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リアクション
第九章:風祭 隼人&アイナ・クラリアス
同日 某時刻 某有名すき焼屋前
海京の有名店であるすき焼屋閑散としていた。既に風祭 隼人(かざまつり・はやと)とアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)の二名によって避難誘導がなされた店内には、客はもちろん、従業員すら一人もいないのだ。
そして、隼人は店内に控えるアイナと、すき焼を守るべく、たった一人でキメラーメンの大群と戦っていた。
「……っ! 数が多すぎだぜ」
圧倒的な数の暴力で攻めてくるキメラーメンを前に長期戦を強いられた隼人は、既に二時間もの間戦い続けていた。
時間が経てば経つほど、相手が疲労することを理解しているのかどうかは定かではないが、心なしかキメラーメンは自分たちの優勢を理解しているかのように、一気に攻勢に打って出た。
大量の麺が隼人へと迫り、彼の身体をがんじがらめにした。そして、キメラーメンは一斉に麺に力を込めると、隼人を締め上げようとする。
だが、大量のキメラーメンが一斉に力をかけたにも関わらず、隼人は平然と立っていた。そればかりか、逆に麺を掴んで引っ張ることで力比べを始めたのだ。
「まだ俺の麺能力を言ってなかったな。俺の麺能力はとんこつ系麺能力『ハラペ攻』。腹が空けば空く程、攻撃力が上がる」
キメラーメンたちに語りかけるように、ゆっくりとした口調で言う隼人。しかし、その口調とは裏腹に、腕にかけた力は凄まじく、キメラーメンたちを逆に締め上げていく。
「つまり戦闘後の奢り目当てで食事を抜いてきている俺を待たせれば待たせる程、戦闘(運動)でカロリーを消費すればする程、俺の攻撃力は上がっていくんだ」
隼人は不敵に笑うと、増大した力を利用して麺を掴み、何体ものキメラーメンを同時に持ち上げて振り回す。
「だからより痛い目にあいたくなければ、さっさと俺にブッ飛ばされて麺をまいて帰りやがれ……というか俺にメシを食わせろ!」
そして、裂帛の気合とともに隼人は無数のキメラーメンを同時にアスファルトの路面へと叩きつけた。
「ざっとこんなもんか」
全てのキメラーメンが活動を停止したのを見て取り隼人は呟くと、背後に建つすき焼き屋を見ながら、自分に言い聞かせた。
「……因みにさっきから店の奥から感じている吐き気を催すような異臭は……この世のあらゆる不吉を孕んでいるような臭いは……多分何かの間違いだ。……もちろんこの臭いは俺の報酬となるべき料理のものではないと信じるぜ」
恐る恐るすき焼屋の店内へと入ると、閑散とした店内に一人立つアイナが鍋を前に笑みを浮かべていた。彼女は隼人が戦闘を終えて入ってきたことに気付いていないのか、上機嫌で鍋をかき混ぜている。
「……隼人の報酬の「すき焼き」を作る店員さんがいなくなったわね……仕方ない、特別に私が作ってあげるわ。隼人の麺能力はお腹を空かせればより効果的みたいだから、美味しそうな臭いをさせれば、空腹感をより刺激できて良いハズだしね」
アイナに声をかけようとして、隼人は彼女がかき混ぜている鍋の中を見てしまった。なんと鍋の中にはキノコマンが入っていたのだ。
「確か鍋料理よね? 『すき焼き』って言うぐらいなんだから……食材を好きに焼いて鍋にぶち込めば良いのよね? それぐらい私にも出来るわ。まずは……こいつ(『キノコマン』)で出汁を取ってと……」
鍋の中身を見て絶句する隼人には気付かず、相変わらず上機嫌のアイナ。それを見ながら、隼人は軽いめまいを覚えながら、小さな声でぶつぶつと呟く。
「……ええと、俺への報酬は「すき焼き」であってそれは失われていない……闇鍋? になったりはしていないと……戦闘中想像以上に攻撃力が上がりまくっていたのは気のせいだった……無理だ、これ以上は進めない……行けば必ず病院送り……」
踵を返して、隼人が店内から出ようとした時、ちょうどアイナがその姿に気付いた。
「あ、隼人。ちょうど良かったわ。すき焼きができたところなの」
思わず振り返った隼人に向けてアイナは微笑むと、隼人の心情などつゆ知らずに言った。
「これが『アイナ特製すき焼き』よ、さあ遠慮なく召し上がって良いわよ」
隼人の戦いは、どうやらこれからが本番のようだった。
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