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再建、デスティニーランド!

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再建、デスティニーランド!

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第十一章

 太陽が少し西に傾き始めた頃。
 ステージの控え室では乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)が本番を前に迷っていた。
「ねぇ、僕とユニット組んで一緒に歌ってくれるかい?」
 ライブを終え控え室に戻った碓氷 士郎(うすい・しろう)にそう誘われたのだ。
 士郎は七ッ音に、846プロのアイドルとして頑張ってほしいと心の底から思っていた。
「やっぱり、アイドルとして歌うのはちょっと……。私は音楽家なので真面目な音楽の方が好きなのですが……」
 困惑して俯いてしまった七ッ音に、士郎は優しく語りかける。
「七ッ音はあの歌みたいにみんなに幸せになってほしいんだよね。だったらみんなが聞きたがるような音楽を届けるのが七ッ音の役目じゃないのかな? それに、アイドルも僕から見れば音楽家だと思うなぁ」
 その言葉に七ッ音はふと顔を上げた。
 「アイドルも音楽家」。その言葉に、これまで心に抱えていた重いものが、すーっとなくなるのを感じた。
「……わかりました」
「ありがとう!!」
 士郎は今までにないくらいの笑顔で喜び、お礼を言うと、七ッ音と共にステージに向かう。
 歌うのは「青空の夢」。士郎が依頼した、ギター伴奏が中心の爽やかなポップスだ。
「ふわり浮かぶ飛行機雲 どこまで続いているのかな ずっと追いかけていたら 夢にたどり着く気がしたんだ」
 七ッ音の歌が、柔らかく、綺麗にステージの空気に溶け込む。
「停滞した空気 朧げな光に不安抱いてたけど 君と出会って 夢を描きたいと願った時風が吹いた」
 士郎が追いかけるように歌う。
「意味もなくこの大地を駆けてみよう 新しい出会いが待ってると思うんだ! アホらしくなるくらいに笑おうよ ほんの少しでも幸せになれるかもよ? この空の下君の夢が叶いますように それが私の今の願いだよ」
 そしてサビは、二人のハモりで響き渡る。
 曲が終わってから数瞬、まるで時が止まったかのように客席は静まり返った。
 ぽつぽつと拍手が起こると次第に盛大な拍手となってステージを包み込んだ。
 七ッ音は士郎のほうを向いてはにかむと、二人で丁寧にお辞儀をし、楽屋へと戻った。

 ステージのトリを飾るのはダンスチームによるゲストを巻き込んでのダンスだ。
 楽屋では文栄 瑠奈(ふみえ・るな)たちがリハーサルに備え着替えている。
「ダンスの授業をしてた時に使ってたものをベースにして、緋葉ちゃんとリディアちゃんの分も作ったわ!
さあ、早く着てみて!」
「ちょ、瑠奈さん!? またこんな服を用意してたの!? しょうがないわね……客引きのために、ここは一肌脱ぐしかないわね……」
 かなり露出の多い衣装に困惑しながらも、熱海 緋葉(あたみ・あけば)は意を決して着替える。
 そんな緋葉の隣では、いつの間にやらリディア・スカイラー(りでぃあ・すかいらー)がなんのためらいもなく着替え終わっていた。
 本番に備えミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)ローザ・ベーコン(ろーざ・べーこん)は最終チェックに入っていた。 
 ミルディアが一通りの進行ナレーションを読み上げる中、ステージではチームのメンバーが身体を温める程度に動き回る。
「その格好で踊るのか? まあ、悪くはないけどな……。んで、俺は何をすればいいんだ?」
「何もしなくていいわよ、ただ私達の踊りを見ればいいのよ」
「そ、そうか。分かった」
「どうしたの? そんなに緊張しちゃって……」
「なんでもない。じゃあ、瑠奈姉たちのダンス席で見てるよ。緋葉とリディアにも頑張れって伝えて」
