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年忘れ恋活祭

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年忘れ恋活祭
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■昼〜年の瀬準備は緩やかに
 ここは空京より北東のほうにあるとある町。今日、この町では『年忘れ恋活祭』が朝から行われていた。
 商店街では色んな店で祭り特価による特売セールが開かれていたり、中央広場では様々な露店がお祭りグルメを提供し、特設ステージでは勝ち抜き一芸披露なる催し物がやっていたりしていた。
 しかし時間はまだ昼になったばかりであるためか、そこまで人の姿はないようだ。いないわけではないのだが、この祭りの本来の層である『カップル』はもう少し経たないと来なさそうである。
「――鐘の掃除はこれで終わり。次は……露店や屋台への頼まれごとか」
 祭りの主役とも言うべき時計塔の大きな鐘の掃除を終え、時計塔から出てきたのは山田 太郎(やまだ・たろう)だ。何でも屋としてパラミタを生きる彼は去年、この祭りの裏方として手伝った経緯があり、今年もまた祭りの裏方で町を東奔西走していた。
 鐘掃除の次にやるべきことは、中央広場で商い中の露店や屋台へ材料や具材の搬入作業……という名の、代理購入。商店街でそれらを買い、屋台などへ届ける作業だ。
「――結構量があるな。何回か往復しないと無理っぽそうだな、これは」
 そのまま中央広場で軒を連ねる屋台へ御用聞き回りをした結果、色んな屋台から代理購入の依頼が殺到した模様。その内容を整理しながら、太郎は商店街へと走っていった。

 その代理購入を頼んだ屋台の中に、焼きそば屋としてお祭りに参加している佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の姿もあった。今回、彼は『結婚資金を稼ぐため』焼きそば屋台を開店しているようだ。
「ねぇ、何で焼きそばにしたの?」
 弥十郎と共に焼きそば屋台の準備を進めているのはパートナーの賈思キョウ著 『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)。弥十郎へそんな質問をする。
「んー、コストパフォーマンスかなぁ。奮発しちゃって手持ちがなくてねぇ。その中で最大限できることを考えたんだ」
 確かに焼きそばならば低コストな材料(麺・ソース・具材)があればできる上、目だった調理器具も鉄板くらいなものだ。さらにその具材もモヤシ・キャベツ・にんじん・ブタばら肉・卵と安価かつ大量仕入れできるものをチョイス。ボリュームで攻める姿勢を整えていた。
「それに、みんなには幸せになって欲しいしねぇ」
 そう言葉にしながら準備を進めていると、代理購入の第一陣の分を買い切ってきたらしい太郎が弥十郎たちの屋台へやってきた。
「頼まれた具材、買ってきたから全部あるかどうか確かめてくれ」
「あ、はぁい。……うん、全部あるみたい」
 渡された荷物を弥十郎が確認する。きちんと発注した材料は揃っているようだ。
 太郎は弥十郎からお礼を言われると、すぐに次の屋台へいってしまった。まだまだ忙しそうではある。
「それじゃあ、モヤシを使える状態にしないとねぇ。このままじゃ青臭いし」
 弥十郎は斉民へそう言うと、さっそく二人でモヤシの頭と根っこを取り始め、午後からの販売に備えるのだった。

 師走だから、というわけではないが太郎は走る。第一陣の荷物を全て渡し終えた後すぐに第二陣の発注を受け、商店街をひた走る。
「ずいぶんと急がしそうだな……さっきも走ってたような」
 その様子をすれ違う形でちらりと認識したグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)。だが、こちらも忙しさでは変わらない。
 年の瀬の料理の準備をするため、パートナーであるゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)と一緒にこの商店街で買い物へきていた。祭り時のここの特売は他の所より断然安いのを噂で聞いていたらしい。
「ふむ、話には聞いていたがこれほどの人の入用とはな」
 荷物袋を両手で抱えながら移動するゴルガイスは、商店街の賑わいように感心と驚きを見せている。同様にベルテハイトも一杯の荷物を持ちながら、商店街、いや町の賑わいの中にいた。
「ふむ、結構買い込んでしまったようだな。――グラキエス、これだけの人込みで疲れてきてるんじゃないか? ちょうどあそこに休憩所がある、少し休憩をしよう」
 グラキエスの身体の心配をしているのだろう、ベルテハイトがそう提案する。必要な物をたくさん買い込みながら移動しているため、そろそろ疲れが出てきている頃だろうと判断してのことのようだ。
「ああ、そうだな」
 グラキエスもそれを了承すると、三人は恋活祭用に設置されているらしい特設の休憩所へ入る。何席かは埋まっているものの、座れないことはなさそうだ。
 近くの席へ腰を下ろし、荷物をテーブルに置く。その量はけっこうある。
「年の瀬だからか、みんな忙しそうにしてるみたいだな」
 休憩所から見る商店街の様子。まだ祭りの本番になっていないためか、年の瀬本来の忙しさが如実に見える。だがその雰囲気は実に心地よい忙しさのようにも感じれた。
「ああ、そのようだ」
 言葉少なく返事をするゴルガイス。その表情は、新たな一年を祝うべく穏やかなものであった。しかし、その心内にはグラキエスを助けたいという想いを新たにしているが、それもまた穏やかに、静かに燃え上がっている。
「こうやって皆と年末年始を祝うのは初めてだが、今までと違って喜ばしく感じる。これもグラキエスがこうして私のそばで笑っていてくれるからだ。感謝している」
 今まで、ベルテハイトは自分の家である城で年末年始を過ごしていた。だが今年はグラキエスたちと過ごすこととなり、家で過ごしたときより心躍るものとなっていた。その感謝の意をグラキエスへ伝えると、グラキエスも笑みでそれに応える。
 まだまだ買うものはありそうだが、今は年の瀬の忙しくもゆったりとした雰囲気を楽しんでいくグラキエスたち。
 その雰囲気に誘われてか、街中には徐々に祭りを楽しもうという恋人たちや恋人未満の人たちがちらほらと姿を見せ始めていたのであった。