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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2

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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2
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第1章 鮮やかに彩られる魔列車…下書き準備

 魔列車の客車をパラミタ内海から全て引き上げ、不眠不休で作業を行った小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)たちの手により修繕された。
 内装も少ない人数ながら欧州のイメージと、ゆっくり旅をすることをコンセプトに、貴族だけでなく一般の人も気軽に出来るように仕上げた。
 だが、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)たちはまだまだ満足していないようだ。
「このままでも素敵だけど…。やっぱり車体が塗装されていないと寂しいわね」
「もちろん、皆さんに塗装も行ってもらいますわ。それと、せっかく駅舎があるんですから、売店も欲しいですわ」
「SR弁当も考案してもらいましょぉ〜♪」
「へぇ〜エリザベートちゃんが試食するんだねー。―…そうだ!せっかくだからお話聞いちゃおう」
 サンプルの素材を箱に積め、SR弁当の制作ルームとして借りている部屋へ運ぶ途中、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の声がリビングから聞こえ、彼方 蒼(かなた・そう)はドアの傍で足を止めた。
「にーちゃん、先に運んでおいてー」 
「いいよ。蒼、いったん床に下ろしてくれる?」
「はぁーい」
 “ちょこっと重たいし、後はにーちゃんにお任せしよーっ!”と、カーペットの上に卸す。
「(蒼のと合わせて、3箱くらいならギリギリ持っていけるかなー…。とはいっても、前が見づらいけどさ)」
 わんこの荷物の上に食材を詰めた箱を乗せて持ち上げると、後ろで“ファイトーにーちゃん!”と応援される。
「うー…持てないってわけじゃないけど、やっぱり視界的に厳しいかな。蒼、これ後で運ぶね。あれ…もしかして、もうリビングに行っちゃった?」
 食材を冷蔵庫に入れたら蒼の分を運ぼうと思い、わんこの名を呼ぶが、さっきまで椎名 真(しいな・まこと)を応援していたはずの彼の声が聞こえない。
「ふぅ……このまま運ぶしかないのか」 
 蒼が部屋から出てきてコレがあったら、頼んだのに持っていってくれなかったー!と言われそうだ。
 仕方なく3段積み上げたまま運ぶ。
「列車についてもお話していそうだよねー…。色とかどうするのかなー?」
 にーちゃんの苦労を他所に、蒼はエリザベートたちの会話を聞く。
 “可愛いって感じよりも、キレイな雰囲気が合うかな?”と意見を言う桜井 静香(さくらい・しずか)の声も聞こえてきた。
「どんな感じに塗るか、決めておかなきゃだね。キレイだけじゃイメージが浮かばないから、案を出していこう!」
「そうだね、透乃さん。皆もこんな色にしたいっていう意見があったら言ってほしいな」
「白色なら夜間でも目立ちそうよ!」
 カラーについて言おうと待っていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、さっそく手を挙げて意見を述べる。
「その上に蒼、緑、ピンクのラインがあるといいわね。蒼色は環菜、緑はイルミンスールのイメージとして、エリザベートの色ね。ピンクはもちろん百合園の色よ!ラズィーヤと静香に合わせたの」
 元蒼空学園校長である環菜の色はもちろん、出資者である3人のことも考え、イルミンスール魔法学校と百合園女学院にピッタリの色を選んだ。
「んー…私的には、模様とかもあったほうがいいと思うんだよね」
「例えばどんな模様?」
 確かに線や白塗りだけでは物足りないと感じる者もいるだろうと、美羽は緋柱 透乃(ひばしら・とうの)の隣に座る。
「キレイさを重視するならヴァイシャリー湖の風景とかー…。ニャ〜ンズとかね」
 透乃はテーブルの上にある手近な用紙を掴み、自分のほうへ寄せてイメージ図をペンで描く。
「確かにそういう表現もありかもね。校風のカラーもいいけど、これも学校の雰囲気が出てているし…」
「車体下部分って、泥跳ねとかで汚れちゃう時もありそうよね?その辺りを、カーキ色にちゃうといいと思うの」
 彩りを気にするなら、それを目立たないカラーを使ったほうがよいのでは、とルカルカ・ルー(るかるか・るー)が言う。
「列車はレールの上を走るから、そう簡単に汚れないと思うよ、ルカルカちゃん。この列車って、汚れたらちゃんと洗浄するだよね?」
 出してもらったアイデアを、ホワイトボートに書いている静香に、透乃が顔を向ける。
「うん。週に何度かキレイにしたいかもね。あまり日を空けると、汚れが落ちにくくなっちゃうし」
「ぅ〜ん…そっかー……。他にも案はあるけど、他の人の考えも聞きたいから後で言うね」
「分かった。北都さんはどんな色合いがいいと思う?」
「僕は上半分を、青空の青色がいいな。残りの半分の2/3は森の緑色、1/3が土の茶色だよ。塗料が乾いたら、その上から桃色の曲線を描きたいな」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は色鉛筆で紙にラインを引き、最後に桃色の曲線を描く。
「空や森…、土の上に桃色のラインかー…。シンプルでキレイかもね。でも、ヴァイシャリー湖の雰囲気も取り入れたいし…」
「僕のイメージだけじゃなくって、皆の意見も取り入れたらいい感じになりそうだね」
「上は薄めの色で華やかな彩りにして、車両毎に百合園とか、イルミンに変えたりするのとかはどう?」
 客車が6両あるのだから、全部同じ色じゃないほうがよさそう、とルカルカが提案する。
「車両ごとにかー…。6両分でイルミンスールから百合園へ、だんだん景色が変えてみるのは?」
 それぞれの意見を聞き、静香は出来る限り、アイデアを取り入れようと考える。
「なんだか1枚の絵みたいね♪」
「ラインだけじゃなくって透乃さんが言うように、模様も描くと華やかな雰囲気も出ると思うよ」
「桃色のラインは、桜の花弁が舞う感じで考えたんだし…。模様にしちゃうのもアリかな?」
「絵柄が細かくなってしまうけど、塗装の担当がたくさんいるなら、完成までそれほど時間かからなそうですよ」
「華さを表現するならそっちのほうがいいかもね、リオン。となると、絵画的な感じは避けるべきだね」
 美しさイコールリアルな描写というわけでもない。
 この列車に描く模様なら、デフォルメの柔らかい雰囲気が合いそうだ。
「アイデアの良い所取りしちゃうってことかな?」
 イルミンから百合園の風景へ移り変わる描写にするならと、透乃は真っ白な画用紙に木々や湖、桜の花びらが舞う模様を描いてみる。
「イラストっぽくなったけど、塗装する時に難しくないようにしてみたよ」
 用紙を北都たちの方へ寄せ、これでよいか見せる。
「予想より手間がかかりそうだけど、出来なくはないよね」
「中の方だって美しさに拘って造ったんだもん。塗装もキレイにしなきゃ♪」
 丁寧に塗るのはもちろん、柄も拘りたいとルカルカが頷く。
 塗装チームもこのデザインに決めようと頷き、塗装の下準備を始める。