 衣装が際どすぎて直視できない、とは口が裂けても言えず、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)はおとなしく客席で見学することにした。
「一応、リハーサルの時は花火は安価な信号弾でチェックして費用を浮かせよう。花火は一発でもかなり費用がかかるからな」
 ローザは音量操作にライトアップタイミング、花火など特殊効果の操作など担当するすべての演出を流れに合わせてリハでしっかりと確認した。
 今回は音楽がアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)たちの生演奏ということに加え、本番ではゲストたちも次々にステージに上げる予定だ。本番の状況は完全には読めない。
 だからこそ、可能な限りのシミュレーションを行っておきたかった。
「お? あそこは踊りをやってるみたい! すみませ〜ん、私も入ってもいいですか〜?」
「もちろん! みんなで盛り上げましょ!」
 リハーサル中、たまたま通りがかった藤原 歩美(ふじわら・あゆみ)が飛び込みで出演を希望すると、すべての交渉を担当していたミルディアが快諾する。
「あ、ありがとうございます! こうみえても、私、体を動かすのは好きなんです! リスティちゃんも頑張ろうね!」
「ほえ? ダンスですかぁ〜? うん、何だか楽しそうですし、いいですよぉ〜」
 リスティ・オーディラス(りすてぃ・おーでぃらす)がこくりと頷く。
「本番まで時間ないから、とりあえず着替えて。説明は着替えながらするわ」
 言いながらミルディアは二人を控え室へと案内する。
 途中、執事服姿のアルテッツァと貴族のような服を身にまとったヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)、ゴスロリ服のパピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)とすれ違った。
「アルテッツァさん! ちょうど良かった」
「おや、ミルディア君。どうしました?」
「急遽この二人にもダンスに参加してもらうことになったの」
「よろしくお願いします!」
「よろしくおねがいしますぅ〜」
「こちらこそ。演奏全般を担当していますので、何かあれば本番中でも合図をください。踊りやすいように調整しますから」
「ん〜、人数も増えて楽しみね」
「一緒に派手に踊るわよ〜!」
 軽く挨拶を済ませると、控え室で衣装を選ぶ。
「うわ、たくさんあるね……どれにしようかな? よし、これにしようかな! 動きやすそうだし!」
「ほえほえ? お着替え? あ、これがいいですねぇ〜ワタシ、これを着替えますぅ〜」
 歩美は派手な赤いミニスカドレスを、リスティは白いエンジェルの羽付きのドレスを選んだ。
 急ぎ着替え終わった歩美がふとリスティのほうを見ると、なんだかとんでもないことになっていた。
「ふにゃ!? ど、ドレスが絡まっちゃいましたぁ〜。歩美さん〜、助けてくださいぃ〜」
「あれ? また絡まっちゃったの? しょうがないな、私が解いてあげるから、じっとしててね」
「ありがとうございます〜」
 絡んだ紐を器用にほどき結びなおす。
「お、リスティちゃんもなかなか似合うね! かわいい〜!」
 ひととおりの説明を終えたミルディアとステージに戻ると、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)がラートでぐるんぐるん回っていた。
「予定時間より早いけど、お客さんの列伸びちゃったから客入れ開始するよー!」
 ミルディアの合図で一度全員袖にはける。
「少し早いが、こちらは準備OKだ」
 ローザが待機態勢に入った。
「デスティニーランド、本日最後のステージ! 皆さんもどうぞ参加してくださいね!」
 オンタイムでミルディアのカゲナレが入り、ローザが照明を回しながらアルテッツァたちに合図した。
 最初の1曲は明るいリズミカルな曲。デスティニーランドのテーマソングを、ダンスビートにアレンジしたものだった。
 瑠奈と緋葉、リディアが飛び出し、ステージを広々と使ったダンスを披露する。
