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再建、デスティニーランド!

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再建、デスティニーランド!

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第九章

 司は掃除のお兄さんスタイルで、手にもったモップで槍の演舞を披露して回っていた。
 あくまで仏頂面だ。
 その隣ではサクラコがポップコーンを食べながら子供たちに手を振り、ニコニコと愛想を振りまいていた。
 司はサクラコにぶち当たるようにモップを振り回すが、サクラコはひょいひょいと避け、挙句の果てにはモップの上に乗ってみせる。
「さて、大方綺麗になったな。さっさと帰るぞ」
 そう言ってサクラコの首根っこを掴み少し歩いたところで、「ん?」と呟き突然足を止める司。
 地面のシミを消すためモップでこするがなかなか落ちない。仕方無しに左手に握っていた雑巾で地面を擦ったところ雑巾が叫び声を上げた。
「人を雑巾扱いだなんてなんて酷いんでしょう! この立派な毛皮をなんだと思っているのですか!」
「サクラコじゃないか、この雑巾」
「だから、雑巾じゃないですって!」
「あのシミが落ちないんだ」
「そんな目で見ないでくださいよ、雑巾じゃないんですって!」
 言い合いながら去っていく二人のやり取りにぽかんとする子供たちの横で、大人たちが一斉に吹き出した。

「あ、雅羅さんだ!」
 朝一からランドに入り様々なアトラクションを楽しんでいた白波 理沙(しらなみ・りさ)カイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)は、カラミティコースターに向かう雅羅を見つけると駆け寄った。
「雅羅さんもアトラクション?」
「三二一にカラミティコースターに乗るようにって言われてるのよ」
「わー。私たちも一緒に行っていい?」
「もちろん。他はもう回ったの?」
「うん。カイルと朝から色々回ったよ」
「そう。それは良かったわね」
 楽しげに話すふたりを見守りながら、少し後ろでカイルは軽くため息をついた。
 「カラミティコースター」、つまり雅羅の不幸体質を使った特殊なジェットコースターなのだろう。
 とはいえ理沙も気付いていない状況で本人の前で言うことでもない。
 一応、何があっても理沙や雅羅を守ってやれるように警戒だけはしておくことにした。
 楽しげな園内の一角、カラミティコースターの周囲だけは異常な緊張感に包まれていた。雅羅が現れるとどよめきが起こる。
「いや、再建でお前みたいな最悪不運女が居るのおかしいだろ!?」
 事情を知らずにフレンディスと並んでいたベルクは、雅羅の姿を見るなり思わずツッコんだ。
「うるさいわね。好きで不運なわけじゃないわよ!」
「そりゃまあ、そうなんだろうが」
「でしょ? 理沙、私、全部に乗らなきゃいけないみたいだから先に行くわ。後でね」
「うん!」
 スタスタとキャストルームへ向かう雅羅の姿を見たケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、すかさず天津 麻衣(あまつ・まい)に指示を出す。
「わかったわ」
 こう答えると、麻衣は式神の術を発動して、装備している銃型HCを式神化。カラミティコースターに乗り込ませ、異常が無いか監視を命じた。
「どうしたの?」
 待機列の中でそわそわしはじめた円を見て、刀真が声をかけた。
「竜一くんが! 雅羅くんの事気になってるみたい! フォローしてあげなきゃ! だって友達だし当然だよね! 竜一くんと雅羅くん隣に座らせようよ!」
「円の言う通り! 明らかに虎一は雅羅に気がある! 雅羅頼む! 虎一の隣に座ってくれないか? こいついつも独りでゲームばかりやってるけど、いざという時は頼りになる男なんだぜ?」
「背が高くて無表情だけどプラモを愛するいい子だから!」
 円と刀真の必死の頼みに、雅羅は頷いた。
「構わないわよ」
「雅羅くん、ありがとう!」
「流石雅羅! 胸がでかい女は心が広い!」
「何するのよ!!」
 突然胸を揉まれた雅羅が刀真の手を払う。
「虎一オコルナヨ〜コレハアイサツダ!」
 笑いながらそう言うと、刀真は後ろの座席へと回った。
「え? 今回特別に怖いとかあるの? 何だか他からそういう話を聞いたんだけど……?? 特に変わった所は無さそうだけどなー」
 座席に座った理沙はきょろきょろとコースターをチェックしてみるが、特に変わったところは見つからない。
「そうだな」
 カイルもただ静かに同意した。
「あれ? 私、何か重要な事忘れてるような気がするわね……」
「大丈夫だ。ふたりとも守ってやる」
「え? カイル? 何? 何が起こるの?」
「なんだろうな」
「ええー……」
 不安げな理沙の声を残し走り始めたカラミティコースターは、皆が想像していたよりは全然安心の走りを見せた。
 途中ゴゴゴゴゴという不穏な音が聞こえたり、なぜか生卵が落ちてきたりもしたが、卵をモロにくらった雅羅以外は、とても楽しそうだった。
 カイルは一人ほっと胸をなでおろすと、再び理沙とランドを回り始めるのだった。
 フレンディスとともに乗っていたベルクも安堵の息を漏らす。
「パラミタでは色々なスリリングな体験が出来ますし、わざわざ遊園地に来る事もなくなりましたが、たまにに来ると楽しいものですね」
「これは、面白いですね」
 セシルと恋は満足そうに頷くと、次のアトラクションへと向かった。

