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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション

 ハヤテ達は正気に戻った地祇を連れ、夕べ夜を明かした丘の上に連れて行った。
 そこでダリル・ガイザックが地祇の怪我を診て、清浄化と完全回復をかける。
「礼を言うぞ」
 地祇は一同に頭を下げた。
「あのまま放っておいたら、池の周りは恐ろしい事になっておったに違いない」

「でも……一体、どうしてこんな事になったの?」
 水心子 緋雨が地祇に尋ねた。彼女は、引き続き事件の真相をさぐるべくパートナーの麻羅とともに隠し部屋を抜け出し、ここまでやって来ていた。
「その背中の傷は、誰にやられたの?」
「分からぬ」
 地祇は答えた。
「刺された記憶すらない。不覚をとった。ただ一つの救いは、こうなるより少し前から何か尋常ならざる気配を感じ『あの首』を鏡の中に封印しておいた事だ。あの首の在処を知る者は私以外にもいくらかいるからな……」
「鏡の中に?」
 真桜は、例の鏡を地祇に差し出して聞いた。
「それって、この鏡の事?」
 鏡の中では生首が、いまにも飛び出さんとばかりにかたかたと動いている。地祇はそれを見て青ざめた。
「なんと……首が蘇りかけておるではないか!」
「そうさ」
 ハヤテがうなずく。
「そいつ、最初はしゃれこうべだったのに、一夜明けたらこんな風になってたんだぜ」
「割れておるからじゃ! 誰がこんな風にした?」
「俺だ」
「馬鹿者ー!」
 地祇が怒ってハヤテの頭を殴りつける。
「ってえな」
「『ってえな』ではない! 神聖な鏡に何たる事をしたのじゃ」
「だって、鏡の中に入れたまんまじゃ持ってっても仕方ねえだろ? 割ったら取り出せるんじゃないかと思って」
「取り出してどうする気だったんだ?」
「無想ってバケモノに届けてやろうと思って」
「ああ、それ違うわよ」
 緋雨が言った。
「慈恩さんが言ってたわよ。『化け物を倒すには首を返すんじゃなくて、首を潰さなきゃいけない』って、古い本に書いてあったって」
「そうかよ」
 ハヤテはうなずいた。
「その方が話が速くていいや。さあ、とっととこいつを出してくれ。俺様が拳で潰してやる」
 しかし、地祇はそれには答えず青ざめている。
「無想……無想が現れたのか?」
「そうよ。そして、あたし達の赤津城村を襲っているの」
 真桜が言う。
「恐ろしい事じゃ」
 地祇は言った。
「しかし、これで分かったぞ。なぜ、私に呪いの刃が打ち込まれたか……無想を完全復活させるためだったのじゃ」
「無想を?」
 ハヤテが聞き返すと、地祇はうなずいた。
「そうだ。私は100年前にここを訪れた奇妙な坊主に頼まれて、あの首をこの池の中に封印したのじゃ。坊主は言った『この首は『無想』という化け物の首だ』と。『その化け物は強さを求めるあまりに魔物に心を売り、今までにも何千も強者をあの世に送った。しかし、それでも飽き足らす、完璧なる強さを求めて彷徨っておる。
 恐ろしい事に、奴は首を集める事で強くなると信じており、ために殺戮を繰り返しておる。今日、わしがやっとの思いで奴の首を斬ったが、魔道に墜ちた哀れな男の魂は、もはやあの世でも救われる事が無いようだ。頼むから、この池の深く沈め、二度とこの世に戻さぬようにしてくれと。
 確かに、あの頃は、あちこちで無想という名の者が殺戮を繰り返しているという話を聞いておったから、私は一も二もなくその申し出を引き受けた。首がなくとも、化け物は彷徨い続けるだろうが、首さえなければ、今までのような破壊的な力を発揮する事は無理だと高僧が言ったからじゃ。しかし、私が呪いの刃などを受け前後不覚となってしまったために、この池の結界が弱まった。その事で首が力を取り戻し、あの化け物に力を与え、この地に呼び寄せてしまったのだろう」
「そう……」
 緋雨はしばらく考えた後、地祇に尋ねた。
「その、呪いの刃を刺した人間は、始めからそれが目的だったというわけね」
「十中八九そうであろうな」
 地祇がうなずく。
「しかし、今更何の目的で……? どう思う? 麻羅」
「ふむ。刃を刺した奴の正体が分からんと、目的もわからぬのう」
 麻羅がそう言って地祇を見る。
「のう、鏡池。お主を刺した者の顔は確かに見ておらぬのじゃな?」
「見ておらぬ。最後の記憶は、社に入り眠ろうとしたことぐらいだ」
「よかったら俺が調べようか?」
 地祇の治療にあたっていたダリル・ガイザックが言った。
「そんな事、できるの?」
 真桜の言葉にダリルはうなずき、抜かれた刃にサイコメトリーをかけて刃が記憶してる犯人の姿を読んだ。
「……犯人は、編み笠をかぶっているな。そして、黒い服を着ている。……家紋が見える。隅立て四つ目の家紋だ」
「隅立て四つ目?」
 ハヤテが叫ぶ。
「それは、六角家の家紋だ!」
「六角家って、例の甲賀忍者の頭領の?」
 緋雨の言葉に。
「そうだ。六角道元の……」
 とハヤテはうなずく。六角道元とは、以前、とある事件で十兵衛達に倒された甲賀忍者の頭領の名前である。
「これで、一つはっきりしたの。この事件には甲賀忍者が関わっておるという事じゃ」
 麻羅が言う。
「でも、なんで? 甲賀の忍びは赤津城村の御領主の日下部家に仕えてるんでしょう?」
 真桜が言う。
「どういうわけだか知らねえが……あいつら、許せねえ!」
 ハヤテは拳で地面を殴りつけると、地祇に向かって言った。
「首は、この鏡の中に封印されてるんだな?」
「そうだ」
「だったら、今すぐにここに取り出せ。俺がぶっつぶしてやる」
「ならん」
 地祇が答える。
「どうしてだよ」
「この首の妖力……ここで、こうしているだけでも恐ろしいほどじゃ。お前ごときの潰せる相手ではない」
「だったら、どうしろってんだよ」
「私の力で、もう一度封印し直す。二度と目覚められんほど奥深くに……」

 そして、地祇は祝詞を唱え始めた。鏡の奥深く、無想を封印するため……。