「踊りが上手じゃないから、瑠奈さんの動きを見て真似するしかないわね。あれ? 気付けばそれほど難しくないじゃない! 体が軽くなってきたみたい!」
 はじめは一生懸命さが目立った緋葉だが、慣れてくると身体が自由に動きはじめる。
 アルテッツァとヴェルディー作曲が、客席に気付かれない程度に拍に強弱をつけることでダンサーたちがリズムを取りやすいように演奏しているのだ。
「ようやく私の出番ね! 私の華麗なる姿をこの目に焼き付きなさい! おーほっほっほっほ!」
 リディアの自信に溢れたダンスは、人目を引いた。
 ワンフレーズが終わると、歩美とリスティがそれぞれ上手と下手から現れ、ダンスに加わる。
「ん? あそこにいるのは、歩美とリスティちゃんじゃないか? あの子達もここに来てたのか……」
 客席で見ていた勇刃は思わぬ出演者に少し驚く。
「ララララン〜。ルール〜。うん、やっぱり踊るのが一番楽しいね! ほら、リスティちゃん、そんなに恥ずかしがらないで、一緒に踊ろう!」
「ふにゃ!? あ、歩美さん? そんなに引っ張らないでくださいよぉ〜」
 歩美に引っ張られる形で踊り始めたリスティだったが、赤と白のドレスを着た二人が大きな動きで交差しながらのダンスはとても華やかだ。
 サビ前で五人がポーズを取って静止すると、パピリオがステージ中央に登場し、ソロパートを踊りきる。
 サビに入ると六人が揃ってダンスをし、その後ろではネージュがラートによるパフォーマンスでステージ全体に動きを付け、盛り上げる。
 ローザは回転するネージュを追うように照明を動かし、華やかなステージを演出した。
「ふぅん。 今踊っている人たちの衣装だと『ボリウッドダンス』っぽい曲が良さそうね。ゾディ、できる?」
「ボリウッド……どこかで聞いた気がするのですが……ああ、インド音楽ですか。瑠奈君、いけそうですか?」
 ヴェルディー作曲の提案にアルテッツァは博識を使用して確認する。
 ダンスメンバーが対応できそうか瑠奈にインカムで確認すると瑠奈はざっとダンサーを見回してから、自信を持って頷いた。
「そうなるとパピリィ、ダンスには手拍子を多めにお願いしますね」
「それじゃテッツァ! ぱぴちゃんボディパーカッションしながら踊ってみる〜!」
 そう答えると、パピリオは使い魔であるカラスのノワールにも指示を出す。
「ぱぴちゃんのストンプに合わせて、嘴でステージをたたくの、いーい?」
 ノワールが一声鳴いたのを合図に、ダンサーたちとネージュが次の曲の構えに入った。
 ローザも照明を切り替える。
「それではヴェル、参りましょうか?」
「オッケ〜、昔取った杵柄ね、息の合ったところ魅せてあげようじゃない? uno,dos,tres……!」
 がらりと曲調が変わる。
「あら、歩美ちゃん、なかなか上手ね〜」
 歩美のダンスを見て瑠奈が楽しそうに微笑む。
「どうかしら、勇刃? あたしのダンスに見とれた? って、あいつ、パンフレットを読んでる! もう、本当にバカなんだから!」
 ステージからふと目をやると、必死にパンフレットに目を落とす勇刃の姿が見え、緋葉は少し落ち込んだ。
 しかし実際は勇刃は緋葉たちの衣装が直視できず、パンフレットを読んでいるふりをしながら、ちらちらとステージを見ていたのだった。
「さあ、見てなさい、私の華麗なダンスを! これは「ベリーダンス」よ!エジプトでとても有名なダンスよ!」
 リディアは腹を大きく動かしながらダンスを披露する。インド風の音楽と不思議とマッチしてそこだけでもひとつの世界観が出来上がっていた。
「さあ、観客たち、思い切り歓呼の声をあげるのよ! エールは私の力の源よ! おーほっほっほっほ!」
「それにしても、凄いわね、リディア……あんなに自信満々に笑えるなんて……」
 そんなリディアの姿に、緋葉は素直に感心した。
 ネージュは曲調に合わせて華麗にラートを操る。
 ダンスの邪魔にならないように、ダンサーたちの間を縫って側方回転からのシュピンデル前方回転に繋げるという、恐ろしく高度な技でステージの勢いをあおる。