 朝から一通りのアトラクションを回ったセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、スリルを求めていた。
「楽しいは楽しいんだけどね。でもこれじゃ……普通っぽくて客足が鈍るのも無理ないわ」
「厳しいわね。私は結構満足したわ」
 それなりに楽しんでいた割にはあまりのツッコミにセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は笑った。
「やっぱりスリルが足りないのよ……ちょっとセレアナ! これ!」
「カラミティコースター?」
 突然パンフレットを指差したセレンフィリティにセレアナは怪訝そうにそこを見る。
「雅羅ちゃんが乗るってことはそれだけでエキサイティングよね」
「嫌な予感しかしないわ」
 セレアナの独り言に構わず、セレンフィリティは意気揚々とカラミティコースターに向かうのだった。
 1周目であまり大きな問題が起こらなかったこともあり、キャストたちもやや安心した面持ちで次のゲストを誘導する。
「な、なんだか嫌な予感がするけど大丈夫なのかなこれ……ここまで来ちゃったら乗るしかないけれど」
 理依は突然妙な不安に襲われたが、楽しみにしているビスタを見て、大人しく乗り込むことにした。
 一番前に雅羅が座り、二列目にセレンフィリティとセレアナ、少し離れて理依とビスタ、さらに後ろには玲と直斗が座り、エースとリリアは一番後ろに座る。
 ブザーの音が鳴り、ゆっくりとコースターがスタートする。
 ゆっくりと前進し、最初の上りをゆっくり上がりきると、ゆっくりと下っていく。
 コースター内からざわめきが起こる。
「理依様、ジェットコースターとは、何が面白いものなのですか?」
「う……ん、そう思うよね、これ」
 ビスタの問いに理依は苦笑いで答えた。
「予想外のカラミティだな、これは」
 これだけでは終わらないだろうと、エースは密かに身構える。
「ちょっとー! これつまんないんだけどー。雅羅ちゃんもっと頑張ってよ」
「勝手なこと言わないでよ。このスピード、逆に最前意外に怖いんだから!」
 セレンフィリティの言葉に、雅羅は安全バーを握ったまま返した。
「ねぇ、エース」
「どうした、リリア?」
「このコースター、あの回転するトコロどうなるのカシラ?」
「え?」
 リリアの言葉に一同がピタリと押し黙る。
 目の前には回転レールが迫っていた。
「遠心力が足りなければ、落ちるのかしら?」
 ぽつりと呟かれたセレアナの言葉が、皆の胸に突き刺さる。
「ちょっとおおおおおお!! 雅羅ちゃん頑張ってえええええ!!」
 先ほどとは打って変わったテンションでセレンフィリティが叫ぶ。
「だから! 私にどうこうできることじゃないわよ!!」
 ふたりの言い合いに頭を抱えながらセレアナは脱出方法を検討する。
「理依様、とりあえず問題が起こっていることは認識しました」
「うーん。どうしようねえ。この安全バー、どこまで支えてくれるのかな」
 冷静な理依とビスタの後ろでは、直斗がしっかりと玲の手を握っていた。
「絶対、俺が玲さんのこと守りますから!」
「う、うん、ありがとう」
 エースは一番後ろから全体を見回し、最悪の場合どうリリアと他の女性陣を助けるか考えていた。
「男は自分でなんとかするだろう」
 そんな混乱の様子を、麻衣の式神化した銃型HCが、ケーニッヒの銃型HCへと届けた。
「麻衣、我はゆくぞ。引き続き監視を頼む」
「う、うん」
 麻衣に後を任せると、軽身功を使い人間離れした運動能力を獲得して、稼動中のカラミティコースターに飛び乗った。
 これ以上騒ぎを大きくしないよう、マスコットキャラであるリスの着ぐるみを着用していたためか、泣き喚いていた子供たちに笑顔が戻る。
 ケーニッヒはその運動能力でうまくコースターの機関を操作する。
 と、突然コースターが凄まじいスピードで走り始めた。
「やったーー!!」
「リスさん安全バー!!」
 セレンフィリティと理依の声が同時に響き渡る。
「あ」
 支えるものが何もない状態で回転に入ったケーニッヒはそのまま振り落とされそうになるが、すんでのところでコースターを掴むと、再びコースターに飛び乗り、ふと目に付いた空席に滑り込んだ。
 カラミティコースターが走り去った後には、なぜか安全バーからすり抜け下のプールにダイブした直斗と、慌てて飛び込んだ玲の姿が残されていた。
「直くん大丈夫ですか!」
「ぶくぶくぶくぶく……」
「直くん!!」
 玲とキャストによって引っ張り上げられた直斗は、悔しさのあまりプールサイドをごろごろと転がるのだった。