 樹月 刀真(きづき・とうま)は自分がやるよりも、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)のほうが見栄えがよいだろうと思い交代する。
 撮影当初からナレーター役を務めていた彼に代わり、パートナーである
が作業している者たちに声をかけたり、ナレーター役を務めることになった。
 今度は彼女が作業を見て解説したり、皆からいろいろ話を聞き、感想を言ったりする番だ。
 別室で洋服の選びを失敗していないか、鏡でチェックする。
「―…変な格好じゃないよね?なんだか緊張するなー…」
「月夜、用意出来ました?」
「えぇ、今行くから待ってて」
 ドア越しからパートナーの声が聞こえ、身支度を整えた彼女は部屋を出る。
「もう魔列車の塗装始まっちゃった?」
「ヴァイシャリーの別邸から誰も出てませんから、まだ大丈夫ですよ。塗装の前に、デザインの考案をしているみたいです」
「へぇ〜、じゃあその部屋に行ってみよう!」
 下準備の様子を撮影しようと、塗装チームがいる部屋へ向かう。
 作業している者の声音が聞こえ、その雰囲気を2人よりも先に、少しだけ開けたドアの隙間から眺めている者がいる。
「蒼、中に入らないの?」
「しんけんにお話してる皆のおじゃまになっちゃいけなーいと思ってねー」
「あら、蒼さん。お兄さんとSR弁当を作るんじゃなかったんですかぁ〜?」
 2人の話声を聞き、エリザベートがドアを開ける。
「そーだよ。でも、どんな列車になるか見ておかないと、器を作れないんだよー」
「なるほどですねぇ〜」
「塗装した列車のイメージイラストがいるなら、何枚か印刷したのが余っているよ」
 下地用に模様を描いていた透乃が手を止め、蒼の方へ振り向く。
「ちょーだい!」
「はい、どうぞ。お弁当作り頑張ってね」
 わんこの手が届くように屈み、用紙を手渡してやる。
「うん、がんばるぅううー!」
 お礼を言うと蒼は大事そうにそれを抱え、パタパタとキッチンへ駆けていく。
「私もそろそろ、SR弁当を作ってる様子を見に行きましょう〜♪」
 “サンプル制作の工程を見るのも、私の役割ですからぁ〜♪”と、エリザベートも部屋から出る。
「あ、私にもちょうだい!参考用の資料として使うの」
 塗装した魔列車と同じデザインのパラレールを作ろうと、美羽もイメージ図を印刷した紙をもらい、パートナーがいる別室へ移動する。