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首狩りの魔物

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首狩りの魔物

リアクション

 逃げた黒河内の後をラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が追いかけて行く。

「待てや! 黒河内!」

 ラルクは黒河内に向かって叫んでいる。彼は、武道家として更なる高みへ行くためにも是非黒河内伝十郎に挑みたいと思っている。

『武道家としては同じ武道家に挑むのが筋ってもんだろ?』

 というのがラルクのぶっちゃけた思いだ。
 しかし、黒河内は止まらない。惨めに敵に後ろを見せ続ける黒河内をラルクは挑発した。

「尻尾巻いて逃げるとは口ほどにもない奴だな」

 その言葉に、黒河内が立ち止まった。そして振り返るとラルクをにらむ。

「なんだよ。怒ったのか? だったら俺と勝負して、勝ってみろよ」

 黒河内は黙ってラルクを見つめている。
 ラルクは叫んだ。

「より強くなる為に、より高みに至る為にも協力してくれや!!」

 ラルクの言葉についに黒河内は応えた。剣を構えにやりと笑う。

「やる気になったか」

 ラルクも笑みを返す。

「さて……今回も修行といくかな」

 黒河内が唸りをあげて襲いかかって来る。ラルクは身を沈めて剣を避け敵の後ろに回る。黒河内は振り向きざまに二太刀目を入れて来る。そして、三太刀、四太刀と連続で入れて来た。

 ガシ……!

 五太刀目の鞘を、ラルクは両腕で受け止めた。そして、黒河内の腹に一発入れようとするが、避けられてしまう。
 ラルクは龍の波動で強烈な闘気を発しながら、とび蹴りで一気に間合いをつめた。そして、
「そんな剣なんかぶっ壊してやらぁ!」
 と、思い切り黒河内の手を蹴り上げる。その衝撃で黒河内の手から剣が離れて落ちた。
「さあ、これでお互い丸腰だ。拳の勝負と行こうぜ」
 ラルクの言葉に黒河内が笑ってうなずく。そして、柔術の構えを取った。
 ヒューと、ラルクは口笛を吹いた。
「柔術も使えるのかよ。しかし、武芸百般に通じる奴だろうが関係ねぇ。俺はこの拳と武術を極めるだけだ!」
 そう言うと、ラルクは黒河内に殴り掛かっていった。黒河内はラルクの腕をつかむと、勢いを利用してそのまま大きく投げ飛ばそうとした。
「そう来ると思ったぜ」
 ラルクは行動予測で回避。鳳凰の拳で黒河内を撃つ。
「ごふぅ」
 黒河内は口から血を吐いた。
「俺はお前みてぇにそんなに多才じゃないんでな。殴る蹴るしかできねぇ。だが、ひとつの道を突き詰めたこその強さもあるんだぜ?」
 いいながら歴戦の武術で黒河内の攻撃を避け、蹴飛ばしたり回し蹴りをしたりと得意の武術をいかんなく発揮する。そして、ついに黒河内の胸ぐらをつかんだ。ラルクは黒河内の目を覗き込んで言った。
「俺も伊達に修羅場を潜り抜けてきた訳じゃねぇ」
 そして、とどめを刺そうとする。
 と、黒河内は口をすぼめて「ヒュっ」と何かを吹いた。
「ヤバい!」
 ラルクはとっさに避ける。針だ。針が飛んで後ろにあった銀杏の木の葉に刺さっている。黒河内は再び針を吹いた。ラルクは慌てて後ろにジャンプする。そこに手裏剣が飛んで来る。ラルクはそれも間一髪で躱し、
「ふう……危ない技使いやがって……」
 額の汗を拭った。
 本当に間一髪だった。もう少しで目を潰されるところだった。
 しかし、その間に黒河内は剣を拾って逃げ去ってしまっていた。



 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は、黒河内との遭遇を目指していた。とはいえ、出会い頭に居合抜きなんて受けたくないから、イナンナの加護も使いつつ、不意討ちを警戒しつつ探している。
 今回彼が参加したのは、もちろん赤津城村の人々を守るため、操られた剣豪達を倒すという目的のためだったが、それ以上に設楽 カノン(したら・かのん)を守るために、もっと強くなりたいからだ。

 そのレオの目に駆けて来る剣豪の姿が見えた。
 先ほど聞いた黒河内の特徴にぴったりの土気色の顔をした痩せた剣士だ。

 駆けて来る剣豪を見ながらレオは思った。

……かつて守り手だった戦士、か……まさか自分が故郷を滅ぼす側に回るなんて思わなかっただろうな。僕の技がどこまで通じるか分からないけど、絶対に倒しきる。

 しかし、どう戦えばいいだろう?
 柔術を含む武芸百般に通ずるような相手なら、迂闊に組み合うのは危険だ。でも、飛び道具や長物が有効な間合いもやりにくい。

 やるなら、剣の間合い。

 レオは、そう頷くと、レーザーマインゴーシュを抜いた。同時に、物質化・非物質化でゾディアック・レイを非物質化しておく。
 レオは黒河内の死角になる位置に隠れると、黒河内の通り過ぎざまブラインドナイブスで攻撃した。黒河内は一瞬怯むもすぐに刀を抜き応戦。両者ひけを取らぬ激しい剣戟が続く。レオは、行動予測で次の手を読み続け、カウンタースタイルを維持しつつ、ブラインドナイブスで攻撃していった。
 でもそれはフェイクだ。
 狙うのは黒河が剣を振るいながら針を放つ瞬間だった。なぜなら、その瞬間は『針が急所を狙える位置』になるから、敵の体勢は限定されるからだ
 打ち合いながら、黒河内は懐から吹き矢を出した。そしてそれを吹こうとした。しかし、
「ごめんね、僕も得意なんだ、それ」
 レオは非物質化してあった光条兵器を物質化させ、
「穿てーーゾディアック・レイ!」
 十二枚の硬貨サイズの円盤がレオの指から飛び出し黒河内に襲いかかる。黒河内は刀で硬貨をたたき落とした。さらにレオは「ゴルディアス・インパクト!」を仕掛ける。
 しかし、黒河内は巧みにかわす……!