 アルテッツァとヴェルディー作曲は、良く知られている曲のアレンジを中心に、拍が分かりやすいように意識しながら演奏を続ける。
 アルテッツァはヴェルディー作曲のハミングに合わせて、アイコンタクトをしたり一緒に歌うように節を合わせてみたりたまには独唱になるよう、演奏を途中で止めて足でビートを刻むだけにしてみたりと、演奏に抑揚をつける。
「ヴェル、次は何にします?」
「そうねぇ、やっぱり何かのテーマソング系は盛り上がると思うんだけど」
「……そろそろクラシックにしませんか?」
「そ? じゃあアタシは即興で幸せの歌の効果を取り入れたハミングをするわ。インド風にこぶしでも効かせてみようかしら?」
 目新しいアレンジだが、一定の拍に沿って流れるハミングに、ダンサーたちとネージュは思い思いに動きまわりダンスを披露した。
「ほらっ、右手あげて、左手あげて、拍手、拍手! 踊った方が楽しいわよぉ〜」
 パピリオの声を合図に、瑠奈たちはステージから下り、客席から子供たちを集めて再びステージに上がる。
 客席を巻き込んでの最後のダンスイベントの始まりだ。
 歩美とリスティも子供たちと手を繋いでステップを踏む。
 瑠奈の後ろで振りを真似する子供たちを緋葉がフォローした。
 アルテッツァたちは、デスティニーランドのアトラクションの曲をどんどんと演奏していく。
 知っている曲ばかりのためか、先ほどまで遊んでいた記憶が蘇ってなのか、子供たちはとにかくはしゃぎまわって一緒にダンスをするのだった。
「あら? あそこのおちびちゃん達、なかなかやるわね……でも私も負けられないわ!」
「いっくよ〜!」
 リディアとネージュは二人で組んで、即席でラートとダンスのコラボを披露した。
 ラストは、最初に流れた曲と同じく、デスティニーランドのテーマソングだ。
 曲終わりに向けて、ミルディアとローザが最後の演出の準備にかかる。
「氷術をちっちゃく出してダイヤモンドダストっぽくするのも楽しいかもね」
 パピリオの提案で、ラストは花火とダイヤモンドダストの二重演出の予定になっていた。
「そこでライトアップ! そこからカウントダウンで花火の準備! ローザ、パピリオ、お願いね!」 
「今だ!」
 ローザが花火を打ち上げるのと同時に、パピリオが威力を落とした氷術を放つ。
「やっふ〜! アゲポヨ〜!!」
 曲が終わった瞬間に打ち上がった花火とダイヤモンドダストが組み合わさり、まるで花火の欠片が降っているように見えた。
「ありがとうございましたー!!」
 ミルディアのアナウンスで、1日のステージがすべて終了した。
 アルテッツァとヴェルディー作曲の明るい演奏が流れる中、ゲストたちは興奮冷めやらぬ様子でランド内に散ってゆく。
「おにーちゃん! ただいまー」
 1日のステージを見届けた陽太の腕に、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が飛びついた。
 ランド内の様々なアトラクションを回ってきたのだ。
「おかえりなさい。どうだった?」
「カラミティーコースターが温泉掘り当てたり、実里ちゃんのレストランは美味しかったり、コーヒーカップがぐるぐるぐるぐるーって!」
 素直な言葉でアトラクションの感想を伝えるノーン。
「あ、あとね、マジカルワッフルでちょっとジャンプが高くできたの!」
 思う存分ランドを堪能してきたノーン本人の感想や、ノーンが見た他のゲストの反応を聞いて、陽太はデスティニーランドはもう大丈夫だと、確信を持った。 
「じゃあノーン、帰りましょうか」
 エリシアに任せてきたとはいえ、やはり環菜のことが心配なのだ。
 すぐにでも家に帰りたい。
「今度は、おねーちゃんと一緒に回ろうかな? おにーちゃんも環菜おねーちゃんと2人で楽しんだら良いと思うよ!」
 二人は楽しそうにランドの話の続きをしながら、ランドを後にする。

「リニューアルしたデスティニーランド、面白かったですね。まだまだ、紹介し切れてない部分もありますが、そこは視聴者の皆さんが自分出足を運んで確認してください。それでは、スクープハンターのプーちゃんでしたー」
 最後のステージの収録を終え、プーチンはデジタルビデオカメラの電源を落とした。