 一方スピードの上がったコースターでは、上空に突然現れた渡り鳥たちによる集団フン攻撃にさらされていた。
 なんとかゲストに被害を与えまいと、着ぐるみのケーニッヒが華麗に動き回り一身にフンを受けていく。
「リスさん、さっきと柄が違うー」
 フンによって見た目の変わってしまったリスを、子供たちが指差す。
「さっきのは双子の弟だったんだ」
 慌ててそう返したケーニッヒの言葉に、子供たちは納得したように歓声を上げた。
「ちょっと、何よあれ!」
 突然雅羅が叫ぶ。水辺を走るはずのコースが、水がやたら増量し、あふれ出していたのだ。
 無情にもコースターはそのまま水の中に突っ込み、走り抜けた。
 少し感じた妙な香りに、エースは咄嗟にリリアの目元を庇う。
「理依様、腐った卵の匂いがします」
「硫黄だよね、これ」
 理依とビスタの会話を聞いたケーニッヒは、先ほど妙な音がしたと麻衣から報告があったことを思います。よりによってこのタイミングで、ちょうどコースターの真下から温泉が湧き出したのだ。
「み、皆さん、特別イベント温泉はいかがでしたか? さーて、このコースターも残りわずかです。さてさて、次は何が起こるのでしょうかー」
 必死にフォローするケーニッヒの声を式神を通して聞きながら、スタート地点で麻衣は心配のあまり発狂しかかっていた。
 そんな中、コースターはガタゴトと不穏な音を立てながらスピードを上げ、未だかつてないスピードで暴走を始めた。
 全速力でスタート地点を通りすぎ、なぜか2周目に入る。
「ぎゃーーーーーーーーーー!!」
 大声で叫びながら、セレンフィリティはどさくさ紛れに隣のセレアナの胸を服の上から揉みしだく。
「な、何するのよこのセクハラ女!」
「死ぬ前に一度でいいからセレアナのおっぱいを揉んでから……! ぎゃーーーーーーーーーー!」
 まったく、叫びたいのはこっちである。わけの分からないままセクハラをされ、セレアナは天を仰いだ。
「ダメだ、完全に壊れてる」
 なんとかなだめようとするが、調子っぱずれの変な歌を歌いだしたりと大騒ぎをするセレンフィリティに、逆に他のゲストは冷静さを取り戻し、何とか次のターンでスタート地点に無事到着するのだった。
「特別仕様のカラミティコースター、いかがでしたか? ラストスパート2周目で、温泉で濡れた身体がしっかり乾いたと思いますので、この後も存分にデスティニーランドを楽しんでくださいね!」
 着ぐるみのリスによる見事なフォローにより、大きな事件になることもなく皆次のアトラクションへ向かっていく。
「良かった!」
 凄まじい姿になりながらも無事に事を終えたケーニッヒに思わず麻衣は飛びついた。
「心配をかけたな」
 さすがにその場で着ぐるみを脱ぐわけには行かず、ふたりは着替えるため、操作室からキャストの控え室へ向かうことにした。
「あわわわ……わわ……」
「しっかりしてよ、セレン」
 真っ白に燃え尽きたセレンフィリティの横で、セレアナが必死に声をかける。
「大丈夫ですか!?」
 駆けつけた未憂にセレアナは困ったように首を振る。
「救護室行きましょう」
 そう言うと、未憂は簡単な応急手当を施し、セレアナとともにセレンフィリティを救護室に運ぶのだった。
「いったん休憩よ!」
 そう言ってランド内を歩き始めた雅羅の後を、リリアが付いていこうとする。
「リリア、君……コースターというよりも雅羅さんの得意体質にハマってどーする! そのスリルはコースターのせいじゃなく雅羅さんの体質のせいで……え? 彼女に付いていく?」
 リリアの突飛な行動に驚きつつも、そこまで楽しんでくれたのかとエースは嬉しくなる。
「せっかくだからお土産も買って行こうよ」
 そう言ったエースの言葉にリリアは勢い良く振り返った。
「記念になるもの勝って帰るわ」
 ふたりは並んで土産物屋に向かう。
「……普通のジェットコースター、乗ってみようか」
「はい、理依様」
 理依とビスタも一緒に次のアトラクションへ向かって歩き始めた。