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第七章

 ヒーローショーが始まったあたりから、ステージ横では南天 葛(なんてん・かずら)たちが関連商品販売のための出店の設営を始めていた。
 入り口で初めてヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)との契約の話を聞かされ意識が遠のきかけたダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)だったが、ヴァルベリトに警戒しつつもとりあえずは出店の準備を手伝う。
 葛に頼まれ小型飛空艇アルバトロスに積んできた長机や柵や網、風船などを順番に降ろしていく。
 ヴァルベリトは小さな背中に背負っていた凄まじく大きく膨らんだ唐草模様の風呂敷を一気に広げる。
 中から棒やらボンベのようなものやら様々なグッズが現れた。
 ダイアの飛行艇を土台にすると手馴れた仕草で柵や棒、網などで組み立て飾りつける。
 最後に風呂敷を広げるとなぜかテント型になった。
「ばるすごいー!! なんでなんで!?」
「企業秘密。バかずらには教えねぇよ」
「えー。気になるよー」
「自分で考えてみるんだな……って痛ぇぇぇぇぇ!!」
 ヴァルベリトの頭にダイアが噛み付いていた。
「痛ってぇな! アンタ何すんだよ!」
「もったいぶってないでそのくらい教えてやったらどうだい!」
「んなこと言うためにいちいち噛み付いてんじゃねーよ」
「ぐずぐずしてるからだよ」
「やることが極端すぎるぜ……」
「良かったー。二人とも仲良くなったんだね」
「「どこが!!」」
 にこにこと笑う葛に毒気を抜かれ、ヴァルベリトは出店の設営に戻る。
 並べた机の上にヒーローと悪役のお面や衣装、武器型おもちゃを並べる。
 ミニタオルやハンカチ、風船、サイン用の色紙なども準備すると、分かりやすく整理しながら在庫を机の下に収納していった。
「随分綺麗に仕上げるじゃないか」
「金がかかってるからな」
 さすがのダイアも感心する。
 出店の隣にはイラストの描かれた撮影用のパネルを設置すると、ヴァルベリトは釣銭の準備までを一気に行った。
「がんもやいりこさんもマスコットとしてお店番してね」
 そう言うと、葛はレッサーワイバーンのがんもとスパルトイのいりこさんに動物のつけ耳をさせ、ヒーローの衣装を着せた。
「ダイアも大きなリボンつけよう」
 ダイアは葛の前で身を屈めると、大人しくリボンを付けられる。
 それを見ていたヴァルベリトは、客引きとしては充分だと満足げに頷いた。

 ヒーローショーが終了すると、興奮冷めやらぬままのゲストたちが出店に押し寄せてくる。
「いらしゃいませー。あ、お次お待ちのお客様こちらへどうぞ! どうぞ手に取ってご覧ください!」
 見たこともない笑顔で接客をするヴァルベリトの姿にダリアは改めて感心する。
「どのヒーローが一番格好良かった? ツァンダー? じゃあこのお面とベルトがお勧めだよ」
 子供たちと同じ視点で話を盛り上げるヴァルベリトに、子供たちは次々とグッズを選ぶと隣の親にねだるのだった。
「撮りますよ〜! いちたすいちは〜? に〜!」
 葛はパネルの前で写真撮影の手伝いをしていた。
 次々とカメラを預けられ、出店で買ったお面などのグッズを装着した子供たちの写真を撮る。
 と、並んでいた子供たちから歓声があがった。
 先ほどまでステージにいたヒーローたちと、悪役たちが出店に出てきたのだ。
 ヴァルベリトはすぐさま出演者たちをテントへと案内すると、サインと握手会用の列整理を始めた。
 握手会はグッズを買ってくれた人が対象だ。
「握手したい人のところに一列に並んでくださいませー!」
 ダリアも、葛が人ごみに巻き込まれないよう気にかけつつ整理を手伝う。
 ヒーロー3人の前には子供たちが長蛇の列を作り、悪役たちの前には比較的大きいお友達が列を作った。

「ふわあぁぁ……すごい人だったね」
 大量のゲストを捌ききった頃には、出店にはほとんど商品は残っていなかった。
「みんな、疲れてるのにありがとう。おかげでみんな喜んでたね」
 葛が出演者たちにそう声をかけると、出演者たちはそれぞれ労いの言葉をかけ、楽屋へと戻っていった。
 ヴァルベリトが凄まじい勢いで売り上げと販売数のカウントを行っている。
 一通りカウントがすんだのかペンを置いたヴァルベリトにダリアが声をかけた。
「ヴァル、どうだったんだい?」
「一番売れたの……オリュンポスの劇画タッチタオルだったんだけど……」
「なんだって……」
 意外な商品の売れ行きに、思わず二人で在庫数の再カウントを行うが、その結果に間違いはなかった。
「お面はどれが一番人気だったの? 握手会は?」
「ウルトラニャンコだな。握手会は子供たちはヒーロー3人だし、グラキエスは中高生ぐらいの女の人に人気だった。あ、ハデスもなぜか子供に囲まれてたな。レスラーの衣装も結構動いたし」
 葛の問いにヴァルベリトがすらすらと答える。
「なにはともあれ、二人ともお疲れ様。ランドの人とショーの皆さんにご挨拶して帰るよ」
「はーい」
「仕切ってんじゃねーよ」
「黙んな!!」
 3人はわいわいと片付けをすると、それぞれの該当者に規定のロイヤリティの支払いを行い領収書を回収すると、帰路に着くのだった。

 その頃ステージでは、ヒーローショーを見かけて興味を持ったアリッサが飛び入りで登場していた。
 目の前のステージのため、ベルクたちの邪魔をすることはとりあえず置いておくことにしたのだ。
「えへへー! 歌って踊れるマジカルアーマーアリッサちゃん登場! 皆の疲れを癒す為、沢山歌っちゃうんだもんねー!」
 その幼女の魅力とスキルのリリカルソング♪とマジカルステージ♪を駆使して驚きの歌で集客する。
 無邪気そうな姿に観客が集まってくると、悪戯心全開で精一杯子守歌を歌い、ゲストを皆眠らせてしまった。
「ゆーっくり休んでねー」
 にこにこと笑いながらアリッサは走り去る。
 その後には、必死にゲストを起こして回るキャストたちの姿が残されていた。