 その時、上空から小型飛空艇が現れた。乗っているのはオルフィナ・ランディだ。

 黒河内はとっさに剣を構えると、こちらに向かって来るオルフィナを斬ろうとした。しかし、彼女はスウェーで黒河内の攻撃を見切り、小型飛空艇で体当たりして、透かさずソニックブレードの一撃を食らわした。

「ぐはあ!」

 黒河内は泡を吹いてその場に倒れ伏した。オルフィナは飛空艇から飛び降りると、黒河内の背を踏みにじりながら言った。
 
「よお、坊主の代わりに来てやったぜ。だからとっととくたばんな…」

 その時、どこからか短刀が飛んで来る。オルフィナとレオが顔を上げると、いつの間にか周りを雑魚剣士達に囲まれていた。
 オルフィナは言った。
「柳生十兵衛って、なかなかいい男で俺好みだけど、依頼人の朝比奈蓮妓もいい女だよな……。戦いの後にでも誘ってみるかなって思ってみたり。
 でも、生憎俺は死人は範囲外なんで…。死人や人形で俺を満足させられると思っているのか。雑魚には用はねぇ、それにあんた達も……」

 そして、オルフィナはバスタードソードを構え、レオとともに雑魚敵に躍りかかって行った。


 そして、黒河内は……。
 なんと、まだ生きていた。いや、動いていたと言った方が正しいだろう。
 とにかく、この化け物は何を求めてかひたすら走り続けた。目指す先は『隠し部屋』だ。
 無想のために隠し部屋を壊す。それだけが、魔物の傀儡に成り下がったこの男の望みだった。

 辺りでは乱戦が続いていた。

 その乱戦の中で斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は笑っていた。
「クスクス…いっぱいのお人形さん。壊しつくしてあげる♪」
 彼女は、善悪を持たない「壊す」事のみにしか興味ない改造人間の少女である。破壊衝動を持つ無垢で我儘な子供のような性格で「お人形さん」感覚で容赦なく壊している。
 彼女の手の下で雑魚剣豪達は次々と『壊され』ていった。

「クスクス…お人形さんがいっぱいでハツネ、ワクワクが止まらないの♪ とりあえず…壊れちゃえ」

 ハツネは笑いながら我は射す光の閃刃での無差別攻撃で周辺の雑魚をバラバラにしていく。

 その隣では、ハツネのパートナーの大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)が雑魚敵を相手に戦っていた。
 彼は、人殺しが好きな「人斬り鍬次郎」である。仕事は真面目だが、今回は仕事ではなく人斬りとして血を求めに来たので、村の事はどうでもいいと考えている。
 なので、十兵衛や仲間達にも公言していた。
「ククッ…どうやら、ここの奴等皆殺しにして村人の救助に行くみてぇだが……今回は俺達は仕事じゃねぇからな。てめぇ等側に付いてるが、俺達の殺しの邪魔はするなよ? 村人達にもそう伝えろ……斬られたくなければな」
 毒をもって毒を制すだ。味方に危害を加えるようでもなし。皆も彼の言葉を容認している。
 鍬次郎は殺気看破で雑魚敵を警戒しながら、斬り掛かってこられたところをスウェーと受太刀でかわして、二刀流実力行使で斬り伏せていく。彼の装備している黒刀・無限刃安定というのは、脂の摩擦で燃えており…斬ったら斬り口から燃えて全身黒焦げにしてしまうという代物だ。
 こうして、二人の活躍で、雑魚敵は見る見るうちに数を減らして行く。

「ねえ。もっと楽しめるお人形さんいないの…?」

 ハツネは、鍬次郎にだだをこねるように言った。一応、超感覚で周囲の物音とか気配を警戒してるのだが、何も引っかかってこないのだ。しかし、鍬次郎は自分の人斬りで忙しくハツネに構っているヒマはないようだ。

「つまんない」

 そう呟いたハツネの目に、黒河内の姿が映った。

「クス…あのお人形さん(黒河内伝十郎)、頑丈そうなの……あんなにボロボロなのにまだ動いてるよ…ハツネと一緒に遊ぶの」

 ハツネは無邪気に笑うと、光学迷彩とブラックコートで完全に姿を消した状態で『お人形さん』の背後に回っり、ヒロイックアサルト『背後からの奇襲』で後ろから虎徹でブスリと一刺しした。

「うぐ……」

 背中を貫かれて黒河内はうめく。目に見えない敵を払おうとやみくもに刀を振る。

「まだ、壊れてない」

 ハツネは呟くと、フラワシ『ギルティクラウン』の粘液で黒河内の自由を奪おうとした。しかし、黒河内はその『見えない何か』を刀で追い払う。

 それを見た鍬次郎がにやりと笑って呟いた。

「……せっかくだ。ハツネが攻撃したあの居合いの使い手に俺の片手平突きの疾風突きもくれてやる」

 そして、刀を構えると、黒河内にとどめを刺した。