が刺さったのか分からないけど、急に暴走してしまって本人も訳が分からず怖い思いをしているかもしれない。何とか抜くことはできないかな。

 そんな思いに突き動かされて、彼は倒れている地祇に近づいて行った。

 しかし、河童達が邪魔をして容易に近づかせてくれない。彼らはセルマを捕らえようと襲いかかって来た。セルマは馬を駆り必死で彼らの手から逃れようとする。
 騒ぎのせいでか地祇が目を覚ました。
「鏡池さん!」
 セルマは呼びかけた。なんとか、近づこうとするためだ。
 しかし、地祇はセルマの姿を認めるや否や逃げ出して行った。
 後を追おうとするセルマを河童達が妨害する。
 そこに、リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす) が【マホロバの軍馬】に乗って乗り込んで来た。言うまでもなくセルマの助太刀をするためである。
 とはいえ、セルマを嫌っている彼女としては、実は彼を狙う魔物の対処をすることはあまり気乗りがしなかった。それでも、修行ついでに一連の件解決に向けて動こうと思い直していた。
 リンゼイは器用に馬を駆り、すばやく移動し魔物達を撹乱していた。もちろん、水に引き込まれないように【殺気看破】で警戒している。河童達は、リンゼイの馬術に翻弄される形で逃げ回っていた。
 その間にセルマに地祇を追いかけるよう促す。セルマは、うなずくと1人地祇の後を追いかけて行った。
 残されたリンゼイは、足元に群がる河童に向かって、【面打ち】をするようなポーズを見せて河童達を威圧した。
 実は彼女に河童共を倒す意志はない。むしろ、河童は使えそうと考えている。
 そして、刀を向けて言った。
「邪魔するならお皿を割りますよ? 嫌なら兄が鏡池さんを助けようとしているので協力してください」
 そして、近場にあった木の枝をもの凄い速さで切り落とす。すると、河童達は恐れをなしたらしい。
 皆、その場に座り込むとリンゼイに頭を下げて言った。
「お見それいたしましたキューリ」
 やはり、河童は河童。みな同じようなものらしい。

 そのころ、セルマは馬を駆り地祇の後を追いかけていた。地祇の足は思いのほか速い。歩いているようにしか見えないのに、いつまでも追いつく事ができない。そして、ついにセルマはその姿を見失ってしまった。
 しかし、セルマは慌てず【殺気看破】を使った。今の地祇は凶暴になっているらしいから、それで見つかるはずだと考えたのだ。セルマの思った通り、すぐに地祇の気配を捉える事ができた。ここから数歩先の茂みの中に隠れているようだ。
 セルマは馬を下りると静かに茂みへと近づいて行った。
 地祇は怯えるようにセルマを見る。こころなし、混乱しているように見える。
「怖がらないで」
 セルマは静かに言った。
「俺は、鏡池さんを助けたくて来たんだよ」
「……私を?」
 地祇はあどけない顔をセルマに向けて言った。
「そのとおりです。キューリ。その方は地祇様の味方です」
 声がして、リンゼイとともに河童達が一個団体で現れる。
「実は、私たち池の仲間全員、このところの地祇様の様子を心配していたのですキューリ」
「そうです。私たちは怖いから言いなりになってましたが、本当は心配していたキューリ」
 すると、地祇は言った。
「あたしね、最近おかしいの。悪い夢の中にいて、全然覚めないような気がするの。早く、夢から覚めたいのに……。お前が助けてくれるの?」
「そうだよ」
 と、セルマは、その背に合わせるようにしゃがんで話しかける。その背には折れた刃が刺さっていた。その刃は、半分抜けかけてぐらぐらしているようだ。先ほど武尊が抜こうとしたおかげらしい。
 セルマは地祇を安心させるように抱きしめると
「痛いかもしれないけど、大人しくしてて。これを取るから」
 と、話しかけつつ彼女の傷口をあまり広げないようにそっと刃を背から抜いた。
「つ……!」
 地祇が苦痛に顔を歪める。セルマは、その後素早く【ヒール】をかけ、その後、特技【応急手当】の知識技術をフルに使って鏡池の傷を癒した。

「は!」

 地祇が我に返ったように起き上がる。

「私は、何をしていたのじゃ?」

 口調が変わっている。

「鏡池さん。正気に戻りましたか?」

 セルマが叫ぶと、地祇はセルマをじっと見た。そして言った。

「そうか。お前が助けてくれたのだな? それに、多くの者が私を助けようとしていてくれたのだ。思い出したぞ!」